第14話:98%の可能性
ジュンは、ヨシカワへ「アイリさん関連で緊急連絡です。」とチャットをし、コールを行う。
1コール以内でヨシカワが応答する。
「ヨシカワさん、アイリさんとはぐれました。どこにいるか場所は分かりませんか?」
「少しお待ちください。」
数分の間ののち、返答があった。
「若干、厄介なところにいますね……。」
ヨシカワはそういって、少し考えるように話すのをやめる。
「厄介?それはどういうことですか。」
「ジュンさんも一度は聞いたことがあるかも知れませんね。夜の国の繁華街を実質的に支配しているギルドの名前を。」
「『Ninety Eight Percent』のことですか。」
Ninety Eight Percentは、その名の通り98%のことだ。
繁華街がここまで大きくなったのは、このギルドの力によるものだ。
このギルドには表向きのギルド長の背後に、
現実世界で絶大な力を持つ権力者がいる、と噂されている。
その人物は、Kokoro Entertainmentの上層部との
関係をうまく保ちつつ、この夜の国のダークな部分を
うまく発展に使ってきた……ということだ。
あくまで噂だが。
「そう、『Ninety Eight Percent』です。彼らには、夜の国での一定の自治を認める代わりに、
夜の国の経済発展を担ってもらっています。いわゆる夜の国の管理ギルド的な存在ですな。」
「Kokoro entertainmentとこのギルドがつながっているという噂は、マジだったんですか。」
「まぁ、そうですねぇ。……うちもエンターテインメント企業以外の顔が、いろいろとあるわけです。」
恐ろしい企業だ。さらっと転籍してしまったが、
できればそんなダークな部分には関わりたくはない。
しかし、何が厄介なんだ?
一定の自治を認める代わりに、目に余る悪さはしてくれるなよということなら
Kokoro Entertainmentから、アイリを返せと注意すればいいじゃないか。
「しかし、ヨシカワさん。何が厄介なんですか?Maliceに唯一対処できる人間が、
絶対に赴くはずのない闇ギルドの本拠地にいるなんて何されるかわかりませんよ、
運営としては、見過ごせない事態ですよね?
「……。」
「ヨシカワさんが出て行って注意すればいいだけなのでは。」
「ふむ……。」
ヨシカワは、数秒黙ったのち、重い口を開く
「まずですな。Maliceは第2の現実世界となるよう、現実世界にかなり近い仕様に作られていることはご存じだと思います。これはなぜかわかりますかな?」
「ユーザーに楽しんでもらうためでしょう。」
「それもあります。が、我々全員がその目的のために動いているわけではありません。」
「……。」
「現実世界では不可能でも、Malice内でならできること…たとえば犯罪ですな。その時の心情や行動パターンもデータとして蓄積しているんですわ。あ、これは、口外禁止ですぞ。……そして、そういったデータを効率的に集めるためには、ある程度の規制緩和も必要です。しかし、運営が公式に認めるわけにはいかないので、水面下で彼らに自治を認めているということです。」
あまりにひどい時はストップをかけますがなぁ、
とさらっとこのゲームの闇を口にするヨシカワ。
犯罪者の心情や行動までデータとして管理していると……。
正直、公にすれば批判祭りになる内容である。
一体、何を目指しているんだこの企業は。
「まぁ、もちろん彼らにはこのまま説明してはいませんがね。」
ヨシカワによれば、Ninety Eight Percentには
このように説明しているらしい。
“第2の世界を作るという意味では、
現実世界同様ダークな部分もあったほうが深みが増す、
そして、あまりに規制を強めるとゲームとして面白くない。
だから、Ninety Eight Percentに一定の自治を認めるが、
夜の国の南側以外にはこの状況を広めないようにしてほしい”
ということだ。
こんな論理は社会通念上おかしいに決まっているが、
力があるものと権力があるものがルールを決めるという
