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   9.城下町で 午後

 「あれ?ラピってそんなだったっけ。まいっか。」

 ラルクは真っ黒く染まったラピを見てすぐ受け入れた。

 悪魔に名を与えられ獣鬼となったラピの姿は、漆黒に艶めくカナリアといえば伝わるだろうか。

 城下町の屋根で、ラルクはラピが獲ってきた串焼きにかぶりついていた。

 串焼き屋台の店主が紙袋に入れて客に差し出した瞬間を(くわ)えて掻っ攫(かっさら)うトンビやカラスを見ていつかやってみたいと思いつつ怖くて出来なかったラピは、ラルクの為に頑張った。

 エッヘンと小さな胸を膨らませてドヤ顔。風が胸毛をふわふわと揺らしている。

 「あー美味しかった。ラピ、ごちそうさま。」

 『いつでも獲ってきてやるぜ。』

 「ん?んんん?、、これなんだ?」

 ラルクはラピの頭の天辺に生えた小さな角を指でツンツンとつついた。

 ラピは頭を傾げる。自分では見えないのだ。

 「可愛いからいいか。」

 ラルクは軽く受け入れて屋根の上にゴロリと寝転がった。ラピもラルクのお腹の上にちょこんと乗る。

 気持ちのいい風が頬を撫でる。白い雲。青い空。

 ラルクはいつのまにかスースーと寝息を立てていた。そんなラルクを見て、ラピもラルクの体に頬寄せて目を閉じた。


   ☆


 昼寝を決め込んだラルクからカメラの高度を下げガヤガヤと騒がしい城下町の商店街を映す。

 人混みに(まぎ)れるレオナルド王太子の姿。

 フードを深く被り美しく艶やかな金髪は隠されている。

 ガクッ

 腕をいきなり掴まれて引き寄せられる。すごい力だ。

 「王太子、まったく貴方という人は。」

 「せ、セイラ・バレンシュタインか。」

 レオナルド王太子は目を見張った。革鎧に簡易なシャツとズボンの冒険家スタイルのセイラがそこにいた。

 帯剣する(つか)には手に馴染むようにまじない(・・・・)がかけられた赤い小さな宝石が埋め込まれている。

 「さすがだな。まるで冒険家だ。」

 「いまでもですよ。冒険家登録はそのままですからね。、、ついてきてください、馴染みの店がありますから。」

 ついて来いと言いながらレオナルド王太子の腕を離さない。グッと引き寄せたまま、なすがままにレオナルド王太子は引きずられる。

 「セイラ・バレンシュタインっ。」

 「ああ、セイラで構いませんよ。私もレオと呼ばせてもらいますから。呼称をお望みならそうしますが。」

 皇族の名を正式に呼ぶ時は呼称を付けて呼ぶのが(なら)わしである。

 レオナルド王太子であれば、「カーメリデッドエメラルダスのレオナルド第一王太子殿下」カーメリドの唯一無二のエメラルドであるレオナルド第一王太子殿下。

 カーメリドはエメラルドの産出大国であるがエメラルドは傷が多く、そこへオイルを含浸し目立たなくする化粧工程が何百年に渡り原産国で行われたてきた。しかしカーメリドで大粒の傷のないエメラルドが発掘され、カーメリデッドエメラルダスと名付けられ、その年誕生したレオナルド王太子の皇族呼称として定められた。

 「、、レオでいい。」

 「せめていなくなる時は書き置きぐらいしましょう?攫われたのかと思いましたよ。」

 「すまない。寝不足でそこまで思考が及ばなかったようだ。」

 「、、本当に春節祭の見学だけですか?国を通せば賓客として城に招かれるのに?」

 堅苦しい挨拶抜きで祭を楽しみたい。それは建前だ。

 招かれれば警護が付き、姫には近付けない。

 社交界嫌いの、可憐な深層の姫君として有名なスターサファイア姫に会うには、公式行事ではだめだ。

 現に、修道院では間近に姫に接する事が出来た。心の準備が出来ておらず逃げ帰ってしまったが、手を伸ばせば触れられる距離で会うことが出来たのは非公式だからこそだと思う。

 セイラは頬を染めるレオを(いぶか)しむ。

 セイラはアーサーとサファが入れ替わっている事を知らないが、二人の本質は見抜いていた。

 アーサー(サファ)は正義感の強い暴れん坊で、サファ(アーサー)は腹黒い魔女だ。

 そのサファ(アーサー)をどうやらレオは純真可憐な乙女のように想っているようだとセイラは勘づいている。

 やれやれ。面倒なことになりそうだ。

 「ここだ。」

 セイラは商店街から少し入った路地裏の小汚い扉を開けた。看板には肉の絵が書かれている。

 「腹は空いてるか?ここの肉は絶品なんだ。」

 そう言いながら荒くれどもがたむろする店内へとズカズカ入っていくセイラ。

 いくつもある丸いテーブルに目付きの悪いゴロツキが大きな体を小さな椅子に乗せている。が。セイラが入ってくるとサッと顔を伏せて体を小さく丸めている。

 慈愛の死神。モンスターハンターとしてもセイラは有名だが、この町に住むゴロツキは子供の頃何かとセイラの世話になった者ばかりだ。母親として慕う者は多い。悪さをしている者は特に、セイラを見ると反射的に目をそらしてしまう。こんな姿をセイラに見られて恥ずかしい、申し訳ない、セイラにはもっと立派な自分を見てもらいたい。そんな彼等の肩を、セイラはひとりひとり、ぽんぽん、と叩いてまわった。

 「元気だったかい。また会えて嬉しいよ。」

 肩を叩かれた荒くれどもは恥ずかしそうに頭を下げる。そうやって一通り店内を回って、カウンターへと腰掛けた。


 「久しぶりだなセイラ。ほらよ。」

 カウンターの中から店のマスターが親しげにセイラに話しかけると大皿に持った大盛りの炙り肉をセイラの目の前に置いた。肉の脇にはポテトフライとプチトマトが気持ち乗っている。

 セイラはカウンターの端に重ねられた取り皿を二枚手に取り、一枚をレオに渡す。

 「ビールも頼む、二つな。ほら、レオ、食え、旨いぞ。」

 セイラは手で肉を掴むと湯気の立つ熱々の肉を二枚レオの皿に乗せる。自分の皿にも二枚。

 目をパチクリとさせセイラと肉を見比べたレオは、ごくり、と喉を鳴らせた後、肉にかぶりつくセイラにならって、はぐっ、とかぶりつく。

 「、、うまいっ。」

 もぐもぐと咀嚼するレオを見ながら、セイラは指についた脂をねぶり、マスターが差し出したビールジョッキを受け取る。

 「ははは。じゃあ、乾杯だ。レオの初恋に。」

 「げほげほげほげほっ」

 「ほらどうした。しっかりしろ。あははは。」

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