↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢後宮物語  作者: 涼風
にねんめ
222/280

転換の密談①

長くなりそうなので、前後編に分けます。


 エルグランド暦四百十五年、森月の十四日。

 ――この日、王国正史には決して記されぬ、しかし確かに歴史の転換点であった集まりが、エルグランド王宮の後宮、通称『紅薔薇の間』にて開かれた。


「本日は、皆様、お集まりくださり、ありがとうございます」

「こちらこそ、お招き頂き、感謝いたします」


 口火を切ったのは、部屋の主である側室『紅薔薇』、ディアナ・クレスター。

 微笑んで答えたのは、未来の正妃、シェイラ・カレルド。

 二人のやり取りを皮切りに、参加者が次々と声を上げる。


「こうして皆で集まるのも、本当に久しぶりですね」

「ディアナ様が、無事にお戻りくださったおかげですわ」

「改めまして、ご無事のお帰りをお慶び申し上げます」


 側室『睡蓮』、ライア・ストレシア。

 側室『鈴蘭』、ヨランダ・ユーストル。

 側室『菫』、レティシア・キール。

 後宮の特別な一室を与えられた、通称『名付き』の三名は明るく笑い。


「いつもながら、豪華なおもてなしに感謝いたします。――紅薔薇様、おかえりなさいませ」


 三省直下組織『外宮室』の室長補佐、キース・ハイゼットは礼儀正しく一礼し。


「皆、何かと忙しいところ、時間を取らせて済まない」


 側室たちの主である王も、謙虚に頭を下げる――。


「――で、そろそろ無礼講タイムで良くないか? 関係者しかいない席で、いつまでも肩肘張ってちゃ、進む話も進まないだろ」

〈さんせー。あ、ねえねえ、ディー、そっちのお皿に乗ってる焼き菓子って、前に食べて好きな味って言ってたやつじゃない?〉

「え? あ、ホントだ。ありがとう、ユーリ。用意してくれたのね」

「ディアナ様付きの侍女として、当然のことです」

「……エド、カイ。頼むからお前ら、もうちょい空気を読んでくれ」

「結構重要な会合のはずだよね、これ?」


 いちおう厳かだった室内の雰囲気は、いつもの通り天井裏を伝ってやって来たエドワードと、天井裏から自由に声を飛ばすカイ、そんな二人にツッコミを入れるアルフォードとクリスによって、秒でいつも通りへと戻された。ディアナにとっては、これがエルグランド王国へ戻ってきて最初の関係者顔合わせのため、最初くらいはちゃんとするかー、ぐらいの気持ちで始めたのだが、そもそもその気遣いすら必要なかったらしい。苦笑して、皿を少し、客側へ押す。


「そういうわけで、皆様、色々とご助力をありがとうございました。おかげさまで無事、こうして帰ってくることができ、感謝しております」

「感謝だなんて。こちらこそ、無事に帰って来てくれてありがとう、ディー」

「えぇ。助力といっても、私たちができたことなんて、些細なことだもの」

「それが、そうでもないのですよ。ライアさんとのご縁には、スタンザで、本当に助けられまして」


 その言葉を皮切りに、スタンザ帝国でのあれこれについて、雑談的な報告会が始まる。どうやらソラは、カイから毎日入っていた定時連絡の内容を、後宮へはほぼ伝えていなかったらしい。ナーシャの件で忙しなかった彼女たちの事情を鑑みてのことだろう。

 ざっくりとではあるが、スタンザで出会った人々と、そこで得た繋がりについて話し……バルルーン翁のこと、彼が今もドーラを気にかけていることを伝えると、ライアは珍しく、目を丸くして素直な驚きを見せていた。


「お母様が今でも、スタンザの大叔父様と時々手紙のやり取りをしておいでなのは知っていたけれど……まさか、そこまで現皇帝の信厚き方だとは思わなかったわ」

「確かに、そこも驚きだけれど。わたくしは、ドーラ様がお若い頃、スタンザの皇妃候補と目されていたことにもびっくりよ?」

「それに関しては、本当にスタンザの叔父が勘違いしてるだけだと思う。お母様、昔からスタンザの良家の娘としては変わり者で、相手の身分も性別も気にせず、思ったことはズバズバいう人だったらしくてね。皇帝陛下に対しても変わらない態度を面白がられて、一時期、話し相手として宮殿に呼ばれていたのですって。それを、『皇帝陛下直々のお召し! 妹は次期皇妃だ!』って思い込んだ叔父が、一人で勝手に暴走してたらしいんだけど……まさか未だに暴走してたなんて」

