第5話 [姉妹に?]
これは、ステラの屋敷から俺が帰った後の話。
「うぅ・・・・・ここは?」
ニビルは目を覚ますと、辺りをキョロキョロと見渡した。すると、ベッドを枕にして眠っているステラを見つけた。
「ステラさん・・・・・・わたし。あんなに、人に優しくされたのはひさしぶりでした。すごく、うれしかったです。あの・・・・・・これはお礼です。ありがとうございました」
そう言うとニビルは、寝ているステラの頬っぺたにキスをしする。ニビルがキスした直後にステラがタイミングを見計らっていたかのように目を覚ました。
「うぅ~ん。あ、ニビル起きたんだ・・・・・・もう起きて大丈夫なの?」
「えっ!?あ、えっと・・・・・・はい」
ニビルは顔を真っ赤にしてあたふたしている。
「どうしたの?ニビル顔が真っ赤だよ?」
「い、いえなんでも・・・・・・ないです」
「熱でもあるのかな?」
ステラはニビルのおでこに自分のおでこを当てて熱を測る。
「う~ん。熱は無いみたいだけど・・・・・・」
「あう・・・・・・うぅぅ・・・・・・」
ニビルは顔を更に赤くさせ、俯いている。
「そうだ!ニビル。お腹空いたでしょ?ご飯食べる?」
「えっ?ご、ご飯ですか?」
「うん♪なら食堂に行こっ。マイケルにご飯の用意してもらってたから♪」
「わたしは良いです。お腹空いてないから・・・・・・ぐぅ~」
ステラは思い出したように手を叩くと、ニコッと笑ってニビルの顔を見た。ニビルはステラの申し出を断ると、ニビルのお腹がなった。ニビルは恥ずかしそうに自分のお腹を押さえている。
「あ、あの・・・・・・これは・・・・・・」
「体は正直みたいだね。ほら、行こう♪」
そう言ってステラはニビルの手を引いて食堂へと向った。食堂に着くと、マイケルがコックの姿をして待っていた。
食堂に着くと、マイケルはコック帽を取って、2人に深く頭を下げる。
「お嬢様方。お待ちしておりました・・・・・・」
マイケルは奥の厨房で作った料理を次々に運んで来る。
「さぁ~。いっぱい食べてね♪」
マイケルは2人の前にどんどん料理が並べていく。ステラはニビルの顔を見て、ニッコリと微笑えんだ。
「あの・・・・・・やっぱりわたし良いです・・・・・・」
「ニビル。お料理はその人に食べて欲しいから作るのよ?ニビルが食べなかったら、マイケルもうちのコック達もきっと悲しむと思う・・・・・・」
そういうと、ステラは俯いているニビルの顔を覗き込んで言った。
「でも・・・・・・わたし・・・・・・」
「もうっ!はい。あ~ん」
「うぅぅ・・・・・・」
ステラがスプーンにスープを乗せて、ニビルの口に持って行くが、ニビルは口を開こうとしない。
「あっ!空飛ぶ赤い豚!」
「えっ?」
ステラはそう言って天井を指差すと、ニビルもステラの指差す方を見た。
「隙あり!」
ステラはそういうとニビルの少しだけ空いた口にスプーンを押し込んだ。
「・・・・・・どう?おいしいでしょ?うちのコックは腕が良いからね♪」
「はい、おいしいです。でも・・・・・・わたしなんかが食べたらもったいなくて・・・・・・」
「もうっ!ニビルはそういう所がいけないんだよ?」
「・・・・・・えっ?」
ステラは少し怒った顔をして人差し指を立てて言った。ニビルは不思議そうな顔をしてステラの顔を見つめている。
「ニビルはね、遠慮し過ぎなの。そんなんじゃ、皆疲れちゃうでしょ?」
「あっ・・・・・・ごめんなさい」
ニビルは反省したようにまた俯いてしまった。それを見たステラは慌てた様子で訂正する。
