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イケニエとカミサマ  作者: 神崎みこ
番外編
12/12

19 - レシピ

 ゆらゆらとたゆたうような穏やかな生活に、感謝している。

そうは、みえなくても。

あたしには、あの人しかいらないのだから。




「で?」


真っ黒くこげた何か、の前で男は引きつった顔をしている。

真っ白いさらと、真っ黒いそれのコントラストはなかなか見事ではある。

それが食べ物だという前提がはずれてしまえば、ではあるが。


「・・・・・・だって」

「だって、って言われても」


部屋中に焦げ臭い匂いが充満し、人ならぬものたちはとっくのむかしに避難している。

勝手にここに寄生しているくせに、そういうところは非常に現実的な振る舞いをするものたちである。


「いつものように作ってもらえばいいのに」


どうやら「食べ物」である、ということを脳に到達させた男は、ため息をつきながら物体から視線をそらす。

嗅覚の方は防げないが。


「でも」


唇を尖らせる、という非常に子供っぽい顔をしながら、そっぽを向く。

容姿、はいまだに十代の少女ではあるが、中身はそろそろ成熟しても良い頃なはずだ。

いつまでたっても子供っぽさが抜けない彼女のことを、男は憎めずにいるのだけれど。


「好きだって・・・・・・、言ってたし」


途切れ途切れに白状するころには、物はすでに撤去されていた。

代わりに現れたのは彼女が作ろうとしていたパンケーキである。

過剰なまでにデコレーションされたそれは、調理担当のあやかしたちの意地と矜持が詰まっているような気がした。


「まあ、好きは好きですけねぇ」


フォークで切り分け、ふてくされたままの少女の口元にケーキの一切れを運ぶ。

良い香りにつられ、少女はついつい口を開く。


「・・・・・・おいしぃ」

「まあ、努力は認めますがね、努力は」


切る作業がそれほどないはずのパンケーキ作りにおいて、どうして、と思うほどに少女の指先には絆創膏が貼られている。

痛々しい、と思ってしまった指先から視線をはずし、男は自分のために切り分ける。

一口をほおばり、控えめな甘さを楽しむ。

確かに以前おいしい、と評したパンケーキそのものが再現されていた。


「無理はするな」


くしゃくしゃと頭をなで、彼女に二口目を与える。

今までものを食べておいしい、などと思ったことがなかったときを思い出す。

全ては、彼女が存在しているから。


いつのまにか日は落ち、あたりは暗闇に包まれていった。

二人の時間は、まだこれから。

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