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攻略者は夢を見る

ごっふ、ポイント数に吹きました。小説読んでいただきありがとうございます。









 大陸でもそれなりに中規模な国として、農耕と貿易で栄えたアズルバンド王国。


 首都には国立学園という庶民にとっては下剋上の、貴族にとってはなんとも中途半端な教育機関がある。


 その学園で今、去年の恐怖が始まろうとしていた。






 去年、この学園で花咲いたシンデレラストーリー、と思ったら王子諸共諸行無常な物語が展開したこの地に、懲りずに王族が一人学園に乗り込んできていた。


 勿論本人は否と言ったが習慣というものは1人の力では変えられるものではない。


 なので、この地に送られた王子アシュカ・ゼルモンド・アズルバンドは正しく呪った。




「おのれぇぇ、ルーク! 貴様だけここに来ないとかフザケたマネを~」




 アシュカがここに連れてこられたのと同様、ルークもまた突如決められた教育方針で学園に来る時間が無くなり、周囲から強制的に王宮に幽閉されている状態だった。


 同じ時間に机の上で、ルークも同様な顔色で「おのれぇぇアシュカぁぁ~」と同様な呪いを吐いている辺りが王族の血という物かもしれない。




 物騒な呪いを吐いているアシュカを、学園の生徒達は遠巻きにしていた。


 そんなアシュカの前方から進み出てきた生徒を見た他の生徒達は自分の教室へと急ぎ消えていた。






 私が前世の記憶を思い出したのは、ちょうどこの学園に入った時だった。


 学園の門を見ていて唐突に思い出した。これってあの「アズルバンド学園恋物語」じゃんって!


 ミント・サーシャン男爵令嬢はこの物語のヒロイン。王子や侯爵令息達と恋をする物語の。


 ルカ殿下、サラヤ公爵令息、アレハイム公爵令息、トップ3はこの3名。


 他にはルカ殿下の乳兄弟、普通の侯爵子息、教師、隠れキャラの隣国王子なんて人もいたけど私はトップ3に絞った。


 アレハイム君は、警戒心が強すぎてダメだった。サラヤ君は落とせそうで落とせなかった。ルカ殿下だけがなんとかコンプリートしたのでお昼の婚約披露パーティまで行けて攻略完了!


 


 ハッピーエンドで終わったと思ったら、その後は地獄だった。


ルカ君の元婚約者の公爵家とルカ君と元婚約者の婚約を支援していた公爵家から睨まれてしまったから。




 我が家もルカ君のステータスを支えきれなかった。


 兄さんはこの騒動で、義姉さんと離婚を余儀なくされた。義姉さんは我が家の凋落に付き合えなかった。ヒドイ人だ。


 村八分状態のお父さんは男爵位を兄さんに譲って、兄さんは今頑張って貴族の間でペコペコしている。私は兄さんから絶縁を言い渡されていた。


 兄さんの「婚約者のいる男性に言い寄るお前は我が家の恥だ」という言葉に奮起した。




 私がどうにかして見せる!


 大丈夫! 私には「アズルバンド学園恋物語2」の知識があるから!




 2での攻略対象はアシュカ王子とレーベン公爵の従弟の息子イエダ君と

モメント公爵次男セルシリオ君。


 彼らにお願いしてサーシャン男爵家を返り咲かせて見せる!


 そうしたら兄さんだって許してくれるよね。


 アーチの所で3人を待っていたら、アシュカ王子が来た。まずは挨拶だ。手鏡を見てとっておきの笑顔になる。OK大丈夫!




「おはようございます、アシュカ殿下」


「おのれぇぇル~ク~! 帰ったらヤツの練習用木剣にスライムのりをべったりとぉぉ」




 速足で通り過ぎるアシュカ君に無視されてしまった。


 私は笑顔のまま一人残されてしまった…。






 朝の挨拶で好感度イベントはアシュカ君に無視され、イエダ君とセルシリオ君に出会えずに終わってしまった。何でイエダ君とセルシリオ君に会えなかったのかな。


 今の私は、貴族達には「危ない令嬢」と避けられ、平民達からは「とばっちりは御免」とスルーされている。情報は聞き耳を立てて集めるしかない。


 アシュカ君は魔法科に所属していながら騎士科に入り浸っているらしい。


 イエダ君はわからないけど、セルシリオ君はルーク王子に付き合って今年入れなくなってしまったらしい。


 アシュカ王子一本で行くしかない。


 幸い彼の居場所はわかっている。教練場だ。


 授業が終わると荷物をまとめて布を手に持ち教練場だ。




 教練場で汗を流しているアシュカ君に休憩しませんか、と笑顔で布を渡す!