「あぁ……当時は単なる当主の息子に過ぎませんから、暴走するにも限界がありますものね。家督を継いで、アルシオレーネ様を見出して、タガが外れた感じでしょうか」

「そうだと思うわ。これはむしろ、我が家の方から、そのアルシオレーネ様に謝罪しなければならない案件ね」

「まぁ、結局はあるべきお相手と結ばれたようだから、それほど深刻に捉える必要もなさそうだけれど」

「それでも、貴重な娘時代の数年間、好いた殿方と離れ離れになってしまった苦痛は、消えてなくならないでしょう」


 そう言ってため息をつくライアに微笑んで、ディアナは室内をぐるりと見回す。


「そんなわけで、アルシオレーネ様とブラッド殿のご助力もあり、こうして『下賜』の概念を持ち帰ることが叶いました。わたくしがスタンザで得た知見という形で陛下へお伝えし、王宮への報告書にも記すことで、エルグランドの後宮にも『下賜制度』を適用する下地は、整えられると思うのですけれど」

「はい。ディアナ様から連絡を頂いてすぐ、陛下と宰相閣下、デュアリス様が秘密裏に相談し、『下賜制度』を主軸とした後宮縮小案を立てておいでです。――概要は、ここに」

「ありがとうございます、キース様。拝見しますね」


 ディアナが『下賜制度』をエルグランドの後宮に適用できそうだと考え、カイに頼んでその考えをエルグランド側へ伝えてもらったのは、スタンザへ上陸してから五日後のことだ。元々予定されていた旅程の中でも早い段階であったし、聖女云々の騒ぎでディアナの帰国が延びたこともあり、これだけ時間があれば、有能な宰相と『賢者』のタッグが具体案を詰めるには充分だったらしい。

 ディアナが、エルグランド王国版『下賜制度』の概要をざっくり読んでいる横から、こちらはこの話自体初耳のレティシアが、その内容をナナメ読んで驚きの声を上げる。


「陛下が、側室を臣下へ下げ渡す……? スタンザ帝国の後宮(ハレム)には、そのような制度があったのですね」

「王女殿下の降嫁のようなものかしら?」

「意味合いとしては近そうです。スタンザでも、特に実力ある家や功績を上げた臣への褒賞として行われていた、と注釈がありますもの」

「相変わらず、書類から要点掴むの早いわね、レティ」

「商人として、当然の心得ですわ」


 誇らしげに笑うレティシアにディアナも頷き、内容を読み込んでいく。


(とはいえ……スタンザみたいに大きな功績を求めちゃうと、縮小までに何年かかるか分からないから、そこは上手いことアレンジしていくみたいね)


 スタンザの『下賜制度』の必要な部分だけを抜き取り、「側室と相手の男の希望が合致すれば、王(ジューク)の認証を得て、後宮から嫁げる仕組み」へと改変する心づもりらしい。これならば、相手によほど難がない限り、側室たちは大手を振って好きな男と結ばれることができる。


「でも……この仕組みじゃ、肝心のディーが出られないんじゃない? 『下賜制度』の根幹は臣下への労いだから、さすがに貴族籍にないお相手との婚姻は認められないでしょう?」


 レティシアの反対側に座っていたシェイラもまた、詳細を知るのは初めてだったようで、横から書類を眺め、首を傾げた。いつもディアナのことを気にかけてくれるシェイラらしい感想に、ちょっと苦笑しつつ頷く。


「ものすごーく高名な平民なら、例外的に認められるケースはありそうだけど、まぁわたくしの場合は使えないでしょうね」

「ディーはそれで良いの?」

「そもそもわたくし、『下賜制度』で後宮を出るつもり、ないもの」

「……どうして?」

「元々わたくし、そんなに長く、貴族に留まるつもりはなかったからね。これは別に後宮がどうとか関係なくて、クレスター家の長子以外が辿ってる、既定路線みたいなものだけど。シェイラが言った通り、『下賜制度』の嫁ぎ先はほぼほぼ貴族に固定だから、この制度を使ったら貴族のままになっちゃうでしょ?」

