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少年機関士と白い油 "JungFyhrer un VajxOyl"  作者: じんべい・ふみあき
3章 〈白い油〉と密輸団の罠
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27/31

26 さあ、帰りましょう


 この時のことについて、フランツとアドレァ、二人の意見は食い違ったままだ。


 フランツはこう語る。

 無我夢中だったから確たる事は言えないが、とにかく二人の選択が、あの瞬間に最良の結果へとつながった。不思議でも何でもない、当然の結果だ。


 対してアドレァはこう語る。

 あのとき二人は最悪の状況で、最悪の選択をしたはずだ。しかしこうして自分は生きている。フランツは認めたがらないが、あれは奇跡の結果だった。


 ともあれ二人は、終生この時のことをふり返っては、肩を組んで同じ感想を語った。


 後にも先にも、自分たちが死ぬと確信したのは、あのときだけだった。と。




 山岳予備線の線路は最悪だ。

 レールはガタガタ、枕木はゆるみ、カーブのレール間隔は開きがちで安定も何もあったものじゃない。定期的に通る列車がいないから、整備がどこまでも後回しにされている。

 かろうじて通れる程度の、とんだ劣悪路線である。


 しかし今、フランツとアド、二人は線路に文句を言っている場合ではなかった。


 「次左カーブ。ぐらつき気味です!」


 『速度六十でいけるか?』


 「……いけます!」


 二人が短い会話を終える。

 間を開けずに、二台の機関車は曲がりの浅いカーブに入った。

 固定のゆるんだレールのせいで、列車が細かく揺れ、不規則に左右に振られる。後ろのゲルダ号の車輪など、今にも浮き上がりそうだ。


 『こらえろゲルダ!』


 ゲルダ号が不自然に左にかたむく。

 重心が内側に滑り、二台はなんとか速度を維持したままカーブを抜けた。


 『ヒヤヒヤさせられる!』

 ゆるい蛇行に入り、安定した運転席(カンツォ)でアドが額の汗をぬぐう。


 「今、ゲルダが傾きませんでしたか!?」


 『ちょっとした小細工だ。説明はあとで……できるかわからんな』


 フランツは速度計を見て、感心の口笛を吹く。

 「まったく速度が下がってないなんて。機関銃といい今のといい、ずいぶん機関車に手が入ってるんですね」


 『半分は勝手に付けられたものだ。改造マニアがいるんだよ、歩杖の取引先にな。もっとも、好きこのんで変な改造をしたがる奴もいる。たとえばエドの奴とかな』


 「それ、何となくわかります」


 フランツの相づちに笑うアド。しかし後ろをふり返り、即座に苦い顔になる。

 『クソッ! お客さんが追いついてきた』


 「みたいですね」

 片目で回折鏡(ウムシュ)を確認するフランツ。


 二台のかなり後方、岩壁のすき間に、黒い装甲列車がチラチラと見えかくれする。

 先頭に装甲列車を置き、その後ろに列車砲が、さらに後ろには列車砲を運んできた機関車が連結している。

 三両編成、ずんぐりむっくりした姿は、さながら黒い芋虫のようだ。ただし、背中の長いトゲを振り回して爆走する様子は、芋虫ではありえない。


 「あっちは重いから、こっちより安定してますね。列車砲を振ってバランスを取ってるのかな?」


 『重いなら、レールを壊して自滅してくれたら最高だな! ゲルダの足回りがへたってなければ追いつかれなかったんだが』

 アドがぼやく。


 「しかたないです、走りで何とかしましょう。次右カーブ、まともです!」


 二台が次のカーブに入ったとたんに、列車砲が撃ってくる。砲弾は二台を大きく外れて岩壁に当たった。

 さらに二発飛んでくるが、どちらも狙いを外して機関車の左右に着弾する。地面が弾け、飛んできた小石が機関車の表面に跳ねてカンコンと音を鳴らした。


 「走りながら撃つなんて、反動もあるだろうに無茶な!」


 『目隠しニワトリ小麦を当てる、ということわざがあるが……目が見えてるだけ厄介だな。とにかく撃って当てる気だろう』


 周囲に上がる土煙を突っ切って、二台はひたすらに走る。

