3話 本当の姉弟とは
「馬那斗は?」
「今日の長旅で疲れたみたい。寝たわ」
と言いながら、あたしはソファーに座った。
テーブルには缶ビールと数種類のおつまみ。先に知世と彰君で呑んでた見たい。あたしはまだ未成年だから、もちろんジュース。とは言っても後五日で成人するんだけど。
「はしゃいでいましたからね、馬那斗」
「うん」
初めて会う神さんにびくついていた。
まるであの時のあたしを見ている見たいで懐かしかった。そして馬那斗が男の子で本当に良かったって、心の底から思ったの。だってこれから馬那斗はあの時のあたしと同じようにガードされるから、もし女の子だったら間違えなく神さんに恋に落ちる。そんなことになったら、あたしのライバルになるところだった。
「それより、本題に入りましょうか?」
「そそうね」
そう答えると、知世は早速一枚の写真をテーブルの上に置いた。あたしと彰君はそれを除くと、それはあいつの写真だった。
今まで一度だって、この顔を忘れたことはない。今だってたまにあの時の夢を見てうなされるぐらい。
「これ今朝仕入れた写真よ。警察を欺くために多分整形するとは思うけど」
「さすが、知さん。準備が早いですね」
彰君の目はいつもに尊敬の眼差しで知世を見る。
本当にそんな情報どうやったら手にはいるのか不思議なんだから。
「たいしたことないわよ。それに奴はもう動き始めているのよ」
『え~?』
知世の言葉に、あたしと彰君の声がハモった。
ヤツハモウウゴキハジメテイル。
って今確かに言ったよね。
だけど知世はやたら涼しげな顔をしながら、ビールを飲んだ。知世が本気になることは、あんまりない。いつもこんな調子である。
「今朝付けられたから、振り切ったんだ」
「今朝って、もしかして」
「そう。ここに来る途中」
なぜか知世は人ごとのように話しているが、それはとんでも無いことだ。
毎回毎回心臓に悪いことを平然と言うんだから。
「でも、なんで?」
「あ、私が教えたから」
「はい?」
「昨日ね、依頼があったんだ。報酬が良かったし、逃げ切る自信もあったし」
をい、をい。そんなこと嬉しそうに言わないでよ。
確かに知世の運転なら、余裕で逃げられることは出来る技術は持っていることは知っている。だけどそのせいで馬那斗は、すごい怖い目にあったんだよ。そのせいで車恐怖症にでもなったら、どうするつもりだったのだろう。
「馬那斗がいなければ、彰に援護射撃でも頼んでいたんだけど」
「そそう。でももう止めてよね。馬那斗が怖がるから」
「解かってるわよ。私だってあんなに怖がるなんて思っていなかったの。相変わらずの弱虫なんだから」
やっぱり知世も、馬那斗が怖がっていたこと知っていたんだ。
「俺が根性たたき直しましょうか?」
「お願い、それだけは止めて」
真面目に言う彰君に、あたしは即答で否定した。知世はそんな会話を笑いながら見ている。
冗談じゃない。
彰君に根性たたき直されたら、可愛い馬那斗がいなくなるじゃない。彰君の家は、伝統あるヤクザの親分。だから普通じゃないの。子分達は、平気で指を詰めたりしちゃうんだから。考えただけでも、ゾッとしちゃう。まぁだからあたし達の裏業を知っているんだけどね。こうしてたまに手伝ってもらえるし。
「そうですか」
肩を落とす彰君。
ちょっと可愛そうだけどしょうがないよね。
「それで、明日の予定はあるの?」
そんな彰君をほっといて知世はまた本題に入る。
