つづらたぬき現る
町へと戻る途中。
「キュー!」
(あ、そっちから敵が来ますよ!)
「にゃー」
(初めて嗅ぐ臭いだな)
「ピー!」
(あっちね!)
「わかったわ。皆、モンスターがこっちに来ているみたいよ。今まで会ったことのない敵みたい」
「わかりました!」
「二リハさん、俺達が戦っても?」
ランゾにそう言われる。そうね。
「わかったわ。やれそうだと思ったら、お願い」
「はい!」
キュール達がうなずいた直後、警戒していた相手が現れた。
その姿は、大きい、いや、小さい?
四本脚の獣、いや、小さい動物が、自分とほぼ同じくらいの大きさの箱を背負っていた。
箱は横向き。蓋が前についている。そして箱には紐がついていて、それが足のところで結ばれている。そんな、モンスター、かもしれない相手と、目が合った。
「あ、あれは、つづらたぬき!」
ポリシャが言った。え、あれがつづらたぬき?
かわいい。
「まずいぞ、どうする?」
「ひとまず、戦おう。相手は3ランクよ!」
ランゾとキュールがそう言った。その時。
「ギャウ!」
つづらたぬきがそう吠えると、箱の蓋が開いた。
すると、箱の中へと向かう風が吹き始めて、ぶ、武器が吸い込まれそうになる!
「く!」
「これは!」
「きゃああ!」
キュール達はそれぞれ武器を強く握りしめて、風に耐える。私も、これでは迂闊には動けない!
ああでも、盾は大丈夫だ。あれ、これは確か、魔法の盾?
試しに盾をかざしてみる。すると、武器を吸われる風が止まった。
これ、つづらたぬきの魔法なんだ。
そして魔法だから、魔法の盾で防げる。良かった。なんとかなって。
でも、キュール達はそうじゃないみたいだ。
「うわ!」
「くそ!」
「ああ!」
ポリシャの剣、ランゾの槍、キュールの杖が手から離れる。それは落ちることなくつづらたぬきの箱の中に吸い込まれて、消えてしまった。
あのモンスター、かなり危険だ。ああやって冒険者達から武器を奪っていたのか。
けれど、私ならこの攻撃は効かない。なら、彼女たちの武器を取り返すためにも、私が戦わないと!
私はすぐに戦意を高めて、前に出た。
「にゃあ!」
(まったく、仕方ねえ手下共だな。火魔法!)
「ピー!」
(木魔法!)
モエルとミドリも魔法を放つ。
「ギャウ!」
すると、つづらたぬきは今度は、箱からいろんな武器を出して、ふたりの魔法にぶつけた。
剣や槍や杖が、火魔法と木魔法にぶつかって魔法をかき消す。このモンスター、こういうこともできるのね。
そして、箱から吐き出された武器はそれだけではなく、それらが私達にふりそそいだ。
「く!」
「ピー!」
(このくらい、なんてことないわ!)
「にゃー!」
(いてー!)
「キュー!」
(モエル先輩!)
私は剣と盾を使ってその攻撃をしのぐ。
ミドリも飛んで回避した。
けれど、モエルがとんできた斧にやられてしまったらしい。
そして、つづらたぬきはこの隙に逃げ出した。
「ミドリ、追って!」
「ピー!」
(わかったわ!)
つづらたぬきは、厄介だ。武器を奪われた冒険者は、何もできなくなる。命までは取らなくとも、危険であることには変わらない。
もしかしたら、キュール達もまたつづらたぬきにやられるかもしれない。だから、できればここで倒しておきたい。
「シャインはモエルを回復、その後キュール達と追ってきて!」
「キュー!」
(わかりました!)
「にゃーっ」
(ううっ、あんなやつにいっ)
私もすぐに後を追った。早く走って追いつかなきゃ。
「ギャウウウ」
つづらたぬきにはすぐに追いついた。
後ろ足を木の枝に貫かれていて、動けなくなっている。その姿は、見ていて痛々しかった。
けどまあ、なんにしても、追いつけて良かった。
「ピー!」
(二リハ、あいつの動きを封じておいたわ!)
「ありがとう、ミドリ」
「ピー」
(けど、私じゃすぐには仕留められないの。頭を狙うと、あの箱の中に魔法が吸い込まれてしまうから)
「いえ、これで十分よ。後は私がやる」
そう言って、つづらたぬきに近づく。
「ギャウウウ」
つづらたぬきは弱々しく鳴いている。
うーん。ちょっとかわいそうかも。
でも、モンスターだし、仕方ない。
いえ、仕方なくは、ないんじゃないかしら?
だって、私はもう、モエルやシャインやミドリを仲間にしているんだもの。
倒すだけが、私じゃない。
決めた。この子も、テイムしてみよう。
この子が仲間になるかはわからない。けど、やってみる価値はあると思う。
「ミドリ。私、このつづらたぬきも仲間にしたい」
「ピー?」
(そう。じゃ、やれば?)
軽いわね。
「私が決めちゃっていいかな?」
「ピー」
(二リハがそう思ったんだもの。そうすればいいじゃない)
「そうね」
やっぱり皆、私の仲間は良いやつだ。
そして、きっとこの子も、仲間になれる。
そう思えるから、テイムの札を手にして、近づいた。
「ギャウウウ」
「痛いわよね。もうちょっと、我慢してね」
私はそう言って、まず、つづらたぬきの横に来た。
前にいたら、また箱から攻撃されてしまうかもしれないから、注意ね。
えっと、それから、つづらたぬきの頭をなでる。
仲間になってくれるように、少しでも寄り添ってあげたい。
「ギャウ!」
すると次の瞬間、なでた手が噛まれた。
「いっ」
「ピー!」
(二リハ!)
「大丈夫、だから。見てて」
私は痛みをこらえながらそう言い、もう片方の手で再度頭をなでる。
今、つづらたぬきの足は私の手なんかよりも痛むに違いない。
どうにかして、少しでも心を開いてほしい。
「お願い、聞いて」
ひたすらやさしくなで続ける。
このなでる時間を、これからもこの子と続けるために。
「これから、一緒に行こう」
「ギャウウウ」
それからずっとなで続けていると、皆が追いついてきた。
そしてその時、つづらたぬきの口の力が弱まり、やがて手を放してくれる。
私はその傷ついた手で、札を取った。
そして、なでながら言う。
「テイム」
そこから出た光は、少しの間周囲で輝いていたけど、やがてつづらたぬきの中に入っていった。
「ありがとう。仲間になってくれて」
「ギャウ?」
(なか、ま?)
「ええ。私は二リハ。よろしくね」
そう言って、思わず微笑んだ。




