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砕球!! 改稿6回目  作者: 河越横町
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UFOデスわ!?


 剛羽や侍恩たちが足止めされている一方で、


『チームエイツヴォルフ、チーム神動の球操手を捉えたぁ!』


 今回の拠点――王城に移動していた耀のもとに、アリスが攻め込んでくる。

 

 争奪戦のときと同様に、アリスの単騎突撃だ。


「ひかり、援護するで!」


 そうはさせじと迎え撃つのは、剛羽たちの代わりに耀と合流していた笑銃とイェーガー、マイヤーズ、ミック、ギャレットたち人形四体だ。


 通りの両脇に居並ぶ建物の屋上から、一斉射撃を食らわせようとする。が、


「邪魔デスわ……!!」


 機先を制したアリスが、笑銃たちに黄金の槍を連射して制圧した。


「ありす、いきなり全開やん!?」


 それでも、タダでは通さない。


 突破を許した笑銃と軍人人形たちは、地上に降りて自動二輪に乗り、アリスの背中を追い掛けながら銃撃する。


 王女を球状に包む《殻楯》に打ち消されても、プレッシャーをかけ続ける。


「ひかり、逃げるんや!」


 耀は犬球を笑銃に錬成してもらった巾着袋に詰め込み、錬成した箒に跨って拠点を目指す。


 対するアリスは、笑銃たちの銃撃に晒されながらも、地上から槍で狙撃。


 拠点へは行かせまいと、進路を断つように槍を操作する。


 城塞都市上空に広がる広大な青のキャンバスに、紅の光芒と黄金色のドットが勢いよく軌跡を塗りたくる。


『ハダカ状態の神動選手を、エイツヴォルフ選手が執拗に追い回す! 一気に試合を決める構えかあ!?』


 しかし、スカイライティングはここまで。


 縦横無尽の高速軌道の拍子に、耀の腰に提げられていた巾着袋の結びが緩み、虚空に投げ出された。


 球が全て割られてしまった場合敗北が決定してしまう。


「待ってくださ~い!!」


 耀は急いで落下中の球を操作し、襲い来る黄金の槍から守る。が、球一個を串刺しにされてしまう。


 ――チームエイツヴォルフ、3得点(内訳:敵球1個破壊=3点×1)計3点。


 さらに箒まで被弾し、耀は地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。


「止めデスわ!」


 無防備な耀とチーム神動の犬球に、群れのように連なる黄金の槍が喰い付く。


 槍一本一本が《心力》を無力化する必殺の一撃だ。


 常人離れした出力を誇る耀の《心力》でさえ、アリスの個人技の前では紙製の盾である。


 故に、耀にこの状況を切り抜ける術はない――はずだった……!?


