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第六章 妖狐族の反乱

(21)灼眼妖狐の悲しい反乱

「青龍様、妖狐族九尾様の反乱にございます」天狗族 烏天狗からの使いが来た。

「反乱とはどういうことだ」青龍は驚いて、使いに聞いたが、まだ詳しい事は分かっていないとのことだった。

「あの沈着冷静な九尾が反乱とは只事ではなかろう。何か事情があるに違いない。調べてまいれ」

九尾とは現世で言う天神様であり、狐の元締め的な位で、もめ事を起こすような性格ではない。族長としては若いが、妖狐族を良くまとめ、平和に治めている。

この妖怪世界は鞍馬天狗率いる天狗族と、酒呑童子率いる鬼族が二大勢力をなしている。それに続くのが九尾率いる妖狐族、それに敵対する百々爺率いる凶悪会が、三位の席を争っている。九尾には右目が無い。よって、灼眼の九尾と呼ばれている。噂ではその目は百々爺の罠にかかって、奪われたらしい。つまり九尾は一度戦って負けている。和睦の条件が二度と百々爺には逆らわない、百々爺領には立ち入らないと約束したと聞いている。元々、能力的には百々爺より強い。負けたには何か理由があるはずだ。妖怪世界で一番強いのは大天狗、二番が赤鬼の首領の酒呑童子、その次が九尾だ。それもこの三人は抜きに出ている。だから負けるはずがない、のに負けた。それに、九尾は一度した約束を反故にするようなことはしない。