「うん。馬那斗を連れて午後から墓参りに行こうと思っている」
「そうか。命日の時は仕事が忙しくって行けなかったもんね」
「それに、馬那斗の成長を見てもらいたいし」
馬那斗をお墓に連れて行くのは、明日が初めてだ。馬那斗にとっては、伯父さん伯母さんと言うことになっているので連れて行くのは変かもしれないと思って今までは我慢してきた。しかし今年はどうしても連れて行きたい。両親が知っているあたしと同い年の馬那斗を見せてあげたいから。心優しい馬那斗のことだから、言えば笑顔でついてきてくれるだろう。
叔父さん夫婦が愛情一杯に育ててくれたおかげで、馬那斗はまっすぐとした良い子に育ってくれている。
「そうだね。その方が良いね」
「きっと神さんに言えば、護衛も兼ねてついてきてくれるよね」
「当たり前よ」
「いらっしゃいませ。あらおはよう、みんな」
『おはようございます。遙お兄ちゃん、深沙お姉ちゃん』
喫茶店バイトの初日、一番最初に来たお客さんは五つ子達だった。
「お前ら、また来たのかよ」
「良いじゃん。どうせ暇なんだから」
「拓弥、余計なこと言うんじゃない」
どうやら図星のようだ。遙さんの顔から笑顔が消えてた。
五つ子達は前と同じカウンターの席に座る。どうやらここが五つ子達の指定席のよらしい。そしてにこにこしながら五つ子達は、あたしを見ている。
「でも、深沙お姉ちゃんが来たから売れゆきのびるかもよ」
「そうそう。大人って美人に弱いから」
子供ながら、解っている。
「そうだな。深沙ちゃんぐらい美人ならつい立ち寄るぐらいの価値があるもんな」
遙さんもそんなことをあたしの横顔を見ながらまじまじと言う。
そんなに言われると照れてしまう。遙さんだってかっこいい癖に。
だけど遙さんには、調子に乗ってしまうから言うのはやめとこ。
「そうだ。確かみんなってもうすぐ五年生よね」
あたしは思い出したように五つ子達に聞く。
「はい、そうですけれど」
「やっぱり、馬那斗君。こっちに来て」
あたしは、大声で馬那斗を呼ぶ。
今は、知世と一階のリビングでゲームをしているはずだ。
神さんがそうしろと今朝言われたのだ。
今朝の朝食は昨日と違って、全員で優雅に食べられたんだ。だから今日は朝からハッピーなんだ。
午後から行く墓参りは、予想通り神さんの車で行くことになったし今日はなんだか良い予感がする。不安があるとしたら知世のこと。知世は調べごとがあるらしく、喫茶店の仕事がある遙さんと二人だけのお留守番。何もないと良いんだけど。
「なーに? お姉ちゃん」
呼ばれた馬那斗は、喫茶店にひょっこりと顔を出す。
「この子従弟の馬那斗君。みんなと同い年だから仲良くしてね」
とあたしは、五つ子達に馬那斗を紹介する。
もし馬那斗が五つ子達と仲良くなれば、こっちに遊びに来る回数が増えるかもしれない。そしたらあたしは、すごく嬉しいな。だって馬那斗ったらあんまり遊びに来ないんだもん。あたしも滅多に北海道になんて行かれない。
それにあたしが行くと叔父さん夫婦が少しだけ悲しそうな顔するから、行きづらいってこともあるんだ。
でも馬那斗は恥ずかしそうに、あたしの後ろにちょっと隠れた。まぁ初対面だから無理もないか。
「わぁ、深沙お姉ちゃんと似ていて美形なんだ。私 芹花」
「俺、遊弥。こっちが拓弥に智弥」
「あたしは、明花。明でいいよ。馬那斗君宜しくね」
「え、うん。宜しく」
五つ子達に圧倒されながら、馬那斗も小声でしゃべる。