「べ、別に怒ってるわけじゃないんだよ!?ただ、ニビルがおいしそうに食べてくれれば、嬉しいだけなの。そんな申し訳なさそうに食べられてたら、私達は心配になるでしょ?おいしくなかったのかなぁ~って・・・・・・スープ、おいしくなかった?」
ステラが不安そうにニビルの顔を見て聞いた。
「いいえ・・・・・・すごくおいしかったです。こんなおいしい物、はじめて食べましたっ」
「そう、なら良かった♪なら、もっとおいしそうに食べてよっ♪」
そう言ってステラは、もう一度スプーンでスープをすくってニビルの口に持っていった。
「はい。あ~ん♪」
「うぅ・・・・・・あーん」
「おいしい?」
「はいっ」
ステラがニコッと笑ってニビルの顔を見ると、ニビルもニコッと笑い返してくれた。
「そうだ!お父様にニビルを連れてくるように言われてたのっ。後でお父様の所に行きましょう!」
「・・・・・・えっ?」
「お父様に色々とお話しないといけない事もあるしねっ」
「あ・・・・・・は、はい・・・・・・」
ニビルは何か不安そうな顔をして、スプーンを持ち、ご飯を食べ始めた。
ご飯を食べ終るとすぐに、ニビルが席を立とうとするのを見てステラの声が響いた。
「ニビル!食べ終わったら何をするか分かる?」
「ひっ!え、えっと・・・・・・ありがとうございました」
「ちが~う。食べ終わったら、ごちそうさまでしたでしょ?」
そういうとステラは人差し指を立てて、めっ!っとした。ニビルはしょんぼりした様子で俯いたまま黙ってしまった。
「良い?二ビル。この家には家のルールがあるの。ニビルにも、しっかりそれを覚えてもらいます!」
「はい。ごめんなさい・・・・・・ご主人様」
「ご、ご主人様!?ご主人様は余計かな?はい。ごめんなさいまでで良いわよ」
「はい。ごめんなさい・・・・・・」
「よろしい♪」
そういうとステラはニコッと笑ってニビルの頭を撫でた。その時、マイケルが2人のもとに歩いてきた。
「お嬢様。お風呂の用意が出来ました。どうでしょう?旦那様にお会いになる前に、御2人で入ってしまってはいかがでしょう?」
そう言い終ると、マイケルは頭を下げる。
「そうね。さすがマイケル!ニビル。一緒に入りましょう♪」
「い、いえ、わたしは良いです。ステラさんだけ入ってきてください・・・・・・」
ニビルは手をブンブン振って拒否した。ステラはニヤッと不敵な笑みを浮かべると、ニビルに見える様に、チラッと腕の包帯を見せた。
「うぅ・・・・・・」
「この腕だと背中が洗えないの。ニビル。お願い出来る?」
「はい・・・・・・分かりました」
「ありがとっ♪」
ステラはニコッと笑うとニビルの手を引いて、2人は脱衣所へと向った。
脱衣所に着くと、ステラは当たり前の様に自分の服を脱ぎだした。しかし、ニビルは脱衣所の端の方からチラチラとステラの方を見ると、おどおどしていていつまで経っても服を脱ごうとしない。
「あぁ~。ニビルの服は1人で脱ぎ難いもんね、いらっしゃい。私が脱がせてあげるから♪」
「えっ!?いえ、そうじゃないです・・・・・・」
ニビルはステラが近づくと、後退りして壁伝いに、直ぐに他の場所に逃げていってしまい、中々、捕まらない。それがステラのプライドに火をようで・・・・・・。
「ニ~ビ~ル~」
「あ、えっと、その、あの・・・・・・」
ニビルはおどおどしながら、ステラと決して目を合わせようとしない。
それから少しの間。脱衣所の中で追いかけっこをしていた2人だったが、それも遂に決着する。
「・・・・・・フフフッ。ニビル。この私から逃げられると思ってるの?」
ステラはニビルを脱衣所の角に追い詰めると、ニビルが逃げられないように、手を大きく広げている。