 フランツは運転で手一杯だったが、アドはたびたびふり返っては装甲列車の動きを確かめている。

 『奴らも線路は壊せないだろう。脅しで済んでくれるといいが――』


 次の砲弾が来る。当たりはしなかったが、低い弾道でゲルダ号のテンダー車をかすめた。


 「脅しであんなに撃ちますか? 弾道も低いし、こっちを線路からはじき飛ばす気ですよ」


 『そうだな、脅しじゃなさそうだ』


 線路が上り傾斜の直線に入る。


 「もうすぐ峠です。あと何キロもありませんよ。そこから下りですから、故障したそっちでも、少しは速度が稼げるはずです」


 と、急に砲弾が飛んでこなくなる。


 静かになった車外の様子に、アドが首をかしげる。

 『連中、急に撃つのをやめたか?』


 フランツは回折鏡(ウムシュ)をのぞき込んで、静かになった理由に気づいた。


 「そうか、あの大砲はまっすぐ前を狙えない。アドさん、後ろの大砲は装甲列車より背が低い。まっすぐ前を狙うには、前の車両が邪魔なんです!」


 『ならば、こちらが寄せたら、連中は撃てなくなるな』

 「……いい考えです」

 二人は肯き合うと、すぐに行動に移した。


 「絞ります。蒸気なし、制動なしで二つ下げますよ」

 『こっちは惰行(だこう)までだ、そっちの重さで速度を落とすぞ』

 息を合わせて出力を落とし、二台の機関車を減速させる。


 『車体を当てられたらマズい。ギリギリで相手に合わせる!』

 「了解です」


 フランツたちの考えに気がついたのか、装甲列車が徐々に速度を落とし始める。少し距離を取るつもりらしい。


 「そう来る? なら……」

 その様子を回折鏡(ウムシュ)で見ていたフランツは、思わずニヤリと笑う。

 彼はわざと蒸気排出の調整弁(ヴェンティロ)をひねった。

 煙突(エシェー)からの蒸気が、まるで急加速する前ぶれのように噴き上がる。速度を上げるものと錯覚させ、フェイントをかけようというのだ。


 はたして装甲列車は減速を止め、逆に速度を上げはじめた。

 フランツの狙い通りだ。


 「引っかかった! 今です!」


 『やるな! ……よし、捕まえたぞ』

 装甲列車に向けて、二台の機関車がしっかりと速度を落として肉薄する。相手が反応するより速く、二台は速度を合わせてピッタリと貼りつく事に成功した。


 『牽制してやるか』

 アドが言うなり、ゲルダ号の屋根から例の機関砲が顔を出す。後ろ向きに射撃を始めるが、近すぎるせいで、装甲列車の厚い前面装甲にしか当たらない。


 「効果、薄そうですね」


 『脅しだからな、これで充分だ』


 「あんまり相手を舐めてると、そのうち痛い目を見ますよ?」


 『見せてもらいたいね、そのうち』


 人の悪い顔をするアドを無視し、フランツは黙って計器腕板(アルムブレット)に目を落とした。

 自信家なのか、ただの自惚れなのか、フランツはアドをどこか甘っちょろく感じる。もしフランツがアドの立場なら、後腐れなく初手で相手を黙らせているだろう。

 (ま、人それぞれ、考えも違うさ。それよりこの先、峠から先の地形は……)


 『速度を上げてきたか? 面倒だな、ぶつかる前に……』

 記憶を頼りに予備線の線路をなぞっていたフランツは、アドの声にハッと顔を上げた。


 「いけない! 速度上げちゃダメです! この先は……」

 フランツの制止は少し遅かった。


 二台の機関車が谷の終わりを通りすぎ、線路がピークを迎える。大きな盆地が前に広がり、峠から山すそまで、曲がりくねったレールが一度に見渡せた。


 「見晴らしが良すぎ(・・・・・・・・)る!」


 アドの加速操作があだとなった。いくらへたっているとはいえ、重いゲルダ号の動きをテア号は押し止められない。


 装甲列車に押し出されるように、二台の機関車は一気に下り傾斜の線路に突入した。


 一方、装甲列車は本格的に制動をかけて、どんどん速度を下げていく。いったん増速したのは明らかなフェイントで、フランツたちはまんまと引っかけ返されたわけだ。


 『重い向こうの方が制動が早い! しくじった!』


 「間に合わない!」

 フランツは蒸気操作梃子(ダムプフヘーベロ)動力梃子(ファーレシャルテロ)も、とにかく全てを、がむしゃらに最大まで押し込んだ。

 