「俺達も行ってみよう」青龍は白虎に言った。百々爺領では二人が向き合っていた。今にも戦いが始まりそうだ。

「どういう事か、理由を聞かせてもらおう」青龍が静かに二人の間に分け入って言った。

「こいつが約束を破って、一方的に領内に攻め込んできた。許せない、皆殺しだ」百々爺が今にも襲い掛かる剣幕で言った。

「そっちこそ妖狐族には手を出さないと言ったくせに、捕まえて奴隷にしている」

「そんな小さい事はどうでもいい。ここに攻め込んで来ていることが問題だ」

「妖狐族とはあの者たちか」小屋の横に狐が何人か捕まっているようだ。

「あいつらは迷ってここに入り込んできたんだ。その上食料を盗んだ。これは許せねえ。この領内で起こった犯罪は、こちらで裁かせてもらう。文句は無かろう」

「あいつらが無断で入り込むわけがない。お前らが何かしたに違いない」

「だからそんな事は問題じゃねえ。それに、言った言わないじゃ埒が明かない。あいつらがここにいることが証拠だ」

「言った言わないで解決しないなら、ここは決闘しかないな」青龍が静かに言った。

「俺は良いが、お前は良いか」

「素手ではお前に勝てんが、刀、鎧は使っても良いか」

「好きなようにしろ」

「おい、そこの小さいのを二人連れて来い」

「おお、良く頑張ったな。もう安心だ。親元に帰れるぞ」

「誰が返すと言った。おい、一人を背中に、もう一人を前に縛り付けろ」

「どうするつもりだ」

「どうするも何も、俺の鎧だ。今お主の許可ももらったしな」

「何んと卑怯な」

「卑怯も何も、決闘とは勝った者が正義だ。今回は尻尾を一本貰おうかな。九尾の尻尾が八本というのも面白いしな」

「なる程な、さすがは百々爺だ。頭がいい」

「この世界で一、二位の切れ者の俺に敵う筈がない。あははは」百々爺は高笑いをした。

「だが、悪いな、俺はこういうのが嫌いなんだ。俺も敵に回すが良いか」青龍が低い声でどすを聞かせて言った。

「俺も同じくだ。それに酒呑童子さんも嫌いだと思うぞ。それでも良いならいいが」白虎がニヤニヤしながら言った。

「何だ、仲裁が、結託してから卑怯じゃないか」

「百々爺から卑怯とは、誉め言葉かね」

「うるせえ。おい、そこのチビも返してしまえ。お前ら覚えてろよ。

「おじさん御免。ほんとに迷ったんだ。そしたらあいつらにつかまって連れて来られたの」

「良いんだ、もう済んだことだ、帰ろう、お母さんが待ってるぞ」

「あいつら凶悪会とか言って、狒々と狂骨が好き放題やってる。親分があれじゃあ、無理ないか」

「前の時も人質を取られたのか」

「まあ、俺の目、一つで治まるなら安いものだ」

「お前の性格にも困ったものだ」



(22)愛が全てを変えた悲しいさだめ

「大体なんでこうなったんだ」白虎が聞いた。

「他人の過去を穿るな。誰だって長く生きると何か事情がある物だ」青龍が言う。

「お前と百々爺との因縁とは何だ」

「こいつらのせいじゃあ無いことが、問題をややこしくしている」

「じゃあ誰が悪いんだ」

「強いて言えば魍魎だ」

「どこに魍魎が関わっているんだ」

「昔こいつは井戸仙人の元で飼われていた」

「井戸仙人って、あの井戸仙人か」

「井戸仙人が仙人になる前だ。九尾も尾が二本の頃だ。そんな時、魍魎が井戸仙人の嫁と子を浚った。すぐに取り返しに行ったが、只の妖怪の井戸仙人に戦う事も出来ず、懇願するだけだ」

「何んとひでえ奴だな。日頃から気に食わない奴だが」

「九尾も一緒に行ったが歯が立たず、二人とも縛られて木に吊るされた」

「許せねえ奴だ。ぶん殴ってやる」

「お前が赤子の頃の話だ」

「それで知らないのか」

「問題はその後だ。井戸仙人の前で、嫁に向かって、手向かいすると子を先に食らうぞと言って脅した。子には手を出さないで、言う通りにするからと。静かになった嫁を凌辱して、挙句、その最中に内臓を旨そうに食らったそうだ。それを無力な井戸仙人と九尾はわめきながら、でも見ているしかなかった。白虎、お前泣いているのか」

「何でこれが泣かずにいられるか、可愛そうで、可哀そうで」

「やるだけやったら魍魎は山に帰った。残された二人は自分の弱さに絶望した。それで二人は別々の道を歩き始めた。井戸仙人は古い井戸に籠った。六百年籠った」

「何んと六百年もか」

「それで仙人になった」

「それで井戸仙人と言うのか」

「相手がいるから、呼ぶ奴がいるから名前がいる。誰もいなければ、名を呼ぶ奴がいなければ名は無用だ。六百年呼ばれない間に、元の名も忘れたらしい」

「一言に六百年と言っても結構長い。俺様もまだ八百年だ」

「一方こいつは戦いで強くなろうとした。何百年と戦いに挑んで、負けに負けた。最後が酒吞童子だ。その頃は外道丸と言ってたそうだが、無茶苦茶にやられた。あの鬼はそういうのが好きだから、わざと殺さない。死ぬ寸前で止める。そうするとまた来る。また笑いながら痛めつける。その繰り返しだが、その間に尻尾が九本になった」

「じゃあ、あの大鬼は九尾の恩人じゃないか」

「ある意味そうとも言える。いやこいつはそう思っている。だから外道丸、いや酒吞童子に今も逆らわない」

「あの外道にも良い所があるんだな」

「外道丸に悪気はない、全てが遊びなんだよ」

「まあ強いからなあ。まともに戦えるのは、大天狗くらいしかいないだろう。だが、二人とも認めているから、無駄な戦いはしない。表の大天狗に、裏の酒吞童子となっている」

「一方、百々爺は昔、若い頃は嫁と子を持つ善良な妖怪であった。その嫁が、姑獲鳥だ」

「あの、子供を浚うやつか」

「姑獲鳥は若い頃は美しい女性であったそうな」

「百々爺と姑獲鳥が元夫婦とはな。それで、なんでああなったんだ」

「これも魍魎が関係している」

「これも奴の仕業か」

「昔のある日、魍魎は旨そうな赤子を見つけた。手に取って、食べようとした時、姑獲鳥が家から出てきた。姑獲鳥は赤子が食べられようとしているのを見て、どうかその子だけは、私はどうなっても構いませんからと」

