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プリズム・ライフ・ログ  作者: 椎名 マリ


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2/2

アネモネ/下


「お前らが、、お前らが殺した」


男は、包丁を振りかざしながらキッチンに向かってそう言った。


「息子を殺した奴を出せ」


何度も何度もそう叫んでいた。


目当ての人物が出てこないことに痺れを切らした男は、一番近くにいた、ユミを人質にとった。

テーブルが障害となり、僕の手はあと一歩のところで届かなかった。


「息子を殺した奴を出せ、、早くしないとこの女を殺す」


男は、包丁の先端をユミの首元へとやった。僕はユミを助けようと近づいた。


「それ以上近づくな!!一歩でも近づいてみろ、今すぐにこの女を刺す」


「落ち着いてください。話を聞きますから、包丁から手を離してください」


男は僕に包丁を向けて言った。


「うるせぇ!!お前も刺すぞ!!」


ダメだ、目がいってる。とても、話ができるような状態じゃない。


「ウゥゥゥゥーッ!」


遠くからパトカーのサイレン音が聞こえてきた。

誰かが通報をしたのだろう。


「チッ、誰かが通報しやがったな。10秒だ。10秒以内に息子を殺したやつが出てこないのなら、この女を殺す。女を殺したあとは、別の奴を人質にして、10秒待つ。

犯人が出てくるまで殺し続ける」


男は、冷静に、そして、芯のある声でそう言った。


「10、9、8、、


ユミが危ない。今すぐに動かないと、いけないのに体が言うことを聞かない。怖い、、怖い、、、

僕は恐怖していた。


「7、6、5、、


包丁を持つ犯人が怖かったんじゃない。


ユミを失ってしまうことが怖かったんだ。


僕の料理を口パンパンに詰めて美味しいと言うユミ。部活のことを身振り手振り楽しそうに話すユミ。誰よりもノリノリで歌うユミ。


ユミの笑顔が見れなくなる。もう二度と会えなくなる。


そんなのは嫌だ!!


「4、3、、、


「俺のユミから離れろぉぉぁぉ!!!」


僕は左右の手を大きく広げ、無我夢中で男に向かって突進した。男は、すぐにこちらに気づいた。


「来るんじゃねぇぇぇぇぇ」


ユミの首へと向けられていた包丁が僕へと矛先を変える。


男はユミを後方へと激しく突き飛ばした。

両手で包丁を持ちその場に立っていた。歯を剥き出しにし、獣のように見えた。


僕の突進が男に直撃した。


「ダンッ、バンッッ!!」

車と衝突したような衝撃が僕の体に伝わった。男は、思いのほか簡単に地面へと倒れた。僕は男の腰を両手でしっかりと掴み地面から動けないようにした。


「退けや!!ーーオラッ!」


男は膝を激しく動かし抵抗した。肋に何度も男の膝がぶつかった。骨と骨のぶつかり合う鈍い音が店内に響き渡っていた。僕は体格差で圧倒的に負けていた。必死に、不恰好でもいいから、ユミを絶対に守る。


