第五章 若者達の旅立ちの時
(17)カトリックの本山と霊能者
「さあ今回はどうですか。楽しみですねえ」右京が言うと
「あれだけ当たり券を探し回ったのよ。当たってくれなきゃ赤字だわ」と桔梗が言う。
「そう何べんも当たる物じゃない」とお父さん。
「心を込めて、朝、昼、晩と祈願の舞を舞ったわ」
「心と運と霊力と、判断するのは神様だ。努力でどうにかなるものではない」
「こういうのを神頼みって言うのよね」
「個人の力では何ともならないからな」
「で、当たったらの話なんですけど、神宮実習と中央実習も終わりましたので、実習を兼ねて、バチカンへ行ってみたいんですが、良いですか」
「それは構わんが、ローマ法王にでも会うのかな」
「出来れば面会してみたいし、あちらの霊能者とも会ってみたいなと」
「願いが叶うと良いがな」
「もうすぐ当選番号が出るよ。うーん、イライラする。前より時間かかってない」
「はいはい、当たりの組は、○○○○○○○○○○組の○○○○○○○○○○だ」
「もう一度確認よ。○○○○○○○○○○組の○○○○○○○○○○。当たってる」
「当たったか。本当か。やったか」
「それで先程の件ですが」
「何だったかな」
「バチカンの件です」
「バチカンでもどこでもいいぞ」
「宝くじの件、定期に五億、神社の修理に三億、お父さんたちに一億、私たち二人の旅行やら何やらで一億、宜しいでしょうか」
「おおいいぞ、こうなったら何でも許すぞ」
「お父さんたら、また気が大きくなって」
「桔梗、明日旅行社に行って頼んでこよう」
「何焦ってるのよ。何かあるの」
「いや、でも何かが呼んでる気がする」
二人は サン・ピエトロ大聖堂の前にいた。
「いきなり教皇と会えるなんてどういう事」
「これも伊勢の力かな。伝手を頼って日本の菊地功東京大司教から合えるようにしてもらったの」平気な顔をして言う。
ローマ市内中心部から「サン・ピエトロ大聖堂」へは、地下鉄A線「Ottaviano(オッタヴィアーノ駅)」で下車後、徒歩で行き、入り口で訪問を伝えると
「こちらでお待ちを」と言われ待っていると、教皇レオ14世本人が現れた。教皇執務室へと教皇とお付きと一緒に歩いて行く。お付きがしきりと何か言っている。
「お二人は浮いているように見えるのだが」教皇が二人の足元を見ながら聞いた。
「お構いなく、この方が楽なので」なぜ浮いているのかを聞きたかったが、楽だと言われて笑ってしまった。お付きの者は渋い顔をしている。教皇の間の横に、少女が座っている。
「失礼ながら教皇様、この者はなぜここで、座っているのですか」右京が聞いた。
「これは御無礼でした。君持ち場に帰りなさい」
「えっ、彼女はここが持ち場ではないのですか」
「いえ、各部屋の掃除担当ですから。すぐにどかせますから」
「駄目ですよ、サートゥルヌスの世話係ではないのですか」
「何のことでしょう」
「ちょっとお手を宜しいですか」と言って右京は教皇の手を取った。現れたのは巨大な像である。いや、像ではない、生きている。まるで哲学者のような深い皺と悲しそうな顔をした者は、この地の神かもしれない。教皇も初めて見るらしく、恐怖が顔に出ているが、さすがに叫び声は挙げなかった。
教皇室に彼女を連れて入った。彼女の名はジュリア・アンジョリーニ。座らせた後、ビスケットを前に置き、
「食べないか」優しく右京は言った。
「広間の彼は君の友達かい」
「はい、サートゥルヌスのロマーノと言います。もう年で動けませんが、とっても優しくていい人なんです」
「いい年か、ロマーノは何であそこで座っているんだい」
「元々彼はこの地方の豊饒の神でここを守って来たのに、どんどん都市になって、畑もなくなり、でも彼はここから離れられないんです。だからあそこにじっと座っているんです」
「君はどうして」
