強襲
ちょっと長めです。
ミランにとっては恐ろしく一寸先も見えない闇でもヴェリタにはあまり関係ないようで、迷うことなく進んでいく。
そろそろ森を抜けようかというとき、唐突にヴェリタは歩みを止めた。戸惑うミランを庇うように片方は後ろに回りつつ、周囲に威嚇ともとれる視線を投げる。
「出て来いよ。何の用だ。」
前にいるヴェリタが正面の闇に声をかけるやいなや、ぞろぞろと人が現れ三人を取り囲む。その数三十。
「お嬢さん、こっちへ来なさい。そいつらは危険だ。」
老人らしき影がミランに手を差し出した。が、ミランは動かない。彼らが放つ殺気は彼女にわかるほど強いからだ。老人は肩をすくめたようで、一歩下がった。
『決して動くなよ。』
囁くヴェリタ。そのわずかな隙に一斉に影が襲い来る。
敵が動く音に紛れミランは聞いた。ヴェリタの片方だけが、すぐそばのミランにだけ聞こえるように、「絶対守る」と言ったのを。
ぽんっ!
軽い音と共に閃光。半分は怯み半分は吹き飛んだ。
閃光弾を打ち上げた筒が後ろのヴェリタの手から離れる。敵を吹き飛ばした前のヴェリタがニヤリと笑った。
向かってくる一人を掴む。片手で振り回す。まとめて殴る、捨てる。ミランに誰かが襲いかかった瞬間もう片方が彼女を抱き上げ敵を蹴った。避ける、避ける、蹴る。そして最後の敵が崩れ落ちる。この間数秒。
「あなたたちは何なの?」
襲撃者のうち一人だけ沈黙を守った老人が、ミランの問いに諭すような口調で答えた。
「私達はそやつらを抹殺するために設立された組織のリーダーだ。クローン人間はいつ暴走するかわからない危険なものなのだ。世界はここまで荒れ果て、数多くの命も消えた。繰り返さない為にクローンは全て処分しなければならないんだよ。」
「でも、オリジナルの人も死んじゃうんでしょ!?」
「仕方のない犠牲だ。彼らを助ける為の時間が、多くの人を死に追いやったのだ。化け物になる時間を与えるくらいなら、数人を殺した方が早い。」
残酷な事実、だがショックを受ける暇も与えず老人が拳銃をヴェリタに向けた。至近距離で睨み合う……老人の指が動いた。