89/103
人形の糸(2月21日 岡野 ひなた) ③
すっかり日が暮れて──、
珍しく、ひとりで帰る。闇のなか、街灯のかげが、ぽつんぽつんと、さみしげに伸びている。大通りから2回曲がると、車はほとんど入ってこない。古い舗装の、人通りのない脇道。
ぼうっと、なにを考えるでもなく。
街灯のしたに、誰かが立っていた。ちらりと視界にいれて、通りすぎる。……やっぱり、関節がおかしい。膝も、肘も、指の曲がるところも。
「こんにちは、」
だしぬけに、声。
ふりむくと、さっき通りすぎたところにいた男が、……すぐそばに、立っていた。ひなたの父と同じくらい、いや、それよりは少し若いかもしれない。灰色の、ひどくよれたジャンパーに、白いズボン。どちらも、薄汚れている。
「はい、」
ひなたはすぐに足をとめて、耳をかたむけた。
「あの、……ちょっと、お話を」
がらがらした、高い声で。かすかに指をふるわせながら。
「なんですか?」
ひなたは、へいぜんと聞き返した。
「お話を、させてください。……あの、」
気がつくと、男の手がひなたの右手首をつかんでいた。ぐい、と力がこもる。ひなたはすっと手首から力をぬいて、
「はい、……」
と、相槌をうつ。
男の唇が、ひなたの耳にぐいと近づいて、口臭が鼻に、──




