表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMO「Malice」―銀髪少女の悪意  作者: Hon_S
第三章:目覚め
32/39

第32話:Go?

『アブソリュート・プロテクション』が解除された瞬間、きる郎とフレイムの2人は別方向に飛び黒龍の攻撃の的を分散させる。


黒龍はそれぞれの標的にすぐさまブレスを吹きかける。前方のあらゆる角度から極大の光線が2人を消滅させようと襲い掛かる。


数十体程度の黒龍への対処には手慣れていても、数が10倍になるとさすがの2人でも攻めあぐねているようだ。光線を一本避けても、間髪入れず次の光線が2人を捉えようと極大の直線を描く。体の一部にかすりでもすればその部分は消失して戻らない。絶対にミスを犯せない状況だ。回避に全集中力を割かざるを得ない。


しかし、時間が経つにつれてその状況にも変化が表れる。黒龍達のブレスの頻度にも慣れてきたか、きる郎とフレイムの動きが機敏になってくる。最初は光線が2人を追い詰めるように浴びせられていたが、今は光線が2人を追いかけるような恰好になっている。その光景は、ミュージシャンなどのスターを照らそうと必死にその動きを追いかけるスポットライトのようにも思えてくる。


そして、とうとうきる郎は、最前列にいた黒龍の足元にまで潜り込み『ルミナス・ブレード』でその首を一刀両断した。


仲間が一刀両断され、相手が想定以上の手練れだということに気が付くと周囲の黒龍たちは空へと舞う。黒龍たちは、大きい図体の割には機敏に動く。剣では攻撃の届かないところまで移動し、ブレスを一方的に浴びせようとする柔軟さも持ち合わせている。


しかし、フレイムの3体の炎龍が舞い上がろうとする黒龍に食らい付く。食らい付いた黒龍は深手を負い、それぞれが耳を覆いたくなるような音量で咆哮する。


ついできる郎は、『アクセル・ステップ』でさらに別の黒龍に近づき、攻撃の手を緩めない。『アクセル・ステップ』は、たった3歩で100メートルの距離を詰める高速移動スキルだ。洗練されたスキルの使い手が用いると、地面を踏みしめる音が「タン、タタン」とまるでワルツの上品なステップのように聞こえ、聞きほれているうちに絶命することから別名『絶命のロンド』とも呼ばれている。


そうしてまた1つ、黒龍の首が一刀のもとに落ちる。


開発者が作ったお遊びの絶対攻略不可マップと名高い黒龍の巣であっても、この2人なら攻略してしまうのではないかと、そう思えた。


しかし、こちらの攻勢もそこまでだった。


最初のうちはブレスを吹きかけるだけで勝利できるだろうと高をくくっていた黒龍の群れだったが、自分たちが相まみえる敵が想定をはるかに超える実力の持ち主だと理解したのだろう。


後方で前方の戦いの様子を見ていた黒龍たちが一斉に飛び上がる。黒龍の群れが空を覆い、辺りが一気に暗闇に包まれる。空が落ちてきた―――そう錯覚させられるほどだった。


数百、いや、”数千”はいるだろう。飛び上がった黒龍たちは巣を襲う”害虫”たちを排除しようと俺たちの周囲360度全てを空から取り囲む。


きる郎が苦笑い交じりにつぶやく。


「はは、これはいくらなんでも……」

「ムリ、やな」


ポータルから移転してきた後、辺りを確認した限りでは周囲に数百匹ほどの龍たちしかいないものだろうと勝手に勘違いしていた。しかし、ここは黒龍の巣だ。騒ぎを聞きつけて他の黒龍が集まってくるのは当然だ。そして、数百匹の規模で何とか有利を保っていた状況も、黒龍の数が10倍にも跳ね上がれば、流石にお手上げだ。


「ちょ、ちょっとあきらめないでよ!!私今日まさか黒龍の巣に突っ込むなんて思ってなかったから、強化に回そうと思ってた特級素材とかマーケットに出そうと思ってたレジェンドクラス装備とかいろいろもってんのよ!?」

「リエ。これは彼らの巣に飛びこんで怒りをかった僕たちが悪かった。素直に負けをみとめよう」

「諦められるかー!」


そう叫ぶリエだったが、本当にもう万事休すだ。

いくら『ルミナス・ブレード』が強力だとしても一度に対処できる相手には限界がある。いかに『炎龍サラマンダー』や『不死鳥フェニックス』、『アグニ』が最上級の炎魔法だったとしても、常識を逸脱した数の黒龍の前では圧倒されてしまう。


空を覆った黒龍たちは『クォーク・ブラスト』を放つため、全ての個体が力を溜める素振りを見せる。そして、指揮官が存在するわけでもないにも関わらず、よく訓練された軍隊のように息を合わせて、全ての龍が同時に俺たちに向かってブレスを放つ。


ああ、さっきまで空が暗かったのに急に明るくなって眩しいな。


『クォーク・ブラスト』を食らっても失うものもない24レベルの俺はその光景をみて暢気な感想を浮かべていたが、レアアイテムを全て消失することをどうしても受け入れられないリエは、叫ぶ。


「ざっけんなよぉー!?『アブソリュート・プロテクション』!!」


全てを拒絶する絶対防御方陣アブソリュート・プロテクションがギリギリ再チャージできたようだ。もはやただの延命にしかならないと思うが……。


全ての光線を無効化するバリアを得て、たった2分ではあるが俺たちはひと時の安らぎを得る。リエは心穏やかじゃないようだが。


「お前らが諦めたらだれが私をまもるのよ!」

「いや、流石に千体近い黒龍はカンベンやで」

「諦めよう、リエ」


まぁ、一度素粒子まで分解されてから出直すしかないだろう。


「ぐぐぐ……こんなところ来るんじゃなかったわよ……」


悔しそうな表情を浮かべるリエの一方、うずくまるイリスは相変わらず役立たずである。


予想外の状況に陥ってしまったが、結局きる郎とフレイムは黒龍の谷で何をしようとしていたのだろうか。

街で再復活したら聞いてみるか。あ、『酒池肉林』の店主にもメシ代を払わなきゃ……。


そんなことを考えていると、徐々に周囲が暗闇に戻っていくのを感じる。


うん?黒龍のブレスが止んだのか?


『アブソリュート・プロテクション』の効果終了まではあと1分はあるはずだ。黒龍達もこれを発動している間はブレスを放っても無駄だと気が付いたか?賢いやつらだ。


「あ、あれ?なんかブレス止んでない?」


辺りが暗くなり、同じ疑問を抱いたリエが話し出す。


「そうみたいだね。しかも、黒龍の気配が全くなくなった気がするね」

「せやな。……ん?まてよ。ここ、見たことあるな」


先程まで数千のブレスに照らされて明るさに曝されていた目が、暗やみに慣れてくる。


ああ、そうだ。ここは俺も見たことがあるぞ。

だが、俺はここに入れないはずだ。


辺りを見回した後、ふと頭上に目をやると、ぽっかりと巨大な穴が空いており、そこから光が差し込んでいる。その穴からは、遠目に飛び回る黒龍の姿が目に映る。


状況から推察するに、頭上の穴は先ほどまで黒龍と激戦を繰り広げていた黒龍の巣に繋がっているようだ。そして、ここは……


「ここって、黒龍の巣の”ダンジョン”だよな……?」


俺がほかのメンバーに問いかけると、きる郎が返答する。


「何が起きたのかいまいち理解できていないけど、そのようだね」


俺も何が起きたのかよくわかっていないが、ひとまず最上級に危険な状況は奇しくも脱したようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