世の中の汚い部分を目の当たりにしている。
しかし、そんな話とアイリがさらわれたということは全くの別の話だ。
Maliceに対処できるのはアイリだけだ。
それに、危険な目に遭っているかもしれないアイリを
放っておくなんていうことは、絶対にできない。
これだけはヨシカワになんといわれようと引けない。
「ヨシカワさん、事情は分かりました。Kokoro Entertainmentがやろうとしていることも別に止めようとも思いません。ただ、アイリさんのことは別です。彼女は、この世界を救うための唯一の鍵です。」
アイリが、危険な目に遭って今後の協力を拒むようになったらどうするんだ。
誰もMaliceを救えなくなるぞ、そういった強い思いを込めてヨシカワに話す。
「ふむ……。」
ヨシカワは考え込むようにしてしばらく黙り込む。そして、驚くべきことを口にする。
「では、ジュンさん。あなたに指令です。アイリさんを『Ninety Eight Percent』の本拠地から連れ戻してきてください。」
「なっ?!」
「やり方は、問いません。ただ、運営として、彼らに直接関与はできません。
詳細な場所や本拠地のマッピングなど、そういったところで遠隔でご助力させていただきます。」
何言ってるんだ、ヨシカワさんよ。
おかしすぎるぜ。
「運営としては、彼らの自治を侵すことになるので直接の干渉は難しいんですわ。特に、彼らにとってはプレイヤーをさらって本拠地に連れて行くなんてことは日常茶飯事でしょう。」
ヨシカワは続けて語る。
「そんな中で、我々が直接干渉すれば、運営が取り締まりを強化してきたと捉え兼ねられません。我々、Kokoro Entertainmentとしては、取り締まりを強化するつもりはないんですわ。我々と彼らの関係は微妙な均衡のもとになりたっています。向こう側が均衡をやぶったという明確な理由がない限り運営は干渉できない。向こう側に借りをつくることになりますし、それによって我々との協定の範囲外にまで勢力を広げて暴走する可能性も否定できないんですわ。」
勝手すぎる都合だ。
「じゃぁ、アイリさんがどうなってもいいっていうことですね?」
「それも違います。そこで、ジュンさん。あなたの出番というわけですわ。全ての事情をしったうえで、いちプレイヤーとしての立場で彼らに干渉できるのはあなたしかいません。」
ヨシカワ、こいつ。
だから全部の事情を俺にゲロったんだな。
確かに、運営として俺以外のプレイヤーに
このことを依頼するのは怪しすぎるし、
受けてくれる奴を探すのにも時間がかかる。
かといって運営として直接干渉するのは今の均衡が崩れるために難しい。
ヨシカワのプライベートアカウントか何かで助けにいけよ、
と思ったがすでに運営者とバレるかもしれないし、
すでにバレているのかもしれない。
だから、全ての事情をしっていて、
Ninety Eight Percentにもただの第三者として
認識されている俺が助けにいくことが理にかなっているということか。
ヨシカワ、食えないオヤジだ。
筋肉だけじゃなくてしっかり脳みそも鍛え上げられている。
「ヨシカワさん、僕があなたにとってずいぶん都合の良い存在であることが分かりました」
はっはっは、と大声で笑うヨシカワ。
苛立たしい。
「しかし、僕はまだ20レベルです。彼らのギルドはさすがに平均レベルが高い。60レベル~70レベル超がゴロゴロいます。そのくらいのプレイヤーなら、なんとかなったとしても、ギルド上層部ともなれば、80ないし90レベルのプレイヤーはいるでしょう。彼らと対峙すれば、流石にスペックが違い過ぎて、負ける可能性がありますよ。」
20レベルでは、90レベルのプレイヤーに勝つなんて
相当な奇跡が起きても無理だ。
いや、ヨシカワのことだ。
この辺についても何か策があるはずだ。
無策でこんな無茶な申し出をしてくるわけがない。
「その点は、全く問題ありません。」
ほらな。
「ジュンさんのプレイヤースキルを信用していますよ!」
はっはっは、と大声で笑うヨシカワ。
無策かよ。




