人魚族(9月8日 伊藤明日香) ⑤
理由も、正体もわからない。
ただ、見つけてしまった。それだけだ。
*
夜中──、
こうこうと、街灯が路面をさして、スポットライトのように校門のまえを照らしている。
亮は、きょろきょろとあたりを見回しながら──、誰もいない道を、とぼとぼと歩いていた。センターに英字が入った白いTシャツに、膝までの茶色いステテコ。ほとんど寝たまま、という格好で。
校門から少し離れた、塀のそばに、ひとかげ。背の低い、色白の少年。襟のあるシャツをはおって、ジーンズにスニーカー。シャツには皺ひとつなくて、まるで出掛けにアイロンをかけてきたような。
「なんで手ぶらなのさ!」
色白の少年、──崇は、右手にさげていた細い懐中電灯を見せびらかすように回して、唇をとがらせた。
「夜に抜け出してくるだけで大変だったんだからさ……、」
亮は眉をしかめて、もごもごと言い返した。まったく、良識というものがない。
「そんなの! 大発見なんだぞ。もし見つけたら……、」
かちかち、と落ち着かなげに懐中電灯のスイッチをいじりながら、崇は早口で言いつのる。少しずつ高くなる声で。
「もし、ったって──」
……いるわけないだろ、プールに巨大魚なんか。そう言いかけて、ぐいと近くなった崇の顔に気圧されて黙る。
「見た奴がいるのさ! タカノリの友達だかなんだか──、」
「タカノリ? ずっと行方不明じゃんか。そんな前の話なの?」
「いや、また聞きだから……そいつが魚を見たのは最近らしいんだけど。でもね、なんとなく時期が符合するんだ。ちょうどタカノリが消えたころに、プールに水が張られて──」
「そんないい加減な話! だいたい、授業もあるし、水泳部だってずっと使ってるんだぞ」
言いながら、なんとなく、あたりを見回す。崇がふり回している懐中電灯の光が、あちこちに飛んでいる。さすがにこの時間、学校には誰もいないだろうが、近所の人に見とがめられたら面倒だ。
ふと、一瞬だけ、光の筋がプールを横切る。