「こいつの時と同じじゃないか」

「その時百々爺も帰って来た。二人で懇願したが、どうしてもこいつを食べると言って、姑獲鳥の目の前でがりがりと食べた。その上二人を滅茶苦茶に殴り蹴り倒して山に帰った」

「やっぱり、奴は許しちゃ置けねえ」

「姑獲鳥は狂ってしまい、その狂気でああなった。百々爺は意気地のない自分のせいだと、

魑魅のもとで使い走りをしながら、悪知恵と仲間を作った。それが凶悪会だ」

「じゃあ、凶悪会と魍魎は戦いとなるだろう、でも二人が戦っているのを見たことないぜ」

「魍魎は頭が切れる。それを察知した魍魎は外道丸の傘下に入った。つまり、魍魎とやると、鬼族との戦争だ。また、井戸仙人も同じ事だ。手も足も出ない。同じ境遇の二人は手を組んで、八つ当たりを始めた。その被害者が妖狐族だ。不味い事に、こいつはそれを知っている。だから手を出さない、例え片目を潰されてもだ」

「何んと込み入った話だ。理解が出来ない」

「お前は単純だからな」

「一つ質問がある。外道丸はなぜ魍魎を配下に許したんだ。あの性格では、無理だと思うが」

「一つ小耳にはさんだ情報がある」

「勿体ぶらずに話してくれよ」

「外道丸は人間界で一度負けている」

「はい質問。人間界にどうやって行くのですか。あの強い外道丸がどうやって人間に負けたのですか」

「それが奴の秘密だ。だが負けたのは確実だ。奴には片腕、肘から先が無い」

「それにしては強いぜ」

「もともと、片腕でも俺達より強い、大天狗より強かったという話が有るくらいだ」

「それで魍魎とどうつながる」

「人に負けたのを秘密にしている時、奴が秘密を知っていると脅した。仕方なく黙っていることを条件に配下に加えた」

「そんな秘密をなぜ青龍は知っているんだ」

「魍魎はライバルの魑魅に得意げに話した。秘密は誰かに話した時点で秘密ではなくなる」

「確かにな、噂とはそういうものだ」

「でも何で九尾に当たるんだよ」

「今でも井戸仙人と百々爺は仲がいい。一緒に酒でも飲んでいるとその時の悔しい感情が沸いてくる。しかし魍魎には手が出せない。その上九尾は身内を失っていない。他人事だ」

