初戦
予選二日目。
今日は我らが黒猫商会のチーム「ブラックキャットFC」が登場だ。
アキナさんが言うには、うちのチームは大会主催の商会のチームということで注目を浴びているらしい。
参加者から参加費を徴収して上位入賞者に賞金を出すという形式の大会で、主催者の関係者が大会に参加するというのは普通ならありえないことだ。
参加者からクレームがあったり、参加を取り消すものが出たり、そういったことがあっても不思議ではない。
しかし、今回は参加費に対して賞金が破格の額すぎるので、そういったことはなかった。
仮にうちのチームが優勝して一位の賞金を持っていっても、主催である黒猫商会の大赤字には変わりないのだ。
それに、二位と三位の賞金も十分すぎる額だ。
文句などをつけて、ローリスクハイリターンのこの大会を中止に追い込むような真似をするような者はいなかった。
なので、うちのチームも堂々と参加できる。
みんなには思う存分楽しんでもらえたらいいなって思う。
「「「「おかわり!」」」」
朝食の時間、バハムルとクリスとレオとフランの声が元気にハモった。
「慌てなくてもまだあるから。
よく噛んで食べなさい!」
澪がオカンみたいなことを言いながらおかわりを用意する。
いつも朝食はパンとサラダのような感じで軽めに済ますが、今日はレッドブルのカツだ。
カツ丼は醤油がないからできないが、カツなら作れる。
なので、試合当日の今日、カツを喰らって気合を入れている。
朝から重すぎないかなって思ったけど、みんなの様子を見るにウェルカムって感じみたいだ。
「そういえば今日の対戦相手ってなんてチームなの?
いきなりコロさんとこかアキナさんとこってことはないよね?」
気になったことを聞くと、フランが無言でトーナメント表を出した。
「見てみるし」
フランが神妙な顔で言う。
俺はトーナメント表に目を通した。
「えーっと……。
あ、ブラックキャットあった……えっ!?」
うちのチームの横の名前が目に入った瞬間、俺は驚きで一瞬時が止まってしまった。
可憐なる妖艶戦乙女団。
そう書かれてあった。
「……。
可憐と妖艶って両立できんの?」
「知らないし」
「すごい名前だよね~。
うちもなんかそういう系の痛ネームにすればよかったね~」
雫……、痛ネームとか言っちゃあかんっす……。
「あっしだったらこんなチーム名、恥ずかしすぎて試合なんか出れないし。
こんなチーム名で出てくるくらいだから、このチームのメンバーは相当メンタル強いと思うし。
油断は禁物だし」
「すげぇ、こんな痛いチーム名相手でも一ミリの油断も見せないフランさんぱねーっす!」
さすがは皇帝。
しっかりとチームを引き締めてくれる!
「ちなみにだけど、これってアキナさんのチームってことはないよね?」
アキナさんはこういう痛ネームつけないだろうと思いつつも、少し不安になったので恐る恐る聞いてみた。
「そのチームはエルフの女性冒険者のチームなのじゃ。
三つのパーティでチームを組んだようじゃ。
恥ずかしいことに、妾が知っておる冒険者パーティじゃったわ」
へぇー、エルフの冒険者かぁ。
しかも王女のアレッサンドラも知ってるって、けっこうな実力者なのかな。
確かにエルフってビジュアル偏差値が超高いし、綺麗どころが集まってるんだろうなーとは思うけど……。
「エルフって自信過剰なの?
こんなチーム名つけてさ……」
「くれぐれも誤解してほしくないんじゃが!
此奴らが痛いだけで基本エルフは控えめなものが多い!
もう一度言うぞ!
此奴らが痛いだけじゃからな!」
「わかったわかった!
超理解しました!」
そんな必死にならんでも……。
確かに内向的というイメージもエルフにはある。
だから余計に、この痛ネームは恥ずかしすぎるのだろうか。
とはいえ、アレッサンドラも痛くはないけど、わりと残念な子って感じなんだけど……。
そこは触れないほうがいいんだろうなぁ。
朝食を食べて少しのんびりしてからみんなでケモッセオに出発した。
アスモもぶつぶつ文句言いながらもついてきてくれた。
声に出して応援したりしないだろうけど、心の中で応援してくれるだろう。
してくれるよね?
