表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砕球!! 改稿6回目  作者: 河越横町
39/49

元チームメイト


「――ということで、新メンバーのチームねむりちゃんの皆で~す!」


 日曜日、イベント会場で。


 耀は猫夢理たちをぱちぱちと拍手で迎える。


「まったく、何回やれば気が済むのよ。移籍してもうかなり経つんですけど」


 胸の前で腕を組んでいた猫夢理は、気恥かしそうにぷいっとそっぽを向く。


「鵣憧、照れてるのか?」


「うっさい!」


「顔真っ赤やん、ねこ~」「発情期っすか、ねこ先輩?」「ねむりちゃん、マジちょろ過ぎ~」「くくく、ふしだらな女子よ」「これが恋する人を傍から見る気持ちですか~」


「あんたらも黙りなさいよ……!!」


 今日もチーム鵣憧メンバーは仲良しだ。


「……うぅ」


「……はぁ。どうしました、上妃先輩?」


 猫夢理はさめざめと泣く優那に、面倒臭そうに声を掛ける。


「だって、だってぇえ~、また猫夢理ちゃんと一緒のチームになれたからぁあ~」


 両手を広げて駆け寄ってきた優那に、ハグされる猫夢理。


 剛羽はぐぬぬと羨ましそうな視線を送る。


「はぁ……そんなことくらいで泣かないでくださいよ。先輩、もう一八でしょ」


「高校生は子どもだもんぅう~」


「ゆーさん、相変わらず泣き虫やな~」


 最年長の優那が泣きやんだところで、耀たちは試合の準備を始めた。


 優那の両親が働くVicter社主催、夏の仮装収穫祭。


 それが今回耀たちの参加するファンイベントだ。


 出場選手たちが仮装し、観客の目を楽しませながら試合をする、ぬる~い大会だ。が、選手観客の両方面から支持されている国内最大級の大会である。


 優那がいなければ参戦は叶わなかっただろう。


 意識高い系の剛羽は断固参加を拒否したが、耀に涙目で懇願されたためあっさりと折れ、参加する運びとなった。


 チームメイトと息抜きをするのも悪くない。

 そう割り切った剛羽はダークスーツに着替え、侍恩と一緒に待っていると、仮装した耀たちがやってきた。


「こうくん、達花くん、お待たせ~。スーツ姿、かっこいいね~。似合ってる!」


「あ……ありがとうございます。先輩も、かわ……綺麗です」


「ありがと~♪」


 魔女装束の優那は、背後でもじもじしている耀の肩に手を置き、剛羽の前に連れていく。


「お次は耀ちゃんで~す。どうどう、こうくん? すっごく可愛いよね~」


「ひ……耀、その格好は……!?」


「ま、魔女っ娘です……」


 と、恥ずかしそうにぎゅっと目を瞑り、ミニスカートの裾を掴みながら耀。


 優那がとんがり帽子と箒でイメージされる昔ながらの魔女だとすれば、耀は現代版のきゃぴきゃぴした見た目だ。


 耀は顔を真っ赤にしながらもその場でくるりと一回転し、子どもたちから圧倒的支持を得そうな衣装を見せつけてくる。


 ちょっとスカートが短過ぎやしないだろうか。

 父目線の剛羽は、耀の執事である侍恩に同意を求めようとするが、


「耀様、視線くださ~い!!」


 普段は口煩いあの侍恩が、しまりのない顔でシャッターを切っている。


 まるで、我が子の晴れ舞台にすっかり舞い上がってしまった保護者だ。


「この衣装、変でしょうか……?」


 撮影を終えた耀は、不安そうに剛羽を見上げてくる。


「いや、すごく似合ってるぞ。可愛い」


「わあっ……!!」「おいこら蓮!」


「達花にはとやかく言われたくないな」


「ったく、鼻の下伸ばしちゃって。これだから男子は。キモっ」


「俺はどう答えればよかったんだよ……!?」


 言いながら剛羽は振り返り、猫夢理を見据える。


 ナース服だ。携帯しているのは高周波ブレードだが。


 まったく肌は露出してないが、サイズがぴったりめなのか、猫夢理のスタイルの良さがよく分かる。


「ちょっとっ!? ジロジロ見るな! キモっ!」


「じ……自意識過剰なんじゃないか?」


「はぁ!? ミンチにされたいの!」


「二人とも喧嘩しちゃダメぇえ~」


「はいもうしません」「べ、別に本気で喧嘩してるわけじゃないですよ、こんなやつと」


 半泣きの優那が仲裁に入ったことで、剛羽は一瞬で鎮圧され、猫夢理は胸の前で腕を組み、ふんとそっぽを向く。


 その後も剛羽は試合中ですら侍恩や猫夢理とやり合い、その度に優那に瞬殺され、耀たちチームメイトと仮装大会を目一杯楽しみ、新人戦に向けて英気を養うのであった。


 そして、会場の東卿ドームから駅に移動する途中。


「蓮さん、どうしました?」


「ん、いや……」


 いつになく機嫌が良さそうな剛羽は、見上げてくる耀から視線を逸らす。


「新人戦の前に、たくさん試合ができてよかったです! これも蓮さんのおかげです!」


 チーム神動は剛羽が加入して以降、たくさんの実戦を積むことができていた。


 是非あの蓮ジュニアが移籍したチームと、と県内外問わず、多くのチームが対戦を申し込んできたのだ。


「まあ、蓮ジュニアがいるってだけで試合してくれるからな。でも、耀たちに経験積ませられてよかった……有名なことに初めて感謝したよ」


「おい、蓮! 耀様と何をこそこそ話している!」


「しおんはなんでそんなに蓮さんに厳しいの!? やめてよ!」


 侍恩の誤解を解こうと、耀が前を歩く優那たちに合流する。


 きゃあきゃあと騒ぎ出す耀たち。


 剛羽はそんな新しいチームメイトたちを見やりながら、ふっと微笑み――


「――随分、ぬりーことやってんじゃねーか、蓮」


 不意に声を掛けられ、最後尾を歩いていた剛羽はばっと慌てて振り返る。


 そこにはフードを目深にかぶった、大柄の少年が。


 顔は見えないが、少年が誰であるか、剛羽にはすぐに分かった。


漆治つつじ……!?」


 漆治。同い年で、闘王学園時代のチームメイト。


 浅からぬ因縁をもつ少年の登場に、剛羽は困難な運命の到来を予感するのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