彰君よりこういう積極的な子達といた方が、正しい選択だよね。子供同士で遊んでいればお互いに成長出来ると思うし。
「そうだ、馬那斗君。あたし達がこの辺案内してあげる」
「本当? お姉ちゃん遊びに行ってもいい?」
目を輝かす馬那斗。
子供は、単純だ。
「ええ。いい…」
と、言いかけてあたしは口を止めた。
馬那斗も今狙われているんだ。そんな中護衛もなしに、外に行かせるなんて自殺行為だ。しかしここまでしといて駄目だとは言えない。それにそんなこと言ったら、遙さんに怪しまれてしまう。
あたしはまだ何も聞かされてないことになっているんだもん。なのに遙さんは、真剣になってテレビにかぶりついているから全然あたし達の会話なんて聞いていない。お目当ては、今人気急上昇中の美人アナウンサーって言う所だろう。
「私も行くわ」
あたしが悩んでいると、後ろから知世の声がした。
五つ子達はビックリする。
「あ、私は深沙の同居人の知世」
いつもの知世とは違い、すごい笑顔。いわゆる営業スマイルと言う奴だ。
「僕からもお願い。友姉ちゃんはちょっと怖いけど優しいんだ」
それは昨日の運転のことだろう。知世も意味が解ったらしく笑顔の額に汗が流れる。
もしかしたら、墓参りにの知世が行かないのってこのせいでもあるかもしれない。
「うんいいよ。大勢の方が楽しいもん。深沙お姉ちゃんはお店が休みの木曜日に案内してあげる」
「ありがとう」
「それじゃぁ、出発」
と、五つ子達は知世の車いすを押しながら馬那斗を連れて店を出て行った。
あたしはそれを微笑ましく見ていた。よく考えたら、神さんだってついて行っているよね。そんなに心配する必要ないか。
そしてしばらく経ち、遙さんはテレビを見終わったのか店の辺りをきょろきょろ見だした。お客は二人きりで両方とも、PCに夢中になっている。
「あれ、あいつらわ?」
「随分前に馬那斗君と知世をつれて出て行きましたよ」
「え?」
遙さんの表情が固まる。
「大丈夫ですよ。知世が着いていますし」
あたしは暢気にそう言いながら、注文されたツナサンドを作っている。
それからみんなの昼食もね。
バイト初日にして、遙さんに調理のことは任されている。ただ単に出す料理は、どうでも良いと言うことなんだと思う。やっぱり副業だけに、適当なのだろう。
今朝の掃除は結構やりがいがあった。なんか毎日掃除すらやっていない感じだった。この不景気の中今まで良くたたまずに済んでいるな、って思うほど。
さっきPCで帳簿を見てみたんだけど(なぜかこまめに付けてあった)毎日の売り上げが赤すれすれだった。
しかしあたしが手伝うからには、売り上げ倍増にするんだから。あたし昔っから喫茶店で働いた見たかったんだよね。
一方神さんは表沙汰私立探偵をやっているらしい。でも神さんはいくら副業だからといっても、ちゃんと仕事はしている見たい。
二人とも性格がでている。
だが。
「遙、ただいま。なんだか部屋が静かなんだが」
いるはずもない神さんの声がした。
「兄貴、お帰り。それがさ」
あたしはおそるおそる後ろを振り返ると、そこには神さんの姿がある。
遙さんは精一杯の作り笑顔は、冷や汗がすごい勢いで流れている。
ま、まさかとは思うけれど。
「神さん、お出かけだったんですか?」
動揺を隠しながら、そう聞く。
「ああ、ちょっと仕事でな」
その瞬間あたしの顔からも笑顔が消えた。
じゃぁ、馬那斗の護衛は知世だけ?