「それで言うと、私もないですねぇ。どこかへ嫁ぐことが前提となる『下賜制度』では、婿養子をもらって家を継ぐことはできないでしょう」

「確かに。そういう方の救済策も、追々考えていく必要がありそうね」


 うんうん頷き合うレティシアとディアナを微笑ましく見守っていたヨランダが、ふと、何かに引っ掛かったような表情で小首を傾げてこちらを見つめてきた。


「……ヨランダさん? どうかしました?」

「ねぇ、ディアナ? ちょっと聞きたいのだけれど」

「はい?」

「――あなた、スタンザで、カイとどこまで進んだの?」

「……は?」


 思わぬ質問にディアナが目をぱちくりさせたのと同じタイミングで、天井裏から変な咳が聞こえてくる。どうやらカイにとっても、不意打ちの質問だったらしい。


〈うわー……その聞き方、ヨランダさんだぁ……〉

「わたくしが聞いているのだから、当たり前でしょう?」

〈そういう意味じゃないって、分かって言ってるよね? ――面白がってるところ悪いけど、別に関係性は何も変わってないよ〉

「関係性〝は〟と強調するくらいだから、少なくとも気持ちの面で、大きな変化はあったということね?」

〈これだからユーストルさんは狸って言われるんだよ……〉

「最高の褒め言葉をありがとう」

「……ヨランダ。歳下の男の子を揶揄うのも、ほどほどになさいな」


 苦笑するライアがヨランダを嗜める斜め前では、どうやら何も知らされてなかったらしいキースが目をまん丸に見開いていた。


「関係性は変わらずとも……ということは、お二人はついに……?」

「キース様のこの感じ……カイの気持ちもわたくしの気持ちも分かってなかったのって、本当の本当にわたくしだけなの?」

「だから、最初からそう言っている」

「無邪気に刺すの止めてください、陛下。……わたくし、割と大真面目にスタンザで自分の気持ちから逃げられなくなるまで、カイの気持ち、知らなかったんです」

「ディーが、どうにかして自分の気持ちを封じようとしているような気配は、感じていたけれど。本当にあのダダ漏れなカイさんのあれこれに気付いてなかったのね」

〈ディーの前ではあんまり漏れすぎないように気をつけてたってば〉

「どう思う? リタ」


 突然シェイラに振られたリタは、動揺することなく肩を少し竦めて。


「通常は完全アウトですが、お相手がディアナ様なのでセーフ、といったところでしょうか? ……カイを擁護するわけではありませんが、その辺りの見極めはさすがというところなので、ディアナ様がカイの心を知らぬまま、先にご自身のお気持ちと向き合われたのは間違いないです」

「あー、そこまで引っ張れたのは確かにさすがだね。自分の気持ちに無自覚状態のクレスター家落とすのって至難の業だもん」

「……だから、あの頃のことは散々謝っただろうが」

「許してるよ? 許してるけど、エドが言ったあれこれは覚えとこうと思ってる。いずれ生まれるボクらの子が、間違っても女の子に無神経なセリフ吐かないための、教育用として」

「……おい、過去に何を言ったんだエドワード」

「聞くなジューク」


 にこにこ笑うクリスと、珍しく小さくなっているエドワード。ディアナはエドワードが「恋人だ」と紹介してからのクリスしか知らないが、もしかしたらこの二人も、くっつくまで紆余曲折あったのだろうか。


「船の上で、ディアナとカイが両想いになった経緯(いきさつ)聞いたけど。正直、カイはジンさんに次いで、クレスター家仕留めるの上手いなって思ったよ。タイミングも囲い方もバッチリって感じ」

「……俺らは獲物かなんかか」

「ふふ。確かに、恋上手な方のことを、巷では〝狩人(ハンター)〟とも喩えますわね」


 満面の笑みのヨランダが、改めて、ディアナに視線を戻してくる。


「……それで? ディアナ? 関係性〝は〟変わらないけれど?」

「…………皆様が辛抱強く見守ってくださったおかげで、無事に自分の中の気持ちと向き合うことができまして。カイとは、お互いに〝特別〟な想いを抱く仲だと、確信し合うことができました」

「えぇ、えぇ、そうよね。そうだと思ったの」


 何度も頷くヨランダは、珍しくも目をキラキラさせて興奮しているようだ。そんなヨランダの手を握り、ライアが申し訳なさそうに口を開く。


「ごめんなさいね、ディアナ。ヨランダは好きになった友人の幸せな報告には、人一倍のめり込んじゃうところがあって……」

「い、いいえ、滅相もない。もともと、皆様に報告はするつもりでしたので……これほど好意的に受け止めて頂けるとは思っておりませんでしたが」

「ディアナの幸せな報告を喜んで受け入れない人なんて、ここには居ないと思いますよ?」

「レティシア様の仰る通りよ、ディー。お相手に関しては……まぁちょっと、個人的に、思うところはあるけれど。あなたがあなたの〝特別〟を知って、自分の想いを大切にする決断をしてくれたことには、喜びしかないわ」

