UFOデスわ!?
剛羽や侍恩たちが足止めされている一方で、
『チームエイツヴォルフ、チーム神動の球操手を捉えたぁ!』
今回の拠点――王城に移動していた耀のもとに、アリスが攻め込んでくる。
争奪戦のときと同様に、アリスの単騎突撃だ。
「ひかり、援護するで!」
そうはさせじと迎え撃つのは、剛羽たちの代わりに耀と合流していた笑銃とイェーガー、マイヤーズ、ミック、ギャレットたち人形四体だ。
通りの両脇に居並ぶ建物の屋上から、一斉射撃を食らわせようとする。が、
「邪魔デスわ……!!」
機先を制したアリスが、笑銃たちに黄金の槍を連射して制圧した。
「ありす、いきなり全開やん!?」
それでも、タダでは通さない。
突破を許した笑銃と軍人人形たちは、地上に降りて自動二輪に乗り、アリスの背中を追い掛けながら銃撃する。
王女を球状に包む《殻楯》に打ち消されても、プレッシャーをかけ続ける。
「ひかり、逃げるんや!」
耀は犬球を笑銃に錬成してもらった巾着袋に詰め込み、錬成した箒に跨って拠点を目指す。
対するアリスは、笑銃たちの銃撃に晒されながらも、地上から槍で狙撃。
拠点へは行かせまいと、進路を断つように槍を操作する。
城塞都市上空に広がる広大な青のキャンバスに、紅の光芒と黄金色のドットが勢いよく軌跡を塗りたくる。
『ハダカ状態の神動選手を、エイツヴォルフ選手が執拗に追い回す! 一気に試合を決める構えかあ!?』
しかし、スカイライティングはここまで。
縦横無尽の高速軌道の拍子に、耀の腰に提げられていた巾着袋の結びが緩み、虚空に投げ出された。
球が全て割られてしまった場合敗北が決定してしまう。
「待ってくださ~い!!」
耀は急いで落下中の球を操作し、襲い来る黄金の槍から守る。が、球一個を串刺しにされてしまう。
――チームエイツヴォルフ、3得点(内訳:敵球1個破壊=3点×1)計3点。
さらに箒まで被弾し、耀は地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。
「止めデスわ!」
無防備な耀とチーム神動の犬球に、群れのように連なる黄金の槍が喰い付く。
槍一本一本が《心力》を無力化する必殺の一撃だ。
常人離れした出力を誇る耀の《心力》でさえ、アリスの個人技の前では紙製の盾である。
故に、耀にこの状況を切り抜ける術はない――はずだった……!?
「ボブ、出番です!」
しかし次の瞬間、耀に殺到した黄金の槍が着弾と同時に次々と砕け散る。
キラキラと空を染める金色の霧から現れたのは、巨大な黒。
無骨で、たくましく、威圧感を放つその物体は果たして、
「ゆ、UFOデスわ!?」
という具合に、アリスが錯乱するほど大きなタイヤ――ボブだった。
『砕球では審判から許可が下りたものであれば持ち込みOKですが、まさかタイヤを持ってくるとは……しかし、エイツヴォルフ選手対策としてはベストだ!』
『直前にボール投げてたな。夜舞曲の個心技でタイヤを小さくして、持ち運べるようにしたのか』
「ちょっと大きいくらいで、ワタクシの攻撃を防げるとでも!!」
一度防がれても、アリスは冷静だ。
正面から撃っても貫けないと即座に判断し、タイヤを回り込むようなコースに槍を操作して耀を狙う。が、大雑把な攻撃は中々命中しない。
それどころか、アリスは一旦退くことを選択した。
原因は疲労。
《心力》の出力と個心技の威力が、がくっと落ちてしまっている。
そう、笑銃たちの激しい銃撃が効いていたのだ。
チャンスだ! と、耀はアリスを追撃しようとする。が、
「ひかり、こっちや!」
笑銃が自らが錬成した小型のバギーで耀を拾い、アリスとは逆方向――拠点に向かって出発した。
「えんじゅちゃん、エイツヴォルフさんを追い掛けましょう! 相手は疲れてます!」
「う~ん、うち、さっきのでへとへとやしなぁ~……ちゅうか」
笑銃はサイドミラーをちらりと見て後方を確認し、チーム鵣憧から移籍してきたオペレーターに指示を出す。