「五つ子達と遊びに行ったらしい」
「一時間程前に。あたしちょっと様子を見てきますね」
「え? おおい」
あたしはエプロンを脱ぎ捨てて、カウンターを飛び越え外に出た。後ろの方で慌てている神さんの声が聞こえるけれど、聞いてはいられない。
これで神さんには怪しまれることには間違えない。
でもそんなことより馬那斗の命の方が大切だ。知世が側にいるかもしれないけれど、馬那斗の他に五つ子達もいる。
ネットの中では無敵と言ってもいいけれど、実地はちょっと駄目なんだよね。あたしとしてはその方が、良いんだけどね。だってそうじゃないとあたしの立場がないもん。
今の所緊急事態の通信が来てないから、無事なんだろうけれど心配だ。知世の居場所はGPSを使えばすぐに解る。
今は近くにある公園にいる見たい。
「知世!!」
「あ、深沙。ようやく気づいた見たいね」
公園にたどり着くと、木の木陰で優雅に本を読んでいる知世があたしを見つけそんなことを言った。
馬那斗と五つ子達はサッカーをして楽しそうに遊んでいる。やっぱり知世は神さんの護衛がないことを知っていたんだ。
「知っていたんなら、何で言ってくれなかったの?」
「あいつがどこまで無能だったか知りたかったんだ。予想以上の無能男だったわ」
あいつと言うのは、遙さんのことだ。
確かにあれは遙さんのミスでもあったけれど、あたしも悪い所があった。あたしが神さんの留守を知っていたら、わざとでも遙さんに気づかせることが出来た。しかし同じことを知世にも言える。
「盗聴してたの?」
「もちろん。全部の部屋と電話に仕掛けた」
知世らしいが、なんだか神さん達に悪い。
知世はあたしと違い他人のことをなかなか信用しない。だから盗聴器を仕掛けることなど知世にとっては、日常茶飯事のこと。知世にしてみれば他人のプライベートなんて知っちゃことがないのだろう。
少しやりすぎだと思うんだけど、知世の気持ちだって解るんだ。
あたしも詳しいことは知らないんだけど、知世は昔同級生全員から仲間はずれにされたことがあったの。一時は人間不信気味までにもなってネットしか信じられなくなり、気がついたらハッカーの道を歩んでいたらしい。
だからそうしないと信じることが出来ないんだと思うんだ。神さんのことはそのうち信用すると思うんだけど、遙さんはいつになることだが。
「だったらなんで?」
「平気よ。だって私達の居場所を知っているのって彰だけでしょう? 住民票だってまだ提出してないんだもん。情報屋に頼んでも二三日は掛かる」
「そうなの?」
「うん。私だってどんなに急いでも半日はかかるわ」
不満げに知世は答えた。
それでもたった半日か。あたしには十分早いと思う。
一体知世の求めている早さってどのぐらいなんだろうか?
「あ、お姉ちゃんだ」
サッカーをしていた馬那斗があたしがいることに気づく。
「本当だ」
「どうしたの?」
「まさか、遙お兄ちゃんに虐められた?」
「もしかして神叔父さんが無神経なこと言われたんじゃ」
「それとも両方?」
と五つ子達はあたしの所に駆け寄り、とんでもないことを言い始めた。
心配してくれるのはありがたいんだけど、神さん達をあまりにも信用してないことが気の毒だな。
「違うわよ。ほらもうすぐお昼じゃない? だから呼びに来たの」
「そうそう。だからもう帰りましょう?」
「そうだね」
「僕おなかぺこぺこ」
「私も」
「今日のお昼なんだろう?」
「じゃ、馬那斗君。また遊ぼうね」
「うん。バイバイ」
そんなことを言いながら五つ子達は仲良く帰っていった。
本当に五人とも仲が良いんだね。姉弟って普通はこんな感じなんだろうか。
知世も結構兄姉同士仲良いし。あたしと馬那斗もあのくらい仲良く出来たらいいのにね。
そう五つ子が見えなくなるまで、あたしは少しだけ寂しい気持ちで見届けた。
「お姉ちゃん。僕達も帰ろうよ」
そう馬那斗が言って、あたしの手を握りしめる。
まだまだ小さい手だけど、お父さんと同じ温もりがする。馬那斗ってば甘えん坊も治ってないんだ。それとも五つ子達が羨ましいのかな?
「馬那斗君って甘えん坊さんね」
「違うけれど、少しだけつないでても良いでしょ?」
「うん。いいわよ」
訳がありそうな馬那斗の言葉を不思議に思いつつも、あたしは笑顔で頷く。
そしてあたし達は手をつないだまま家まで戻ることになった。
が、
「深沙、帰ったら神達になんて言い訳するつもり?」
突然冷たい口調で言う知世の声が、あたしの頭の中を響き渡る。




