14話
昨日は久々に、しかも!兄様達に怒られると言う事を一切気にしないでオリエントの森に遊びに行くことができた。張り切って遊び過ぎたせいで、右腕に着けていたパワーストーンのブレスがここにきて、まるっと1つ魔力切れを起こしてビックリした。
にしても、確かにはしゃぎ過ぎたとは思ったけど・・あんなにガルスも怒ることないよなぁ。兄様の説教とはまた違った恐怖で身が竦んだよ。
でもでも!!それでも良いかって思える。なんたって、ガルスだけでなくあのエルとまで仲良くなれたんだもん!ここで喜ばずして何をする!!しかも、エルが私の持って来ていた1つのブレスに映水晶があると言っていたので、ガルスの家の執事に頼んで速攻加工してもらって2人の事を撮りまくってやった!
―――――・・あぁ・・・超幸せぇ~~!!
コンコン
「は~い・・ど~ぞぉ~?」
2人の静止映像を見ながら部屋でニマニマしていたら、誰かが来たみたいで映像を切ってドアの方へ顔を向けた。返事をしたのだが、一向に誰も入ってこない。何故?
仕方ないので手にしていた羽ペンも置いて、羊皮紙はまだインクが乾いていないので広げたまま私はドアまで歩いて行って自分で開けて廊下に顔だけを出してみた。
私付きの侍女が今いないのは、勉強中は気が散るし必要ならベルを鳴らすからと言って下がらせているからです。
「ん~?あれ、エル?どーしたの、ガルスとお母様からの説教は終わったの?」
ドアからそっと覗いた廊下には、どんよりと影を纏ったエルが力なく立っていた。
彼は怖いもの知らずの冒険好きで、自国にいるときもふらっと城を出ては自分で集めた仲間と一緒に ――長く出過ぎるのも問題だから―― 一週間ほど近くの海域を航海して海賊狩りなどをして遊んでいるらしい。
そして、そんなエルが一番恐れているのが切れた時のガルスらしい。因みにいえば、お母さんは怒ると結構怖いが、王太子でいる今の内くらいじゃないと好きにできないからとそこそこ自由にさせてくれているらしい。
――――――――ただし、条件を守っていれば。
「・・・・あぁ。母さんはともかく、ガルスが性質悪かった」
「ま、いつもの事だけど」と乾いた笑みを浮かべるエルを部屋に招き入れ、自分でやるからいいと言ったら侍女が部屋の隅に用意しておいてくれた茶器セットに近寄って数種類ある茶葉やコーヒーを確認する。
おっと、エルはコーヒーの苦みが苦手らしい、牛乳入れてカフェオレにしてもダメなので、トロピカルフルーツの入った茶葉でいいかな?確か皇宮で会った時に隣で飲んでいた紅茶からそんな匂いがしたと思うから大丈夫だろう。
「だろうね~。てか、返事したんだから入ってくればよかったのに」
「ん、あぁ。俺の国では女だと気心知れた友だろうとも、中から開けて貰わない限り入ってはいけないんだ。俺が自らの手でドアを開けた時点で強制的に婚約者や・・あ~・・極端な言い方、妻とされる」
エルだったら恋愛対象でも平気だが、基本は結婚なんぞしたくない。しかも王族なんて貴族以上に嫌すぎる。エルが大きな溜息と共に吐き出したその言葉には憐れみさえも感じる。
「ぅわぁ・・やっぱ国によって違うんだねぇ。因みにそれって、強制?ばれなきゃ平気?」
「残念なことに強制だ。密室に二人きりとか、そういうことはないのにな」
「普通は逆じゃないの?何その微妙な呪い!超怖っ」
「そう思うよな。基本俺の方の王家は代々精霊が付いていて、密室で2人でも何もなけりゃそれで良いんだ。そこで契ったりした場合はまた強制的に夫婦だけど」
「ほぁ~」