「私仕事は失敗ばかりで悲しくて泣いていたら、優しく慰めてくれて、で、友達になって、愚痴や泣き言を最後まで聞いてくれて」と言って泣き出してしまった。
「分かったから泣き止んで。それで君はどうしたいの」
「別に望みはないの。ただ今までみたいにあそこにいられたら」
「どうしますか教皇」
「どうかと言われても、何んとも」
「先代から何か言われていないんですか」
「何も聞いていないんじゃあ」
「じゃあこうしましょう。あの場所に名前を付けましょう。そうだ、ロマーノの壁、まえに机を置いてお祈りができる場所にして、横にジュリアの座れる場所を作って、誰かが質問した時答える役職とする。ここの役人はこの前を通る時礼をする。これをここの習慣とする。これですべて解決するんじゃないかな」
「君、今言ったことを実行してくれたまえ」お付きに命令して、
「ジュリア、君には辛い思いをさせたけど、これからは、ロマーノとの通訳も頼まれてくれ。宜しく頼む。もう行っていいよ」教皇は優しくいった。
「来たそうそうお世話になって」
「いえ、要らぬお節介でした」
「で、今回こちらには何用で来られましたかな」
「古い街ですから、ロマーノのような神々とか霊に会える気がしてまいりました」
「という事は、希望が一つ叶ったという事ですかな」
「はい、でもまだまだたくさんの神に会いたいです」
「それはそうと、ずっと気になっていたのですが、浮いてますよね」
「ああ、もっと高く飛んだ方が良かったですか」
「いえいえ、そう言う事ではなく、私の知ってる者で、飛べるものがいませんので」
「そうなんですか、チベットのダライ・ラマという方をご存じですか」
「名前だけは。でもまだ少年だと聞いていますが」
「実は、ダライ・ラマ十二世が、死んでいるんですが、その方が道安という方に十五世を指導してくれと言われたと言って、私の所に来られまして、私の所でも、ロマーニさんみたいなのがいて、それと修行して、飛べるようになりまして、今その師はダライ・ラマ十五世の師をしているはずで、ですからラマ様も飛べるはずで、私も、うちの精霊に鍛錬しれ貰って飛べるようになったという訳で。分かりましたか。説明が難しくて」
「鍛錬すれば私も飛べるようになるのですか」
「霊力が無ければ無理でしょう。霊力があれば、ロマーニを感じていたと思いますよ。だから、ジュリアなら可能性はありますけど」
「どのようにすれば良いでしょう」
「ジュリアを飛べるようにする気ですか。早くて一月から半年、長ければ三年はかかりますよ」
「能力があるのに何もさせないのは罪です。経費は内で全部持ちますからお願いしたい」
「分かりました帰る時、一緒に帰りますので、手続きをお願いします。一週間はここにいますので、帰国は一週間後という事で」
「分かりました。こちらこそ宜しくお願いしますよ」
「この後、帰りに、ロマーニと話をしても宜しいでしょうか。いや、教皇様もお話しませんか。通訳はジュリアで」
「はい、喜んで」
(18)水を得た精霊少女
帰りは羽田から、東京駅を経て新幹線でうちに着いた。父の安武に駅まで迎えに来てもらった。
「皆さんお土産です。これは熟成されたパルミジャーノチーズ、黒トリュフを使ったペースト、トスカーナ州エキストラバージンオリーブオイル、バローロワイン(ピエモンテ)です。どれもみな日本では買えないものです。どれも高かったんですからね。おいしく頂いてくださいよ」桔梗が言った。
「これはお父さんに」と言って渡したのは、オクト・フィニッシモ・ウォッチだ。
「お父さん、これ六百万だからね、飲んでどこかに忘れてきちゃだめよ」耳元で囁いた。
「はいこれはお母さんに」ジョルジオ・アルマーニのバックとブルガリ ビー・ゼロワンのネックレスである。
「お出掛けの時使ってね」
「それと、こちらはジュリア・アンジョリーニさん。暫く鍛錬のため、我が家に逗留します。皆さん優しくしてやってください」と言った後、
