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白華の涙  作者:
3/3

後編

 それから、わたしは花が枯れるのに合わせてシュンランのところへかよった。

 彼から手渡された荷をおばば様に渡すと、決まって手紙を読んだあとに隣の家へ向かう。幼馴染の祖父は、病を患っているらしい。その薬をシュンランが煎じていたのだ。

 おばば様も薬師なのに、どうしてわざわざ妖に頼らねばならなかったのか。聞いても教えてもらえなかった。

 だからシュンランのところへ行く回数を重ねながら、おばば様と彼の言葉とを足して察するしか術がない。それでも、気づいてしまってわたしは気が重くなる。


 幼馴染の祖父は機織りの技師である。彼の造る織り機は村で一番だ。

 孫である幼馴染は、そろそろ機仕事を本格的に手伝うことになったらしい。そのための織り機を造ってやりたいと常々言っていたのをわたしも知っていたけれど、取りかかったところで床に伏してしまった。

 そして、それは、おばば様では治せない。

 秘術も薬も万能ではない。おばば様は今までも、村で死にゆく人を見送ってきている。それでも、人にはない力に頼るのはなぜか。その技師の願いを叶えてやりたいからだ。


 おばば様と彼は仲がよい。お互い連れ合いに先立たれて長いこともあってか、よくふたりでお茶を飲みながら村のことを案じていた。

 特別な関係なのかは、こどものわたしにはよくわからないが、村の人からこのふたりが慕われているのは事実で。

 せめて織り機ができるまで命をつなぎとめられないかと、村の人から寄せられる声が多かった。それにおばば様も重い腰をあげたのだろう。






「おばばの連れ合いも、気の毒なこと。最後の最後に貸しを作ってしまったな」


 香の手紙をたずさえてあの水辺へ行くと、薬を煎じながらシュンランが声に笑みをにじませる。

 その横で薬草を細かくしていたわたしは、妖の庭が夕暮れに染まっていくのを肌で感じていた。三日前から咳が止まらず、こほこほ出てしまうのを手でおさえる。


「連れ合いって。隣のじじは、そういうのじゃないよ」

「似たようなものだろう。儀式などせずとも、結ばれていることなどめずらしくもない。ああ、おまえは風邪かえ。おばばの連れ合いよりもおまえの薬が必要か」


 まったく、あのおばばはほんに荒い。

 咳が止まらないわたしに呆れの声をこぼすと、シュンランは薬棚の一番上の引き出しのひとつをあけて、なかから小瓶を取り出した。透明な水が入っている。そこから長い指でなにかをつまむと、口をお開けとわたしに言った。

