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ラノベ残酷物語  作者: 秋山完
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09●「いかにして勝ち取るか」でなく「いかにして何を残すか」

09●「いかにして勝ち取るか」でなく「いかにして何を残すか」





◆「中高年ラノベ」の内容に求められる特徴〈承前〉



③作品テーマの方向性ベクトルが、「いかにして勝ち取るか」よりも、「いかにして何を残すか」にシフトしていること。


 バブル景気が潰れてから、この国の企業で一気に広まったのが、「仲間内の苛烈な競争」でした。企業は生産性を上げると称して、正社員同士、非正規社員同士、そして正社員と非正規社員を「能力主義・成果主義」の名のもとに細かな評価基準で競争させ、敗者は職場から排除される、という異常なほど緊張した職場規律が日常化していきました。しかしその実態は、井の中のかわずが、互いの足を引っ張り合っていただけにすぎなかったのですが。ただし、上司の役員や部長など経営層は雲上の無風地帯で胡坐あぐらをかいていたような……


 そんな社会の荒波をモロに受けたのがラノベ文化らしく、デスゲームな作品が象徴するように、非情な戦場で「闘って勝ち取る」お話が目白押しとなりました。

 描かれるのは「力によるマウンティング合戦」であり、ロートルな読者である私は読むたびに「勝ってどうする?」という素朴なギモンにとらわれたものです。


 「勝ち取る」行為は、本来、目的ではなく手段なのだと思いますが、令和のラノベやコミックなどでは、「勝ち取る」行為がすっかり「目的化」してしまったようにも見受けられます。社会の価値観を反映しているのでしょうね。


 「勝ち取る」行為が「目的化」してしまうと、人間の欲望には限りがありませんので、いつまでたっても主人公たちは闘い続けて、物語が終わらなくなります。

 逆に作品が大ヒットすると、漫画の場合は連載を引き延ばすことになりますので、延々と手を変え品を変えて新手の敵が登場し、闘いが続いていきます。あの帽子を被った少年海賊のお話とか、鬼退治や巨人退治や、格闘技の連続で読ませる作品がそうなのでは?

 個人的な感想ですが、私は途中でヘタってしまいますよ。


 昭和を生きた世代、とりわけ60代以上は、第二次大戦の悲惨さをそれなりに学習しています。『ひめゆりの塔』や『アンネの日記』などで、人類の華々しい戦いの裏に、理不尽な悲劇が常に隠されていることを知る機会が多かったような。

 「戦って勝ち取る」結果、一人の勝者の足下に何千何万の敗者が屍を横たえていいものか?……といった煩悶が、漫画の名作を生んできたようにも思えます。


 ですから……

 中高年ラノベの作品テーマの方向性ベクトルは、「いかにして勝ち取るか」よりも、それら戦いの結果として「いかにして何を残すか」が大切にされるでしょう。

 そのような視点からすると、アニメ『火垂るの墓』(1988)から『この世界の片隅に』(2016)につながる系譜、傍系として『最終兵器彼女』(漫画199-2001、アニメ2002)も名作でしたね。

 そして21世紀には絶滅してしまった、『ハイジ』『フランダースの犬』『ペリーヌ物語』『赤毛のアン』などの世界名作劇場も、「いかにして勝ち取るか」でなく、「いかにして何を残すか」を説いてくれる、貴重な作品群だったと思います。


       *


 「いかにして勝ち取るか」よりも「いかにして何を残すか」に、作品テーマの方向性ベクトルがシフトしていること。


 すなわち、「利己的な視点」から「利他的な視点」へと。


 それが、40代~60代に向けた中高年ラノベのコアの部分に位置すると思うのです。

年齢的にみても、そうでしょう。

 人生、60代に入ってくると、「いったい、自分はこの世に何を残せるのか」が、切ない疑問としてのしかかってくるものです。

 他者である誰か、とくに愛する人のために、なにか役に立てたのか。

 そう自問する年齢に差し掛かってくるということ、これが二十代以下の若者層との大きな違いでしょう。


 もっとも、80代~90代になっても、カネと権力と名誉を「勝ち取る」ことだけが終生の目的と化してしまった一部の政治家さんや元政治家さんや元官僚といった、いつまでも隠居しない上級国民の皆様などの“老害族”は別として、ですけどね。



      *


 さて……


 『シン・エヴァ』のシリーズが完結してしまった……という思いは、DVDやBDを観ることで、ようやく実感されてきたことでしょう。映画館の上映が終わっても「いずれ発売されるDVDでじっくり観よう」といった気分が残るからです。DVDで繰り返し観ることで、ようやく「ああ、終わってしまった」と慨嘆するのですね。

 愛する対象であればこそ、その最期は訃報だけでは実感できません。DVDという“墓標”に対面して、ようやく心から追悼する思いになるというものです。


 エヴァが終わってしまった……


 ですから……

 次なるラノベに期待されるのは、「エヴァ・ロス」でざっくりとえぐり取られた、心の空白を埋め合わせる作品となることでしょう。


 『君の名は。』などの新海誠監督作品が、ジブリアニメの空隙を最高のタイミングで埋めたように。


 

 上記①②③の特徴を備え、『シン・仮面ライダー』の次なる「昭和ノスタルジー」の世界を構築し、そして今後数年はファンの心にわだかまり続ける「エヴァ・ロス」を埋め合わせてくれる新作。


 それがつまり「シン・ラノベ」。


 そのあたりに、ラノベの新しい道が拓かれるのでは?






  【次章へ続きます】



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