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第12話 開示

2026年9月27日 日曜日 午前8時24分


 久世透は、昨夜書いた二行を見ていた。


『協力を求めるなら、判断に必要な情報を開示する』


『開示できないなら、協力を求めない』


 論理としては正しい。


 問題は。


 どちらを選ぶかだった。


 水城澪に能力を話す。


 利点は明確だ。


 神経科学、認知科学に関する知識。


 実験設計への助言。


 自分では気づけない解釈。


 そして何より。


 第三者による観察。


 欠点も明確だった。


 秘密を知る人間が増える。


 情報流出。


 能力を研究対象として扱われる可能性。


 警察との接点が生じた場合、澪まで巻き込む。


 透はノートに線を引いた。


『信用できるか』


 その下に。


『判断材料不足』


 と書く。


 知り合って5日。


 当然だった。


 信用できないのではない。


 信用できると判断するには短すぎる。


 なら。


 今出せる結論は一つ。


「話さない」


 少なくとも今は。


 そして。


 能力を前提とした実験への協力も求めない。


 透はスマートフォンを伏せた。


     *


午前10時13分


 実験。


 今日は、昨日の結果を確認するところから始める。


 鏡。


 スマートフォン。


 カメラ。


 昨日。


 鏡越しでは手袋へ作用できた。


 スマートフォンの映像だけを見た場合は失敗した。


 違いは何か。


 映像であること自体が問題なのか。


 それとも。


 対象の位置を正確に把握できていなかっただけなのか。


 透はスマートフォンを固定した。


 カメラを起動する。


 机の上にはボールペン。


 まず直接見る。


 ――上。


 浮いた。


 成功。


 次。


 ペンと自分の間に段ボールを立てる。


 実物は見えない。


 スマートフォンには映っている。


 画面だけを見る。


 ――上。


 動かない。


 10秒。


 失敗。


 ここまでは昨日と同じ。


 今度は。


 画面に映ったペンそのものではなく。


 段ボールの向こう側。


 机の上。


 実物のペンが置かれている位置を意識する。


 ――上。


 コト。


「……」


 小さな音。


 透は能力を止めた。


 段ボールを外す。


 ペンの位置が変わっている。


 動画を確認する。


 浮いていた。


 約1センチ。


「映像が問題じゃない」


 ノートへ書く。


『訂正』


『映像越しでも作用可能』


『画面上の像ではなく、実物が存在すると認識している位置を対象とした場合に成功』


 昨日の仮説が一段強くなる。


 能力は。


 見えている像そのものに作用しているわけではない。


 では。


 見えていなくても。


 位置さえ分かれば?


