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砕球!! 改稿6回目  作者: 河越横町
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二者面談

 耀の実力を見る試合が終わった後、剛羽はウイカの部屋に呼び出されていた。


「いや~、やっぱり若いってすごいね~、エネルギーが違ウ」


「それで話ってなんですか?」


 剛羽は先を促す。


 くだらない話をする暇があるなら、練習する方が合理的だ。


「マッシーから見て、ヒカリンはどうだっタ?」


「基本がなってないですね……でも」


 剛羽は少し気恥かしそうに、首の後ろに手を当てる。


「ああいうのは……嫌いじゃないです」


 思い出されるのは、追い込まれた耀が見せたあの目。


 窮地に立たされても心が折れない少女に、剛羽は惹かれていた。


「そっか、そっカ」


 対して、剛羽の様子に、ウイカは楽しそうに笑う。が、


「ところデ」


 その可愛らしい声音が、不意にどこか真剣さを帯びたものになった。


「さっきの試合、特に最後のやつってマッシーのとっておきなのかナ?」


「…………」


 とっておき。《身体同調》による能力の底上げ。


「ごめんごめん、別に詮索するつもりはないんだヨ」


 無反応を装う剛羽に、ウイカは慌てて手を振った。


「でもね、ワタシ、今は指導者の立場だから、ちょっと気になっテ」


「なにがですか?」


「マッシー……あの状態で攻撃されちゃったら、どうなるノ?」


 その質問に、剛羽は無言だった。


 それが何よりの答えだった。

 

 そう、《身体同調》はリスクなしに《心力》の出力や個心技を強化できるものではない。


 対価として、変身することの最大の利点「ダメージ緩衝」を捨て去るのだ。


 つまり、もし急所にでも被弾したら……例えば、心臓を貫かれたり、首を刎ね飛ばされたりでもしたら――


「そんなヘマ、しませんよ」


 剛羽は素っ気なく答えた。


 実の所、被弾したことがないので分からない。


「話はそれだけですか?」


「んー、じゃあ最後に小ネタを一ツ。へえそうなんだ~、くらいの気持ちで――ちょ、ちょっと待ちなさーイ! いい、マッシー? 今からワタシはとっーても貴重な、ため~になる超合理的な話をするんだヨ!」


「ッ、超!? 合理的!?」


 ドアノブに手を掛けていた剛羽は、素早く振り返った。


「詳しくお願いします」


 ごほんと咳払いしたウイカは人差し指を振りながら、得意げに鼻を鳴らす。


「スポーツって言葉の語源はね、気晴らしとか、楽しむなんだヨ」


「知ってます」


「え、知ってタ!?」


「続きはないんですか?」


 あわあわし出すウイカ。


 期待を裏切られた剛羽は「失礼します」と今度こそ部屋から出ていこうとするが、それをウイカが慌てて引き留める。


「待って待っテ! つまり、マッシーも砕球楽しんで欲しいなっテ。ワタシはそれが言いたかっタ!」


「楽しむ……ですか。今でも勝てば楽しいですよ?」


 うそぶく剛羽に、ウイカは「いやいやいヤ!」と手を振る。


「勝ち負けじゃなくてさ。こう、わっしょい! みたいナ? 青春の汗だぜ! みたいな気持ちも忘れずにプレーして欲しいんだヨ。指導者の立場としてはネ」


 あの酷過ぎる指導をしておいて、どの口が言うか。


「正直そういうのはどうでも……勝てれば幸せです」


 言葉とは裏腹に、浮かない顔付きの剛羽。


 ウイカは「そっカ……」と眉の八の字にした。


 蓮剛羽には勝つ以外でも砕球を楽しんで欲しい……それが、少年と似た経験をもつウイカの願いなのだ。


 だから、ウイカは問わずにはいられなかった。


「マッシーはさ、どうして砕球続けてるの?」


 想像を絶するプレッシャーに晒されても、どうして競技を続けられるの?


 ウイカの目は、我が子を心配する親のそれだった。


「んぅ……考えたことないですね」

 

 対して、剛羽は本当に分からないといった感じで首を捻る。

 

 偉大な父親に憧れていたから? 

 人気のスポーツだから?

 

 どれも砕球を始めたきっかけではありそうだが、続ける理由とは違う気がする。


 自分の力を認めさせたいから。

 プロになりたいから。


 ぱっと思い付いた中では、それらが一番しっくりきた。

 

 四月。

 始まりの季節。

 剛羽はまだ砕球を続ける理由に気付いていない。


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