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ラノベ残酷物語  作者: 秋山完
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36●金字塔の方程式…今、「出版地獄」に何を望むのか。あるヒット作家の引退コメントが語ること。そして、目指せポテンヒット。

36●金字塔の方程式…今、「出版地獄」に何を望むのか。あるヒット作家の引退コメントが語ること。そして、目指せポテンヒット。




 前の章で、二つの例をあげました。

 『セカチュー』のメガヒット300万部(2001-2004)

 『キミスイ』のメガヒット300万部(2015-2020)

 同じ300万部でも、その困難さは倍ほど違います。

 後発の『キミスイ』の方が『セカチュー』よりもずっと「売れにくい」環境下でのメガヒット達成でした。

 というのは、両作の発売時の2001年から2015年にかけて「出版不況」が劇的に進行したからです。全国の書店数が半分近くに減っていった時期と重なるのですから。


       *


◆秋山完による「金字塔:メガヒット作」の方程式

   作品力(土台+新機軸)×社会力(投資+情報)=金字塔(メガヒット作)


 ということは……メガヒット実現の条件として、

 「作品力」だけでは、出版不況のこの時代、並みのヒットすら難しい。

 だから「社会力」が意図的に高められる必要があり、映画化やアニメ化など強力な資本投下を要し、情報力を高めたメディアミックスが、今や不可欠。それも、作品の出版前から計画されていることが望ましい……ということです。


 なぜ「作品力」だけでヒットすることが難しいのか。

 やはり世に言う「出版不況」、そもそも書店数が激減して売り場がなく、若者人口も減少するばかりなのですから。


 ラノベを取り巻く市場環境は時々刻々と悪化しています。

 そして大多数のラノベは、「作品力」だけに頼り、「社会力」としての広報宣伝の支援がほとんど得られない状況下で店頭に並べられていきます。

 陳列されるのは二、三週間程度ですか。その間に売れるだけ売らねばなりません。

 今はネット販売も並行するので、ネット内に作品情報が表示される期間は長期にわたりますが、なんといっても書名や作者名を検索してもらえなければ、認知度ゼロです。つまり、もともとある程度知名度がなくては、売り上げを期待できません。

 極めて希少な幸運の星のもと、大規模なメディアミックス戦略で知名度を拡大し、チートな「社会力」を手にする例外的な作品を除いて、そこにあるのは……

 「出版地獄」。


 売れないのです。黙って書店の棚に並び、ネット書店の片隅に存在するだけでは、もう、どうにもならないのです。


       *


 その現状を、ある作家さんが自身のツイッターに記された、「引退宣言」の文章から感じ取ることができます。1998年に作家デビュー、2013年に作家引退を決めて、記されたものです。


 かなりの大ヒット作を著された人気作家さんです。その作品は電撃文庫より2003年から2006年までシリーズ8巻が刊行され、2006年にTVアニメ放映とTVドラマ放映。実写映画が2010年公開。2010年4月時点で累計発行部数は160万部を突破したといいます。


 しかしその作家さんが、2013年に自らの意志で引退されました。

 ツイッターの「引退宣言」のごくごく一部ですが、出版業界の現状について触れられた部分を以下に引用させていただきます。


「僕が知る限り、ここ三年ほどのあいだに出た作家さんの中で、大卒サラリーマン以上の年収を継続的に得られている人はほんの少ししかいません。いくつかの作品がヒットすることはあるし、けっこうな収入になりますが、それが続くことは稀です。執筆だけで人並みの生活を送ることは、もう不可能でしょう。」

「五年前、十万部売れていた作品があったとしましょう。今なら、よくて五万部くらいかな。三万部かもしれません。来年はもっと減るでしょう。再来年も。三年後は……本になるかどうか、僕には確信が持てません。」

「今の日本では、ほぼすべての分野において、市場が縮んでいます。当たり前ですね。人口が減っているのだから。若い人がどんどん少なくなっている。日本の人口ピラミッドは逆立ちしています。小説もまた、その宿命から逃れることはできません。」