「そうじゃないのはわしでもわかる」

「多分、井戸仙人も百々爺も分かっている。でも怒りを持って行く所が無い」

「只の八つ当たりだ」

「それを百の承知しているのに、何もできない。それで気が収まるなら、自分を攻めてくれても良い」九尾がぼそっと言った。

「何だよそれ、解決しないじゃないか」

「死ぬまでどうにもできない」



(23)力を持つ者の過去の黒歴史


「どうだった、TV局は」青龍が右京に聞いた。

「こちらは大丈夫だったけど、それよりそちらの方が大変だったんじゃない」

「こちらも犠牲者が出ないで解決した」青龍が答える。

「それよりすごい秘密を知っちゃった」白虎がニヤニヤしながら言った。

「何だ、その秘密とは」右京が面白がって言う。

「酒吞童子がそちらの世界に行って、悪さをして、源頼光とその四天王にやられたらしい。

誠に愉快だ。それを弱みに魍魎に脅されていたというから、酒吞童子の若気の至りと言うか、黒歴史だ」

「それほんとの事なの、こちらでも伝説として伝わっているんだけど」驚いて右京が聞いた。

「本当だよ。でも公然の秘密なのに大天狗は何も言わないな」不思議そうに白虎が言う。

「まあ、同じ穴の狢だからな」青龍がニヤッとして言った。

「同じ穴の狢ってどういうことだよ」

「ああ、嫌、これは言えない。大天狗、いや鞍馬天狗殿との約束だから」

「大天狗さんて、本当の名前、鞍馬天狗って言うのか」

「鞍馬天狗って名前に秘密があるのか」

「まあ、白虎が小僧っ子の頃の事だから覚えておらんか」

「こちらでは伝説となって残っている。多分その名前は殆どの者が知っているだろう」

「そんなに有名なのか」

「これも鞍馬天狗の黒歴史だ」

「一つ聞きたいことがあるんだが」

「酒吞童子も、鞍馬天狗もこちらに来ている。妖怪はこちらに来られないんじゃないのか」

「普通は行けないな」

「俺みたいに見えるじゃなく、人間と戦ったり、指導をしたり、実際にこちらの歴史と関わっている。これをどう説明する」

「多分、閻魔と関わっているんだろう」青龍が言う。

「今度は閻魔が出て来るのか」思わず右京の声が大きくなった。

「この世界は現世、お前たちの人界と妖怪界、俺達の世界と、もう一つが冥土界がある。だが、どれも他の世界に行き来はできない。ただ死ぬと俺もお前も冥土界に行く。これは決まりのようなものだ」

「冥土界は一つではない。まあ、お前たちの国のようなものだ。幾つもあって勢力争いをしている。ある国は仏陀とまた他の国はキリストと、マホメドにも話をして大きくしようと画策した」

「宗教の始まりだな」

「お前は人間界と妖怪界とをつないでいる。仏陀や、キリストは人間界と冥界をつないだ」

「それで冥界や、妖界の事が伝わっているのか」

「これは閻魔が三世界を支配しようとした結果だ。その命令の元、鞍馬も酒吞も動いた、筈だったが、彼らにも意思があり、酒吞は自分の王国を作ろうとした。鞍馬は平和な新しい世界を作ろうとしたが、何かの力が働き失敗に終わる」

「その時の事が伝説として伝わっているのか」

「そうなのか、俺には分からないが」

「それで、実際の人物と伝説が交わったような、嘘か本当か分からない話として伝わっているのか」


(24)時に愛は悲しく狂気の始まりに


「百々さん、また姑獲鳥さんが犬神の子を浚ったそうですよ。いい加減にしないといつか殺されちまいますよ」

「言っても無駄だ。子供が泣いてると自分の子が泣いてるように思えて、連れ帰ってしまう。それしか考えられなくなっている。言っても叱っても、何しても無駄だ。見ているしかない」