「あ、あの・・・・・・ステラさん。目が、目がこわいです・・・・・・」
「さぁ~。覚悟は良い?ニビル」
「あうぅ・・・・・・」
ニビルは追い込まれて観念したのか、大人しくステラの方に歩いてきた。
「それじゃ~。ばんざいして・・・・・・」
「はい・・・・・・」
ニビルはステラに言われるがままに両手を上げた。
「うぅ・・・・・・」
「ん?どうしてニビルは胸を押さえてるの?」
「その・・・・・・」
ニビルはチラッとステラの胸を見るとそのまま俯いてしまう。
「あぁ~。胸の大きさを気にしてるのねっ。でも、ニビルはまだまだ成長期だから、ちゃんとご飯を食べれば、すぐ私と同じくらいになるわよ?」
「ほ、ほんとですか?」
「うん。だから早くお風呂に入ろっ、このまま裸で居たら風邪引いちゃうよ?」
「はいっ」
ステラはニビルの手を握ると、浴室のドアを開ける。中は、さながらスーパー銭湯という感じの造りになっていて、浴室にはジャグジーをはじめとして、電気風呂。サウナ。ハーブバスなどがある。
「うわぁ~。すごいお風呂ですね、ステラさん!こんな大きなお風呂、はじめて見ました!」
「あはは・・・・・・お父様が好きでね、だんだん増やしていった結果。こうなったの・・・・・・」
興奮しているニビルとは反対に、ステラは苦笑いしながら呆れながら言った。
「はやく入ってみたいですっ!」
ニビルは目をキラキラさせながらお風呂の方を見つめている。
「その前に体を洗ってからね♪汚いままで入ったら、お父様にすご~く、怒られるよ?お父様。お風呂に関してはうるさいから」
「うぅ・・・・・・分かりました」
ニビルは少しがっかりした様子で頷いた。
2人は洗い場に向うと、鏡の前の椅子に座った。ニビルはチラッとステラの腕の傷を見る。
「あの・・・・・・ステラさん」
「ん?どうしたの?ニビル」
「あの、えっと、その・・・・・・」
ニビルはもじもじしながら、手に持ったタオルを握り締めている。その様子を見たステラはニコッと笑う。
「なら、最初に私の体から洗ってもらおうかなぁ~♪」
「は、はい♪」
ステラがそう言って前を向くと、ニビルは嬉しそうに持っていたタオルにボディーソープを付けると、小さな手で一生懸命ステラの背中を洗い始めた。
「ニビル上手だね。私もたまにお手伝いさんに洗ってもらうけど、ここまで上手い人はいなかったかな?」
「はい。ご主人様の所にいた頃に、よくやってましたから、ご主人様もきもちいいって言ってくれてたから、自信があったんです♪」
ニビルはステラの背中をタオルで擦りながら、ニコッと笑って言った。
(ニビルの言うご主人様って誰の事なんだろう・・・・・・そういえば、私、ニビルの事何も知らないかも・・・・・・)
「ねぇ~。ニビル」
「はい?」
「ニビルのいつも言ってるご主人様ってどこの誰なの?」
「えっ?・・・・・・」
ステラのその言葉に、ニビルの手は止り、驚いた様な顔をしてステラを見つめたまま、動かなくなってしまった。
「あっ!私はもう良いから今度はニビルを洗ってあげる♪」
「えっ?あ、わたしは、その・・・・・・自分でできますから・・・・・・」
「いいの、いいの。ニビルはまだ髪を1人で洗えないでしょ?」
「あっ、洗えますよっ!」
ステラのその言葉にニビルは顔を真っ赤にして、頬を膨らませて怒った様子で言った。
「見ててくださいっ!」
ニビルはシャンプーを手に取ると、ぎこちない手付きで、強く髪を洗い始めた。
ステラはそれを見て慌てて、止めに入った。
「ストップ!ストップ!!そんなに激しく洗ったら、頭から血が出ちゃうでしょ!?」
「・・・・・・」
「私が洗ってあげるから、ニビルは手を膝の上に置いてて!」