あーちゃんは……、ベンチで寝てそうだ。
俺と薫子さんは今日も街の有力者との会談があるので、ケモッセオに到着してみんなと別れた。
今日は貴族の人と会うことになってるらしい。
領主さんは元冒険者だったから良かったけど、王族や貴族ってすっごく面倒くさそう。
いやまぁ、ただの勝手な先入観ですけど。
人間の国の王族貴族のせいでイメージが良くないんだよなぁ……。
まぁ、獣人はそんなことないことを祈ろう。
夜、会談が終わり薫子さんと一緒に家路につく。
今日は何人かの貴族と会ったけど、いかにもって感じの嫌な貴族もいれば、感じの良い貴族もいた。
人間だからとか獣人だからとかは関係なく、結局は人を見て判断しないとなと思った。
領主さんもなぜかまた会いに来た。
面倒なことに、あの手この手で領主を押し付けようとしてきた。
無理だってわかってるだろうに……、暇なのかな?
まぁ、しばらくは領主さんに付きまとわれそうだ。
家に着いた。
百段たちと別れて家に入る。
「ただいまー」
「あ、おかえりジズー!」
バハムルが元気に迎えてくれた。
あ、この様子は試合に勝ったみたいだな。
「ジズー!
勝ったよ!
しかもボク、シュート決めたよ!」
「おお、すごいじゃん!
おめでとう!」
「おめでとうバハムルくん!
楽しかった?」
「最高に楽しかったのだ!」
リビングに入ると、てっきりクリスとレオあたりがはしゃいでるかと思ったけど、なぜかフランとロナに説教されていた。
「えーっと、どうしたの?
試合は勝ったんでしょ?」
薫子さんが雫に小声で聞いた。
「勝ったには勝ったけど、けっこう危なかったのよ~。
あの二人がやらかしまくったから怒られてるんだよ~」
「やらかしたって、何を?」
「相手がね、まぁある意味チーム名通りの色気たっぷりなエルフのお姉さんチームだったんだ~。
でね、相手はうちの男性陣に胸チラパンチラその他お色気系スキルをふんだんに使ってきたのよ~。
あ、さすがにバハムルくんには使ってないけどね~。
アルフレートくんはさすがに奥さんいるから惑わされなかったけど、あの二人は見事にやられちゃってね~」
「あー……、なるほど……」
「ボールはすぐ取られるわ、すぐに抜かれるわでね~。
理由が理由だけに、フランとロナが激おこってわけ」
「だめだ、とても庇える理由じゃない……」
「フランの鉄壁の守備で失点はなかったけど、あの二人がお色気攻撃にやられちゃってこっちも点が入らなくてね~。
最後はロナちゃんとバハムルくんが気合で一点取ったって感じかな~」
「おお~、どうやって点取ったの?」
「二人の様子にイライラMAXなロナの怒りのシュートが炸裂して、それを相手GKがかろうじて弾いたんだけど、バハムルちゃんが詰めてて弾いたボールをダイレクトボレー!
超すごかったんだよ~!
地球だったらプスカシュ賞(その年最もすごいゴールを決めた選手に送られる賞)間違いなしだよ~!」
「え、めっちゃすごいじゃん!
観たかったなー!」
「えへへ!」
バハムルが得意気に笑う。
バハムルはドラゴンではあるけどまだ子供で、人化した姿は小さな男の子って感じだから相手もビックリしただろうなぁ。
いやー、ほんとに観たかったなぁ。
本戦からと言わず、次の試合は観に行っちゃおうかな?
「フラン、ロナ。
せっかく勝ったんだし、今日のところはそのへんで許してやってよ。
男だからしょうがないとこあるじゃん?」
「ジズーは黙ってるし。
アルフレートはあんなしょぼいお色気に惑わされなかったし。
男がどうとかじゃなく、こいつらがアホなだけなんだし」
「ちょっと怪しい感じもしたけどね~?」
「何言うんだよミッシェル!
俺はミッシェルしか見えないさ!」
ミッシェル的に、ちょっと不満に思った部分があるようだ。
がんばれアルフレート……。
「ふ、フランさん……、ロナさん……。
足がしびれてツライんすけど、足崩していいっすか……?」
「は?甘ったれんなエロ」
「すいません……」
結局クリスとレオは、就寝の時間になるまで正座させられていたのだった。




