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12話

「さて、揃った事だ。状況の整理と行こうか」


 平常時でも響く程に大きなダンの声が伝わる。

 一つの大きなテーブルには食事が並んでいた。白米や味噌汁を前提として、近くの川から取れたであろう魚の炭火焼きやキノコや野菜を和えたサラダ、たくあんと共に煮込まれた肉等も並んでいる。それらを中心に全員が囲んで並んでいるような状態だった。


 違うとすればヴィルの周囲だろうか。

 左側にいたはずのノーグはダンとギネの間に押しやられアリアが座り、右側をシャロが陣取っていた。相も変わらず頑として膝上に座るヒナへ二人揃って鋭い視線を見せる様子に、ヴィルは小さな溜め息を吐きながら心の中で挨拶を済ませる。


「そうだね。皆、揃った事だし、ようやく」

「一応、ヴィルよりは今の状況を知っているつもりだよ。シャロから聞いていたけど、村に来ても変わらずに籠っていたらしいじゃないか」


 ノーグから放たれた言葉に額へ青筋が浮かぶ。

 ただでさえ、動けない状況であり、食事が並ぶのを待つしか無かったのだ。既に長時間、ヒナが座り続けている影響で痺れすら湧いてきていた状況下では、幾ら心優しい彼でも中指を立ててしまうのは仕方の無い事であった。


「なら、ポーションとかは必要無いね」

「うん! それとこれとは別問題かな!」

「うんって言ったし、ノーグだけは無しで行こう。その分だけ売れるし懐が潤って助かるわぁ」

「だから! 僕の扱い酷いって!」


 煽り目的であったとはいえ、反撃が痛過ぎた。

 ノーグは経験上、ヴィルの冗談が冗談で済まない可能性がある事を知っていた。過去にも似たように煽った事があった。その結果が支援を一度もしてくれないという孤軍奮闘状態にされてしまい、その体には幾つもの生傷が伝わる痛みだけが残る思い出だった。


 だからこそ、両腕で罰を作って拒否の意を示す。

 だが、唐突に上半身にポンという音がするとハタと背を床につけた。一瞬の出来事、それを行なった者は耳を塞ぎながら、まるで誇ったかのように笑顔を浮かべている。


「ヴィル、お兄様は私の意思を汲んで口を噤んでくれました。どうぞ、ダン様とのご歓談をお楽しみください」

「そこまでしなくてもよかったんだけど……ありがと」

「いえ、全ては騒がしい愚兄が悪いのです」


 ダンとギネの背中には嫌な汗が流れた。

 何処にいようと女性の強さというのは変わらないのか、と考えが至るのと同時に視線を見合わせる。ジーナが満面の笑みで自分達を見詰めている事に気が付いたのだ。だからこそ、ダンは態とらしく大きな咳払いを一つして口を開く。


「ま、まぁ……話を戻すか。んで、最初の確認と行こうか。調査についてはどこまで進んだんだ、嬢ちゃん」

「……三階層までは地図を作っておいた。一階層で出てくる魔物はウルフ系統のBランクの群れ、三階層でオーク系統のAランクが混ざってくる」

「……すごいな。そういった事には知見がねぇから分からないが普通の事なのか」

「まさか……シャロの腕が優秀なだけだよ。シャロは固有ジョブ持ちのギフテッドだからさ」


 ギフテッド、神から力を与えられた者を指す。

 この世界ではスキルと呼ばれる通常の人間では扱えない異能が存在した。その中でも万、億単位で稀有なスキルが固有スキルと呼ばれ、それを持つ者達の事を広義的に総称するために新しく作られた語録である。


 そして、同様に口にされた固有ジョブ。

 この世界にあるジョブと呼ばれる各個人が生まれながらにして与えられる役職がある。その中でも固有スキルと同様に万、億単位で稀有な職業を総じて固有ジョブと読んでいた。確かに固有ジョブ持ちのギフテッドはそう少なくは無い。だが、白の角蛇を除いた面々は嫌という程に納得出来てしまった。


「随分と面倒な事だな。……種族故か」

「……違うと思う。少なくとも両親は違ったから」

「はぁ……悪ぃ事を聞いたな。本当にすまねぇ」


 悲しげに口にした顔にダンは謝るしか無かった。

 ノーグが明確に敵意を向けたのは何も信用出来ないという一心だけでは無かったのだ。産まれの影響で、味合わずとも良かった最悪な経験を思い出させないための優しさでもある。柔らかな感触が右腕から消え、ヴィルも鉛のように重い口を無理やり開いた。