「ボブ、出番です!」


 しかし次の瞬間、耀に殺到した黄金の槍が着弾と同時に次々と砕け散る。


 キラキラと空を染める金色の霧から現れたのは、巨大な黒。


 無骨で、たくましく、威圧感を放つその物体は果たして、


「ゆ、UFOデスわ!?」


 という具合に、アリスが錯乱するほど大きなタイヤ――ボブだった。


『砕球では審判から許可が下りたものであれば持ち込みOKですが、まさかタイヤを持ってくるとは……しかし、エイツヴォルフ選手対策としてはベストだ!』


『直前にボール投げてたな。夜舞曲の個心技でタイヤを小さくして、持ち運べるようにしたのか』


「ちょっと大きいくらいで、ワタクシの攻撃を防げるとでも!!」


 一度防がれても、アリスは冷静だ。


 正面から撃っても貫けないと即座に判断し、タイヤを回り込むようなコースに槍を操作して耀を狙う。が、大雑把な攻撃は中々命中しない。


 それどころか、アリスは一旦退くことを選択した。


 原因は疲労。

《心力》の出力と個心技の威力が、がくっと落ちてしまっている。


 そう、笑銃たちの激しい銃撃が効いていたのだ。


 チャンスだ! と、耀はアリスを追撃しようとする。が、


「ひかり、こっちや!」


 笑銃が自らが錬成した小型のバギーで耀を拾い、アリスとは逆方向――拠点に向かって出発した。


「えんじゅちゃん、エイツヴォルフさんを追い掛けましょう! 相手は疲れてます!」


「う~ん、うち、さっきのでへとへとやしなぁ~……ちゅうか」


 笑銃はサイドミラーをちらりと見て後方を確認し、チーム鵣憧から移籍してきたオペレーターに指示を出す。


操子あやこ、レーダー出してや】


【了解です】


 不意に笑銃と耀の目の前に周囲の状況を映したレーダーが出現し、アリスの顔写真が指す光点の周りにチームエイツヴォルフの選手が集まって来ている様子を伝える。


「ありすの親衛隊がそこまで来とる。今行ったら囲まれるで」


「っ!? うぅ、すみません」


 またチームに迷惑をかけるところだったと、耀は肩を落とす。が、運転席に座る笑銃は、助手席で項垂れる耀を面白がるように笑う。


「確かに、ひかり、球操手なのに攻撃的やな~」


「あうっ」


 でも、と笑銃はその笑みを快活なものにした。


「積極的に行くのはいいことやん! せやろ、お前ら!」


 荷台の人形たちに話を振ると、サムズアップが返ってくる。


 茶番臭くて仕方ないが、耀が元気を取り戻したのでいいのだろう。


 それから、二人と四体を乗せたバギーは、緑色の粒子を排出しながら石畳の上を駆け抜ける。


 周りの風景が、激流のように視界の端を流れていく。


 とそこで、笑銃のインカムに着信が。


笑銃しょー先輩、早く来て欲しいっす!】

【痛いのやだ~!!】

【これが頼りない仲間と拠点を守る気持ち~!?】

【友よ、三秒で頼むぞ!】


【三秒は無理や!】


 どうやら、先に拠点に到着していた鎚子たち支援手が敵と交戦中らしい。

 

 彼女たちが大ピンチなのは容易に想像が付く。

 

 普通なら非戦闘員の鎚子たちに護衛を付けるのがセオリーだが、生憎チーム神動は人数不足だ。

 

 間もなく、耀たちを乗せたバギーは芝生の坂の先、そこに居を構える白亜の城に辿り着いた。


 鎧戸の上がった城門を潜り、急いで鎚子たちの援護に向かう。すると、


「遅いっすよお、しょー先輩! 遅過ぎて骨すら残らないところだったじゃないっすか!」

「レディを待たせるとか、どういうつもりなわけ!?」

「また戦死する気持ちを体感するところでしたよ!?」

「我の魂の慟哭を聞かなかったのか!? 既に三〇の刻を刻んでいるぞ!?」


 中庭で震えながら抱き合っていた四人の中学生が、顔をくしゃくしゃにしながら笑銃と耀に飛び付いてくる。


「みんな、ナイスファイトだったよ!」


「なんで外で待ってたん? 城ん中逃げ回ればよかったやん」


「中で戦ったら城が壊されるかもしれないじゃないっすか!」


「我らが侵略者の気を引いていたのだぞ、感謝せよ!」


「てこ、あーす……ひぐっ……珍しく、考えたんやなぁ」


【違うっす。ねこ先輩からの命令っすよ】


【あのセカンドスペアルーザーが我らにオ―ダ―したのだ】


【え、ねこが!?】


 笑銃はぱちぱちと目を瞬かせ、呆けた顔をする。


【なんか、いつもと違うっていうか、人間様に媚びる野良猫みたいでキモかったすね】


【くくく、我らに敵わぬと見て気に入られようとするとは、あざとい女子よ】


【ちょっと、あんたたち!? わざとインカム使って話してるでしょ、わざと!】


【ねこ先輩、盗み聞きなんて趣味が糞っすよ?】


【見破られたと見て、猫被りをやめたか】


【言いたい放題言ってくれるじゃない!? 後で覚えときなさいよ!】


 猫夢理と鎚子たちの会話に、笑銃は嬉しそうに口端を上げた。


 猫夢理が後輩に指示を出したこと、そしてチーム神動に移籍したことに変化を感じる。


 一年前、九十九たちに叩き潰され、その後にも色々あって猫夢理はチームメイトに遠慮するようになった。


 試合中に勝つために必要な細かい指示を出さなくなったし、練習中に鎚子たちにキツイことを言わなくなった。


 その分自分一人で何とかしようと、毎日汗を流していたのだ。


 そんな彼女を心配した優那に頼まれ、笑銃はチーム鵣憧に籍を置いていたが、もう心配はないだろう。


「ひかり、ありがと~な~。ねこが変わったのは、ひかりのおかげや」


「? わたし、なにかしましたか?」


「したした……ま、その話はまた今度や。とにかく今は」


 首を傾げたままの耀に、笑銃はにっと笑い掛ける。


「この試合、勝ちに行くで!」


「はい!」


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