 テア号が蒸気の雄叫びを上げる。

 後ろのゲルダ号もろとも、一気に弾丸のごとく加速する。


 『加速するのか!?』


 「制動かけたって間に合いません! 狙い撃ちされますよ!」

 フランツが言い終わらないうちに、装甲列車から最初の砲弾が飛んできた。運良く二台には擦りもしなかったが、これで状況は一気に悪い方へ転がった。


 装甲列車は峠近くで停車して、丸見えの二台に向けて余裕で発砲する。的当てよろしく、数撃ちゃ当たるとばかりにどんどんと撃ち込んできた。


 「速度でかわさないと!」


 『それしかあるまい! こっちに合わせてくれ!』


 当然のことながら、機関車はレールを離れられない。

 だから砲弾を避けようにも、左右に進路を振るのは無理な話だ。速度の上げ下げだけで回避しなくてはならない。

 幸い、密輸団はレールを破壊する気はないはずだ。フランツたちを潰したあと、さらに先行するリンテ達から〈白い油(ヴァイシュオゥル)〉を取り返すためにも、レールは無傷で残す必要がある。


 だからフランツたち二人がすべきことはただ一つ。大砲の射程外に逃げおおせるまで、ひたすら自分たち狙いの砲弾を避け続ける事だ。とはいえ、それはけして簡単なことではない。


 『上げ三! すぐに下げ一!』


 「上げ三! すぐに下げ一! ……どっちも深すぎる(・・・・)!」


 アドの指示に合わせてフランツは操作するが、ここに来て問題が浮き彫りになる。


 ゲルダ号とテア号では、高速型と雑用型、大型と中型、高級車と六コ車(ズクーミシュ)と、機関車としての仕様に大きな隔たりがある。

 アドからの指示をそのまま当てはめたのでは、二台の動きはちぐはぐなものになってしまう。だからフランツは、指示をいちいちテア号に合わせてかみ砕かねばならない。

 しかもそれは、曲がりくねった劣悪な線路の上で、数秒に一回は飛んでくる砲弾を見ながらの作業だ。


 『次、上げ六! 五秒で下げ四!』


 「六と四! ならこっちは……上げ七と蒸気、下げ五!」


 それでもフランツは機関士の意地で、必死にアドの指示に食らいつく。

 なにせ命がかかっていた。ミスすれば、次の砲弾は地面ではなく二台を襲うかもしれない。



 そして必死に避け続けること数分、とうとうミスが起こった。

 ただしそれはフランツではなく、アドの方に。



 『うおっ!?』

 シーフォからアドのうめきが上がった途端に、フランツは前に勢いよく押し出された。


 「アドさん!?」


 アドが蒸気操作梃子(ダムプフヘーベロ)を滑らせたようだ。ゲルダ号が蒸気を噴き、制動をかけようとしていたテア号を突き上げる。

 二台の間で連結器(クッペレーロ)が悲鳴を上げ、ゲルダ号の前輪とテア号の後輪が揃ってレールから浮く。



 「な…………!」



 急に、フランツは全ての音から遠ざけられた。

 ただ自分の鼓動だけが耳の中に響きわたる。一秒が十分になり、一時間にも感じられる。

 列車砲の砲口が、こちらを向いているのを感じる。

 円錐形の砲弾が、まっすぐ針のように自分の背中を射貫かんとするのを感じる。


 (死ぬのか? 僕はここで死ぬのか? まだ何もしてない、何も始まっちゃいないし、何も終わってもいないのに?)


