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異世界の神子は、逆ハーを望まない  作者: 一花八華
番外編~セシル~
19/32

融ける雪

番外編~冬~

セシル×ミコト

セシル視点


本編と、まったく関係ないので読み飛ばしていただいて大丈夫です。




◇◇◇



「寒いね」


 彼女が、赤くかじかむ手に向けて、はぁっと白い吐息を吐く。冷たくなった指先を擦り合わせ、寒さを誤魔化そうと試みている。


「冬なんだから、当たり前でしょ」


 僕は、ため息をつきながら声をかける。寒いなら、諦めればいいのに。


『雪が降るかもしれないから、外にでてみない!?』


 嬉しそうな顔をして、宿を出たミコトに付き合い、僕はこうして空を見上げている。


「そうだね。こんなに寒いんだもの。だからきっと……雪も降るよ」


 少し曇った空を見上げ、彼女が笑う。


「……そんなに見たいの?」

「うん。きっと素敵だから」

「雪なんて降っても、何もいい事なんてないよ。冷たいし、濡れるし、風邪引くし……」

「セシル君は、雪……嫌いなの?」

「別に……好きじゃないだけ」


 ほんとは嫌いだ。

 雪は、白くて……暖かいのが苦手で……融けて消える。

『まるで、セシルみたいね』

 そう言って、哀しそうに笑う母を思い出す。


 温もりを感じて融ける雪でさえ……僕の#掌__てのひら__#では、融けずに残る。


 まるで、『お前は、冷たく心のない人形だ』そう誰かに言われているみたいで……雪に触れるのが怖い。


「ふふふ」


 ミコトが突然笑った。


「セシル君の好きじゃないって……苦手だ。って事だよね」


 素直じゃないなー。と柔らかい笑みを浮かべる。見透かされているようで、ムカついたはずなのに…。わかってくれてる……という、喜びを感じる自分に戸惑いを覚える。



「ーっひゃ!」


「ちょっと、セシル君!なんでいきなり頬に手を!?」


 冷たくてびっくりしたじゃない!っとミコトが怒る。


「ー僕の事、笑ったから」


 つい意地悪をしてしまう。こんな事しても、振り向いて貰えないのはわかっているのに。

 その目に僕を映して欲しくて。

 少しでも、彼女に触れたくて。


 ああ。僕はなんて馬鹿なんだろう。ガキ臭い行動に、笑えてくる。それでも自分を見て欲しくて、止めれない。


 ほんと……馬鹿だ。


「ーっセシル君。手、冷たすぎだよ」


 ミコトの言葉にはっとする。


 だめだ。知られたくない……。雪さえも融ける事のない……冷たい……人形のような奴だなんて思われたくない……。


 そう思って離した僕の手を、ミコトはぎゅっと握りしめた。


「ーっな!? 離して」

「だめ、こんなに冷たい手をしてたら、霜焼けになっちゃう」

「別に……僕は元々体温低いから」

「いいから、ほら。こうして繋いでたら暖かいでしょ?」

「離してって……あんたまで冷たくなっちゃう。」


 困る。ミコトの体温を奪っても……きっと僕の手は、温かさなんて宿さない。

 僕は、君と違うから。

 暖かい。陽だまりのようなミコトとは、違う。


「ほら。温もりを分けっこしよう。ゆっくり温めあえば、霜焼けにもならないし」


 無理だよ。ミコト。

 分け合うなんてできない。

 僕は、奪うだけだ。


 ミコトから、優しさも温もりも……ただただ奪っていくだけ。『雪のようだ』そう言われた僕は、ミコトのように温もりなんて持ち合わせていない。


「あんた。馬鹿なの?ぬくもりを分け合うとか。台詞だけ聞いたら。過激すぎるんだけど」


 こう言えば、きっとミコトは僕から離れる。ほら、顔を真っ赤にして、目をくるくるさせて。


「僕の事……誘ってんの?」


 ミコトが、僕を男として意識してないのは、僕が一番わかってる。


 意識して欲しくて、言葉で態度で示すのに…君は、何も気付かない。好きだと自覚して、僕だけ意識して、馬鹿みたいに嫉妬したり意地悪をしたり。

 どうすれば、男として見てくれる?