「しかし、可哀そうじゃないですか」土蜘蛛が言った。

「お前の所は子だくさんで、多すぎて困っているんじゃないか。何匹か譲ってやったらどうだ」

「冗談はよしてください。怒りますよ」土蜘蛛はむきになって言った。

「親とはそういう者だ。その方が幸せになるとしても、他所にやるのは悲しい」

「いっそ、魍魎をやっちまいましょうよ」

「そういう訳にはいかん。奴は酒吞の気に入りだ。後で何をされるか分からん」

「百々さんも中途半端なんですよ。狐を虐めても気は晴れないでしょう。ただの八つ当たりじゃないですか」

「仙人はどうしてる。」

「寝てるような起きてるような、当てになりませんよ、あんなやつ」

「ぼんやりしてても、物知りだ。何か手を考えてくれるだろう」

「百々さんいるかね」

「おお、狒狒爺か、どうした、まあ上がれ」

「青龍にやられたそうだな」

「まさか奴が出て来るとは思わなかったからな」

「青龍一人なら妖狐の方が強いが、白虎と二人揃えば酒吞童子と互角だ。やる訳にはいかない」

「そんな事は言っていない。奴らは大天狗とも仲が良い。敵にするわけにはいかない。大天狗と酒吞童子は、閻魔の使いだという者もいる」

「そんなのデマに決まっている。だいたい閻魔に合った者などいない。箔をつけるために言ったに決まっている」

「まあ、そんな事は嘘でも本当でも良い」

「それより魍魎の野郎をギャフントいう目にあわせてやりたい」

「普通のやり方では難しいだろう。何かいい手が無いか、仙人に聞いて見よう」

「それより姑獲鳥の事を利用できませんかね」

「姑獲鳥の浚った子供は返しちまったんだろう」

「鬼族はまだ知らないはず。魑魅を使って魍魎を罠にはめるんですよ」

「うまくいくかな」


「魑魅の兄貴、お元気ですか」土蜘蛛が言う。

「何だお前か。何用だ」

「いや、魍魎の兄貴は最近力を貯めてるようで、あちこち勢力を広げているって聞いたんですが」

「あの野郎、統領のお気に入りだと思って、好き勝手やりやがって」

「そうじゃないですよ。魍魎の余勢をかって、こちらも勢力を広げるんですよ。そのためには多少のご機嫌取りもやらなくっちゃあ」

「何かいい手はあるのか」

「実はここだけの話、姑獲鳥がまた子供を浚ってきたみたいなんです」

「ああ、話は聞いた。犬族の子を浚ったそうだな」

「そこで魍魎の兄貴に手引きをするんですよ。大人しくしてるけどやりたくてうずうずしてるに違いないですから」

「それを土産に仲間になるってわけか」

「最近は犬神の野郎、大神とかぬかして威張っているんですよ、痛い目にあわせてやらんとと思いましてね」

「事情は分かった。俺に任せて置け」


「本当に犬っころの子がいるのか」

「確認してますから間違いないですよ」

「姑獲鳥の奴、いい仕事をした」

「これで何しても姑獲鳥の責任だ。泣きわめくやつを食い殺すのは楽しいものだ」

「この洞窟の中です。子供の匂いがするでしょうが」

「ああ、興奮するなあ。ああ、お前はもういいぞ。家に帰れ」

「ここまで来て帰れはないでしょう」

「うるせえ、邪魔なんだよ。さっさと帰れ」

「分かりましたよ。帰りますよ。そんなに邪険にしなくても」

「さあ、楽しみの始まりだ」穴の中に入っていく。奥に姑獲鳥の巣があり、そこに子供たちがいるのが見えた。

「さあお前たちは俺への生贄だ、大人しくしろ。と言っても騒いだって誰も来ないがな」

姑獲鳥が子供たちの前に立ちはだかって、

「この子たちは渡さないよ」

「婆は引っ込んでろ。お前の子でもないくせして。そう言えば、お前の子も俺が食っちまったんだったな。あれは旨かったぞ。特にお前が泣き叫ぶのを見ながら食うのが一番うまい」

「そうか、お前が姑獲鳥の子を殺したのか」

「誰だ、どこにいる」驚いて周りを見回したが誰もいない。

「そこの犬っころだな。誰だ、そこにいるのは」犬の毛皮の下から烏天狗が出てきた。

「お前の悪行もここまでだ」

「笑っちまうぜ。烏なんぞ何匹来ても負ける訳がない。とっととかかって来い」

「待てよ、俺もいるんだが、相手してもらえるかな」九尾が後ろから出てきた。

「何でお前がここにいるんだ」驚いたが、同時に魑魅を返してしまったことを後悔した。魑魅を酒吞の所に助けを呼びに行って貰えば、こいつらなど相手ではない。しかし、魑魅はそこに隠れていた。