「うぅぅ・・・・・・」
ニビルはしょぼんとして、ステラに言われた通りに膝の上に手を置いて俯いてしまった。
ステラはシャンプーを手に取ると、ニビルの髪を優しく洗い出した。
「どう?ニビル。気持良い?」
「はい・・・・・・」
ニビルはがっかりした様子で、俯いたまま大人しくしていた。
「ニビルはさっき私が怒ったと思った?」
「・・・・・・はい」
ステラはニビルの髪を洗いながら聞くと、ニビルは小さく返事をした。
「ニビル。私はねっ、別に怒ったわけじゃないの。女の子は髪が命なんだよ?だから、あまり激しく洗っちゃだめなの。それは、ニビルに大人になってから後悔して欲しくないからなんだよ?」
「わかりません。どうして、かみが命なんですか?」
「髪ってね、不思議な物なのっ、型を変えれば、色々な自分になれるし、色を変えれば気分も変わるものよ?」
ステラの言っている事の意味が分からないのか、ニビルは首を傾げている。
「ニビルには、まだ早かったかもね♪でも女の子はそういう物なの♪」
「それは、ふつうの子ならですよ・・・・・・わたしは、ばけものですから・・・・・・」
「こらっ!そういう事言わないのっ!」
「うぅ・・・・・・でも、ほんとの事ですから・・・・・・・」
ステラが鏡を見ると、鏡に映ったニビルの顔は、今にも泣き出しそうになっていた。それを見て、ステラは慌てて話を切り替える。
「そ、そういえば、ニビルって親戚とかは居ないの?」
「・・・・・・しんせきですか?う~ん。わたしはお母さんと2人暮らしだったので・・・・・・」
「なら、うちの子にならない?」
「・・・・・・」
ニビルは時間が止った様に固まったまま動かなくなった。
「もちろん、ニビルが良かったらだけど・・・・・・ほら、言ったでしょ?あなたは絶対。私が守ってあげるって♪」
そういうとステラはニッコリと微笑んだ。
「でも、これ以上、ステラさんのごめいわくに・・・・・・」
「ニビルはまだ子供なんだから、そんな事は気にしないで良いのっ!ニビルは自分の気持に素直になれば良いんだから。ねっ?」
「うぅ・・・・・・」
ニビルは難しい顔をしながら黙り込んでしまった。
「とりあえず、お風呂に入ってる間。考えてみて♪どうするかは、最終的にニビルが決める事だから、私はなんとも言えない。でも、私はニビルが妹になってくれたら、すごく嬉しいかなぁ~♪」
ステラはそう言って、ニビルの顔を見ると、ステラはニッコリと微笑んだ。
「はいっ!おしまい。それじゃ~。お風呂に入ろっか♪」
「はい・・・・・・」
ステラはニビルの手を引いて浴槽へと向った。
2人が入浴を終えて脱衣所に行くと、2枚のパジャマが並んで置いて、横には牛乳が添えられていた。
「マイケルが置いて行ったのねっ。なら着替えたて、これ飲んだら、お父様の部屋に行こっか!」
「うぅ・・・・・・はい」
ニビルは浮かない顔をして、自分の手を見つめている。
「ニビルかわいい~♪」
「あうぅぅ・・・・・・」
ステラは全体が薄いピンク色で花柄のパジャマを着て、興奮した様子で声を上げる。
ステラの目の前には、全体が白色で胸の所にうさぎの刺繍が施された、パジャマを着て顔を真っ赤にさせ、もじもじしているニビルの姿があった。
「はずかしい・・・・・・」
「大丈夫。ばっちり似合ってるわっ!雪うさぎのイメージねっ!これでお父様のハートをわしづかみよっ!!」
「・・・・・・ステラさん。誰に向ってしゃべってるんですか?」
ステラが親指を立てているのを、ニビルは呆れた様子で見つめている。
「さて、ニビル?お父様の部屋に行く前に1つ約束出来る?
