帰路 1
ズク族の拠点だったこの砦だが、アーマの侵攻によって、かなりの被害が出ている事と、
その対面のアーマ軍の本拠地…タカマ=ガハラも、現状、かなり無惨な状態で…
え?
…誰のせいだ?って、知らんけど…
生き残りのズク族と、生き残って捕虜となったアーマ軍の残党…これらを一同に集め、ヨミが演説をぶった。
「聴けっ、皆のもの…我こそはツク=ヨミである…」
うーーーん、急に後光とか出てるし…とにかく偉そうなんだが、よく似合ってる…まるで神様って感じだな…ん?
そもそもこっちのこの顔が、正真正銘の、本当のヨミ…神の顔なのだろうな。
ざっくり言うとまあ…アーマとの戦争は、今日で終わったと…
神族とは本来…人間や獣の監視者であり…それが今…何故か全く正反対の存在となり下がり、
ついには天罰が下されたと…それも【深淵の破壊神】の手によって。
遥か昔、同じ過ちを犯しておきながら、まさか同じ末路を辿るなど、全くもって笑止と。
今日からお前達の、その腐った性根を、
真の神族となるべく、このヨミさんが矯正してやっからよ?
良いか?逆らう奴は一切容赦しねえぞ?
…的な?
で、差し当たり引っ越しすんぞ、と。
とにかく、唯一幸いな事に?
もう間もなく冬も終わりだからなと…
なので?
かつてヨミが造った、ズク族の隠し拠点の一つ…その島へと、ここの生存者全員、アーマの捕虜も含め、一斉移動をすると、そう決まった様だ。
その道中にも、隠し拠点が点在しており、そこを経由し、そこに隠れ住むズク族も、この一団と合流して行くと。
…まさに民族大移動って感じか?
オギっちをはじめ、ヨミの優秀な部下らが先導しながら、ゆっくりとそこへと向かうそうだ。
で?
そこでビックリしたのが、だ…
ヨミがまた、急に分体を作りやがった…
おい?
テメエの分体には、俺はいい思い出が、一切無いんだが?
「いやいや、この分体には余計な条件やなんかは入れないよ。そして、期間限定にしたから…」
あーた?そーは言うがね?…あれだけ好き勝手に暴走させといてさ、
よく大丈夫とか言えるもんだな、その口は、あ?
「う~~、それを言われると辛いね…」
…だべ?
「でもまあ…一旦、島へと帰るまでの、その間だけだからさ…」
うーーーん、まあ…判ったよ。
で?
再び九郎の苦労で?二人のちびっ子と、ヨミを乗せて、一路、皆の待つ神様島を目在して出発した。
結局?…全て上手く行ってる訳だが、神様島と今回の戦闘地域、
そこから一旦、舟で西へ西へと向かい、島ごもりして、
で、九郎に乗って東へ戻り、終わればまた、西へ帰ってる…
長い時間を掛けて旅をして来た…結構な移動距離だったと…
だと、思ってはいたが、
なのだが?
実は、ほぼほぼ同じエリアを、ただ行ったり来たりしていた様だった訳ね、俺達は。
ちょっと、複雑な気持ちでは有るな…
まあ…ええねんけど…
九郎の背のうえでは、ヨミ先生指導のもと…そしてアシスタントのミーシャちゃんの協力の元…
マーオちゃんの発声練習が行われていた。
自分では、ちゃんと発声しているつもりなのに、やはり実際の音とはズレが有るようだ。
それは仕方が無い。そりゃそうだって話だ。
だが、やはりちゃんと発生出来なければ、皆の前では喋るのが億劫になってしまい…最悪、喋れるのに喋らなくなってしまう…絶対にそれは避けたいと、ヨミ先生に強くお願いした。
なにせこの方、創造神様だしな。なんとかしやがれ…
いや、して頂かなくては…
上手く誘導して、音のズレを矯正してくれてる様で…
こりゃ、アンタに任せて良かったよ…っと、
子を見守る父…それを通り越して、もはや孫を見守るおじいちゃんの目線…な、俺だった…
慣れて来たってタイミングで、ブルートゥースのスピーカーを取り出して、
児童音楽…どんぐりころころや、むすんで開いて…みたいな、簡単に口ずさめる様な歌を流してみた。
当然だが、現地語では無く、ガッツリ日本語で有る。
俺がぼんやりと解説?し、それをヨミ先生が現地語に変換して…
異世界版のどんぐりころころが完成した。
こっちにもどんぐりが有ったのも幸いだったな…
ただ…ドジョウがどうやら魔物と翻訳されているような?
魔物に遊びましょう…などと言われた段階で、実際なら詰んでると思うのだが…
そもそも、どんぐりの木の実が、よりにもよって魔物と遊ぶとか…
なんかとんでもない歌になってしまい…
もはや俺には、ただ遠くを見る以外、何も出来なかった…
だが、むすんで開いてだ!これは良いものだ。
振り付け付きで歌えるし、マーオちゃんもミーシャちゃんも笑顔だし、うん、ヨミ先生の翻訳も、さっきみたいなぶっ飛んだモノになる要素さえ無い。
素晴らしいとは思わんかね?ウンウン…
なによりマーオちゃんの声だ。
本当に顔や雰囲気にぴったり合ってて、
俺達の天使が、今まさに究極の姿に、パーフェクト天使に進化した…そんな気がする。知らんけど…
で、帰り道。
さも当然の如く?再びシャダ商会に立ち寄った。
当然、今夜のマーオちゃんのお祝いと、ヨミのお別れ会の為の仕入れだ。
大量の肉や、ジャガイモ…的な芋、玉ねぎっぽいネギ…最近他国から無理矢理引っ張ってきた、俺には多少馴染みのあった野菜の…
こっちの世界に有った近似値?そっくりさん?と、同じく俺の記憶を頼りに探してもらった香辛料…を、ちょこっと頂いて帰ろうかなと。
そう…まさにアレだぜ?
時は来た。
遂に、この記念すべき日に相応しい…究極の味を再現しようと思うのだよ。
こっちの世界で初の、神の奇跡への、究極のチャレンジを敢行するのだ。
この日のために、金も時間もかけて、ずっとシャダに、そしてマイダスのオッサンと、その息子トニーに、絶対に凄え事になるからって、無理言って探して貰っていたのだよ。
その親子もきっと期待していることだろう。
だが安心して欲しい…このチャレンジが成功した暁には、俺達シャダ商会が、連合が、
この世界の頂点へとブチ上がる、その起爆剤となるはずなのだよ…恐らくな。
いや…知らんけど…
まあ…色々足りないのは百も承知だが、代わりは探したし、
最初はダメでも、きっと時間と共に進化する筈だ。
足りないものは、気合でカバーだ。きっとなんとかなる気がするのだ…相変わらず根拠は一切無いが。
だって今、俺達は究極の天使様の、その幸せの絶頂の、そのど真ん中に居るんだぜ?
絶対になんだって出来てしまうはずなのさ。
そうさ、イケるよ、寧ろやってやんよ。




