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陽向とトキとミチル(12)

「陽向ちゃん、それはどういう意味なの?」


 実菜穂が陽向を見ると、陽向はトキに離れるようにお願いをした。トキは口を離し、ゆっくりと下がっていく。下がったとはいえ、行く手を遮り、陽向を先に進ませないという意志を示していた。


 陽向はスルリと噛まれていた右腕の袖をめくった。陽向の腕を見て実菜穂と真奈美は言葉を失った。陽向の右手には鴇色の紐が巻かれており、その紐が光り輝いていたのだ。


「これは、みなもと同じ紐。ユウナミの神の紐」


 陽向は頷いた。


「うん、そう。同じ紐。白新地に入って、紐が見えるようになった。ずーっとそれまで見えずにいたから、すっかり忘れていたの」

「いつから巻かれていたの?」 


 実菜穂は目を開き陽向の全身を見つめる。


「ここに初めて来たとき」


 陽向はトキとミチルに微笑む。


「挨拶に来ただけなのでしょう。どうしてですか?目的が分かりません」


 真奈美が納得がいかないとばかりに声を上げた。陽向は調子を取り戻した真奈美を見て優しく笑った。


「私が初めてここに来たとき、随身門で女性を見たの。綺麗でそして勇ましく若い女性。正中を美しく歩んでいくその姿に見とれていた。そして女性とすれ違うときに、全身が熱くなったことを憶えている」


 陽向の話しに実菜穂は、自分も同じ体験をした記憶が鮮明に蘇ってきていた。そう、水波野菜乃女神の社での出来事である。正中を歩む女神とすれ違っていった。その時に感じた何かを越えるような感覚。


「それって」


「うん。今なら全部分かる。私が見た女性はユウナミの神。そして、ユウナミの神は私と神霊同体となった。それが紐を巻くことになるきっかけ。そうだよね、トキ、ミチル」


 トキが陽向に答える。


『そうだ。ユウナミ様は、そのときから陽向を見ていた。ずっと、見ていた。日御乃光乃神にも気がつかれぬように。どのように成長するのか見つめ続けてきた。そして答えを出そうとしている』


「答えって、何?」


 実菜穂がトキに詰め寄る。さすがのトキも実菜穂の勢いに「うっ」と身じろいだ。トキはそのまま動かず、言葉にできないでいる。ミチルも黙っている。目は答えることができない苦し色を表していた。言霊になることだけは避けたかったのだ。実菜穂もすぐに気がついた。いつもながらの自分の浅はかさに、腹が立った。


(私はアホウだ。ユウナミの神の社でそれを聞いてどうする。この場では沈黙するしかないじゃないか)


 実菜穂はトキとミチルに申し訳がないとばかりに、頭を下げた。


「いいよ。トキ、ミチル。実菜穂ちゃんもらしくないな。私は、逃げることも隠れることもない。私が言えばいいこと。ユウナミの神は私を生かすか、殺すか決めようとしている。だよね」


 陽向はきっぱりと言葉に出した。その声が響くなか、高く昇ろうとする日が、大木の小さな影を写し、蝉の声がこの世界を包んでいた。

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