背を向けたまま話しかけると、ため息交じりに言うエルにクスッと笑いが起きる。
茶葉を適量、温めたポットに入れて高い位置から熱いお湯を注ぐと、ふわりとフルーツの甘い香りが立ち上る。うんうん、しっかり茶葉は踊っているのでテーブルまで運べば飲み頃だろう。
ポットとカップセットと一緒にお菓子をトレイに乗せて窓際のソファーセットの方に振り向くと、エルが何故か部屋の中央にあるテーブルの上の羊皮紙を食い入るように見ていた。
「あれ、エル~、何してるの?ソファーセットあっちの窓側だよ」
「・・・・これ、レフィーが描いたのか?」
「あ、うん。そうだけど、どうかした?」
机の上に広げていたのは新作の服のデザイン画。エルが数枚手に持っているので丁度空いた場所にトレイを置いて、砂時計が落ち切ったのを確認して茶葉を濾しながらカップに注いだ。
「いや、いいなこれ・・・俺、この服好きだ」
「ホント?!」
座りなよと言ってインクの乾いた羊皮紙をまとめてテーブルの隅に置いてから中央にお菓子を置き、エルの前に紅茶を置いた。
エルが3枚ほど気に入ったと言ってその手に持っているのは、勿論エルをモデルにデザインした服だ。
「この国と言うより俺の国に近いな」
「うん、実際行ったことないし。エルが着ているモノしかエルの国のモノ見たことないから、自分でイメージしつつ考えただけ」
エルの国はさすが南の国・・と言うか、地続きなのに国境を超えるとまるで違う文化が広がっている。私たちの住むシドラニア側の国境には深い森があり、エルの住むポルトゥーナの国境側は砂漠。本当にどうなっているのかわからないが、急にパッと変わるらしい。
―――さすが異世界!
聞いた話と見せてもらった映像で、建物などはアラビアンナイトと言うのが一番しっくりくる。服も複雑な模様やカラフルな刺繍が目立っていてとてもきれいだ。ゆったりとした服が日に焼けた肌にとてもよく似合っている。
服装に関しては何と言っていいのか悩むところだが、シドラニアがヨーロッパの方だとすると、ポルトゥーナのイメージは砂漠の国と言うか南の島国といったイメージかな。建物と服装に違和感は一切ないのだが、建物が砂漠の国で服装が海のある南の国と言った感じ。
バリの民族衣装や装飾品+アイヌの民族衣装÷2の南の島verとでも言えばいいのか?
上手く説明できない自分の言葉足らずな感じがもどかしい!!取りあえず、エルの好んでよく着ている服は南の国の戦士って感じでかっこいいので、それを元に色々と描いてみたんだよね。
その中にこっそり某漫画の衣装を少しいじった服装も紛れ込ませてあるのはご愛嬌だ。
「見せてもらったエルの国の映像見ててさ、エルの国行ってみたいよ!その服は勿論エルのイメージで描いたんだよね。気に入ってくれてよかった~!リーシャにお~くろっと」
「え、これ俺の?」
「うん、そ~だよ。私裁縫苦手だからそっちは頼んでいるの、早ければ3~4日で作ってくれる。ただ、これは刺繍が多いからいつもよりは長いかな?」
エルにとっては予想外だったのか、エルの為に書いたデザインと言った言葉に弾かれた様に顔をあげた。豆くらった鳩とはこのことを言うのだろうか?
「ありがと、出来上がり楽しみにしてる。すぐには無理だけど、そのうち俺の国にも招待してやるからな」
「え、いいの?!うん!うん!楽しみにしてる!!」
少し照れたように言うエルってば胸きゅんするじゃないの!心臓に悪いよ!
でも、そっか~!エルの国に招待してもらえるって約束してくれたし、超楽しみになってきた!