 以上の文は、今から十年も前の、2013年に記されたものです。

 『君の膵臓をたべたい』(2015)のメガヒットよりも前になります。

 この『キミスイ』のメガヒットはある意味、必然でした。本が出る前からアニメ化が決められており、「社会力」に相当するキャンペーンが怒涛のようなパワーで展開されたのですから。つまり徹底的に好条件を取りそろえた上での、メガヒットだったのです。


       *


 では、ありふれた、普通のラノベ作家諸氏は、どうすればいいのか。

 困ったことです。状況が厳しすぎます。前述の作家さんは、8巻で累計160万部の大ヒットを実現しながら、それでも引退を決意されねばならなかったのですから。

 市場環境があまりにも悪化しているということです。

 1990年代のように、「本を出せば大抵そこそこ黒字で売れる」というのなら、おそらく引退はされなかったでしょう。


 今や、コンテストで大賞をもらっても、その先が続かない作家さんが続出、この「歩留まりの悪さ」は驚異的です。

 ならば「普通の作家」にメガヒットは夢のまた夢。

 満塁場外ホームランなど、異次元の少子化対策並みに、夢の世界のお花畑です。

 いや、タイムリーなツーベースですら、手の届かぬ世界。

 とすると、狙えるのはせいぜいポテンヒットでしょう。

 ポテンヒットとは、例えば内野と外野の間など、守備陣の意表を突いた場所にボールが落ちてヒットになること。「誰かがキャッチできるさ」と誰もが思った結果、結局誰も取らずに「ポテン」と落下してヒットに判定されるケースですね。


 普通の作家にできるのは、このポテンヒットで、なんとかして出塁することのみ。


 読者に理解されやすい「土台」を踏まえ、独創的なアイデアが光る「新機軸」を上載せして、読者に「おおっ」と感激してもらえる作品を提示することでしょう。


       *


 そして出版社の編集者サイドにも、これまでにない工夫が求められています。

 ここで『半分の月がのぼる空』(2003-)の、電子書籍版の宣伝コピーを引用いたしますと……


「これぞライトノベルの金字塔! 2003年、電撃文庫より刊行が開始されたこの『半月』シリーズは、またたく間にライトノベルファンにとどまらない広範な読者を獲得しました。(中略)。ドラマ、映画、漫画、アニメになったボーイ・ミーツ・ガールの聖典をぜひ電子書籍で!」とあります。


 つまり、「金字塔!」と讃えられるには「《《ライトノベルファンにとどまらない》》広範な読者を獲得」することが必要だったのです。


 これが今こそ必須の戦略なのです。

 ラノベファンだけでなく、それ以外の読者をいかにして獲得するか。

 これは、作家よりも編集サイドに委ねられた課題ですね。作家には「ラノベファン以外にも読者を広げるぞ!」なんてことまで考える余裕なんか全くありませんから。

 書き終えるだけでヘトヘトですって。


 ちなみに、良き先例があります。

 『宇宙戦艦ヤマト』(1974)と『機動戦士ガンダム』(1979)。

 いずれも、優れた「作品力(土台+新機軸)」を持ちながら、ヒットするための「社会力(投資+情報)」が整うのに数年を要した作品です。

 その数年のギャップを生き延びることができたのは、両作品が「小学生以下の子供にとどまらず、《《中高生》》以上の観客を獲得していた」からですね。


 これです。

 ラノベの出版においても「従来の若者ラノベファンにとどまらず、《《中高年》》以上の読者を獲得するために工夫する」しかないのではありませんか?

 もう、若者は少なすぎるのです。いちがいにラノベファンといっても、若者が占める総数は、おそらく30年ほど前の1990年代にラノベというジャンルが爆誕した時代に比べれば、半分程度に激減しているはずだからです。


 「中高年にもヒットするラノベ」

 もう、これしか選択肢はないと思うのですが……




    【次章へ続きます】

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