「やくそく?」
「そう!お父様の前では自分の姓は名乗らない事。それだけは絶対に守ってねっ」
ステラがそう言ったのには訳があった。実はニビルを探しにシルフィの森に行く道中で、ルドルがおかしな事を言っていたからである。
「ステラ。実はニビルの事で大事な話しがある」
「ん?なに?大事な話しって・・・・・・」
「ニビルの姓は知っているか?」
「確か・・・・・・クレスティア?でも、それがどうしたの?」
「実は昨日。地下室で曾御祖父様が描いた絵をお父様から見せてもらったんだ。そこ置いてあった資料には、女神クレスティアって書いてあって、その絵に描かれていた少女はニビルにそっくりだったんだ」
「へぇ~。でも自分に似てる人は世界に3人は居るって言うし、他人のそら似じゃないの?」
「いや、そこにあった資料にはこう書いてあった。[女神クレスティアは戦争を終結させ、この世の悪を憎み、そして天に昇った。また悪、蔓延る時。もう一度この世に転生するであろう。その時、オーフィス家の男児と共に、この世を悪から救済する]その意味は良く分からないけど、とりあえずニビルには姓を名乗らないように言っておいた方が良いだろう・・・・・・」
「うんっ。分かった!」
ステラがルドルとの会話を思い出していると、ニビルが心配そうな顔をして話し掛けてきた。
「あ、あの・・・・・・ステラさん?」
「あぁ。ごめんねっ!ちょっと考え事してて・・・・・・。でも約束出来る?お父様だけじゃなくて他の人にもだよっ。良いね?」
「はいっ!」
「うんっ、よろしい!」
そう言ってステラはニコッと笑うとニビルの頭を優しく撫でた。
2人は部屋の扉の前で止ると、その扉をノックする。ステラの横に立っていたニビルは緊張からか、顔が引き攣っている。
「ステラかい?」
「はいっ。お父様。ニビルを連れてきました」
「ちょっと待っていなさい」
それから少し経って、部屋の扉が開いた。そこには少し恐そうな顔をした。金髪で瞳が緑色の男性が立っていた。
「2人とも入りなさい」
「はいっ。お父様」
「し、しつれいします・・・・・・」
ステラとニビルは部屋の中央に置いてある大きなソファーに隣り合わせに座ると、その向かい側にステラの父親が腰をかけた。
「君が・・・・・・話はステラから聞いていたよ、何でも身寄りが無いとか、まずは名前を教えてもらえるかな?」
「・・・・・・」
ステラの父親は俯いているニビルに優しく声を掛けたが、ニビルは緊張しているのか、俯いたまま小刻みに震えている。
「お父様。まず、自分から名乗らないと、いくら子供でも失礼ですよ?」
「あははっ。そうだったね。私はステラの父親で、この屋敷の主。バルク・エイミスだ。よろしくね」
バルクはニビルの顔を見て、ニッコリと微笑んだ。
「ニビル?ゆっくりで良いから自己紹介して・・・・・・」
「わ、わたしは・・・・・・ニビルです。よろしくお願いします・・・・・・」
「うん。ステラには、家の養子にしたいと言われたんだけど、私は、君の意見を尊重したいと思っているんだ。ニビルちゃんはどう考えているのかな?」
「えっと、あの、わたしは・・・・・・」
ニビルは決心したように頷くと口を開く。
「じつはわたし、むかしどれいだった事があって・・・・・・なので」
ニビルはそこまで言うと、俯いて口を閉じてしまった。
ニビルがそういうと、バルクは厳しい顔をして話し始めた。
