元チームメイト
「――ということで、新メンバーのチームねむりちゃんの皆で~す!」
日曜日、イベント会場で。
耀は猫夢理たちをぱちぱちと拍手で迎える。
「まったく、何回やれば気が済むのよ。移籍してもうかなり経つんですけど」
胸の前で腕を組んでいた猫夢理は、気恥かしそうにぷいっとそっぽを向く。
「鵣憧、照れてるのか?」
「うっさい!」
「顔真っ赤やん、ねこ~」「発情期っすか、ねこ先輩?」「ねむりちゃん、マジちょろ過ぎ~」「くくく、ふしだらな女子よ」「これが恋する人を傍から見る気持ちですか~」
「あんたらも黙りなさいよ……!!」
今日もチーム鵣憧メンバーは仲良しだ。
「……うぅ」
「……はぁ。どうしました、上妃先輩?」
猫夢理はさめざめと泣く優那に、面倒臭そうに声を掛ける。
「だって、だってぇえ~、また猫夢理ちゃんと一緒のチームになれたからぁあ~」
両手を広げて駆け寄ってきた優那に、ハグされる猫夢理。
剛羽はぐぬぬと羨ましそうな視線を送る。
「はぁ……そんなことくらいで泣かないでくださいよ。先輩、もう一八でしょ」
「高校生は子どもだもんぅう~」
「ゆーさん、相変わらず泣き虫やな~」
最年長の優那が泣きやんだところで、耀たちは試合の準備を始めた。
優那の両親が働くVicter社主催、夏の仮装収穫祭。
それが今回耀たちの参加するファンイベントだ。
出場選手たちが仮装し、観客の目を楽しませながら試合をする、ぬる~い大会だ。が、選手観客の両方面から支持されている国内最大級の大会である。
優那がいなければ参戦は叶わなかっただろう。
意識高い系の剛羽は断固参加を拒否したが、耀に涙目で懇願されたためあっさりと折れ、参加する運びとなった。
チームメイトと息抜きをするのも悪くない。
そう割り切った剛羽はダークスーツに着替え、侍恩と一緒に待っていると、仮装した耀たちがやってきた。
「こうくん、達花くん、お待たせ~。スーツ姿、かっこいいね~。似合ってる!」
「あ……ありがとうございます。先輩も、かわ……綺麗です」
「ありがと~♪」
魔女装束の優那は、背後でもじもじしている耀の肩に手を置き、剛羽の前に連れていく。
「お次は耀ちゃんで~す。どうどう、こうくん? すっごく可愛いよね~」
「ひ……耀、その格好は……!?」
「ま、魔女っ娘です……」
と、恥ずかしそうにぎゅっと目を瞑り、ミニスカートの裾を掴みながら耀。
優那がとんがり帽子と箒でイメージされる昔ながらの魔女だとすれば、耀は現代版のきゃぴきゃぴした見た目だ。
耀は顔を真っ赤にしながらもその場でくるりと一回転し、子どもたちから圧倒的支持を得そうな衣装を見せつけてくる。
ちょっとスカートが短過ぎやしないだろうか。
父目線の剛羽は、耀の執事である侍恩に同意を求めようとするが、
「耀様、視線くださ~い!!」
普段は口煩いあの侍恩が、しまりのない顔でシャッターを切っている。
まるで、我が子の晴れ舞台にすっかり舞い上がってしまった保護者だ。
「この衣装、変でしょうか……?」
撮影を終えた耀は、不安そうに剛羽を見上げてくる。
「いや、すごく似合ってるぞ。可愛い」
「わあっ……!!」「おいこら蓮!」
「達花にはとやかく言われたくないな」
「ったく、鼻の下伸ばしちゃって。これだから男子は。キモっ」
「俺はどう答えればよかったんだよ……!?」
言いながら剛羽は振り返り、猫夢理を見据える。
ナース服だ。携帯しているのは高周波ブレードだが。
まったく肌は露出してないが、サイズがぴったりめなのか、猫夢理のスタイルの良さがよく分かる。
「ちょっとっ!? ジロジロ見るな! キモっ!」
「じ……自意識過剰なんじゃないか?」
「はぁ!? ミンチにされたいの!」
「二人とも喧嘩しちゃダメぇえ~」
「はいもうしません」「べ、別に本気で喧嘩してるわけじゃないですよ、こんなやつと」
半泣きの優那が仲裁に入ったことで、剛羽は一瞬で鎮圧され、猫夢理は胸の前で腕を組み、ふんとそっぽを向く。
その後も剛羽は試合中ですら侍恩や猫夢理とやり合い、その度に優那に瞬殺され、耀たちチームメイトと仮装大会を目一杯楽しみ、新人戦に向けて英気を養うのであった。
そして、会場の東卿ドームから駅に移動する途中。
「蓮さん、どうしました?」
「ん、いや……」
いつになく機嫌が良さそうな剛羽は、見上げてくる耀から視線を逸らす。
「新人戦の前に、たくさん試合ができてよかったです! これも蓮さんのおかげです!」
チーム神動は剛羽が加入して以降、たくさんの実戦を積むことができていた。
是非あの蓮ジュニアが移籍したチームと、と県内外問わず、多くのチームが対戦を申し込んできたのだ。
「まあ、蓮ジュニアがいるってだけで試合してくれるからな。でも、耀たちに経験積ませられてよかった……有名なことに初めて感謝したよ」
「おい、蓮! 耀様と何をこそこそ話している!」
「しおんはなんでそんなに蓮さんに厳しいの!? やめてよ!」
侍恩の誤解を解こうと、耀が前を歩く優那たちに合流する。
きゃあきゃあと騒ぎ出す耀たち。
剛羽はそんな新しいチームメイトたちを見やりながら、ふっと微笑み――
「――随分、ぬりーことやってんじゃねーか、蓮」
不意に声を掛けられ、最後尾を歩いていた剛羽はばっと慌てて振り返る。
そこにはフードを目深にかぶった、大柄の少年が。
顔は見えないが、少年が誰であるか、剛羽にはすぐに分かった。
「漆治……!?」
漆治。同い年で、闘王学園時代のチームメイト。
浅からぬ因縁をもつ少年の登場に、剛羽は困難な運命の到来を予感するのであった。