「うまくいったな。これで奴の座は俺の物だ。お前には礼を言うぜ」

「何を魑魅の兄貴。俺達はこれからじゃないですか」ニヤニヤしながら土蜘蛛は言った。

「邪魔者は消えてもらうのが一番だ」

「ほんとお前は頼りになるな。これからも頼りにしてるぜ」

「仲良くやりましょうよ。さあさあ、関わり合いにならないうちに俺達は退散しましょう」と言って、洞窟を出ていく。

「さあ、大人しくしろ」

「てめえ、覚えていろよ。このままじゃ済まさねえからな」

ひっ捕まえてぐるぐる巻きにされて、烏天狗に引き渡された。


「御免よ、いるかい」奥から気配がある。

「青龍かい、よく来た、まあ上がれ」大鬼の酒吞童子が返事をした。

「久し振りだな。何か有ったかい」

「実はお前さんの所の魍魎をあんたの許可を得ず捕えた。その報告をしに来た」

「また何かやったのか」声は不機嫌そうだが、顔は笑っている。

「浚った子を食べようとした」

「また悪い癖が出たか」

「統領のあんたが指導できないのか」

「俺達は好きなことして好きなように生きる。誰の命令も聞かぬ。それで殺されても自己責任だ。誰も助けくれぬ。それが鬼族の本性だ」

「同じこの世界に生きて、仲良くやれない訳が無かろう」

「お主も知っておろうが、俺も昔好きにやっていたが、閻魔の野郎に異世界に飛ばされた。その時俺の力は随分弱められていて、そうさなあ、十分の一位かな。それでもそこの住人は弱くて、その世界を手に入れてやろうと思い、手下を集めて勢力を広げていったが、その地の者の策略に掛かり負けてしまった。手下は散り散りに逃げ、俺もどうやって逃げたか分からぬがここに帰っていた。閻魔の罰だったのだろう。それから、仲良くはしないが、来たやつを追っ払いもしない。ただの居場所としてここがあるだけだ」