「レティ、シェイラ……」


 優しい友人たちの言葉に、周囲も大きく頷いている。これほど良い人たちに巡り会えたなんて、つくづく自分は幸運な人間だと感動していると、天井裏から声が聞こえてきた。


〈すごくありがたいんだけど、俺たちの話はそろそろ終わりにして、本題に戻らない? 話し合うべきこと、まだまだ山積みでしょ〉

「確かに、そうね。――えぇと、『下賜制度』のことまで話したかしら」

「はい。具体的な導入時期や方法などは、また宰相閣下と詰めていく予定です」

「お願いいたします。わたくしどもも引き続き、『下賜制度』以外の後宮縮小案を考えて参りますね」


 キースと確認し合ってから、ディアナは視線をジュークへ向ける。


「スタンザでの大まかな出来事については、今ご報告申し上げた通りですわ。後ほど、改めて公的な報告書も上げますけれど」

「承知した。次はこちらの番……といっても、後宮で起きた案件についての概要は、既に聞き及んでいるのだったな?」

「主にナーシャ様の懐妊に関しての件でしたら、はい、兄とクリス様より知らされております」

「と、なると、残るは我々、外宮側の動きか」

「そちらも、船の上でざっくり概要だけは聞いておりますが……キース様が、名実ともに陛下の側近となられたことなど」


 頷いたジュークは、キースと視線を絡ませる。


「あぁ。スタンザ帝国国使団の一件で、外宮室への妨害があからさまだったからな。パジェロ室長とも話し合って、こうなった以上は外宮室が国王派だとはっきり示した方が良いだろうという話になった」

「昨年の貴族議会以降、私は陛下のお側と外宮室を行ったり来たりしており、宰相閣下から〝文〟の分野で陛下をお助けするよう、内々にお申しつけもありましたからね。辞令などは特に出ておりませんが、堂々と陛下のお近くでお仕えするようになって、周囲が勝手に私のことを陛下の側近だと思うようになったようです」

「キースを国王補佐官に任命しちまうと、それはそれで外宮室の守りが薄くなるからな。あくまでキースは外宮室室長補佐官のまま、外宮室を代表してジュークの補佐も担当してる、って形での側近任用だ」

「……それ考えたの、絶対ヴォルツ小父様とウチのお父様でしょう」

「まぁそうだな」


 事務手続きの手間を減らしつつ、それでいて周囲を怯ませる策を考案するなんて、あの二人以外考えられない。相変わらずな父とその友人へ遠い目をしつつ、ディアナは数日前にエドワードから聞いた話を思い返す。


「あとは、陛下の敵味方選別のお話と、並行して行われていた、前女官長と共謀していた貴族たちの処分についても聞いております。お忙しかったことでしょうね」

「暇で無かったことは確かだが、そっちは見える成果があるからな。まだ気持ちの面で、そう負担が大きいわけではない」

「と、仰いますと?」

「……スタンザ国使団が来国していたとき、王宮で世論を操っていた一派についてだ。おそらくはスタンザと内通している者たちなのだろうが、なかなか尻尾を掴めなくてな」

「要するに……〝敵〟も本腰を入れて隠している、と」

「そうなる。あのときは、保守派も革新派もそれぞれに声の大きい者はいたから、余計に見えづらい」

「少なくとも、スタンザ国使団の様子を見るに、彼らと内通していたのは保守派である可能性が大きいとは思いますが……」


 スタンザ皇帝の前でディアナを散々言ってくれたスタンザ国使団の言い分を聞くに、彼らへエルグランドの内情を伝えていたのは保守派の中でもとびきり過激な誰かで決まりだろう。国使団の下っ端がディアナへ向けていた侮蔑の視線は、クレスターマジックにかかった貴族のそれにそっくりであった。


「――スタンザ国使団がいる間、不自然な世論の変遷は何度かあった。一度目は、シーズン開始の夜会の後、国使団を冷遇していた空気が歓迎モードへ変わり、トラブルのあったディアナとの間を取り繕うようなムーブメントが生まれたとき。二度目は、スタンザ国使団が〝エルグランド国使団〟として側室をスタンザ帝国へ連れ帰ることを要求したとき。普通ならどちらも、プライドの高い貴族たちが認めるわけがないような話なのに、いつの間にかスタンザ国使団の肩を持つような世論が形成されていた。貴族たちのツボを抑えてる〝誰か〟が世論形成に一役買ったと考えるのが自然だ」


