二者面談
耀の実力を見る試合が終わった後、剛羽はウイカの部屋に呼び出されていた。
「いや~、やっぱり若いってすごいね~、エネルギーが違ウ」
「それで話ってなんですか?」
剛羽は先を促す。
くだらない話をする暇があるなら、練習する方が合理的だ。
「マッシーから見て、ヒカリンはどうだっタ?」
「基本がなってないですね……でも」
剛羽は少し気恥かしそうに、首の後ろに手を当てる。
「ああいうのは……嫌いじゃないです」
思い出されるのは、追い込まれた耀が見せたあの目。
窮地に立たされても心が折れない少女に、剛羽は惹かれていた。
「そっか、そっカ」
対して、剛羽の様子に、ウイカは楽しそうに笑う。が、
「ところデ」
その可愛らしい声音が、不意にどこか真剣さを帯びたものになった。
「さっきの試合、特に最後のやつってマッシーのとっておきなのかナ?」
「…………」
とっておき。《身体同調》による能力の底上げ。
「ごめんごめん、別に詮索するつもりはないんだヨ」
無反応を装う剛羽に、ウイカは慌てて手を振った。
「でもね、ワタシ、今は指導者の立場だから、ちょっと気になっテ」
「なにがですか?」
「マッシー……あの状態で攻撃されちゃったら、どうなるノ?」
その質問に、剛羽は無言だった。
それが何よりの答えだった。
そう、《身体同調》はリスクなしに《心力》の出力や個心技を強化できるものではない。
対価として、変身することの最大の利点「ダメージ緩衝」を捨て去るのだ。
つまり、もし急所にでも被弾したら……例えば、心臓を貫かれたり、首を刎ね飛ばされたりでもしたら――
「そんなヘマ、しませんよ」
剛羽は素っ気なく答えた。
実の所、被弾したことがないので分からない。
「話はそれだけですか?」
「んー、じゃあ最後に小ネタを一ツ。へえそうなんだ~、くらいの気持ちで――ちょ、ちょっと待ちなさーイ! いい、マッシー? 今からワタシはとっーても貴重な、ため~になる超合理的な話をするんだヨ!」
「ッ、超!? 合理的!?」
ドアノブに手を掛けていた剛羽は、素早く振り返った。
「詳しくお願いします」
ごほんと咳払いしたウイカは人差し指を振りながら、得意げに鼻を鳴らす。
「スポーツって言葉の語源はね、気晴らしとか、楽しむなんだヨ」
「知ってます」
「え、知ってタ!?」
「続きはないんですか?」
あわあわし出すウイカ。
期待を裏切られた剛羽は「失礼します」と今度こそ部屋から出ていこうとするが、それをウイカが慌てて引き留める。
「待って待っテ! つまり、マッシーも砕球楽しんで欲しいなっテ。ワタシはそれが言いたかっタ!」
「楽しむ……ですか。今でも勝てば楽しいですよ?」
うそぶく剛羽に、ウイカは「いやいやいヤ!」と手を振る。
「勝ち負けじゃなくてさ。こう、わっしょい! みたいナ? 青春の汗だぜ! みたいな気持ちも忘れずにプレーして欲しいんだヨ。指導者の立場としてはネ」
あの酷過ぎる指導をしておいて、どの口が言うか。
「正直そういうのはどうでも……勝てれば幸せです」
言葉とは裏腹に、浮かない顔付きの剛羽。
ウイカは「そっカ……」と眉の八の字にした。
蓮剛羽には勝つ以外でも砕球を楽しんで欲しい……それが、少年と似た経験をもつウイカの願いなのだ。
だから、ウイカは問わずにはいられなかった。
「マッシーはさ、どうして砕球続けてるの?」
想像を絶するプレッシャーに晒されても、どうして競技を続けられるの?
ウイカの目は、我が子を心配する親のそれだった。
「んぅ……考えたことないですね」
対して、剛羽は本当に分からないといった感じで首を捻る。
偉大な父親に憧れていたから?
人気のスポーツだから?
どれも砕球を始めたきっかけではありそうだが、続ける理由とは違う気がする。
自分の力を認めさせたいから。
プロになりたいから。
ぱっと思い付いた中では、それらが一番しっくりきた。
四月。
始まりの季節。
剛羽はまだ砕球を続ける理由に気付いていない。