「暗い話は無しだ。確かに良くない話ではあったけど今は違うだろ。少なくとも……こうして楽しく笑いあえているんだ、違うか」

「ん……大丈夫。少し懐かしくなっただけだから」

「大丈夫さね」


 ガスと低く鈍い音と共に優しい声が響いた。

 その笑顔はヒナやヴィルを抱き締める時と相違なく、俯きかけていたシャロを引き止めた。同時に左腕に感じたのは暖かい感触、自身が離してしまった過去を、抱き締めさせようとしてくれる大切な感情であった。だからこそ、二人の顔を見る覚悟を決める。


「ほら、馬鹿は処しておいたよ。それにヴィルと親しくしている女の子なんだ。アタシが母親と言っても過言じゃないよ」

「……ん、ありがと。ジーナさんの事、大好きだよ」

「なら、辛気臭い話は終わりさね。さっさと本題に戻るよ。少なくとも食事に関しては準備は終えているからね。一週間は満腹で居られる量を整えておいたよ! で、ギネはどうだい!」


 その問いと共に自身の茶碗を一気に掻き込んだ。

 それを見てハァと大きな溜め息を一つ吐いてからギネも自身の茶碗を空にする。それをジーナに渡すのと同時に覚悟を決めたかのように「同じ量を頼む」と伝えた。頷く様子に少し安堵した表情を見せてから一つだけ、たくあんを口にする。


「ディーラとキアラにも手伝って貰っているから今日中に、こっちの準備は終えられそうだ。それでも素材の関係上、質はかなり落ちたけどな」

「魔工技師……でも、難しかったんだ」

「……はぁ、何年も俺は作ってないからな。油に手を付けたのだって久方振りだったぞ。とはいえ、二人の腕がかなり上達してくれていたから達成は出来たけどな」


 魔工技師とは、ギネの固有ジョブであった。

 書物にさえも載っていない名前は多くの者達から興味を持たれた。名前からして生産系統の職業だろうという考えは……戦闘を好むギネの手によって大きく塗り替えられた。魔法職よりも魔力操作を得意とする特性を武器に支援へ力を入れたギネは、生産職でありながら近接職と同等の力を手に入れたのだ。


 そして、生産職としての腕も確かなものだった。

 彼の持つローブや杖への付与は他でもない自分自身で行ったものである。作成最中への付与は難しくない技術だったが、他者が作り出した物への能力の付与や改造は一流であろうとも出来たものでは無い。ましてや、それらを作成したのも超一流の錬金術師となれば不可能に近いだろう。


「どうせ、昔の自分と比べているんだろうよ。それを言ったら俺にだってジーナに言いたくなる事だってあるからな。でもよ」

「ああ……気を抜いていた俺の失態だ。それにSSランクのダンジョンまでなら容易に攻略出来る魔道具だったからな。使うには問題ないのと、魔力補充も馬鹿娘がしてくれたよ」

「へー、面倒臭がりなキアラが珍しいね」


 他人事なヴィルの言葉にギネは立ち上がる。

 珍しく怒りを露わにする様子に少し恐怖を覚えたが戯れである事は分かっていた。近くまで来たのと同時に幼く柔らかい両頬を、強く左右反対方向へ引っ張ると話して顔を近付けた。


「お前が頑張れって言ったからだろうが! 今回だって恋人にしてもらうためとか言って寝ずに作っていたんだぞ! しかもな! お前用のだけ妙に質が良くて焦ったわ! アァンッ!?」

「ご、ごめんなさい……」


 でも、と続けようとした言葉は飲み込んだ。

 魔道具を作る家系のディーラとの間で産まれた固有ジョブを継ぐ天才少女、そんな存在を生み出したのも間違いなく目の前の少年が居てくれたからであった。だから、ニッと笑顔を見せると強く抱き締めてみせる。その様子に頬を掻きながらダンは口を開いた。


「はぁ……まぁ、ヴィルが外に出てきたって事はポーション関係の準備も終わったって事だろ。それなら明日からでも行けるってこった」

「……なら、明日の朝から最初の出撃を行うって事でいいかな。最低でも五回は探索が必要な場所だからね。腕試しも兼ねて動くとしよう」


 ギリィと歯軋りした彼に声はかけられなかった。

 起こるかもしれない災厄、最悪な過去の再来は同じく経験した者達には怒りすら覚える光景であったのだ。そして、詳細を教えられている白の角蛇も例外ではなかった。───歴史に残る大厄災の回避のため命を懸ける、それが今回の依頼の主であった。

次回より……一章後半、厄災攻略編開始。




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