深淵を覗く者 2
本日は、晴れでもないが、雨でもない…
なんだか中途半端なお日柄ですが、
そう言う日も有るのだよ。
そんな日は商会に行く。
で、俺がたまたまシャダ商会にいたところ…
その時丁度、荷揚げをしていた船団の、
その護衛船に乗っていたとある傭兵が、
わざわざ商会の中まで俺を訪ねて、話し掛けて来た。
実はそれがかなり珍しいことだった。
オオカミみたいな獣人の、その傭兵の名はヘイゼル。
ここではよく見かける顔で、俺も挨拶くらいはしょっちゅうしていたが、
こうしてゆっくり話す事は、実は初めてだった。
「実は偶然でしたがね、オレ…ユータストの沖で見たんですよ…」
ユータストは、連合の加盟国では一番遠い場所で、
鉱石や油の輸出をしている国だ。
油と言っても石油では無い。オリーブの様な植物性オイルを、数種類製造している。
つまり?うちのシャダ商会の、揚げ物チームの生命線でもあり、
マーヤル師匠が持つ、香辛料の仕入れ先だった組織がある。極めて重要な国である。
勿論、今ではうちが一番大きな取引先であり、
特に塩や昆布や海産物、剣や盾の加工など、
うちの大のお得意様でも有る。
つまり、うちにとってはかなりユータストの重要度は高い。
ここデリターニャからヘビの唐揚げが消えれば、すぐに暴動が起きるだろう。知らんけど…
そんなユータストの名が出れば、流石に俺やシャダは穏やかでは無い。
それは港を出て、ほんのすぐの事だったそうだが、
実はそこに、そこそこ大型の海洋魔獣…セイウチみたいなヤツが出たそうで、
その魔獣は、別段コチラを警戒する様子でもなかったので、
敢えてそれとは戦わず、
船は大きくそこを避けて、普段よりもかなり陸地よりを進んだそうだが…
人間ならば決して気付く事も無かったのだろうが、
ここで獣人の、その目と耳が、その時異変に気づいたのだ。
そこにある密林の中に、どうもアーマっぽい奴らが複数、天幕を張って休んでいたのが見えたそうだ。
まずそこいらでは、普段アーマは全く見かけないそうだ。
しかも…まだ日の高い昼の日中に、わざわざ密林の中で休憩ってのが、傭兵として妙に引っ掛かると。
それは完全に、夜に進軍する軍の動き方だと…
俺とシャダは目を合わす。
「確かに、あの辺にアーマってのは、かなり妙ですね…」
――ユータストってさあ…
あのやたらひょうきんな、チョビヒゲのオッサンのとこだっけ?
「はい、モルドー商会のモルドー氏ですね」
…オッサンからは、何か聞いてるか?
「いえ、特には…」
―あのオッサンは、本気の善性だ、
どう考えても、裏切りとかは性格的に無リッポそうだ。
ならば、ユータストの中心を避けて、アーマはひっそりと、コソコソ移動してるってことか?
「そう…なりますね…」
「オレも、そう思います」
――なぜ?
そしてどこに行く気だ?
今度は三人が顔を見合わす。
「進行方向ですが…あれがカーナンの方から来たのならば、それを結ぶ線の先は多分、こっちに向かってると…」
「こっちに向かってるのは間違い無い様だ
が…まだここかどうかは…」
「いやいや、シャダさんよ、他って言ったって、ここいらじゃデリターニャくらいしか、
わざわざコソコソ動いてまで狙うだけの街なんて、そうそう無いですぜ?」
「まあ…そりゃ確かにな」
ほおほお…するってえと、アホ共の目当てはここってか?
アイツら、あんだけボコられて、まだ懲りて無いのか?
――は?マジで?
ええ根性しとるやないかいっ?!
「それが丁度、三日前ですからね、アイツらならば、既に相当近くまで来てると思うんですよね…」
え?ユータストって結構遠くない?
「アイツらアーマって連中は、なんなら一晩中走って移動出来やがるんですよね…
しかも元がデカいんでね。
結構遠くとも、意外とあっという間に着いてるなんて、戦場じゃよく聞きましたよ…」
ヘイゼルは、かつて戦場で聞いた昔話を思い出したようで、そんな話をしてくれた。
なる程。
おいシャダ。特別警戒態勢だ。連合の全てに第一級警報を流せ。
そうだな。早速だが、鬼族も強力してもらって、うちの舟と港は今から厳戒態勢だ。
見慣れない余所者には、特に注意を払え。
なんなら俺が尋問する。
そうだ、ちびっ子、老人もシェルター隔離だな。
俺達の世界にゃ、アイツらアーマなどは要らん。
場合によっちゃ、今日でアーマは消滅だ。
それにしてもお手柄だったよヘイゼル君。
よく知らせてくれたね。
後でタップリと報酬をだそう。シャダさん…頼んだよ?
じゃあ…
その命知らずのアホンダラの面…
今からちょっくら拝んでくるわ。
おっと、ヘイゼル君の報酬分も含め、まるっと身ぐるみ剥いでやるか。
じゃあ、あとを頼んだぞシャダ。
「お任せを!」
あのクソ共め、わざわざ俺に殺されに来るとはな…
関わらないうちは見逃してやるが、
こっちにツバを吐くってんなら、もう話しは別だ。
残念ながら、そんなアイツらアーマにゃ、
俺は一切、遠慮など無い。殺処分決定。
特に、カーナンからのヤツらならば、そりゃアマジャさんらの故郷を奪った侵略者だからな。
二重の意味で詰みだぞ。
そうだ、もうすぐで晩飯だしな。
サッサと終わらそう。
まあ…二度と来ない朝を夢見ながら、アホ共にはサッサとご退場頂く、
纏めてあっちの世界に逝ってもらうとしようか。
では、参る!




