イッカーとタッコー 1
ロントは森の入り口に造られた村だった。つまり私達は、今まで通っていた森を抜けた。
これからは草原を歩く。見渡せる分、相手からもこちらを見つけやすい。もしかしたらここからはモンスターとの戦いが激しくなるかもね。
そう思っていたら、やはりすぐにモンスターが現れた。
しかも、知らないモンスターだった。
「イカー!」
なんか白くて槍っぽい形をした触手いっぱいのモンスターが、低空飛行で迫ってきた。
「まずはモエルの魔法が効くか確かめないと。火魔法お願い!」
「にゃー!」
(おっしゃいくぜー!)
モンスターはモエルの火魔法に当たると、一発で倒れた。
「い、イカ」
「ふう。それなりに大きいけど、大したことない相手だったわね」
「こんなモンスターもいるんだな。えらく不気味だが」
シャスデリも興味深そうに倒したモンスターを見る。
「ええ。私も初めて見たわ。まあ、強くなかったから良かったけど」
「こんな姿だが、肉は美味いのか?」
「どう、だろう。ひとまず、知ってる人に聞いてみた方が良いんじゃない?」
「ああ、そうだな。もうすぐ町に着くはずだし、そこで詳しく聞こう。前のやつみたいに毒があったら嫌だしな」
「う。嫌なこと言うわね」
そう言われると迂闊に倒したモンスターを食べれなくなるじゃない。
「ははは。なんなら、毒覚悟で食べてみるか。幸いシャインが解毒してくれる」
「それは、最終手段ね。ひとまず、これは素材センターで売るために全部持ってくわ。討伐証明部位も分からないし」
「ああ、そうだな。しかし、旅っていうのは面白いな。大変だし過酷だが、その分初めて見るものがいっぱいだ。やっぱり旅は俺を変えてくれる」
「もうすぐ、奥さんを満足させられる味に出会えると良いわね」
「ああ」
私達は更に先へ進んだ。
「タコー!」
今度は赤いてるてるドールみたいなモンスターが現れた。
これも飛んでる。
「にゃー!」
(火魔法!)
「タッコー!」
このモンスターも火魔法で落ちた。あ、けど、また浮かび上がった!
「ピー!」
(それ!)
「ギャウ!」
(くらえ!)
でもミドリの木魔法とテムの矢が再び撃ち落とす。これでモンスターは完全に動かなくなった。
「ありがとう、皆。やっぱり強いわね、皆。次は私にも戦わせてね。ここで腕がなまっても嫌だから」
要望通り自分でもモンスターを倒して、順調に進んだ。
でも、戦闘は皆に頼った方が早く終わるわね。皆の魔法強いから。
私の腕の方は、眠る前と起床後の素振りで間に合わせた方が良いか。
草原の旅の宿に辿り着いた。時刻はちょうど夕方になるところ。
「ふう。今日も結構進んだな。町まであともう少しか?」
「宿の主人に聞いてみましょう」
宿の主人に宿泊料を払って情報収集のための話をすると、やはりこの宿の先が次の町、カルミヤらしい。
そこに着いたら、またしばらくの間留まってシャスデリの判断を待とう。
「お、お前たち、ここで料理をしていくのか?」
「ああ。お前も食うだろ。有料で作ってやるよ」
「はっはっは。抜け目ないな。いいぜ。イッカーばかり食うのも飽きてきたし、違う飯が食えるなら願ったりかなったりだ」
「イッカー?」
とはなんぞや?
「ここに来る間に結構襲ってきただろ。白くて飛んでるあいつだよ。たまに赤いタッコーも現れるが、そいつが来たら当たりだな。まあ、強さによってはヤバいが」
白いモンスター、赤いモンスター。
「あの、あれって食べれるの?」
「ああ、美味いぞ」
食べれるんだ。あの見た目で。
「そんなに美味いのか?」
シャスデリが食いついた。
「ああ。焼いても煮ても美味い。だが新鮮なら生食、刺し身だな。そのまま食えるんだ。まあ、よく洗わないと食あたりが怖いが」
「何、生だと?」
「ああ。珍しいだろ。けどイッカーとタッコーはそれが美味いんだよ。町で売ってるショウユーとわさびをつけて食べると、これが一段と美味くなるんだ」
「ふうん」
シャスデリがそう言って私を見た。
「なあ、二リハ。試しに今食べてみないか?」
「え、本当に?」
だってあれ、普通に怖いわよ?
まあ、毛皮があったりしない分、マシかもしれないけど。
カエルか何かだと思えば、丸かじりもまあ、抵抗はない。火を通せばだけど。
「せっかく倒したばかりなんだ。イッカーもタッコーも食べてみよう」
「まあ、いいけど」
最悪の場合、シャインがいるから何があっても大丈夫だろう。
「お、タッコーもあるのか。じゃあそれを食べさせてくれ。くううっ、ショウユーならあるが、わさびが無いのが残念だぜ」
「へえ。ショウユーもあるのか。なら、使わせてくれ」
「ああ」
その後、シャスデリはテムが出したイッカーとタッコーをさばいた。
そして生食のために少しだけとっておいて、残りの大半はささっと野菜をイッカータッコーと一緒に焼いて、宿屋の主人にも出す。それを私達も食べる。
今日、私の料理修行はお預けになった。シャスデリが新食材を使うから、大人しくそれを味わう。私だって基本は美味しいものを楽して食べたいものね。
それだけ使っても、イッカーとタッコーはまだ結構残っている。でもこれ全身が食材なら、素材としての値段はあまり期待できないのかな?
まあ、割に合わなければ狙わなければいい。それより、今大事なのは、味ね。
「いただきます」
私達は皆でごはんを食べた。
その結果。
「う、美味い」
シャスデリがそう言ってうなった。私も同感だ。
野菜炒めは新鮮なだけでなく、しょっぱいような独特の味がした。そして、ショウユーを漬けただけの生食。これも、思ったより美味しかった。
「へー。これ、生は新鮮な間だけ食べれるの?」
「ああ。冒険者家業ならではの贅沢品だぜ」
なるほど。これだけ美味しいなら、たしかにちょくちょく食べたくなるかも。
「にゃあ」
(うまうま)
「キュー」
(うーん。初めて食べる味ですねえ。なかなか)
「ピー!」
(まあまあ美味しいわ!)
「ギャウ!」
(結構いけるぜ!)
皆も満足そうだ。良かった。
「二リハ、俺は決めたぞ」
「うん?」
「俺はこの味を、あいつに届ける」
「え?」
「俺はこの料理を求めていたんだ。俺の旅は、ここで終わる」