 透明で、なにもないように見える。かがんでわたしの顔の前にそれを差し出すと、きらりとかすかな光が形を映した。透明な玉。米粒くらいの大きさで真ん丸だ。


「なあに、それ」

「花からとった朝露、とでも言っておくか。おばばの連れ合いのものよりずっと小さいけれど、おまえの風邪には十分すぎる」


 口をお開け。これを隣のじじが、と思うわたしをよそに、シュンランは半開きになっていたわたしの口に花の朝露を放った。

 ひんやりとした冷たさが、すっと溶けて消える。一気に呼吸が楽になった。


「シュンラン」

「おばばめ。わかっていて風邪をひいたサキを寄こしたな。ほんにおまえも私も、よぉく使われてしまうものだ」


 使いが荒いおばばだ。困ったものだ。

 機嫌よく言うシュンランは、小瓶をしまうとなにごともなかったかのように調合へと戻る。

 これが終われば葛餅をこさえねば。サキの好きな葛餅だ。

 歌うような声に誘われて、夜の気配が強くなっていく。木の根や葉にからまる光の玉が、夜空を作り出すころには、すっかりわたしの咳は止まってしまっていた。


「おい、おまえ。ちっこいくせに、どうして朝露もらえたんだ」


 がらがらのだみ声に驚くと、緑色の蛙が目をすがめてわたしを見あげる。背中に鮮やかな青でなにかの紋様が描かれていた。


「あれは、おれがいくら言っても、ひとっつももらえなかったんだぞ」


 このシュンランの庭に来るようになってしばらく。森の妖たちもわたしの存在に慣れてきたのか、たまにこうして姿を見せてはちょっかいをかけようとする。

 シュンランと過ごしていると忘れがちになるが、妖は人をかどわかし、食らう。ここではシュンランがいるからか、鈴のおかげなのか、危険な妖は出てこなかったけれど、何事も油断は禁物だ。下手に応えて連れ去られたり、術をかけられたりしてしまう。

 この蛙は、わたしがシュンランになにかしてもらうごとに現れて、ぶつくさと文句を言うのが常だ。これは、大丈夫。


「シュンランが、風邪を治すためにくれたのよ。おまえは元気だったからでしょう」

「ずるいぞ、ずるいぞ。おまえが、あのおばばの孫だからだ。白の君は、おばばの言うことならきくからな」

「……どうして、おばば様に逆らわないの?」


 蛙はぴょんと跳びあがって岩の上にのぼった。

 夜の森は、朝の花畑とはまったく違う。蛍火みたいな玉の光がきらきらと水面に映って、虫の音があちこちで響いた。不思議な不思議なシュンランの庭。

 声をひそめて尋ねると、蛙は得意げに咽喉を膨らませた。


「そんなことも知らねえのかよ。そりゃあおまえ、おばばが白の君を助けたからさ。強い妖だって、強い妖同士で争うこともあるもんだ」

「――これ、蛙。サキに妙なことを吹き込むでない」


 げっ! わたしのうしろから聞こえたシュンランの声に、蛙は素早く岩を蹴って水へと潜った。ぽちゃんと飛沫があがって波紋が遠ざかる。


「シュンラン」


 聞いてはいけないことだっただろうか。

 身を縮こまらせると、冷たい手が背をおして中へとうながす。


「また小物たちにからかわれるぞ。寝床においき。そうして、褥で話してやろう」


 気にした様子がないことに、ほっと胸をなでおろした。シュンランに導かれるまま奥の間をとおりすぎ、水面にたゆたうわたしの舟へと乗りこむ。

 ふかふかの布団にくるまれると、その枕元に妖の男が座した。


「おまえはものわかりがよいからの。言わずとも察すと思って、言わぬことが多いが、わからぬことも多いのを忘れておった」


 ゆっくりとした口調で、シュンランは森の夜に目を向けながら遠い昔を話してくれる。

 わたしは布団のなかで静かに耳をかたむけた。水の流れの音に混じって、虫の音と、シュンランの声。


「おばばと初めて会ったころ、私は力比べを挑まれれば受けて立っておったのだ。そうしてまんまと負けてしまった。――この面の下にはな、そのときに負った傷が残っておる。おまえには気持ち悪かろう」


 白い布に手をかけたけれど、それをめくることはしない。


「強い妖だった。この傷は消えぬよ。力を使い果たしてしまった私は血も止められずに、もはやこれまでかと地に伏しておった。そこに来たのが、おまえのおばばだ」


 ふっと、唇が笑みをつくる。ため息のような笑みだった。


「小さな人の子のくせに、私におびえるでも逃げるでもなく。治してやるが、そのかわりに妖の力を貸せと言い出して。私は渋々それに応じた。わずらわしければ食ってしまえばよいと思ってな」


 さらりと白い手がわたしの髪をなでる。面の向こうの目がわたしをやさしく見下ろして、その先を続けた。


「そんな私の思惑など知ってか知らずか、おばばは見事に私を癒し、礼として棲家を見せろと言ってきかぬ。しかたがないからここへとつれてきた。それから、サキ、おまえとおなじようにこの水辺で遊び、花の寝起きに瞳を輝かせたものよ。あの蛙も、よくおまえをつつきに来る鶏も、おばばによぉく懲らしめられてな。だからおばばが怖いのだ」


