063 怪奇
ディープ宅の広いリビングに、白いレンガで造られた暖房と隣の観葉植物。茶色い天然素材のカーペット。そして白くてふかふかなソファーに集まったバール達。
「わんわんわん!」
「よ〜しよしよし。いい子ね、ラキオちゃん」
珍しい来客に尻尾を振るディープの飼い犬、ラキオをモエが撫でている。どちらもとても嬉しそうだ。
その横でハヤトが、久しぶりに会うバールに話しかけた。
「バール、『特』が使えるようになったんでしょ?フグマールでもそうだったけど、本当バールはどんどん強くなるなぁ。」
「まだ制御は出来ねぇけどな。でもおかげで、親父の借りを返すことができた。それに世界の危機も救ったぜ!」
こんな会話をしているバールとハヤトの横で、ディープは神妙な面持ちをしている。バールの父は、ディープの師匠であったからだ。
「……でも、ビュウから聞いたんだ。ボク、敵と戦ってたはずなんだけど途中から記憶がなくて……ビュウがこっちの様子を見にきたら、倒れてるボクとバラバラになった敵がいたんだって。」
(ビュウったら、なんでもペラペラすぐ喋るのね)
モエはバールの隣で嫌な顔をしたが、口には出さなかった。
「お前が倒したんじゃねぇのか?お前なら敵の兵士長一人くらい余裕だろ。」
「誰かが助けてくれたんだよ。実際、相手の速さについて行けてなかったし、あのままだったら確実にボクがやられてた。」
ハヤトは、大陸戦争でブラックデビルを服用した科学者と相対していた。ブラックデビルとは、ロスクルド帝国が人間兵器を完成させるため開発した人体の力を極限まで高める薬で、強い精神的ストレスを与えることによってその効果が発動する。ハヤトも幼少期、この薬を投与されていた。
科学者との戦いで自らの師匠が殺されたことを知ったハヤトは、そのストレスによりブラックデビルが発動。そうして自覚のない状態で相手に勝利していたのだ。
「もっと力が必要なんだ。このままだとこの先何かが起こったとき、ボクはまた何もできずに終わってしまう……」
下を向くハヤトに、バールが声をかけようとしたとき、遠くで電話の着信音が聞こえた。
「あら、誰かしら?」
電話を受け取ったのはディープだ。何を話しているのかは分からなかったが、突然彼女が声を上げる。
「え?!そんな……まさか……!」
その内容は、バール達の裏でまた「何か」が着実に動き出している。その悪夢のような現実を告げるものだった。
薄暗い霧の中で、大きな「何か」の影がゆっくりと動いている。誰にも悟られないようにしているのだろうか。その影は用が済むと反面、速やかに撤退した。
「ヒトリズツ、ヒトリズツ……。」
ビバ帝国の隣にある、緑豊かな国テワ国。ここでは、不可解な失踪事件が多発していた。今日も一人、一人と街から住民の姿が消えていく……。