 透はペンを小さな箱へ入れた。


 机の中央へ置く。


 蓋を閉じる。


 ペンは見えない。


 だが。


 どこにあるかは分かっている。


 箱の中央。


 その中。


 ペン。


 ――上。


 コト。


 箱の中から音がした。


 透の目が細くなる。


 もう一度。


 ――右。


 カサ。


 蓋を開ける。


 ペンが右側へ移動していた。


「視覚は必須じゃない」


 記録。


『視認不能でも、対象の位置を把握していれば作用可能』


 重要だった。


 これまで。


 対象を見ることが、能力発動の条件の一つだと思っていた。


 違う。


 少なくとも。


 視覚そのものは必須ではない。


     *


午前11時02分


 次の実験。


 透は同じ形の箱を二つ用意した。


 A。


 B。


 内部には、それぞれ同じ位置に小さな印をつけてある。


 金属球を置く場所を固定するためだ。


 Aの中央。


 Bの中央。


 位置関係は分かっている。


 問題は。


 どちらに対象が存在するか。


 自分で金属球を入れてしまえば。


 当然、答えを知っている。


「第三者が必要だな」


 透は考える。


 悠真。


 能力を知っている。


 目的を説明しても問題ない。


 スマートフォンを取った。


『今日暇?』


 既読。


『お前から誘うとか雪降る?』


『実験を手伝ってほしい』


『やっぱりな』


『来られる?』


『昼飯奢りなら』


『分かった』


『マジ? 何食っていい?』


『常識的な範囲』


『その一文いらねえだろ』


 透は住所を送った。


     *


午後0時48分


「うわ」


 部屋へ入った悠真が言った。


「何だ」


「マジで研究室みたいになってんじゃん」


「なってない」


 テーブル。


 体重計。


 金属球。


 ペン。


 手袋。


 二つの箱。


 ノート。


 スマートフォンを固定する三脚。


「一般家庭に金属球何個もねえよ」


「実験用に買った」


「その時点で一般家庭じゃねえ」


 悠真は箱を見る。


「今日は何すんの?」


「対象の位置を俺が知らない状態で、能力が使えるか調べる」


「おお」


「箱を二つ使う」


「どっちかに物入れて当てる?」


「違う」


「違うの?」


「透視能力があるかは調べない」


「透視できたら面白いのに」


「変数を増やすな」


「はいはい」


 透は二つの箱を指した。


「中に印がある」


「印?」


「金属球を置く位置を固定するためだ」


「なるほど」


「俺が別室へ行く。その間に、どちらか一方の印の上へ金属球を置いてくれ」


「うん」


「蓋を閉めたら、箱には触るな」


「了解」


「俺はどちらに入っているか知らない状態で、Aの中央位置に能力を使う」


「Aに入ってなかったら?」


「何も起きない」


「入ってたら?」


「位置条件だけなら動くはずだ」


「それで?」


「一試行ごとに配置をやり直して、複数回繰り返す」


 悠真が少し考える。


「でもさ」


「何だ」


「一回目でAに念力かけて何も起きなかったら、Bにあるって分かるじゃん」


「だから一試行で能力を使うのは一度だけだ」


「ああ」


「終わったら俺は別室へ戻る。お前が配置し直す」


「めんどくさ」


「必要だ」


「何回?」


「まず20回」


「昼飯、高いの食うからな」


「常識的な範囲で」


「また言った」


 実験開始。


     *


午後1時36分


 20試行終了。


 悠真が記録用紙を見る。


「これ、面白いぞ」


「結果を」


「Aに入ってたの10回」


「成功は?」


「……ゼロ」


 透は表情を変えない。


「Bに入っていた10回は?」


「当然ゼロ」


「そうか」


「つまり?」


「対象がAかBか分からない状態では、少なくとも今回の条件で作用を確認できなかった」


「場所は二択まで絞れてるのに?」


「ああ」


「じゃあさ」


 悠真がAの箱を指す。


「Aに入ってるって思い込めばいいんじゃね?」


 透が止まった。


「何?」


「だって、認識が重要なんだろ?」


「ああ」


「本当はBにあるけど、お前がAだって信じたらどうなる?」


 透は悠真を見る。


「……重要だ」


「お」


「次にやる」


「俺、研究者向いてる?」


「一例で判断できない」


「褒めろよw」


     *


午後1時51分


 次の実験。


 悠真が金属球を隠す。


 置く場所は先ほどと同じ。


 AかB。


 箱の中央。


 今度は。


 配置が終わったあと。


 悠真が透へ情報を与える。


 ただし。


 半分は正しい情報。


 半分は嘘。


 どちらなのか透には分からない。


 最初の試行。


「A」


 悠真が言った。


 透はAを見る。


 その中央。


 箱の中に金属球がある。


 そう認識する。


 ――上。


 何も起きない。


 終了。


 透は別室へ戻る。


 配置を変更。


 次。


「B」


 ――上。


 コト。


 透は反応しない。


 結果を知らされないまま。


 これを繰り返す。


 20試行。


「終わり」


 悠真が紙を見る。


「本当の場所を教えたのが10回。嘘が10回」


「成功は?」


「本当の場所を教えたときは9回」


「嘘のときは?」


「ゼロ」


 透は紙を見る。


「……」


「すげえな」


「何が」


「お前が信じてる場所じゃなくて、本当にある場所じゃないと駄目ってことだろ?」


「少なくとも今回の結果では」


「でも見えてないんだよな?」


「ああ」


「じゃあ何だこれ」


 透は考える。


 認識だけではない。


 現実に対象が存在すること。


 実際の位置。


 そして。


 自分がその位置を正しく把握していること。


 両方が必要?