 森にすむ妖たち。おばば様は彼らから、妖というものの存在を知っていったのか。

 人を惑わす妖。けれども、そればかりではないのだと知っていったのか。


「命を助けられてしまったからな。おばばの頼みとあってはしかたがないこと。叶えられることなら引き受けておるのだ」


 シュンランの手が、何度も何度もわたしの髪をすく。

 その手に、聞こえてくる夜の音に、シュンランの声に、わたしの瞼はおりていく。


「けれども、あれは無茶なことなど乞わなかった。秘術の習得のために私のそれを見たり、薬草を見分けたり。妖の力を頼るなど、此度が初めてだ。あれはあれで、心根のやさしい娘だ」


 やわらか声に、眠りへと誘われて。

 その晩、小さなおばば様が水辺を駆けている夢を見た。水を蹴散らし、小物をからかい、笑い声をあげるこども。シュンランがおだやかに見守る、やさしいやさしい夢だった。




***




 幼馴染の織り機が完成して、少ししたころ。隣のじじは静かに息をひきとった。

 おばば様はそっと目を伏せてから、じじに別れを告げていた。村の墓場の一番奥。木の少ない小さな丘に、じじの墓がたてられた。

 それから。

 もう使いで森へ行かなくてもよいわたしは、今までとおなじくらいの頻度でシュンランのもとを訪ねていた。

 幼いおばば様のように、彼のところでも秘術と調合を学んで、たまに小物と言い合ってはシュンランが笑う。

 晩にはかならず葛餅を食べ、枕元に座した彼に眠りへ落とされ、朝の花たちをふたりで眺めた。


 年を重ね、わたしがもうこどもの域を出るころには、すっかり秘術の腕もあがっておばば様に叱られることも少なくなる。

 おばば様のところにくる村の人たちの頼みごとも、だんだんとわたしが請け負うようになってきていた。

 シュンランの庭へ行く間もなくなって、ひと月に一度だったのが、ふた月に。ふた月が三月に。

 次第に足が遠のいて、あの不思議な水辺を懐かしむ時間さえも少なくなってしまう。

 そんなときだった。おばば様が倒れたのは。





 わたしは深宵の森を駆けた。

 草を掻き分け、根を飛び越え、奥の奥へと向かっていく。

 ここのところ、おばば様はあまり出歩けなくなっていた。足が悪いのもそうだけれど、歳には勝てぬわと言いながら、家のなかを行き来するくらいで。

 わたしが生まれたときからずっと、この村の年長者で象徴だったおばば様。


 妖でもない、人だから、寿命があるのはわかっていた。けれども、おばば様はずっとずっとわたしや村を見守ってくれているのだと思ってしまっていたのだ。

 はあはあと息が上がって、シダの岩肌に手をついて整える。そこでわたしははっと腰を見やった。――鈴を、忘れてしまった。

 いつもシュンランのところへ行くときには、引出しから取り出していたあの銀の鈴。


 ――鈴をなくすと、さらわれると覚えておいで。


 不思議な声を思い出して、わたしはあたりを見回す。

 夕暮れの深宵の森は、濃い闇に包まれていた。


「……シュンラン」


 急いでいたとはいえ、彼の言いつけを忘れてしまうとは。

 こちらをうかがう気配がある。

 いくつもいくつも。小さな気配なら祝詞で散らせるだろう。けれども、あの楠の先のはだめだ。あれは、だめなやつだ。白い影が、ゆらりと木陰から躍り出た。


 ――人の子、人の子、こちらへおいで。赤い着物はだれのもの。その帯とくのはだれの手だ。


