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へんな子たち  作者: 楠羽毛
人魚族
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33/103

人魚族(9月8日 伊藤明日香) ①

挿絵(By みてみん)

「……あぁっつい! もう!」

 帰り道。夏休みがあけてまだ一週間。もう夕方だが、とにかく蒸し暑い。ただ歩いているだけで、汗で背中がべとべとになる。肌着を通りこして、カッターシャツの表側まで。

 眼鏡のつるも、じんわりと熱い。

「汗くさいったら、ねえわ。本当に。」

 となりで、ぶつくさとこぼしているのは、同じクラスの女の子。さっきから一緒に歩いているのだが、名前は思い出せない。やせた、背の低い少女。ふんわりと撥ねた髪のうえに、赤い髪留かみどめを乗せて、大股ですたすたと歩いている。

 柏木かしわぎりょうは、ボンヤリと眉をしかめながら、返事もしない。

 暑いね、のひとことも。

「ねえ、聞いてんの? りょうくん!」

 ほんのちょっと声を高くして、こっちに手をのばしてくる。肩をつつかれる前に、りょうは足をとめて、

 聞き入る。

「……どしたの?」

 カッターシャツの袖にふれる寸前に指を止めて、少女はぽかんと眉をひそめる。二人は、まだ校門から出たばかり。歩道には他に誰もいない。が、学校に残っている生徒たちのざわめき声は、うっすらと聞こえてくる。部活動はもう終わっているはずの時間だが、片付けで残ってでもいるのか。それとも、りょうとおなじく、居残り勉強をしたあとか。

 少女は、りょうの目線をおって、学校のほうに目をむける。学校まわりの塀。その奥はさらに一段あがってフェンスがあり、プールをかこんでいる。

「……だれか、噂でもしてる?」

 少女は首をのばして、あたりを見回すような仕草をする。耳を、ちょっとつまんで。

「そんなんじゃ、……聞こえないの?」

「なあにが!」

「……なんだか、高い音。叫び声っていうか、……なきごえ、みたいな」

「ええ?」

 ぎゅっと眉をきつく締めて、もう一度、少女は耳をつまむ。

「ぜんぜん、聞こえないけど」

「……モスキート音?」

「じゃあなんであたしに聞こえないのよ!」

「いやあ……」

 りょうは、……まだボンヤリとした目つきのまま、じっと、プールのあるほうに顔をむけて、耳をすましている。


 なきごえ、いや、

 ──歌声、のような。どこか、外国の民謡。そんなふうにもきこえる。

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