 ーため息が溢れ落ちる。


「セシル君……ごめんね」

「は? 何が?」

「無理矢理付き合わせて……」


 ああ。ため息をついた理由?そうじゃない。そうじゃないんだよ。


 でも、きっと君は気付かない。


「やっぱり……雪は…好きじゃない……」

「そう?そうかな……」

「なんで、そんなに#雪__それ__#にこだわるわけ?」


 こんな寒い想いをしてまで。


「好きだからだよ」


 ーっ。

 その一言に、ビクンと胸が弾けそうになる。


 雪が……好き。


「真っ白で、儚くて、触れた瞬間融けてしまう」


「雪はね、きっと優しさを知ってるの。小さな温もりも優しさも敏感に感じて教えてくれるの。素敵でしょ?」


 キラキラした瞳で、そう笑う。



「それに、雪が融ければ……春がくるじゃない」


 そうやって笑う君は、眩しくて暖かい。


「は? なにソレ。結局、あったかい方がいいんじゃん」

「ちっちっち。甘いなセシル君。違うのだよ。春の暖かさを知って、冷たかった雪が融ける。そういう情緒がいいんじゃない」

「ジョウチョ?」


 指先を振りながら力説する。ミコトの言う事は、よくわからない事が多い。でも、その言葉はいつも僕の心を喜悦させる。


「そんなに好きなら……僕が見せてあげるよ。」


 魔力を解放し、身体に冷気を纏う。氷魔法は得意だ。大気を震わせ、氷の粒を造り上げていく。小さな小さな粒子が、風に乗り光を反射し、キラキラと零れる。


挿絵(By みてみん)


「ーダイヤモンドダスト……」


 ミコトが、感嘆の声を洩らす。頬を蒸気させ、目を見開いて。僕の魔法で顔を綻ばせる。


「ありがとう! セシル君! すごく綺麗!」


 はしゃぎながら、飛び付いてくる。

 ちょっと……あまりくっつかないでくれる?

 心臓に悪いんだけど。


「失敗した。粉雪くらいにはなるかと思ったのに」


 動揺を悟られたくなくて……僕は顔を背ける。


「ううん。十分だよ! 綺麗! ありがとう!」

「あんた……ほんとこどもだよね。」


 こんな事ひとつで、大喜びして。


 ープッと思わず笑いが込み上げる。


「ちょっと! セシル君、年上に対してその態度は……」

「なら、もう少し落ち着いたら?」


 君は、そのままでいいよ。そのままでいて。僕が追い付くまで。

 そんな気持ちを込めて、ミコトを見つめる。


「ーあ」


 フワリと鼻先に落ち。それが形を崩し、つっと顎先へと零れた。


「ゆき?」


 見上げると舞い降りる白い雪。


「ー降ってきたね」

「うん」


「セシル君が、魔法を使ったからだね」


 大気を冷やしたのが、よかったのかな………。嫌、偶然な気もするけど。


「そ。僕のお陰。魔法使ってあげたんだから、ご褒美頂戴よね」


 そう言って、ミコトの顔を覗き込み、寒さで震える唇に口付けを落とす。ーちゅっ。


「ーっ!?」

「何驚いてんの? いつでも、分けてくれるっていったじゃん。魔力。あんたに合っても仕方ないでしょ」


 真っ赤になって、狼狽える顔に少し満足する。


「ほら。雪、好きなんでしょ。ちゃんと堪能しなよ」


 意地悪く笑い。ミコトをからかう。こうやって少しずつ。君の中に、僕が刻まれればいい。


「ー雪みたい」


 ミコトが、ぽつりと呟く。


「え?」

「セシル君って、雪みたいだよね」


「白くて、キラキラしてて、凄く綺麗」


「綺麗って……僕、男なんだけど」

「あっ。ごめん! 嬉しくないよね。ほんとごめん」


 ー嬉しくないわけ、ないじゃん。


「……雪。好きなんでしょ」

「え? うん」

「それじゃ……」


 僕の事も……。


 なんて馬鹿な事を口にしかけて、笑う。


「うん。雪も悪くないかもね」

「あんたと一緒に見る雪は……嫌いじゃない」


挿絵(By みてみん)



 かじかむ手を繋いで。

 降り注ぐ雪を見つめる。




 ーうん。

 嫌いじゃないよ。


 君が好きなモノ。




 だって僕は、君が好きだから。




 いつか、また一緒に見よう。この日の雪を。

 その時は、背伸びなんてしなくても……君に口付けできればいいな。


 なんて、ひとり心で呟いた。





fine


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