「千歳さん、あなたも明日からジュリアと一緒に、白虎の特訓を受けてもらいます。と言っても、武闘ではなく、武空術をメインに練習します。宜しいですか」
最近千歳は体を使った鍛錬を何かやりたがっていたのでちょうど良いだろう。
何より、誰かと一緒の方が練習が真剣になる。
「武空術はイメージが大事です。先ずは、階段を上るイメージで、目を瞑って、ゆっくり上っていきます。これが出来るようになったら、今度は、エスカレーターに乗って上るイメージで練習します。これを朝、昼、晩と、一日三回、一時間行います。急がず、ゆっくりと行ってください。すぐという訳にはいきませんが、必ずできるようになります。気長に頑張りましょう」右京は励ましながら話をした。
白虎は笑みを浮かべながら、
「今度の弟子はうら若い女性とは嬉しいね。俺の鍛錬は厳しくない。優しく優しくやるから、安心してくれ。おやつはおいしいスウィーツが良いぞ」
二人はともに霊感が強いので、白虎とも普通に話せるようだ。ジュリアは日本語は話せないはずだが、二人は友達のように話し、笑っている。周囲の人間は微笑ましく見ている。
鍛錬自体は、肉体を鍛えるものではないので、そんなに厳しくはない。両手を広げて軽く背伸びをする動きは、戸外でラジオ体操をのんびりやっているみたいだ。ただ、精神力を思ったより使うので、エネルギー不足になる。だから、度々スウィーツを三人でおいしそうに、お喋りをしながら食べている姿は、どう見てもピクニックしか見えない。
三日目にジュリアが少し浮いた。千歳もその午後には浮いた。一、二センチだが、地上から解き放された瞬間だ。その後はゆっくり上昇する練習をする。
一週間後には自由に飛べるようになった。山を越え、谷を越え、だが、霊界の中だから、海はない。その後は、現実で飛ぶ練習をする。その頃には霊力が十倍くらいに増えている。
なぜ浮遊のトレーニングをすると霊力が増すのかは分からない。
現実の世界で、一から始める。そして霊界と同じくらいに一月足らずで出来るようになった。その頃にはスピードもおよそ百キロくらいは出せているだろう。千歳は前宝くじで、給料前渡しとかで、一千万をもらっているので、小遣いには不自由していない。内緒で買い物や、美味しいものを食べ歩きしている。白虎は気付いていたが、そんなものだろうと思って見ていた。上空から街を見て、思ったほどきれいではなかったが、楽しい場所ではあった。不良に絡まれた時は、地上を走っているように見せながら時速三十キロ位で飛ぶと誰も追いかけて来れないことを知って、だんだん大胆になっていった。陸上の選手と一緒に走り、彼女らにとっては遅いのだが、オリンピック選手並みのスピードで追い抜いて驚かせたり、生まれて初めての楽しい時間だった。お金があって、自由で、時間がある。夢のようだ。二人はすっかり親友になったようだ。白虎も時々一緒に街に出かけているようだ。そのままでは触れないのだが、二人が手をつないで食べさせてもらうと、スウィーツも食べられることを知った白虎はすっかり二人の言いなりだ。
ある日右京が、その三人に
「そろそろ卒業試験をしてもいい頃だろう」と言った。三人の楽しい時間が終わることを意味している。
「先ずはゆっくり上昇して、それから上空を旋回してもらう。その後急上昇、急降下、右旋回、左旋回を繰り返して貰う。テストはそれだけだ。審判は白虎、お前に頼む。付いて飛んでくれ」
最終試験は無事終わり、
「二人とも合格だ。千歳は明日からは普段の日常に戻ってくれ。ジュリアはバチカンに帰る手続きをするから、帰国の準備をしてくれ。長い間よく頑張った。これは二人にお揃いの記念品だ」と言って、金のペンダントを渡した。
「卒業旅行として、ディズニーでも行って来い。手配してやろう。しっかり遊んで、思い出を作って来いよ」
(19)事件はディズニーで起こる
二人は卒業旅行として、ディズニーに来ていた。