 透は書く。


『能力は主観のみでは成立しない可能性』


『誤った位置認識では作用せず』


『正しい位置情報を与えられた場合、視認不能でも作用』


 悠真が横からノートを見る。


「なんかさ」


「何だ」


「ちょっと怖くなってきた」


 透が顔を上げる。


「なぜ?」


「だって念力なら、まだイメージできるじゃん」


「念力自体説明できてないだろ」


「そうだけど」


 悠真が箱を指す。


「見えてないのに中の物だけ動くって、何が通ってんの?」


「分からない」


「電波とかじゃないの?」


「可能性を否定する材料はない」


「お」


「その場合、遮蔽物の材質による差も調べる必要がある」


「また実験増えた」


「ああ」


「嬉しそうだな」


「そう見える?」


「見える」


 透は否定しなかった。


     *


午後2時27分


「もう一つやろう」


 透が言った。


「まだやんの?」


「重要だ」


「飯」


「これが終わったら」


「絶対な」


 透は金属球を悠真へ渡す。


「今度は箱を使わない」


「どうすんの?」


「俺が目を閉じる」


「うん」


「お前が部屋のどこかに金属球を置く」


「はい」


「置いたあと、場所を言葉で教えてくれ」


「例えば?」


「テーブルの奥側。右端から15センチ、みたいに」


「それで動かす?」


「ああ」


「見てないのに?」


「それを調べる」


 透は目を閉じた。


 悠真が動く。


 足音。


 物を置く小さな音。


「置いた」


「場所」


「テーブルの奥側。右端から15センチくらい」


 透は頭の中にテーブルを作る。


 自分から約2メートル。


 高さ約70センチ。


 奥側。


 右端から15センチ。


 そこに。


 金属球。


 ――上。


「……」


 悠真が黙っている。


「結果を言うな」


「あ、はい」


 数秒。


「終了」


 透は目を開ける。


 金属球はテーブルにある。


「動いた?」


「2センチくらい浮いた」


 透の目が止まった。


「もう一度」


「飯」


「あと10回」


「増えてんじゃねえか!」


     *


午後3時12分


 結果。


 合計11試行。


 成功9回。


 透は記録を見る。


 対象を見ていない。


 自分で置いてもいない。


 だが。


 第三者から正しい位置情報を与えられれば作用した。


 視覚ではない。


 自分で配置した記憶でもない。


 必要なのは。


 対象がどこに存在しているのかを。


 自分の中で正しくモデル化できていること。


 そう考えるのが、現時点では最も単純だった。


 悠真が椅子にもたれる。


「で、何が分かった?」


「能力の条件について、『認識』という言葉だけでは不十分だった」


「もっと分かりやすく」


「見えなくても使える」


「うん」


「ただし、対象がどこにあるか正しく把握している必要がある可能性が高い」


「じゃあ壁の向こうでも?」


 透が止まる。


「……遮蔽物そのものが影響しないなら」


「隣の部屋とか?」


「距離の範囲内なら」


「マンションの外は?」


「距離による負荷がある」


「でも前より距離伸びてるんだろ?」


「ああ」


「じゃあ将来――」


 悠真が窓を見る。


「建物の中にいる人とかにも使える?」


 透は答えなかった。


 生体。


 9月12日。


 暴れていた男。


 もし。


 人間にも同じ条件が成立するなら。


 対象を見る必要はない。


 位置さえ。


 正確に把握できれば。


 透はその先を考えるのを止めた。


     *


午後3時29分


「飯」


「分かった」


「何食う?」


「何でもいい」


「焼肉」


「常識的な範囲なら」


「焼肉は常識だろ!」


 二人は部屋を出た。


     *


午後4時18分 焼肉店


「なあ」


 悠真が肉を焼きながら言った。


「何だ」


「なあ」


 悠真が肉を焼きながら言った。


「何だ」


「昨日言ってた研究者ちゃん」


「ああ」


「名前なんだっけ?」


「本人に確認していないから教えない」