 歌う声が、近づいてくる。答えてはいけない。目を合わせてはいけない。


 ――赤い着物はだれのもの。その帯とくのはだれの手だ。


 大きな影がわたしに迫る。大きい。手足が長くて、猿のような面が視界をかすめる。

 闇を増した森を、わたしは岩肌を伝って駆けた。振り返らずに、奥の奥の泉を目指す。シュンラン、シュンラン。

 急いで彼のもとへ行かなければならないのに。こんなところで、わたしがいなくなってはいけないのに。


 ――赤い着物は、


「おさがり」


 耳元にその息づかいと、不気味な声が伝わったとき。あの声色が森に響いた。

 白い着物を闇に溶かして、わたしと妖の間に立つ姿。


「シュンラン!」


 布面のむこうで笑みを浮かべる見慣れた男。わたしの背をおして遠ざけると、シュンランは妖へ視線を戻す。

 おおいかぶさるように迫った妖に、長い指を二本立て印を組み、その指でぴんと猿の面をはじいた。動きを止めた猿面は、ぴきぴきと音を立てて面にひびを走らせる。

 バキンと大きな音がして、くだけた面と一緒に消えてしまった。


「困った子だこと。あれだけ言っても、鈴を忘れてしまうとは」


 しんと静まった森に、笑いを含んだシュンランの声だけが残る。こちらをうかがっていた妖たちの気配も、一瞬にして消えてしまった。

 わたしは安堵にくずれそうになる足を叱咤して、彼の着物の袖をつかんだ。


「シュンラン、おばば様があぶないの」


 はっと息をのむ気配がする。しょうがない子だ、と笑みさえ浮かべていたその顔が固まって、見開かれた目が、面ごしにわたしを見つめた。

 沈黙をはさんで、唇がようやく動いた。


「……もう、その頃合いか」


 呟くようにこぼして、視線を森の闇へとさまよわす。


「人とはほんに、儚いことよ」


 寂しげに言うと、シュンランは着物を掴んだままのわたしの手に冷たい手を重ねる。やんわりと指を解き、袖から離すとそのまま握る。

 視線を森からわたしに戻し、まっすぐと見つめた。


「サキ、おまえは村を離れられまい。早うお帰り。おばばの最期を看ておやり。私の力を、あれは望んでおるまいよ」


 幼いころのわたしに、言い聞かすのとおなじその声。


「サキ。おまえももう、立派な秘術師。やることはわかっているはず。おまえの村を支えておやり」


 歌うように、どこか悲しさをのせて、シュンランはとんとわたしの背をおす。

 わたしは、深宵の森を駆けた。


「いつの間にやら、大きくなってしまったのだなあ」


 そんな言葉を、背中で聞きながら駆けた。




***




 おばば様は、眠るようにいってしまった。

 意識をなくして倒れてから、わたしのほどこす薬と、たいた香と、村の人たちの看病で目を覚ましたのは夜が二度すぎてから。

 ひとこと、ふたこと、わたしに言うと、そのまま瞼をとじて眠ってしまった。眠って、そして息が絶え、ここから旅立ってしまった。


 泣いて泣いて惜しんでくれる村の人たちと一緒に、おばば様を弔う。

 隣のじじが亡くなってから、もう八年。そのじじの墓の横に、おばば様の墓をたてた。

 幼馴染が織ってくれた悼みの帯を、わたしはその墓石に結ぶ。樅木色の香をそえ、火をつけて煙をくゆらせる。手を合わせて花を手向けてくれる村の人たちが、わたしの肩を、背を、順番になでてはなぐさめた。