 エドワードの改めての解説に、ディアナを始めとする一同が頷く。


「ディアナが無事に帰ってきてくれただけじゃなく、スタンザ皇帝とその後継者とまでしっかり繋がりを作ってくれたから、連中の企みの大半は潰せただろうけどな。あんな国交と戦が直結してる国へ無策で送った国使が無事に帰ってくる確率が低いのは、普通に考えたら分かりそうなもんだ。仮にも準王族の身分で送り出した側室が五体満足で帰国できないなんて事態に陥ったら、それを押し進めた一派の責任問題になることは避けられない。ディアナとスタンザ国使団の仲を取り持ったのも革新派、エルグランド国使団を結成することに前向きだったのも革新派だ。……ディアナがマジでスタンザの皇妃にさせられてたら、革新派の旗色は一気に悪くなっただろうな」

「実際は全然無策なんかじゃ無かったし、国使側もエルグランド側も〝無事に帰国する〟目標完遂に向けて動いてたから、何とかなったんだけどね。向こうもさすがに、カイが侍女に扮してまで着いて行くとは思わなかったんじゃない?」

〈それはそれで別の問題が持ち上がってるけどね。……あー、でもそう考えるとやっぱ、〝この状況〟が偶然の産物の可能性は低いか〉


 エドワード、クリス、カイの三人が述べる所見に、ディアナは少しだけ、思考して。

 その上で、ジュークを見る。


「その、裏で糸を引いていた人が、なかなか尻尾を出さないということですよね?」

「保守派を中心に探ってはいるんだがな」

「……先日のシュラザード侯爵の一件からすると、ある程度の実力を持つ霊力者(スピルシア)が保守派についているのは確実でしょう。世論形成の際も霊術(スピリエ)でサポートしていたとすれば、通常の調査で尻尾を掴むのは難しいかもしれませんね」

「クレスター伯も似たようなことを言っていた。カイが帰ってきたら、ソラ殿へ助力を請うと」

「しかし、〝敵〟もソラ様のことは警戒しているでしょう。――陛下、ここは〝逆〟から探ってみませんか?」


 ディアナには、一つ、心当たりがあった。


「後宮に、ロビン・ドレディ男爵令嬢がいらっしゃいます。『紅薔薇派』のお一人であり、また『中立派』でもある、とても聡明で賢明なご令嬢ですわ。――確か、彼女のお父様でいらっしゃるドレディ男爵は、スタンザ国使団と関係を深め、エルグランド国使団を派遣することに賛成したうちのお一人でいらしたはず」

「あぁ、そうだった。側室の父である彼が〝賛成派〟に回ったことで、一気に貴族たちの意見がスタンザ寄りになった記憶がある」

「であれば、おそらく彼は、意図的に〝攻略〟された可能性が高い。……ロビン様はお父様の意見には賛同せず、側室会議でも果敢に『側室をスタンザへ送るべきではない』と発言してくださっていました。彼女にお願いし、実家へ事情を尋ねてもらえば、何か分かるかもしれません」

「なるほど。内通している者を探すのではなく、内通によって踊らされた側から手がかりを得る、というわけか」

「その通りです」


 ディアナの案に、シェイラが少し眉根を寄せた。


「でも、ディー。ドレディ男爵令嬢は、そこまで『紅薔薇様』と近しいわけじゃないでしょう? どうやってお願いするの?」

「事情を説明した上で、リディル様にお願いすれば良いと思う。――シェイラから頼んでもらえるかしら?」

「リディル様ね。リディル様は確かに、ドレディ男爵令嬢とも後宮に入る前からの顔見知りだと仰っていたわ」


 なるほどとばかりに感心して頷くシェイラ。この件は、彼女に任せておけば問題ないだろう。


「ドレディ男爵の他にも、狙って意見を変えられた人はいるはずです。下手に王宮の調査となると警戒されてしまうでしょうから、知人伝いに上手く接触して、お話を聞いてみられると良いでしょう」

「……確かに、別方面からのアプローチは必要か。分かった、宰相とクレスター伯にも相談してみる」

「お願いします」


 これで何も出なければ、そのときこそソラを頼るしかないが。

 しかしながら、エルグランド王国に控えている年末行事のことを考えると、あまりソラばかりを頼ってはいられないのだ。


密談、次回へ続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。