一、刺客(6)
ミリーは初めこそ怯えて泣いていたが、状況に気づくと、はっとして毒の針を肩に受けた大男に駆け寄った。
そして、見覚えのある金髪の青年にこんなことを願い出た。
「おにいちゃん、おねがい。このひと――」
――この人を助けて。
彼が暗殺者であるとか、今の今までウェルティクスを殺そうとしていたとか、黒装束達も彼の一味であるとか。
そんなこと当然、少女には何も判らない。だからこその、無垢な願いだった。
ミリーが理解したのは、この巨漢によって自分が助けられたこと、だけ。
青年は、少女の願いを聞き入れた。
宿を手配し、男を客室に運び入れた。夕刻だけに医師を捜すことは叶わなかったものの、応急処置を施し、丁寧に解毒したところ身体の青みは消え、男に生気が戻った。
その間、ミリーはと言えば大男の隣で、懸命に祈りを捧げていた。
もう大丈夫ですよ、と青年が伝えると、彼女は緊張が解けたのか――彼にしがみついて、また泣きじゃくっていた。
「よかったよう、よかった……」
その両の眼には、大粒の涙が溢れていた。
ミリーの無事を知った大男は、安堵したように胸を撫で下ろす。
そんな彼の様子に、ウェルティクスは違和感を覚えていた。
賊と呼ばれる無法者達とも、冷酷な暗殺者のそれとも何処か異なるような――目の前の巨漢の持つ風はまるで、誉れ高き武人のそれであった。
王族ともなれば、暗殺者に命を狙われることなどけして珍しいことではない。
しかし、彼はそこに何らかの大きな意志を感じた。
それが何かは判らなくとも、先程の襲撃は何かの前触れではないか、と、そんな予感が頭を離れなかったのである。
銀光にきらきらと煌めいていた室内がふ、と暗くなる。
窓に視線を向ければ、あれ程誇らしげだった月が雲に隠れ、光を遮られてしまっていた。
胸騒ぎにきゅ、とマントの留め金を握るウェルティクス。
一方、男は包帯でぐるぐるに巻かれた手をまじと見つめ、やや思案顔でむうと唸った。
「…………腑に落ちぬ」
押し殺した声でそう独りごちて、男は青年に目を向ける。
そして、躊躇いながらもひとつ、またひとつと語り始めたのだった。