 私の笑顔にアシュカ君もメロメロだよね、なんたって私はヒロインなんだから。




 教練場はすぐわかった…けど




「く、臭い! 汗と汗となんだか血の臭いもする気がするぅ」




 春の日差しの中、臭いがキツくて近寄り難い。思わず口呼吸になって教練場の入口から中を…




「ヒィ?!」




 汗と血の臭いと騎士科生徒の死屍累々、そこに立つアシュカ君の悪鬼の視線を受け、私は呆気なく失神した。




 


 昨日は気が付くと夕方でちょっと移動して木の下に「昼寝していました」という恰好になっていたけど、今日こそアシュカ君とお話ししなくっちゃ。


 教練場に行く前に、鼻にちょっと香水をかけて臭いが気にならないようにすれば大丈夫。


 今日はアシュカ君と…90パーセントゴリラな人が討ち合っていた。




「あの、アシュカ君、そろそろ休憩…」




 布を手に前に進み出るが、アシュカ君もゴリラも聞こえていないらしく、討ち合っている。


 それどころかヒートアップしている。




「今日こそ、その筋肉質な腕にかすりキズだぁぁ!!」


「甘い! レーベン流千手観音!!」




 恐ろしい速さでゴリラ様の手が増えて(多分錯覚)アシュカ君の方が傷だらけになっている。




「センジュカンノンって何だぁぁ!!」


「知らん。ほら、突き! 突き! 突き! 突き!!」




 木刀の突きでアシュカ君の衣服がビリビリ破かれている。目を輝かせて見ていたら、騎士科の生徒達に強制排除されてしまった。






 2日間の失点から考えて、教練場に入るのが間違いだったんだと気付いた。


 始めは、教練場から馬車場まで行く間に軽く会話できれば良かったのよ。


 授業が終わって数刻、教練場から馬車場に行くアシュカ君を見つけた。


 昨日のほぼゴリラ様も一緒だったけど。




 日の下で見たゴリラ様を見て驚いた。胸が推定Dカップ。ゴリラ様は女だったのだ。


 顔と体はゴリラで髪は金色縦ロール、レースいっぱいのゴスロリ調ドレスって酷すぎる。




「学園行きと聞いた時はルークを呪ったが、今はシスティーナとの鍛錬が楽しくて感謝だな。


 ルークは相変わらず俺に呪いを送っているようだが」


「ルーク殿下はアシュカ殿下と同じく剣士の志がありましたから、今の状態は苦しいのでしょう」


「帰ったらルークと剣稽古の約束がある。その時は、今日の事も話してやるさ。悔しがるな!」




 なんでしょう、この世界は2人の為にという雰囲気は。


 唖然として見ていると、護衛の人達が2人の横に並び始めて私から見れなくなった。




「その誉れ高き武人の貌、ほれぼれする筋肉の塊、全てが美しいよ、システィーナ」


「お戯れを、私を手にしようと言うなら父と兄に認められてください」




<あれ、それって…>




 アシュカの声にゲーム画面のアシュカのセリフが重なる。




『その誉れ高き貌、ほれぼれする気高き魂、全てが美しいよ、フローレン』




 このセリフが吐かれるとアシュカルートで確定する。その言葉をこのほぼゴリラ嬢に?


 私の脳裏に、昔懐かしいRPGのエンド音が高らかに鳴り響いた。








 アシュカが乗った馬車を見送り、ぼっとしていた私の前に誰かが立った。


 質素なドレス、柔らかな栗毛、温和でかわいい顔、目が合った時彼女の眉毛がわずかに下がった。




「初めまして、1のヒロインさん?」




 知っている。彼女は「アズルバンド学園恋物語2」のヒロイン。




「フローレン・セスティナ?」


「ええ、貴方はミント・サーシャン?」




 フローレンは悲しそうに下を向いてから、私の手を握り歩きはじめる。


 私は拒絶せずに一緒に歩く。




「私がココに気づいたのは2週間くらい前なの。貴方の噂を聞いた時」




 ギョっとして前を行くフローレンを見るが、彼女から負感情は感じない。




「貴方の物語の顛末は有名だから、最後まで知っているの。ああ、ここはゲームの世界じゃない。現実なんだって思ったわ」


「…無様よね、私は一生兄様に迷惑をかけて、ルカ君の重荷になる」




 数秒砂利を踏みしめる音だけが響く。きっと私の顔はひどい表情、彼女はチラリと見たが柔らかく笑う。




「ほら、迎えが来ているよ」




 彼女に促されて前を見ると、ルカ君が新たにもらった公爵紋の入った馬車が停まっていた。




「さっき馬車の中の人と話したんだ」




 ギョっとして振り返ると、いたずらっ子な笑顔の知らない女の子がいた。




「私と貴方は同じクラス。周りから疎遠にされているけど残りの魔法修練がんばっていますって言っておいたよ。馬車の人はそれを聞いても不安そうだったけど」




 手を離されて促される。


 ちょっと歩いてから振り返った。


 そこに立っているのはゲームでよく見た2のヒロイン。健気でほんわかしているはずの彼女。


 でも今の彼女はそんな感じがしない。ちょっとヤンチャっぽいいたずら好きな子。




「私、これからはヒロインじゃなくて悪役になるの。王様になれるはずの人を一外交官にしちゃったもんね。もう一人前よ」




 深い笑みを見せる彼女に手を振る。




「これから色々な国に行くの。そこで善良な王様とか公爵とか困らせて、ルカ君に怒られるの。


 行く先々で困らせてね…それでも幸せに手を繋いで歩いて行くの」




 言うだけ言ってスキップしながら馬車へと近づく。


 馬車の扉が開かれ、ちょっと怒った顔のルカ君に抱き着いてうやむやにする。




 きっとこれからも私達はこんな感だね、ルカ君。



モメント公爵「お前を外交パーティに出すわけないだろ!」


駆け足気味でしたが悪役令嬢系物語、いかがでしたでしょうか。

また書きたい気が起きた時に新しい小説を書きたいと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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