「そこまで?」


「俺との会話で名前を出していいかどうかは別の話だ」


「いや、別に悪用しねえよ」


「分かってる」


「じゃあいいじゃん」


「お前を信用しているかどうかの問題じゃない」


「……相手の許可の問題?」


「ああ」


 悠真がトングを止めた。


「お前、そういうとこ妙にちゃんとしてるよな」


「妙に、は余計だ」


「で、その研究者ちゃんに能力見せないの?」


「まだ」


「なんで?」


「信用できると判断するには、知り合ってからの期間が短すぎる」


「俺には見せたのに」


「お前とは15年以上の付き合いだ」


「……」


「何だ」


「いや。そういうこと普通に言うんだなって」


「事実だ」


「お前らしいわ」


 肉を食べる。


「でも専門家なんだろ?」


「ああ」


「だったら見せた方が早くね?」


「早いことと正しいことは別だ」


「警察の人も、まだ気にしてるかもしれないんだろ?」


「分からない」


「その人、また来たりしてない?」


「来てない」


「だったらもう気にしてないんじゃね?」


「その可能性はある」


「考えすぎじゃね?」


「その可能性もある」


「……お前がそれ言うと逆に怖いな」


 透は肉を取る。


「何が?」


「絶対、頭の中ではずっと考えてるじゃん」


「必要な範囲では」


「ほら」


 悠真は笑った。


     *


午後6時03分 川崎警察署


 榊原はパソコンを閉じた。


「主任、帰ります?」


「ああ」


「珍しい」


「昨日も言ったな、それ」


「最近ちゃんと帰るようになったから」


「俺にも生活がある」


「ホームズ読むだけでしょ」


「余計なお世話だ」


 高瀬と一緒に署を出る。


「主任」


「何だ」


「昨日の未知の装置説」


「忘れろと言っただろ」


「考えてたんですけど」


「忘れてないじゃないか」


「もし電波とかなら、壁越しでも使えるんですかね」


 榊原が歩きながら答える。


「方式によるだろ」


「ですよね」


「何が言いたい?」


「いや」


 高瀬は笑う。


「超能力より、そっちの方が刑事ドラマっぽいなって」


「ドラマじゃない」


「分かってます」


 信号で止まる。


 榊原はふと。


 9月12日の現場を思い出す。


 久世は自宅のベランダにいた。


 男とは数十メートル離れていた。


 目撃者の記憶が正しいなら。


 男が動きを止める直前。


 久世のいるマンションの方向を見ていた。


 もし装置なら。


 照準が必要?


 視線?


 カメラ?


 榊原はそこで考えるのを止めた。


「……まただな」


「何がです?」


「何でもない」


 久世を答えにしてから。


 条件を考えている。


 順序が逆だ。


 信号が青になる。


 二人は歩き出した。


     *


午後8時07分


 透は帰宅すると。


 今日の実験結果を整理した。


『対象位置条件』


 視認――不要。


 自身による配置――不要。


 正確な位置情報――重要。


 誤った位置情報――作用確認できず。


 遮蔽物――少なくとも紙・段ボールでは明確な影響を確認できず。


 そして。


『対象そのものの存在を知る必要は?』


 透の手が止まる。


 今日の実験では。


 必ず金属球が存在することを知っていた。


 では。


 何があるのか分からない場合は?


 例えば。


 箱の中に何かが入っている。


 だが。


 それが金属球か。


 ペンか。


 消しゴムか分からない。


 それでも。


『箱の中央にある物』


 という認識だけで作用できる?


 さらに。


 対象の種類すら知らず。


『その場所に存在する何か』


 という指定でも?


「……」


 透は新しい実験案を書く。


『対象同定条件』


 その下に。


 もう一つ。


『人間の場合』


 ペンが止まる。


 人間への実験は禁止。


 そのルールは変えない。


 だが。


 もし同じ原理なら。


 名前。


 顔。


 位置。


 どこまで分かれば。


 一人の人間を『対象』として認識できる?