「よう、あんたたち、俺達と一緒に遊ぼうよ」
「相手しないで」千里が言った。
「無視するなよ。馬鹿にすると痛い目見ちゃうよ」手を掴みに来たが、千歳はそれをかわした。
「私等は馬鹿とは遊ばないの」
だんだん周りに人が集まってきた。不味いと思った千歳は
「行こう」とジュリアの手を引いて逃げようとしたが、不良はすぐに追いかけてきた。
「俺から逃げられると思っているのか」仲間が二人を取り囲んだ。千歳はジュリアに目くばせをして一番弱そうな男の横を通り抜けようとしたが、慣れたもので、もう一人もよって来て、間を狭められた。
「仕方がない、逃げるよ」男の上を飛び越えて逃げた。高く飛び越えたので男たちは追いかけて来れなかった。二人は不満を漏らしながらディズニーを出た。お腹も空いたし、ラーメンでも食べてホテルに帰ろうと、美味しそうな店を探して食べて帰って、シャワーを浴びてベットに着いた。翌日は神社に帰る予定なので、タクシーで駅に行き、東京駅から新幹線で帰った。やっぱりここが一番落ち着くと思った。お土産は東京駅で買ったので、大したものは買えなかった。
翌日、朝からテレビ局や新聞社がたくさん来て大騒ぎになった。対応する宮司の安武は何を言っているのか分からないで、受け答えをしていた。
「こちらの二人はこちらの方ですよね」写真は千歳とジュリアが写っている。それの何が問題なのかが分からない。
「そうですが、それが何か」
「これ、飛んでいますよね」
「それがどうしました。貴方だって飛ぶでしょう」
「五メートルの高さで、十メートル以上は飛んでるのですが、どういう事でしょうか」
「どういう事って何ですか。何が問題なのかが分からないのですが」
「陸上やっている人が信じられないと言っているのですが」
「フェイクニュースじゃないの」
「目撃者が何十人もいて、スマホ映像もいっぱいあるんですよ」
「私に聞かれても分かりませんよ」
「ごまかさないでくださいよ」「きちんと説明してください」
「お父さん、ごまかしは効かないようですので、後は私がやります」右京が言った。
「有難う、頼むよ」と言って、中に入っていった。
「エー、お話できますか。聞くつもりはありますか。騒ぎたいだけですか」
「東京テレビの高井です。インタビューをお願いします」
「東京テレビさん。前ここに来たクルーの方はいますか」
「彼らはやらせをやったので、皆首になりました」
「そうですか、それでは各局の皆さん、一度しかいいませんから良く聞いてくださいね」
がやがやしていたが静かになった。
「私は彼らが真面目に番組を作ろうとしたのを知っています。またその番組はやらせではありませんが、このままでは前の二の舞になりかねません。それで、あの時のプロデューサー、ディレクターさんにだけインタビューを許しますので、彼らに接触してください。おかしな動きをした方は、この写真のこの方の身分は、バチカン教皇直属大使です。キリスト教会から袋叩き似合う事になりますよ。それに私はこれでも伊勢神宮の大宮司久邇宮朝尊の実の弟です。念のため。では彼らと連絡の取れた方、今後とも宜しく」と言って中に入っていった。
翌日、前回のプロデューサーから電話がかかってきた。
「あの時は御迷惑をかけて申し訳ない」
「良いですよ、あなた方の責任ではない。あなた方は言われるよなことはやっていないと、私が一番知っている。他の人の任せたらまた同じ事でしょう。だからあなたたちに任せたい」
「私たちにとっては有り難い話です」
「あなた達としか話しませんから、一局とでも、各局の代表でもお好きにどうぞ」
「本当に有難い申し出です」
「ではあの時の皆さんにお会いできるのを楽しみにしています」
「やあ、お久し振りです。お元気でしたか」
「有難うございます。あの時は皆さんにご迷惑をかけてしまって」
「いや、あなたのせいじゃないんですから気にしないでください」
