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人魚族(9月8日 伊藤明日香) ⑥
(……あれ?)
亮は、じいっとプールを見上げた。光があたったのは一瞬で、よく見えない。けれども、あれはたしかに。
「……ちょっと、懐中電灯貸せよ」
「え?」
すっと崇の手から電灯をうばって、プールに向ける。
フェンス越しに、──みえる。
すぐに、スイッチを切って、亮はすっと息をのみこんだ。冷や汗を、蒸し暑さのなかに隠して、語気が荒くなりそうなのをぐっとこらえて。
「おまえ、帰れよ」
「え、……なんでさ」
「いいから! ぼく一人で見てくる。絶対に!」
ふたりは、5秒ばかりじっと目を見交わして、──崇はぎゅっと眉根を寄せて、刺すように一度だけ亮をにらみつけてから、
「わかったよ!」と、吐き捨てた。
亮は、うん、とだけ答えて、それから塀のうえに両手をかけた。懐中電灯をもった右手がかたかたと震えて、体重がうまくかからない。
すっと、右手から懐中電灯が離れた。崇のつめたい手が、一瞬だけ触れる。
「よっ……、」
うめくような掛け声とともに、亮は塀のうえにはいあがった。下から崇がさしだしてくる懐中電灯を、青ざめた顔で受け取る。
「……気をつけて。」
いつにない静かな声で、崇はそういって、
小さくつりあげた唇を、ふっと緩めて、それから小さく手をふった。
亮は、ありがとう、と小さくつぶやいて、塀からとびおりた。