 透はその文章に線を引いた。


 今は調べない。


 調べるべきではない。


     *


午後9時16分


 スマートフォンが震えた。


 澪。


『今日も実験してた?』


 透は少し驚いた。


『していました』


『やっぱり(笑)』


『なぜ分かったんですか?』


『昨日の久世さん見てたら絶対やると思った』


 透は画面を見る。


 続けて。


『何か分かった?』


 指が止まる。


 どこまで話す?


『視覚が必須ではないことが分かりました』


 送信。


 既読。


 しばらく返信がない。


『視覚が必須じゃない?』


『はい』


『何の?』


「……」


 透は画面を見た。


 当然だった。


 結果だけ伝えて。


 対象を伝えない。


 会話として成立していない。


『すみません。今はこれ以上言えません』


 少し長い間。


『そっか』


 それだけ。


 透は画面を見る。


 いつもの「(笑)」がない。


 さらにメッセージ。


『じゃあ私は聞かない方がいいね』


 透の指が止まった。


『なぜですか?』


『だって久世さん、話せないこと多すぎるもん』


 透は返信を考える。


 正しい。


 澪は専門知識を提供する。


 自分は目的を隠す。


 情報の非対称性。


 昨日。


 自分で問題だと結論づけたばかりだった。


『その通りです』


 送信。


 既読。


 返信は来なかった。


     *


午後9時43分


 透はノートを開いた。


『水城澪への情報開示』


 昨日と同じページ。


『話す』


『話さない』


 二択。


 今朝は。


『話さない』


 と決めた。


 合理的な判断だった。


 今も。


 合理的な理由そのものは変わっていない。


 なのに。


 スマートフォンを何度か見ている自分に気づいた。


「……」


 返信はない。


 なぜ気になる?


 研究協力者候補を失う可能性。


 それだけか?


 透は考える。


 答えが出ない。


 出ないものを。


 無理に結論づける必要はない。


     *


午後10時31分


 澪は自宅の机にいた。


 溝の口の1LDK。


 机の上にはノートパソコン。


 論文。


 明日の予定。


 なのに。


 スマートフォンを手に取る。


 久世透。


 知り合って。


 まだ5日。


 奇妙な男だった。


 身体所有感。


 生体への作用。


 急激な症状の軽減。


 作用した側らしい疲労。


 そして今日。


『視覚が必須ではないことが分かりました』


「……何やってるんだろ」


 普通なら。


 何かの装置。


 個人的な研究。


 趣味の実験。


 そう考える。


 だが。


 彼は研究者ではないと言った。


 所属する研究室もない。


 実験の目的を言わない。


 そして。


 誰かに知られることで危険が生じる可能性だけは認めた。


 澪はメッセージ画面を開く。


『じゃあ私は聞かない方がいいね』


 自分が送った文章。


「……ちょっと感じ悪かったかな」


 消せない。


 澪はスマートフォンを伏せた。


「まあ、いいか」


 そう言った。


 だが。


 5分後。


 また画面を見た。


     *


午後11時08分


 透は眠る準備をしていた。


 スマートフォンが震えた。


 澪。


 開く。


『さっきはごめん。別に怒ってるわけじゃないから』


 透は読む。


 返信。


『謝る必要はありません。水城さんの指摘は正しいです』


 既読。


『そういう返しすると思った(笑)』


 いつもの「(笑)」が戻った。


 透は。


 ほんの少しだけ。


 肩の力が抜けた。


『ただ』


 澪から続く。


『もし本当に危ないことなら、一人で抱え込まないでね』


 透は画面を見る。


 悠真。


 榊原。


 警察。


 能力。


 そして。


 昨日、自分で決めたルール。


『協力を求めるなら、判断に必要な情報を開示する』


 文字を打つ。


『分かりました』


 止める。


 消した。


 それでは。


 また結論を先送りするだけだ。


 代わりに。


『少し考えます』


 送信した。


 嘘ではない。


 そして今度は。


 本当に考えるつもりだった。


 水城澪に。


 能力の存在を。


 話すべきなのか。

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