 一瞬の思考が、フランツの凍り付いた身体を駆け抜ける。全身の血が沸騰するような、凄まじい戦慄が指先まで染み渡る。


 ここまでか、と、最後の思いが冷たくフランツの頭を満たした瞬間。


 (あきらめるな! らっつ!!)

 鳴り響いたのは、声なき、しかしはっきりとした言葉。


 テアがフランツの手を取る。

 (おわりじゃない!)


 灼熱の少女がフランツの背中を抱き、彼を恐怖から解きはなつ。

 フランツの手が、足が、目にも止まらぬ速さで動きだす。

 左足は踏み込み、左手が押し上げ、右手は回しきる。使い慣れた〈蒸気打槌ダムプフシュレーゲルング〉の動作を、フランツは一瞬で完了した。


 そして最後に、フランツは一つの開閉器(シャルテロ)に指を置いて叫んだ。


 「連結を切れ!」


 それがアドに伝わったのかどうか、彼にはわからなかった。


 開閉器(シャルテロ)が弾かれ、〈蒸気打槌ダムプフシュレーゲルング〉が始まる。

 高圧蒸気が轟然と吠え、充分に力を蓄えたシリンダー(ツューリンデロ)が、動輪(トゥリーペロ)と結ばれる。六輪全てが狂ったように回転し、錆だらけのレールをがっしりとつかんだ。


 そして連結が解かれた。


 テア号がレールを踏み、まるで流星のように加速する。

 一方ゲルダ号は、火花と炎を足から散らし、青玉の鱗を光らす竜のように、決然とその場に踏みとどまる。


 開いた両者の間を、刹那の間をおいて黒光りする砲弾がすり抜け、空を切って飛び去った。



 全てはほんの数秒、ほぼ一瞬の出来事だった。



 「……かはっ!」

 心臓の音が去る。詰まっていた息が戻ってくる。

 音と時間がフランツに挨拶をした。


 「アドさん!?」


 『あ、ああ』


 シーフォの映像は繋がったままだ。アドは目を開き、驚いた表情でこちらを見ている。その左手は、何かの開閉器(シャルテロ)にかかっていた。


 『きこえたぞ……確かに』


 「そう、ですか」

 アドの言葉に、急に全身の力が抜けそうになるフランツ。


 夢ではなく、二台は危機を一つ乗り切ったのだ。着弾寸前で連結が解除され、砲弾はみごとに二台の間を抜けた。


 しかし危機は終わってはいない。装甲列車は健在で、テア号はゲルダ号から離れすぎている。蒸気機関のへたったゲルダ号では、急減速からの急発進は不可能だ。


 アドが一つ息を吐き、シートにどかっと背中をもたせかける。

 『逃げろ。こっちはどうやら、年貢の納め時らしい』


 「そんな! アドさ――」

 フランツの叫びは、爆音にかき消された。


 鉄が飴細工のように千切れ飛び、原型もわからないほど粉々になった破片が、衝撃波で吹き散らされる。


 しかし、吹き飛んだのはアドでも、ましてゲルダ号でもなかった。

 峠に止まっていた装甲列車、その列車砲を乗せた貨車が跡形もなく消し飛んだのだ。


 音は遅れてやって来る。千の雷を束ねて落としたような轟音が大地を揺らし、凄まじい風切り音が空を切り裂いた。


 フランツはテア号を急いで減速させると、天面窓(アッフェンスト)を跳ね上げて盆地全体を見わたす。 岩砂漠に変化はない。空にも雲一つなく、ただ山の連なりを超えた先に、奇妙に細い入道雲が一筋、立ちのぼっているだけだ。