 翌朝、眠れなかったわたしは日がのぼるのと同時に家を出る。おばば様が眠ったばかりの墓へ向かって、そのふたつ並ぶ石を見て、はっと息をのんだ。

 一面に咲く、白い花。

 おばば様と隣のじじを囲んで咲き誇っているのは、あの花。

 さっと駆けた風に吹かれて、さざ波のように丘一面の花たちはゆれている。

 足を止め、わたしはその光景を眺めた。

 朝の陽ざしを受けて、その露をきらきらと光らせる花たち。

 見守るわたしに気づいてか、ゆっくりと首をかしげ、そうして一斉に土へと還ってしまった。


 ――ほら、ごらん。


 聞こえないはずの声が聞こえる。


 ――ぱしゃん、ぱしゃん、ぱしゃん。


 ないはずの水が音を立てる。

 そしてそこには、風が吹く丘と、ふたつの墓だけが残った。






 その花が枯れるころ、またおいで。

 幾度となく言われた言葉。わたしは引出しから銀の鈴を取って、深宵の森を走る。りん、と小さく鳴るその音を、本当に久しぶりに聞いた。

 シダの岩肌、小さな泉。とおりすぎて水辺におりたつと、慣れた小路を彼を目指して駆けた。

 息があがって、肩をゆらしながら根の洞窟までやってくると、黒い着物に白い布面の男が立っている。わたしは迷わず、シュンランに飛びついた。


 あやすようにわたしの髪を一度なでると、シュンランはおいでと手を引いてわたしを舟へと導く。

 花が眠ったあとの水辺は静かで、それを眺めながらふたり、寝台の上へと並んで座った。わたしは面の向こうの瞳をまっすぐと見つめる。


「シュンラン、ありがとう」


 丘に咲いた白い花。誰が手向けたかなんて、言うまでもなかった。


「昨日の晩に、静かに、目を閉じてしまったよ。でも、よいひとときだったと言っていた。瞬きをするみたいにあっという間で、その一瞬がとても大切だったと言っていたよ」


 手を握るわたしに、そう言って微笑んだおばば様。村のことも、森のことも、わたしのことも、惜しみなく愛してくれたおばば様。

 その孫であることを、こんなに誇りに思える。わたしも、おばば様のようになりたいと心から思える。悲しみもあるけれど、どこか胸はあたたかい。


「ならば、よい。あれの生が幸せであったなら、それほどよいことはない。少しの間、行き場のない思いを私が持て余すだけだ」


 シュンランも、そうなのだろう。おばば様がそうだったように、たくさんのものを見守って大切にしている。

 けれども彼の場合は、何度も何度も、大切なものが別れを告げる。やさしい妖は、そのたびに胸を痛めてしまうのか。


「朽ちる命でない私には、愛でるものが多すぎる」


 わたしの思いを読んだ悲しげなため息に、わたしはそっと笑みを返す。


「それなら、退屈しなくていいね」


 頭に手をのせられたまま、わたしは傍らを見あげて微笑む。

 今はまだ、痛む胸。けれども、その傷は癒えるものだ。面をつけずにすむものだ。


「ねえ、シュンラン。シュンランの周りには、いつまでも大切なものがあり続けるんだよ。花も、水辺も、森も、妖たちも、おばば様も。ずっとおなじじゃないけれど、それってとってもすてきなことね」


 はっと、息をのむ気配。

 見開かれた瞳がわたしをとらえ、形のよい唇がわずかに開く。一瞬の間を挟んでから、それは小さく笑みをつくった。


「……ああ。そうだな。たくさんありすぎて、困ってしまうな」


 きらきらと光る水面、生い茂る緑、流れる水。

 それらにゆっくりと目を向けてから最後にわたしに目を戻し、シュンランはそっとため息をこぼした。


「少し眠るとしよう。そうして、起きてまた、愛でるとしよう」


 おまえもお眠り。真っ赤な目をとじて、少しの間お眠りなさい。

 くしゃりとわたしの髪をなで歌うようにそう言うと、シュンランは瞼をとじる。

 なめらかな頬を、つつとこぼれた雫。

 わたしはそれを丁寧にぬぐった。おやすみなさい。囁いて白い髪をなでてから、わたしも眠りへといざなわれるのだった。


以前載せていたものの再掲です。

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