「ゴフッ、、ガッハッ、ハァハァ、、」


離さない。

気絶しても離さない。


死んでも離さねぇ。


「離せぇぇ、くそーーーー」


男は、絶えず抵抗していた。僕は、とうに、腹の感覚など無くなっていて、ドチャッやグチャッなどの内臓が弾ける音だけが聞こえていた。


僕が両手を離さないところを見た男は、左手で僕の顔を殴り始めた。


「いい加減退け!」


痛ぇ、痛ぇ。体格差のせいだろうか。一発一発が鉛で殴られてるかのように感じた。潰れた目の隙間から、血がたくさん飛び散っているのが見えた。


殴るのも、膝を激しく動かすのもやめ、男は包丁を僕の首に突き立てた。


「なんで、なんで、退かないんだよ!!どいてくれよ!本当に刺しちまうぞ!」


男は叫ぶように僕に問いかけた。悲痛を訴えるように。


「俺は、ユミを愛している!この世でたった一人の大切な人なんだ。お前を離すとユミが危険な目にあうかもしれない。だから、、死んでも絶対に退かない!」



「自分の愛する人を命かけて守って何が悪い!!!」


血反吐を吐きながら、途切れ途切れの声でそう言った。

僕はより一層手に力を込めて、男が動かないようにした。


男は動きを止め、包丁を地面へと投げ捨てた。


「なんで、、、なんで、、、、なんで、、」


男は両手で顔を覆いながら消え入りそうな声で呟いた。

鼻を啜り、喉を震わしながら、大粒の涙が頬を伝っていた。僕は犯人から両手を離した。もう、襲ってくることはないと判断したからだ。


「チャリンチャリン」


艶のある木のドアが開いた。警察官が4、5人店に入ってきた。外からはパトカーのサイレン音が鳴り続けていた。


その後到着した警察に身柄を確保され、男はパトカーの方へと連れて行かれた。男は警察の指示に従い、暴れることはなかった。


辺りは野次馬が大勢おり、ガヤガヤとした雑音が広がっていた。


男は、パトカーに乗る直前、こちらを見つめていた。


「すまなかった」


雑音のなか確かにこう聞こえた。男は、パトカーに乗り夜の闇へと消えていった。


ユミに外傷はなかった。僕はお腹と顔が痛かったが、なんとか動くことができた。大した、怪我じゃないと思い、救急車は呼ばなかった。


店は野次馬で埋め尽くされた。少し落ち着きたかった、僕たちはすぐ近くの砂浜へと移動した。


砂浜へと移動中ユミが言葉を発することはなかった。

無理もない、さっきまで殺されそうになっていたのだから。そんなことを考えてるうちに砂浜へとついた。ゴミ一つない綺麗な砂浜は、月の光で白く見えた。


「パンッッ!」


何が起きたかわからなかった。


「なんで、こんな危ないことしたの!!もう少しで真太郎も死ぬところだったんだよ!」


ユミの渾身の平手打ちが炸裂した。ちょっとMな僕でも、怪我の上からのビンタは流石に効いた。


「ごめん、、、」


僕は地面を見つめながらポツリと謝った。


「真ちゃんが死んだら、、私、、」


その声は震えていた。店を出て初めてユミの顔を見た。

頬を伝う涙が燦然としていた。


「真ちゃんが生きててよかったよぉ〜」


ユミは子供みたいにわんわん泣いた。涙枯れるまで泣けばいい。僕は左右の手を開いて、優しく抱きしめた。


「助けてくれてありがとう」


15分ほど泣いた後、落ち着いた。


「ユミちょっと話があるんだ。」


今度は僕の声が震えていた。今プロポーズするべきではないんじゃないか、と言う思考が脳を巡った。しかし、僕の中の林修が囁く。今でしょ!


「ちょっと後ろ向いてて」


ユミの視線を外させた。カバンから花束と指輪が入った箱を取り出し、背中の後ろへと隠し、ユミと向き合った。よかった、花束は綺麗な状態だ。深い深呼吸を何度か繰り返し、ついに言った。


「どんなことが起きようと、貴方を一生守り、、、、


あれ、これって、花束と指輪どっち先に渡すんだっけ。

やばい、どっちだこれ。

プロポーズの言葉を言っている途中。僕は大いにテンパった。


あたふたしていると、海水で濡れて不安定になっている砂浜のせいで足を滑らし、盛大に砂浜に顔を突っ込んでしまった。


「ドシャッ!」


体が前に倒れた拍子に指輪と花束を同時に彼女の前に出した。やらかした、、、、


「ッフフッ、、アハハハハ、アハハハハハ、泥で顔がぐちゃぐちゃだよ笑」


ユミの眉尻が下がっていた。


「で、でも、花と指輪は汚れてない」


僕は、子供が言い訳するかのようにそう言った。


「そういうユミこそ涙と鼻水で、顔がわかんないよ」


「ブッ、、ハハッ、アッハハッハッハ」


二人は笑い合った。この状況が面白かった。砂で顔を覆われた僕。鼻水と涙でぐちゃぐちゃのユミ。この時間が永遠に続けばいいのに。

笑い合った後、僕はついに覚悟を決めた。花束と指輪どっちも一緒に渡せばいい。順番なんて関係ない。よし、あの言葉を言うぞ。


「どんなことが起きようと、貴方を一生守ります」


「俺と結婚してください!!」


声に震えはなく、噛まずに言えた。花束と指輪を同時に前に出した。


喜びと驚きと楽しさが、混じった顔でユミは言った。


「はい!喜んで!」


僕は歓喜のあまり、飛び跳ねた。海水で柔くなった砂浜を何度も。僕の服に泥がついていたが、そんなのを気にするほど大人じゃなかった。


あ、、指輪つけるんだった。


僕の両手にしっかりと握られている花束と指輪を見て思い出した。


「ユミ手を出して」


ユミの細くて華奢な指に優しくつけた。


「それと、、これ」


僕はユミに青いアネモネも渡した。ユミは、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめる子供のように、花束を抱きしめていた。



満点の星空が海面に反射して、キラキラと輝いていた。まるで二人を祝福するように。

僕たちは、視界いっぱいの青を眺めていた。



青いアネモネ


花言葉は、「固い誓い」


























後日、病院に行って診察してもらったところ、肋骨4本骨折していたそうです。

アドレナリンすごいですね。

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