 「何が起こったんだ……?」


 フランツのつぶやくような問いに、遅れてアドの乾いた笑いが重なった。


 「アドさん?」


 『団長だ』


 彼は頭を抱え、顔を伏せてつぶやいた。

 『あのお方は……俺をまた、甘いと言うだろうな』


 巨体を力なくかがめて、アドはそのまま黙りこむ。


 「団長って、アドさん、どうしたんです? いったい何があったんですか?」


 フランツの呼びかけに、しかしアドは答えようとはしない。彼はゲルダ号をそろそろと発進させ、テア号へと近づいてくる。


 『まあ、とにかく!』

 突然声を上げ、アドが顔を向ける。

 何かをこらえるような、奥歯を噛みしめた表情だ。


 『お前、いやフランツ! 俺たちは助かったんだ……助けられたんだ』


 そう言ってぎこちない微笑みを浮かべるアドを、フランツは気づかうように、ただ見つめた。




 充分に速度を落とした青と蒼の機関車は、荒野の只中にある信号場へ進入する。

 無人の信号場で、特に名前はついてない。名前が必要ないのは、ここが予備線で唯一の信号場だからだ。


 構内には三本の列車がいた。


 フランツたちの重連と、リンテを乗せたFRT151便と歩杖の機関車たち。


 そして最後の一本は、フランツたちと入れ違いにゆっくりと進み出す。白とオレンジに彩られた、窓のない装甲列車。


 「あれは、フェルナの保安隊(シュトレジ)?」


 フランツは開いた天面窓(アッフェンスト)から顔を覗かせて、山へと進んでいく装甲列車を見た。


 『ああ、エドの仕込みだ。今から密輸団を捕らえにいくのだろうな』

 アドも屋根から身を乗り出している。声はシーフォ越しだ。


 『……まぁ、捕らえる相手が生き残っていれば、だが』


 まるで自分を咎めるような声に、フランツは直に彼を見やった。顔には薄い笑いがあるが、それにはどこか重い影が差している。


 フランツはシーフォに語りかける。


 「そんなもんです。世の中……誰かが生き残るためには、誰かが死ぬ事もある。……人の命を狙うなら、自分の命が狙われるのも覚悟すべきなんですよ」


 彼は自分に言い聞かせるように、キッパリとそう言った。


 アドの顔がこちらを向く。

 『……あまり納得してない、と顔に書いてあるぞ』


 最後に、渋くて苦い微笑みを浮かべるアド。


 フランツは自分がどんな顔で彼を見ているのか、よくわからなかった。


 『ふっ……まあいいさ。しかしお前は強いな。俺とは大違いだ』

 アドが軽く手を振る。


 見た目だけならずっと強そうなアドにそう言われ、フランツは困ったように目を伏せる。

 要は覚悟の差、なのだろうか。

 フランツも好んで人殺しはしないが、かといって世の中を相手に、人を害さずに済むとは思っていない。

 食うか食われるか、一瞬たりとも気が抜けないのが、人の世ではないのだろうか。


 『さて、フィーたちと合流するか』

 アド言葉に、フランツは前を向いた。


 待避線の向こう端で、機関車の屋根から手を振るリンテが見える。

 遠くてもはっきり映えるその笑顔が、フランツには少しまぶしすぎた。


 『そうだフランツ、よければ〈歩杖〉に来ないか?』


 「はい?」

 フランツは思わずふり返る。


 『いや、お前さえよければ、だ。なんなら、俺から団長の方に……』


 「いやちょっと待ってくださいアドさん。アドさん達って、そもそもそのために来たんじゃないんですか?」


 『は? 何のことを……』

 アドの言葉尻に、二人分のクスクスい笑いが乗っかる。

 

 とたんにアドの目が鋭さを増し、彼は苦い調子で吠えた。

 『エド、フィー! 盗み聞きしているな!? どういう事か説明してもらうぞ!』

 

 リンテの横に、フィーとエドが立ち上がり、こちらに手を振る。


 『いやぁ、すみませんねアド君。別に嘘をついたわけじゃないんですよ? ただちょっと――』


 シーフォ越しに届いたエドの声に、アドの怒声が続いた。

 『本当のことを話していないだけだ!』


 『あらら、ついにアド君に先を読まれてしまいましたね。まぁ、詳しいことは追々、道中にでも話すことにしましょうか』


 フランツたちの重連が、ハインリヒ号の後ろで停車する。

 その屋根の上で、二人にエドが帽子を振った。


 『とにかく二人とも無事で何よりです。さぁ、帰りましょう。みんなでね』

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