「ちなみにこれは?この国っぽくもないな」
「そっちの5枚はガルスのだよ、エルのもそうだけど多少異世界ならではってとこも入ってるから。この世界は腰に布を巻くじゃない?私の元いた世界ではベルトっていう装飾品があってね、私のデザインする服はそれにしてるの」
「へぇ・・素材は、皮?なるほどな」
デザイン画の横には使う素材や名前がわからないものはこうな感じの物として説明書きをしてある。多少綴り間違いがあるのはご愛嬌だが、リーシャ達はそれすらも解読して私のイメージ通りの物を仕上げてくれるので本当にありがたい。
なので、彼女たちのリクエストを聞いたりして私付きの侍女はチャイナ服っぽいエプロンドレスがその証。他にもウェルナール家の侍女を始め使用人の服は可愛らしいと、その業界では有名らしく、それ目的で就職したいというモノもいたらしい。
うちはどっかの学校か?!と、思わず突っ込んだ記憶も新しい。
「そういえば、エル・・」
「ん~・・何?」
エルの反応に満足して紅茶を口に運んでふとドアに向けて口を開くと、エルもプチケーキを口に運びつつ私と同じようにドアの方を向いた。
そうだった、さっきから気になってることあったんだよね。
「何だよ、何かあんのか?」
王太子のくせにエルはケーキを手づかみで食べている・・・違和感ないな!てか、さすがと言うか手づかみの癖に気品漂ってるって何ぞや!!
粗野っぽく見せていてもさすが腐っても鯛 ――いや、腐ってはないけども―― なだけはある、王太子の名はだてじゃねぇな!
じゃなくて、お皿やナイフやフォークも用意したんだから使ってよ!
「ガルスはどうしたの?」
「は?」
「ガルスは一緒じゃなかったの?」
そういえば先ほど来たのはエル1人だけ。基本2人とも互いに行動を共にしているのにどうしたと言うのだろうか?そう思って言った言葉だったが、エルは呆れたように椅子にもたれ掛って先ほどとはまた別のケーキを口に運んでいた。
「あぁ、2人でレフィーの所に来ようとしたらリヒトが帰って来たんだ。なんか、ヴァドル叔父上からの仕事の件って・・・あ゛・・」
「あぁ、あの詳細を教えてくれなかったやつ・・・ん?おじ、うえ・・陛下が?」
うっかり口を滑らしてしまったらしいエルの顔からさーっと血の気が引いたようになったが、暫く何かを考えてから大きなため息をついて手に残っていたケーキを口に放り込み――あ、それでも食べきるんだ――紅茶で流し込んだ。
「ま、レフィーならいいか。レフィーの秘密も教えて貰ったもんな」
「え、いや・・同等なくらいだと、やばくね?!」
「ん~・・いや?そうでもないと思うが」
顎に手を当てて暫し悩んだ末に、エルはいつも通りの軽い感じで私に向き直った。なんか嫌な予感しかしないのだが、取りあえずは空のカップに紅茶のお代わりを注いであげてから私もきちんと姿勢を正した。
―――よし、さぁどこからでも来い!
「俺の母さんがさ、表向きは侯爵令嬢ってことになっているんだ。けど、実際は先代シドラニア皇帝の側室の娘で元姫だ。年齢的に言えば一応ヴァドル叔父上の姉に当たる。詳しくは言えないが、シャルトルーズ侯爵・・ガルスの爺さんの養女になってから親父に嫁いだんだ。血縁の儀がされたけど・・ガルスの家は貴族の中では一番皇家の血が濃いから意味あるのかと言われりゃ何とも言えねーけど。まぁ、姫の時より皇家の血は薄くはなってはいるからな。それでも、姉弟妹仲が良いからヴァドル叔父上が俺の事を普通に甥として扱うんだよ」
「・・・いや、複雑すぎるから。どう考えたって重要なトップシークレット事項だよ!」
「トップ・・?乗りかかった船だろう。レフィーは言いふらさないと信じてる」
「いや、言わないけど!」
結構重要なこと言われる覚悟はしてたけど、予想外だったよ!!普通に重要な秘密事項じゃね―の?!
エルって天然だよね?いや、確実に天然だよな!暫く私はエルの事を攻めていたけど、開き直ったエルは性質悪くて全て流された。これぞまさに馬の耳に念仏か!
因みにいえばさっき思わず口から出た『トップシークレット』と言う言葉に興味を示したエルのせいで、異世界の言葉を教える羽目になった事がよっぽど面倒くさかったのは言うまでもない。
2人でそんなやり取りをしていたらガルスが遅れてやってきて、ずっとガルスも気になっていたとかで異世界語レッスンなどが強制的に始まってしまい遠い眼になった。
――漫画のセリフを教え込んでやろうじゃないか・・あ、ヤベ!超萌える!!
閑話じみた話になってしまった・・。
今日もありがとうございました!




