本気で来い
更新遅くなってすみません汗
スポーツの試合で勝つために必要なこととは何か?
科学的な練習。対戦相手の研究。チームワークの徹底、即ち団結力。
簡単に挙げれば、こんなものだろう。
しかし、相手だって練習し、研究し、団結してくる。
では、勝敗を分ける要因は何か?
仮に、練習や研究、団結力で両者に決定的な差がない場合は、どこで差が付くのだろうか?
運……確かにそれもある。が、選手たち次第で確実にどうにかできるものもある。
それは強大な相手にも怯まず、磨き上げてきた自分を信じる精神。
つまり、心の強さだ。
人という精神動物同士が戦う以上、メンタルに左右されるのは自然のこと。
勝てない。負ける。無理だ。
そんな弱気な心では、実力の半分も発揮できない。
きちんと準備してきたんだ。勝てる。できる。
そう思い込むことで、ようやく積み上げてきたものを発揮できる。
だから、剛羽は唱えていた。
(勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ――…………――勝つ勝つ勝つ勝つ)
勝つ。
その二文字を。
まるで呪詛のように、心の中で何度も何度も。
トイレの個室の中で、手鏡に移る自分を見ながら。
さあ、いつもの儀式は終わった。
戦いの時だ。
チーム神動を勝たせる。
剛羽はその思いを胸に個室を飛び出し、耀たちのもとに向かった。
『九十九学園新人戦、開幕! そして一回戦、注目の好カード! チームエイツヴォルフvsチーム神動! 蓮ジュニアとチーム鵣憧を迎えたチーム神動は、果たしてどのような戦いをみせるのか! 一回戦から白熱の予感です! 解説席には、争奪戦に続いて九十九義経先輩をお招きしました~!』
『この試合やる意味あるのか? 結果見えてるだろ』
『いきなりやる気ないですね!? あ、そうだ。人数の少ないチーム神動は九選手中六選手が二点分の扱いとなります。誰が二点分かはランダムで選択されます!』
剛羽たち選手の整列する入場口に、入場開始の号令がかかる。
先頭の耀がくるりと首だけ捻る。
自信満々の、やってやるという笑みを見せる。
対して、剛羽はうんと頷いて微笑みながら応えた。
自然と笑っていた。
歓声を浴びながら入場し、審判や相手チームと挨拶を交わしてから、チームごとに集合する。
簡単な決めごとを確認し合ってから、剛羽は相手チームをちらりと見た。
アリスが中心となってミーティングしている輪の中から少し離れたところで、大柄な少年が独り佇んでいる。
漆治。闘王学園では剛羽と同じチームでプレーしていた。
先日の仮装収穫祭で会ったときに、九十九学園に編入すると言っていたが……誰とは言わないが、仕組まれた展開としか思えない。
一回戦からアリスたちと当たるのも、新人戦で耀を活躍させないためだと勘ぐってしまう……とそこまで考えたところで、剛羽は頭を振って気持ちを切り替えた。
試合前でナーバスになっている。
漆治が加入したことでアリスのチームはパワーアップしたが、このチームなら勝てる。
一回戦からアリスたちと戦うのは好都合だ。
ここで勝てば、耀の退学は取り消せたも同然なのだから。流石のアリスも、自分に勝った相手を退学にはできまい。
「勝とうぜ」
円陣を組んだチーム神動の面々に、剛羽が視線を配る。と、耀、侍恩、優那、チーム鵣憧のメンバーが、思い思いの表情で応えた。
目一杯やってきた自信。
それでもなくならない確かな不安。
二つの感情がせめぎ合うことで生まれる緊張。
その全てを抱えて、選手たちは仲間とともに戦場に赴く。
たった一つ、勝利を目指して。
『全選手、ランダム転送完了! フィールド――』
転送された選手たちの目に飛び込んできたのは、数十メートルはある高い城壁で囲まれた石造りの街並みだった。
『――城壁都市!』
【一点の選手、申告!】
【神動、一点です!】【てこも一点っす!】【風歌も一点でーす】
フィールド南端の城門前に転送された剛羽は、自身の胸に「2」と表示されているのを確認してからチームメイトの誰が何点分かの確認を終え、球操手である耀を目指して最短コースで走り出す。
選手全員がフィールドにバラバラに転送されるランダムスタート形式では、開始後、守手が球操手と合流しにいくのが定石なのだ。が、
【こうくん、来るよ!】
走り始めて間もなく、オペレーター限定で参加を認められた優那から着信。
剛羽の前に大きな影が立ち塞がる。
「行かせねーぜ」
「……漆治」
『おっと! 球操手との合流を目指す蓮ジュニアを、漆治選手がブロック! 蓮ジュニア、引き剥がそうとしますが、ぴったりとマークされてしまっているぞ!』
『ざまあないな』
「ちょっと、いきなりピンチじゃない!? やっぱり、圧倒的に数が足りないわ!」
【耀様、心配ありません! この侍恩が今すぐにお迎えに上がります!】
鋭角の屋根の上を並走していた猫夢理と侍恩は、二手に分かれて耀と剛羽の救援に向かおうとする。が、
「《最弱》と孤猫なんて珍しい取り合わせですぜ」
「ッ……奥突」
争奪戦ではチーム神動のメンバーだった奥突が、侍恩たちの前に乱入してきた。
動手である侍恩や猫夢理が味方のサポートをしようとしたように、奥突も敵の足止めという形で味方をサポートする。
「へえ……奥突あんた、一年生の中ではレギュラーなのね」
「ひひ、お褒めに預かり光栄ですぜ」
「あんたレベルでレギュラーなんて、やっぱ抜けて正解だったわ」
「……はぁ?」
【ふ、馬鹿なやつだ。たった一人で僕たち二人に正面からかかってくるとは】
【ちょっと待って……下にもう二人いるわ】
会敵後すぐに転身していた猫夢理は、奥突と無駄話をする間に、その鋭い聴覚で物陰に潜む敵を捉えていた。
【このまま睨めっこしてても仕方ないわね。あたしが奥突をミンチに――】
【いや……奥突は僕に任せてくれ、鵣憧殿】
【無茶言わないの。あんた勝ったことないでしょうが】
【今日、勝ちます】
【……は、言ったわね? これで負けたら超ダサいわよ】
意地悪そうな笑みを浮かべた猫夢理は屋根から飛び降り、近くに潜んでいた少年たちに斬りかかる。
「わっちも舐められたもんですぜ――点は頂くですぜ、《最弱》!」
一方、奥突はチャンスとばかりに侍恩に斬り掛かり――次の瞬間、奥突の視界は青空を映していた。煉瓦焼きの屋根に叩き付けられたのだ。
「なん、ですぜ……!?」
「僕も舐められたものだな」
その手に盾をもった少年は、ファイティングポーズを取る。
「本気で来い、奥突」