「先ずインタビューの段取りなんですが」
「どういう映像がお望みなのかが分かりませんから、細かく指導してください」
「どんなことが出来るのですか」
「どんな事って、飛ぶだけですよ。そうですね、鳥みたいな」
「飛ぶって、飛び跳ねるの飛ぶじゃなく、鳥のようにですか」
「千歳浮かんで見せて」
「はい」と言って二メートル位浮かんだ。
「そのままいつまでも浮かんでいられるのですか」
「何時迄もは無理ですよ、人が軽く走るくらい疲れます」
「スピードはどのくらい出ますか」直線なら、時速百キロ位」
「どうやったら飛べるの」
「霊力の無い人に説明するのは難しい」
「霊力がある人って他にもいるの」
「だって、ここに三人いるでしょう。他にもたくさんはいないけど、探せばいると思うわ。有名な方では、ダライ・ラマさんや、その師の、道安さんとか。ただ、才能は有るのに、やり方が分からないで出来ない人が殆どだと思う」
「ダライ・ラマって霊能者なの」
「そりゃあそうでしょう。誰がどう見ても霊能者か、超人だ。あれが普通に見えますか。波動拳とか、武空術とか、でも日本人はなかなかチベットに行けないから会えないけど」
「問題はどう撮るかだ」
「まず、信じてくれる人、この技のすごさの分かる人を一緒にその場で、誤魔化さないで見てもらう事だと思う」
「また偽物だと言われないための細心の用意が必要だ」
「またやらせだと言われないために、権威があって信用できる人に立ち会ってもらう」」
「カメラの人は」
「白虎と遊んでる」
「何んと暢気な」
「でも、これからまたテレビの仕事が出来る」
「まだ油断はできませんよ。何があるか、いや何をしてくるか分かりませんから」
「まあ世の中、真実が真実と分かれば困る人が世の中に入るものです」
「信用、信頼がある人を招きましょう」
「日本陸上競技連盟の浅井さんです」ディレクターが紹介する。
「宜しくお願いします」
「ではまず、百メートル走から、始めましょう」
ジュリアが用意した。
「用意、ドン」遅れてゆっくり走り始めたが、どんどんスピードが上がり。
「記録、六秒二一八」
「後幅跳びと高跳びですが」
十メートル上空のトラックの上を千歳が飛んでいる。
「どうします。測りようがないと思いますが」
浅井は唖然としている。空を飛べるものに、高さやその距離を測っても意味がない。幅跳びでも、助走踏み切りは良いがまだ飛べるのに砂場の端でやめて着地するのは、やはりやらせだという意見が出て、撮影が止まったままだ。
「いっそ、前回やらせだと言った本人を連れて来て見せるのはどうか」と浅井が言った。
その時の役員に来てもらった。
「浅井さんどうしました」
「これをどう撮ればいいのか、ご意見を聞きたくて」
「こんなもの正面と横から普通に撮ればいいだろう。だからお前たちは役に立たんのだ」
「まず、シーン一で撮ります。ヨーイ、ドン」カメラを回し始めた。
ジュリアがゆっくり助走を始めた。踏切の所で、ふわっと浮いた。ゆっくり浮かんで、グランドを一周して帰って来た。
「どうでしょう、これで」
「こんなもの誰が信用する。こんなの手品に決まっている」
「そこで困ってあなたに来て頂いたという訳なんですが。いい手はないですか」
「どうせ吊っているんだろう、ワイヤーが見えているぞ」
「えっ、本当ですか。おい、降りてきて」どのワイヤーが見えてますか」
「ここだよここ。ここに触られないワイヤーがあるんだよ。分かっているぞ」
「そんなもの聞いたことないですよ」
「そうでもなきゃ、こんなこと出来る訳ないだろ」
「東大物理学の先生の意見はどうですか」
「もし、見えないワイヤーがあるなら、多岐にわたる使い方がある。これは数百億の値打ちがある。この人の保証で特許を売ればいいんだ。この人は大物みたいだから、彼の証言と映像があればいくらでも買い手はいるだろう」
「でもワイヤーはないですよ」