【操子、レーダー出してや】
【了解です】
不意に笑銃と耀の目の前に周囲の状況を映したレーダーが出現し、アリスの顔写真が指す光点の周りにチームエイツヴォルフの選手が集まって来ている様子を伝える。
「ありすの親衛隊がそこまで来とる。今行ったら囲まれるで」
「っ!? うぅ、すみません」
またチームに迷惑をかけるところだったと、耀は肩を落とす。が、運転席に座る笑銃は、助手席で項垂れる耀を面白がるように笑う。
「確かに、ひかり、球操手なのに攻撃的やな~」
「あうっ」
でも、と笑銃はその笑みを快活なものにした。
「積極的に行くのはいいことやん! せやろ、お前ら!」
荷台の人形たちに話を振ると、サムズアップが返ってくる。
茶番臭くて仕方ないが、耀が元気を取り戻したのでいいのだろう。
それから、二人と四体を乗せたバギーは、緑色の粒子を排出しながら石畳の上を駆け抜ける。
周りの風景が、激流のように視界の端を流れていく。
とそこで、笑銃のインカムに着信が。
【笑銃先輩、早く来て欲しいっす!】
【痛いのやだ~!!】
【これが頼りない仲間と拠点を守る気持ち~!?】
【友よ、三秒で頼むぞ!】
【三秒は無理や!】
どうやら、先に拠点に到着していた鎚子たち支援手が敵と交戦中らしい。
彼女たちが大ピンチなのは容易に想像が付く。
普通なら非戦闘員の鎚子たちに護衛を付けるのがセオリーだが、生憎チーム神動は人数不足だ。
間もなく、耀たちを乗せたバギーは芝生の坂の先、そこに居を構える白亜の城に辿り着いた。
鎧戸の上がった城門を潜り、急いで鎚子たちの援護に向かう。すると、
「遅いっすよお、しょー先輩! 遅過ぎて骨すら残らないところだったじゃないっすか!」
「レディを待たせるとか、どういうつもりなわけ!?」
「また戦死する気持ちを体感するところでしたよ!?」
「我の魂の慟哭を聞かなかったのか!? 既に三〇の刻を刻んでいるぞ!?」
中庭で震えながら抱き合っていた四人の中学生が、顔をくしゃくしゃにしながら笑銃と耀に飛び付いてくる。
「みんな、ナイスファイトだったよ!」
「なんで外で待ってたん? 城ん中逃げ回ればよかったやん」
「中で戦ったら城が壊されるかもしれないじゃないっすか!」
「我らが侵略者の気を引いていたのだぞ、感謝せよ!」
「てこ、あーす……ひぐっ……珍しく、考えたんやなぁ」
【違うっす。ねこ先輩からの命令っすよ】
【あのセカンドスペアルーザーが我らにオ―ダ―したのだ】
【え、ねこが!?】
笑銃はぱちぱちと目を瞬かせ、呆けた顔をする。
【なんか、いつもと違うっていうか、人間様に媚びる野良猫みたいでキモかったすね】
【くくく、我らに敵わぬと見て気に入られようとするとは、あざとい女子よ】
【ちょっと、あんたたち!? わざとインカム使って話してるでしょ、わざと!】
【ねこ先輩、盗み聞きなんて趣味が糞っすよ?】
【見破られたと見て、猫被りをやめたか】
【言いたい放題言ってくれるじゃない!? 後で覚えときなさいよ!】
猫夢理と鎚子たちの会話に、笑銃は嬉しそうに口端を上げた。
猫夢理が後輩に指示を出したこと、そしてチーム神動に移籍したことに変化を感じる。
一年前、九十九たちに叩き潰され、その後にも色々あって猫夢理はチームメイトに遠慮するようになった。
試合中に勝つために必要な細かい指示を出さなくなったし、練習中に鎚子たちにキツイことを言わなくなった。
その分自分一人で何とかしようと、毎日汗を流していたのだ。
そんな彼女を心配した優那に頼まれ、笑銃はチーム鵣憧に籍を置いていたが、もう心配はないだろう。
「ひかり、ありがと~な~。ねこが変わったのは、ひかりのおかげや」
「? わたし、なにかしましたか?」
「したした……ま、その話はまた今度や。とにかく今は」
首を傾げたままの耀に、笑銃はにっと笑い掛ける。
「この試合、勝ちに行くで!」
「はい!」