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へんな子たち  作者: 楠羽毛
有翼人
51/103

有翼人(9月14日 渋谷 芽依) ①

挿絵(By みてみん)

「台風、きてる?」と、高い声で。

 芽依めいは、がちゃんと戸をあけて、倒れ込むようにリビングに入っていった。ずきずきと前頭部が痛む。きっと、低気圧のせいだ。

 リビングの真ん中にあるソファのさらにど真ん中で、母がだらりと座ってドラマを見ている。

「きてないよ」

 こちらを見もしないで、小さくつぶやく。右手の指を、ソファの座面のうえでかさかさと踊らせている。ドラマが山場らしい。

「アプリで見てよ!」

「きてないってば」

 気のないせりふに、小さく舌をだしながら、芽依めいは姿勢を低くしてテレビ台のひきだしを開けた。置き薬のいちばん奥、子供用の鎮痛剤ちんつうざいを2錠。

 プラスチックのコップを出して蛇口に手をかけると、まるで見ているかのように、母の声がとんでくる。

「ちゃんと浄水器のやつ使いなよ!」

「うるさいな、はーい」

「ひとこと余計!」

 一瞬だけ睨みかえして、ぎゅっとポット型浄水器の取手を握る。その間にも、ずきずきと痛む。寝不足だろうか。

 2錠いっぺんに、勢いよく流しこむ。

「ふいー、」

 なんとなく、楽になったような気がする。ふらふらとした足どりでソファのところまで戻り、母親のとなりに腰かける。

 テレビに目をむける。画面の中では、母と同年代くらいの女優が、アップで長ぜりふを喋っている。知らない番組だ。

「あ、」

 小さくつぶやくと、たっぷり1分ほどしてから、母親が聞き返してくる。

「なに?」

「……おなか痛い」

「ちょっと、大丈夫?」

 うん、と小さくうなずいて、もう一度、ドラマに目をやる。登場人物のせりふが、ほとんど頭に入らない。ぶり返した偏頭痛と、腹痛の気配。腸のあたり。いや、ちょっと違うような。

 うーん、と唸りながら、15分。

 エンディング曲が流れだしてから、耐えられなくなって立つ。

「……ちょっと、トイレ」

「え、大丈夫?」

 さっきよりも、若干心配そうな声で、母親が。

 携帯電話会社のCMを、じっと見たまま。

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