一、刺客(7)
巨漢はイルク=ブランクルーンと名乗った。
彼が所属する組織の名は『パニッシャー』。
王宮暮らしと留学生活の長いウェルティクスにとっては馴染みのない名であったのだろう、その名にほう、とちいさく漏らす。
拠点は遠くノルン王国にあるが、パニッシャーの活動には国境など存在しなかった。
各地で貴族が屋敷を襲われ、殺されていた――が、パニッシャーの餌食となった貴族というと、或いは領民に重税を敷き、或いは若い娘を村から浚っていき、或いは盗賊を雇って領地を襲わせる、そんな悪漢ばかり。
故に貧しき民の救い手――義賊として民衆の支持は高く、ことノルン国内ではパニッシャーを騙る偽者まで現れたという。
その義賊が――何故。
青年の尤もな疑問にイルクは重ねるように頷き、緑色の髪を鬱陶しそうに払いのけ、話を続ける。
今回、イルクたちに下った指令こそ――フォーレーン王国第三王子ウェルティクスの暗殺。
標的は横暴かつ残忍、己が利の為とあらば幼子すら平気で手に掛ける恐ろしい男で、生かしておいては危険な存在である、と。
そう、伝えられ、指令を受けたという。
しかし、
幼いミリーを庇ったウェルティクスを目の当たりにし、イルクの心に引っかかかるものがあった。
――何かが、食い違っている、と。
暫し、押し黙って耳を傾けていたウェルティクス当人が、不意に顔を上げる。
「お話は判りました。
それで――貴方はどうするおつもりなのです?どうしても戦うと仰るのなら……」
――否、
呟いてむくり、とその巨体を起こし、イルクは真っ直ぐに青年を見据える。そして、
「決着は……預けておこう。
確かめねばならぬことができた故、な」
手にあの大剣を握り、口の端で、やや無骨な笑みを浮かべるのだった。
こうして。
イルク=ブランクルーン。彼もまた、王子ウェルティクス、ひいてはフォーレーン王国を巡る抗争に、その身を投じることとなる。
真実を、確かめる為に――