何者かに襲撃されました
そんな事があって、それから約一時間後。
本日も、カタリーナがやってきたので紅茶とチーズケーキをお茶うけに出す。
チーズケーキは甘さ控えめ、二種のチーズが香るふわふわとした触感で口の中で解ける私の自信作だ。
ただ私は気になる点が一つ。
そう、そのケーキを受け取ったカタリーナの様子が何時もと違う。
やけに機嫌がよく、今日は紫色の華やかなドレスを着て時におしゃれに気合が入っている様なカタリーナを見ながら私は、
「カタリーナ様、今日はやけに嬉しそうですね?」
「ええ。今日はあの子がここに来るかもしれないのですもの」
「あの子?」
「ええ、アルベルクというシリルをライバル視している子よ?」
「あ、もしやカタリーナ様は……」
「フルールのそういった聡い所は好ましいけれど、私がまだ何も言っていないのだから誰にも秘密にしておいてね」
「はい、分かりました。でもアルベルク……確かよくシリル様に挑戦して負けている方ですよね? 私はまだ一度もお会いした事がありませんが」
「あら、誰から聞いたのかしら。シリル?」
「いえ、庭師のバレットさんです。以前そのアルベルクという方に、ようやく咲いたキリラナの花の枝が一つ折られたと愚痴っていました」
「そう……他に何を聞いたの?」
「赤い髪の緑色の瞳のイケメンなのに残念な人だと」
「そう……その残念な所が良いのに。皆分かっていないわね」
カタリーナが男性が見たならば、何かを手助けしてしまいたくなってしまうような美少女の溜息をついてそう答える。
それを聞きながら私は、もしやこの人ってそういう人が好みで、だとするとシリルとは好みがまるで違うのではないかという可能性に私は気付いた。
また一人お見合い候補が減ってしまったと心の中で嘆く私。そもそもがシリルがお見合い相手と会ってくれない時点で、とても高いハードルが設定されているのである。
会話がなされなければ相手の人となりや、何をこちらに求めているのか、そしてこちらがどういったアピールが出来るのかが分からないからだ。
そこで私ははっと気がついた。
「そうか、シリル様のお見合い相手に偽造した恋文を送って相手の反応を見てみるのも手か」
「フルール。それは駄目よ。相手がその気になってもシリル様がその気じゃないでしょう?」
「……そうですね。すでにお見合いのドタキャン関係で苦情が随分きていましたからね」
「でもフルール、その人達のフォローはしていたんでしょう?」
「はい、お陰で仲人としての自信がつきました! この力を使えば必ずやシリル様とまだ見ぬ素敵な令嬢との中を取り持てるはずです!」
そうなのだ、私はああやって上手く仲人が出来たのだから、シリルに関してもきっと上手くやれるはずなのである。
だからそのためにまず、シリルをその気にさせなければならない。やはり一度シリルから、シリルの好みの女性の容姿や性格などを事細かく聞く必要があるようだ。
だがここ数日、シリルからそれを聞き出そうとすると顔を赤くして逃げ出すのである。
やはり異性に自分の好みを言うのはシリルとしてはきついのだろうか。でも、
「女装をしているとどうしても同性に話をしている気分になっちゃうんですよね」
「? どういうことかしら」
「あ、口に出していました。すみません」
「……折角だから私も聞きたいわ。面白そうだし」
面白そうと言いながらカタリーナは、うわぁといったような引いたような表情で、自身の銀髪をいじりながら私に聞いてくる。
なにか変なことをいったかなと私が首を傾げつつ、
「シリル様は女装をしていると美少女なので同性の“お友達”のような感覚になってしまうんです。だから凄くいい人なので、お友達としての意味でお手伝いしてあげたいなって気持ちになるんです」
「……いえ、そうね。待って、そう……お友達ということは、そんなに異性としての壁がない感じなのかしら」
「はい。ただその……時々男性らしい格好をされると、ちょっとこう、いい人なのですが離れたくなってしまうような、距離をおきたくなる気持ちに……」
「そう。ええ。うん、それ以上はいいわ」
カタリーナがそれ以上は私に話さなくていいと言って、まるで動揺を抑えるかのように紅茶に口をつけた。
そこで、爆音とともに部屋の壁が吹き飛び、
「く、この手だけは使いたくなかったが……人質になってもらう!」
そんな見知らぬ男の声がしたのだった。