「その時は彼の嘘だと世間に叩かれて、すっかり信用を落とし、落ちぶれていくだけだから」
「さあ証言をしてもらいましょうか。どちらでもいいんですよ。見えないワイヤーか、霊力か。さあ、どちらですか」
「どちらもあり得ない。そんなごまかしに俺は誤魔化されないぞ」
「良いんですよ。この無様な姿をテレビでさらされる気持ちはどうです。前回私たちを嘘つき呼ばわりしたあなたたちが、今度は味わう事になるんですよ。貴方の権力で全テレビ局を抑え込めればいいですけど、さあ、生き残るのはどっちでしょうね」
「お前ら俺に復讐するつもりか。嘘を本当に、真実を嘘に出来る俺の力を見せてやる。その時はお前ら、全員消え去るんだ。今の内だぞ、俺の味方になったやつは助けてやる」
「良いんですか。これネットで生で流れていますよ。生配信ですよ。あなたが言ったこと全部流れてますよ」
「全部嘘だ。やらせだ。フェイクだ。もうやめてくれ」
「全部認めますか」
「俺が悪かった。俺は力を得たかった、重役になりたかっただけなんだ」
「あなたが盛り返すには一つ方法があるんだが、やりますか」
「やるやる、何でもやる」
「あなたがメインキャスターで、霊能力はあるって、特番をやる。これは大変なことになりますよ。大変な視聴率を稼ぎますよ。やりますか」
「わかった。やるやる」
(20)衝撃の事実が明らかに
「エグゼクティブ・プロデューサーの坂井です。今夜は衝撃の事実の解明と銘打って皆様にお見せするのは異次元の世界です。と言えばまた嘘の番組をやってる。しかし今夜は高名な科学者や研究家の方に集まって頂きました。先ずは軽く映像を見て頂きましょう」
ここは国立競技場。日本陸上競技連盟の浅井の監視の元、一人の女子百メートル走の映像、用意スタートで走り出す。右下にはタイムが表示されている。ゴール時のタイムは六秒五二三。世界記録どころではない。
「まずこの映像ですが、日本陸連の浅井さん、これは事実ですか」
「私の目の前で起こった事実です」
「フェイク映像ですよね」
「いいえ、日本陸連理事の名誉にかけて、事実です」
「でも、これが事実だとしたら、オリンピックはどうなるんです。選手は霊能者ばかりとなりますよ」
「オリンピックの出場者は霊力や、機械など、体力以外の力で出された記録は認められません」
「という事は、記録にならないと」
「これで、この記録を持ってオリンピックには出られません」
ではその時の他の映像を出してください」
女の子が、走り幅跳びをしている。まず助走をして踏み切って跳んだ。が、だんだん高く、地上十メートル位を飛んでいる。
「この記録はどうなるのですか」
「ファールです」
「えっ、線を超えてませんよね」
「では記録ゼロ」
「なぜですか」
「この選手は跳んでいるのではなく飛んでいます。つまり、ジャンプではなく、フライですから。そういう競技があるなら、優勝しているかもしれません」
「つまりこれもオリンピックには」
「はい、出られません。そういう競技はありませんから。百メートル走に、力持ちだからと言って出られないのと一緒です」
「ではこれはどうでしょう」
プールが写っている。スタートで飛び込んで、水上を走っている。記録は二十五秒。
「どうですか」
「これは水泳の競技ですよね。この方泳いでいませんので失格です」
「という事は、霊能力でオリンピックには出られないと」
「そうです。オリンピックとは、決められたやり方、ルールで競うのであって、その規則から外れた者は失格です」
「では、こんなもの、値打ちは無いと」
「なぜですは。貴方は小さい頃、早く走りたい、空を飛んでみたいと思いませんでしたか」
「それはそうですが」
「だから、誰も出来ないけど、できれば素晴らしい事です。私だって飛べるなら飛びたい」
