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ウルフ2(8月12日 藤井大悟) ④
「ア、月」
そう、少女がつぶやいた。
月は、さいぜんから出ている。その言葉が出たのは、
影の獣が、満月をじっと見上げている。そのことに、気づいたからだ。
「満月の日だけ、出るんだ。そうして……、」
「人を襲おうとする?」
「それも、とくに女の人を。」
「へえ。」
「いまは、……なんとかぼくが抑えているけれど……、そのうち。」
「そのうち、どうなるの? もし、ほんとうに影が、人を襲ってしまったら?」
「さァ……わからない。」
「ふゥん。……ね、」
「え?」
「どうして、私にその話を?」
大悟は、くるりとふりむいて、少女のいるあずまやにむかって、一歩、踏み出した。地面に目を伏せて、ちいさく、目尻に涙をにじませて。
「……においで、わかるんだ。」
「何が?」
「きみ……人間じゃないだろ?」
少女は、目をまん丸くして、……立ち上がった。
からからと、空にとどくように大きく笑って、
……影の狼の頭を、そっと、撫でて。
「ねえ、藤井くん。……月がきれい、ね」
そう、言った。
(ウルフ2 了)