「お前、人界に行ったというのは本当の事だったのか」

「まあ、なんも良い事が無かったから、特に話すこともなかったが」

「人界にお前の事が伝説として残っているそうだ」

「まあ、悪い奴として残っているんだろうがな」

「所が驚くなよ。その後鞍馬が同じように人界に行ってるんだ」

「そうか、あいつも人界にか」

「ある人間を手助けして天下を取らせようとした」

「天下をか、やり方は違うが、同じことをしようとしたのか」

「所がそいつの兄に殺されたというのだ」

「閻魔の力ではなかろう。何かの力が働いてそうなったのだと思う。お前が負けたのもその力ではなかろうか」

「言い方を変えれば閻魔が何者かの力に負けたのかもしれん」

「一度目はお前を差し向け、二度目は鞍馬を行かせたが、うまくいかないので、閻魔が諦めたともいえる」

「まあ、俺達の関することではないがな。それと魍魎はどうした」

「地下牢獄に閉じ込めてある」

「夜叉や般若のいる所か」

「地獄の獄卒の羅刹の所だ」

「まあ、いい薬だ」

「千年閉じ込めた所で、本性は変わらぬがな」

「奴にとっては良い骨休み位だ」

「妖狐が奴の顔を見ないで済むのがいいだろう。まあ、長居をしてしまった。また来るよ」

「ああ、また来い」


(25)運だけの頼りの冒険の始まり

「今日は、お仕事お疲れ様です」青龍が言うと、

「これは青龍さん、よくおいでになりました」獄卒の羅刹がにこやかに言った。

「また囚人が増えて忙しいでしょうけど、その魍魎に面会したいのだが」

「面会許可証は有りますか」

「烏天狗さんから頂きました、これです」

「拝見します。はい宜しいですよ。入って三番目です」

「分かりました。後は分かりますから勝手に入ります」

「牢獄は絶対脱獄できないよう、堅牢で、デカくてゴッツイ造りになっている。

「やあ、魍魎、元気してるか」

「いや、良い骨休みだ。ここなら毎日飯が出るし、雨露も防げる。寝て食っての生活だ。文句はない」

「まあ、今回の事もそれまでの事も反省する時間はたっぷりある」

「俺は反省はしない。やったことの罰は受けるが、これが俺の本性だ。千年たっても変わる事は無い」

「他人に迷惑を掛けたり、不幸を振りまいたりしなくても、生きていくことはできるはずだ」

「マンネリと、ただ生きて行く位ならここにいた方がましだ」

「だから、生きて行く方法を考えたらどうかと言っている」

「無駄だな。お前たちが言う悪事をしない生き方何ぞ糞食らえだ。何の楽しみが、何の生きがいがある。じっと我慢して生きて行くなら死んだほうがましだ」

「まあ、お前の生き方に反対はしないが、したことに対しては賛成できない。それにこれは魑魅と土蜘蛛の策略だ」

「そうだろうな、話を持ってきたのは奴らだ」

「お前の地位を狙っての事だろうが、油断したな」

「俺の地位って、俺に地位なんてないぞ」

「大鬼の次だろう。鬼族副統領だ」

「そんなもの聞いたことない」

「だが、奴らはそれを狙って貴様を罠にかけた」

「そうなのか。だが俺の地位に旨味なんてないし、他の者も手下になったやつもいない。何が欲しかったのか」

「まあ、奴には奴の考えがあるんだろう。いずれ分かる。それよりお前のこれからだ」

「じっくり考えてみるよ。反省はしないと思うが」

「じゃあな、自棄を起こすなよ、辛抱しろよ」

「ああ、またな、暇な時には面会に来いよ」

「ああ、顔を出すよ」と言って奥に向かった。奥の牢獄には夜叉がいる。

「どうだ夜叉、元気にしているか。久し振りだな。顔を見ないと思ったらこんな隠れ家に籠っていたのか」

「うるせえ奴が来たと思ったら青龍、お前か。ここは居留守が使えねえから不便だ」」

「相変わらず口が悪いな」

「口が悪いのと顏が怖いのは生まれつきだ」

「そろそろ反省して真面目になったらどうだ」

「真面目って何をするんだ。俺達に出来る事は悪事だけだ」

「獄卒の羅刹も昔はそうだったが、今は真面目になって仕事をやっている。お前も烏天狗から仕事をさせてもらったらどうだ」

「俺が獄卒をやったら仲の囚人を殺しかねないな」

「暫くは羅刹の弟分になって我慢を覚えるんだよ。誰だって好きな事ばかりじゃない。我慢してやることで、良い事や楽しみが生まれるんだ」

「そういうのは般若に言ってくれ。奴なら聞くかもしれん。今奴は気が弱っている」

「般若がどうかしたか」

「分からん、分からんが、最近様子がおかしい」

「じゃあ、行ってみよう。お前も頑張るんだな。また来るよ」

「ああ、また寄ってくれ」

一番奥が般若の牢獄だ。

「おい、般若、元気にしているか」

「何だ、青龍か。何か差し入れか」

「今日は何もないが、欲しい物があれば持って来てやろう」

「いや、何が欲しいというのじゃないんだが、誰かの呪いかもしれん」

「何を馬鹿なことを。気が滅入っているんだろう。元気出せ。運動をしてみたらどうだ」

「一人でやってもすぐ飽きる」

「お前、真面目にやる気はないか。偉いさんの執事とか、秘書とか、やってみないか」

「やってもいいけど、偉いさんて誰なの」

「遠い国の守り神」

「面白そうだが、まずここを出られねえ」

「出るのは簡単だ。俺が保証人になってやろう。それより、仕事が出来るかだ」

「死ぬ気になれば出来るだろう、千年は死なないけど」

「よし、急いで手配してやろう。大人しく待ってろ」


「ちょっと右京、頼みがあるんだが」

「何だ、勿体ぶって」

「会わせたい者がいる」

「今来ているのか」

「ああ、待たせている」

「じゃあ、会おう」

「お前らこっちに来い」

「何んときちっとした制服だな。執事とか、秘書とかそんなのが妖怪世界にもいるのか。それにしても怖い顔だな」

「こいつらは夜叉と般若だ」

「夜叉と般若って極悪人じゃないか」

「日本じゃ名が売れてるんで、チベットのダライ・ラマさんとこで使えるんじゃないかと」

「面白いけど、どうやって連れて行くの」

「あんたがこいつらの手を特殊なロープで縛って引っ張っていく。そうすれば周りの者には見えないし大丈夫だろう」

「表は道安さん、裏はこいつらと使い分けるという訳か」

「まあ、使い道は幾らでもある.実はこいつらあなたと同じ能力を持っているんですよ」

「なる程、使い方次第で面白くなると」

「道安さんも同じ志の者がいると心強いかと」

「ではさっそく手続きをして準備しましょう。面白くなるな」

「何か面倒事頼んでしまって。この借りは必ず」

「いいですよ。借りは私の方が多いから」

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