「では第二部です。ここからのゲストは、東大工学部の三田教授、京都大学物理化学の千堂准教授、神奈川大学宇宙学の原田教授を交えてご意見を伺いたいと思います。皆さん宜しくお願いします」
「ではこの映像から、これは三田教授の立ち合いの元取られた映像です」
若い女の子がどこかの神社境内で立っている。教授の手を取った瞬間、周りの背景が変わる。そこには妖怪が歩いている。
「これはどう見ても特撮でしょう」
「いえ、信じられないが本物です」
「こんなこと蟻れませんよね。千堂先生。どう思われますか」
「どうと言うか、信じられないとしか」
「原田先生はどうでしょう」
「この手の映像は私自身が見ないと何とも言えんな」
「では、この少女に出て来てもらいましょう。はい、こちらにどうぞ。お名前は」
「ジュリア・アンジョリーニと言います」
「お仕事は何をされていますか」
「バチカン市国教皇直属親日大使をしています」
「お若いのに教皇直属ですか」
「今回は日本に来ると言うので親日ですけど、本来はロマーニ様の世話係なんです」
「ロマーニって何です」
「バチカン地方の守り神の事です。正式にはサートゥルヌスの神と言います」
「それがなぜ日本に」
「ある神社で霊力を高める修行に来ました」
「先生がいるのですか」
「これは言っては駄目なら編集してくださいよ」
「大丈夫ですよ。それで、その先生ってどんな方ですか」
「卑弥呼神社の巫女の旦那様です」
「ほう、巫女の旦那様と言うと、養子ですか」
「日本では養子と言うんですか」
「元はどちらの方ですか」
「伊勢神宮大宮司の弟さんです」
「えっ、伊勢神宮って、あの伊勢神宮ですか」
「えっ、そっちですか。卑弥呼の方に驚かれるのかと思った」
「卑弥呼って本物ですか」
「本当ですよ。昔、日本は大きく分けて二つの勢力に分かれていて、一つが大和で、もう一つは日の本、大和の神社が伊勢神宮、日ノ本の神社が卑弥呼神社、卑弥呼って日ノ本の巫女という意味ですよ。日本の人はみんな知っていることでしょうけど」
「それより、異次元の世界の話ですけど、ここ、スタジオで再現できますか」
「カメラの方、霊能者の方をお願いしていましたが、どなたですか」
一番カメラの者が手を挙げた。
「では宜しくお願いします。東大工学部の三田教授と京都大学物理化学の千堂准教授は一緒に参りましょう。今日は特別に皆さんの知っている方に来ていただきました。では行きますよ」
一瞬で別世界に変わった。第一カメラにはその風景が鮮明に映っている。
「今日いらしていただいたのは、白虎さんと青龍さんです。先生触って頂いても大丈夫ですよ」
「俺の名は白虎、心優しい妖怪だ。逃げなくてもいいぜ、何もしやしない」
「私が青龍だ。人間とこういう形で話すのは初めてだ。仲良くやりたいと思っている。宜しく頼む」
「先生方、何か聞きたいことはありませんか」
「君たちには王様とか、そういう人というか存在はいるのか」
「いや、みんな好きに生きてる。が、それぞれ族長がいる」
「私が会いたいと思ったらいつでも会えるのかな」
「族長には許しが無ければ会えない。私には私のいる所に来て頂いたらいつでも会えるぞ」
「こちらの世界はどれくらいの広さですか」
「どれ位と言われても、広いとしか言いようがない」
「学校とか、会社とかはあるのか」
「それが何か分からぬので、答えようがない」
「仕事は何をしている」
「私の領域の見張り位だな」
「動物と一緒だな」
「何と一緒かは分からぬが、馬鹿にしておるか」
「落ち着いてください。千堂先生も挑発しないでください。では私からも。あなた達も空を飛べますか」
「青龍は飛べるが俺は走るだけだ。だが早いぞ」
「こちらに来ることはできますか」
「それはできない。お前たちがこちらに来れないのと一緒だ」
「今、私たちはこちらに来ているのではないと」
「来てはいない、ここにいるのは幻だ。お前たちの存在はそちらの世界にある。二つの世界に存在したら、その者は二人いることになる」
