それも無自覚のね
シリルは現在自室にある客用のテーブルで、アルベルクと向かい合って座っていた。
彼らの前にはフルールが入れた紅茶が置かれているが、なみなみと注がれた紅茶からは湯気が立っておらず、すでに飲まれないまま随分と時間が経ってしまっているのを如実に示していた。そこで真剣な表情をしたシリルが目の前のアルベルクに、
「どうすればフルールが僕の告白が本気だと受け取ってもらえるだろうか」
「だからさっきもいっただろう。分かってくれるまで、“好き”と言い続けるんだって」
「それには答えたはずだ。何度も伝えたと」
「もういっそそんな鈍感女は諦めたらどうだ? もっと美人の令嬢は他にも幾らでも居るだろう?」
「僕はフルールが良いんだ」
かたくななまでにフルールが良いと答えるシリルを見ながらアルベルクはうんざりしたように、
「どうしてお前といいカタリーナといい、一人の人間にそんなに執着するんだ?」
「君達にとっては些細な出来事かもしれないけれど、僕にとっては、そう、僕にとってはその人といる時間がとても魅力的で、たとえようもない宝物のような、人生に突如として現れ彩りを添える時間であったりするんだ」
「はいはい、そんな詩的な表現はどうでもいいな。俺にとっては」
「……カタリーナを呼ぼうか」
「や、止めろ! 今日もどうにかお前の所に逃げてきているっていうのに……」
「いいじゃないか。君のその稚拙な性格を矯正してくれるわけだろう? 無償で」
「うるさい。俺にだって色々と思う所があるんだ。く、何であれが俺の人生初の彼女なんだ」
納得がいかないと呟くアルベルク。
そんなアルベルクを見ながらシリルは、そういえば何時もシリルに挑戦してきたので適当に華麗に倒していたが、そういえばよくそんな時間があったなと思う。
彼女がいたならもっとデートやらそのための準備やらに時間を費やし、暇がないだろう。
ただそれを言うと、シリルにもずっと彼女がいない事になるが。
けれど恋人に関してであるなら、シリルの場合はできなかったのではなく作らなかったのだ。
思い出補正という物もあるけれど、フルールとのあの時間はシリルには大切なもので、すぐに他愛もない話をしている彼女達では違和感を感じて普通の友達いかになってしまう。
そう、これは全部フルールのせいなのだ。
シリルに彼女がいないのも全部、
「そうだ、全部フルールが悪いから責任をとってもらわないといけないんだ。だからフルールには僕が好きだって自覚をしてもらわないと」
「どういった思考回路でそういった結論に辿り着いたのかは知らないが、多分間違っている気がするので止めておいた方が良い」
「いや、僕だけが好きなのは間違っているからフルールに僕を好きになってもらわないと」
「だからどうしてカタリーナと同じセリフを吐くんだ! ああもう、何でこいつの所しか逃げ場が俺には無いんだ。家に帰れば、『よくやった、今まで駄目だ駄目だと思っていた息子があんな上等な恋人を連れてくるなんて』とか『あんなすばらしい恋人は今後絶対に出来ないからしっかり捕まえておきなさいよ』とか、俺の気持ちなんか少しも考えてくれやしない」
「日ごろの行動の賜物だね。カタリーナは、外面が良いからね。でもすごく嫌いで傍にいるのも嫌だって程ではないんでしょう?」
「それはまあ……アレさえなければ、美人だし優しい所もあるし、時々可愛いんじゃないかという錯覚も覚える事もあるし」
「惚気は言わなくていい。苛立つ。僕だってフルールとそうしたいのに」
「聞いてきたのはそちらだろう!」
むっとしたようにアルベルクが言い返した。そしてアルベルクが深々と嘆息して、
「そもそも貴族とは程遠い一般の小娘が、そんな風に告白されたって信じられないだろう。せめてなにか特殊な特技があるならまだしも……」
「フルールには特技が有るよ」
「へぇ、どんなだ?」
「このお茶やケーキも一定レベル以上だけれど、最近、才能があるからと魔法に関する教育をしたのだけれど、気付いたら教えることがなくなっていた」
「え? いや、その教師のレベルが……」
「一応はその分野で優秀な人だよ。しかもフルール本人にそれほど凄いことをしているという自覚がない」
疲れた様に溜息をつくシリルにアルベルクは、
「それはひょっとしてあのフルールは“天才”というものなのか?」
「それも無自覚のね。でもフルールに僕はそれを告げられないんだ」
深刻そうなシリルを見ながらアルベルクは目を瞬かせて、
「何故だ? その才能があれば釣り合いが幾らかはとれるのでは?」
「いや、フルールのことだから……自覚をさせたら、この力を使ってもっと私よりも強いやつに挑戦しに行くと言い出しかねない」
「いやいやまさか」
「本当に無いといえるか? アルベルク、お前の兄とか」
「兄さんみたいな脳筋がそこら中にいてたまるか。そしてそろそろ兄さんに負けてくれ。修行の旅に出たまま、また戻ってこないんだ」
「きっと世界の危機か何かに立ち向かっているんだろう。でもその実力が変な自信に繋がって上手くいかないのかな」
「どんな自信に?」
「僕のお見合いが成功するって。そうじゃなくて、僕はフルールが好きなんだけれどな。さて、それでフルールはどうしよう。どうしたら僕の本気が伝わるんだろう」
一番初めの問に戻ったシリルだが、そこで部屋の扉が開かれて、
「シリル、アルベルク、フルールにハーブティをお願いしたから、飲みましょう?」
カタリーナがそう誘いに来たのだった。