「貴方たちはこっちの事に詳しいようだが」
「ジュリアのように、こちらと接触できる者がそちらにはまれにいる。その者の話すことで知識を得るのだ。昔で言えばイエスキリストとか、こちらと接触できる者が有名かどうかわからぬが」」
「あなた方は誰でもこちらと接触できるのか」
「分かりやすく言えば、そちらの世界の霊能者に呼ばれたものだけだ」
「ではジュリアに呼ばれたのか」
「ジュリアが先ではない。始めは右京だ」
「右京とは」
「右京についてはジュリアがに聞け。ではそろそろ時間切れだ。さらばだ」
「では休憩の後、第三部を始めます。私、エグゼクティブ・プロデューサーの坂井がMCを務めさせていただきます。第三部は今見て頂いた映像を元に討論をして頂きます。先ず神奈川大学宇宙学の原田教授に、次元の説明をして頂きます」
「神奈川大学の原田です。私たちが認識できる宇宙空間は「3次元(縦・横・高さ)」ですが、時間を含めた「4次元時空」として捉えるのが一般的です。最先端の物理学(超弦理論など)では、目に見えない余剰次元を含めた10次元または11次元である可能性も議論されています。宇宙誕生時の急膨張が止まらず、各地で「泡」のように宇宙が生まれたり、量子力学の観測ごとに世界が分岐したりするシナリオが考えられている。多元宇宙は科学的な理論背景を持つ「空間的・構造的な別宇宙」、パラレルワールドを指すことが多い。
「難しい話になって、私どもには理解しがたいのですけど、別次元の宇宙があると言われるのですか」
「理論上はあるけれど目には見えない。我々の次元を超えなければ、他の次元に存在できませんから、見ることはできない」
「他の先生にもお伺いしましょう。京都大学物理化学の千堂准教授にお伺いしますが、なるべく優しく、分かりやすくお願いしますが、先ずは我々の世界の説明からお願いします」
「人間が認識・生活している世界は、縦・横・高さの「3次元空間」に、一方向へ流れる「時間」を加えた「4次元(4次元時空)」が物理的な基礎です。私たちが自由に動けるのは空間3次元ですが、場所と時間を指定しないとイベントが成立しないため、実質的に4次元と捉えられています。」
「余計難しくなりましたが、一般の我々としては、異次元人が攻めてくることがあるか、異次元の資源を手に入れられるかだと思うのですが」
「彼らの世界は宇宙の中の隔離したバブルの中の事で、その世界を変えるような干渉はできません。だから、彼らの力を借りて世界を制覇するとかいう事はあり得ない。だが、彼らと同じ能力を我らの誰かが持という事は考えられる」
「余計難しくなった気がしますが、東大工学部の三田教授からも説明して頂きましょう」
「現実的な話、見えたものを、経験したものを幻とするか、堅実として受け止めるかの話で、あなた方の中で、家にいるとテーブルの上に一億円の札束が出てきた。信じないならそのままにして置くし、使ったり、警察に届けたら、それは現実として受け止めたという事です。テーブルの上に札束の山があったら、家のどなたが見たとしても、信じられなくても、そのままにしてはおかないと思います。なぜあるのかが信じられないのであって、
あることを信じていることです。よく人は見た物しか信じないと言いますが、皆さんはこの見た物を信じるかという事です」
「テレビを見ている方々が、見た物を信じるかどうかはその方にお任せします。但し、この特番で見せた映像はやらせや偽物ではありません。最後に日本陸上競技連盟の浅井さんよりお話を頂きたいと思います」
「スポーツ界は公平性を保つため、道具、服装の規定や薬物による身体的影響、性別によるものの記録の改ざんが行われないよう、厳しく検査をしてまいりましたが、今後は、霊能的身体能力も規定の対象になると思います。我々としては有るか無いかではなく、平等か、公平かで規制するかどうかを判断します」