「君はそれで良いのかな?奴隷だったから、これからの人生も、そうやって奴隷として生きていくのかい?正直、奴隷の末路は悲惨だよ。私も今まで色々なものを見てきたが、あれ程惨い事はない。ニビルちゃんは、まだ幼いから、こんな事言ったらショックを受けると思うけど、奴隷とは、ただこき使われるだけ、というわけではない。女性なら主の性欲のはけ口にされる者もいる。幼ければ腸を引き釣りだされ、臓器、血、髪などに分けられ、売られていく者もいる。何故なら、幼い子の臓器は汚れが少なく高値で取引される。血は年寄りが買う、自分に入れれば若返るという迷信を信じてね。髪は頭の薄くなった所を隠す為に使われたりする。それ以外にも奴隷同士を無理やり戦わせて、賭け事の対象にする事もあるし、病気になれば、殺されて生ごみと一緒に捨てられる、そんな事も珍しくない。それ以外にも色々な酷い最後を遂げてゆく、それが奴隷となった者の末路だよ・・・・・・」
バルクは話を終えると、目頭を押さえている。
「・・・・・・」
「お父様・・・・・・」
「いいかい?ニビルちゃん。君はこれからの人間だっ。その歳で奴隷にされたんなら、凄く苦労した事だろ、でも、奴隷という過去に縛られる事は無いと思う。私は、一目見た時から、君を私の娘として、このエイミス家に迎え入れたいと思った。そして・・・・・・」
「・・・・・・そして?」
ニビルは不安そうな顔をして聞き返した。
「そして、ニビルちゃんに・・・・・・私を、パパって呼んでもらいたいっ!!」
バルクはソファーから勢い良く立ち上がった。
「えっ!?あ、あの・・・・・・急にどうしたんですか?」
「やっぱり・・・・・・」
バルクの急な変貌振りに、驚いているのとは反対にステラは手で顔を押さえている。
「ニビルちゃん!家の子になろう。というかなりなさいっ!!」
「ちょっ!お父様さっきまでの話が全て台無しになりますよっ!?」
「あぁ、かまうもんかっ!目の前に可愛い女の子がいれば、男は皆オオカミになれるのさっ!!」
「えっ?あの、その・・・・・・・」
「ウフフフッ。ニビルちゃん・・・・・・」
バルクはじりじりとニビルに近づいていく、ニビルも今、自分に何が起きているのか理解できない様子で、慌てふためいている。
(目が完全にいってる。これは、仕方ないわね・・・・・・)
「えいッ!!」
「うッ!・・・・・・・」
ステラはどこからかフライパンを持ってきて、思いっきり実の父親の頭へと振り下ろした。バルクはその場に倒れ、横たわっている。
「えっ!?ス、ステラさん!?」
「これでよし。ニビル。こうなったらお父様はもうだめだから、話は明日にしましょう?」
「えっ?あ・・・・・・は、はいっ!!」
ニビルはその一部始終を見て、呆然とステラを見つめていた。その時、チラッとステラの持っているフライパンを見て、気をつけをしている。
バルクの部屋を出た2人は、ステラの部屋へと戻ってきた。
「まったく、お父様にも困ったものね、ほんと、見境無いんだからっ!」
部屋に戻ってきたステラは怒りながら、そう言ってベッドに座った。
「ニビル。おいで♪」
そう言ってポンポンとベッドを叩き、ドアの前に立っていたニビルを呼んだ。
「ごめんね。びっくりしたでしょ?」
「いえ・・・・・・」
「でも、お父様もニビルを気に入ってくれたようだし、まずは、一安心かなぁ~」
「・・・・・・はい」
ニビルは浮かない顔をして、ステラを見てこれまでの自分の生い立ちを話し始めた。
[ニビルの過去を見て下さい。]
「・・・・・・そう、苦労したんだね。でもこれからは大丈夫だからねっ!私が絶対守ってあげるからっ!!」
ニビルが話し終わると、ステラは涙を流しながらニビルの手を強く握った。
「ステラさん・・・・・・わたしは、ほんとにこれで良いのでしょうか・・・・・・」
「どういう事?ニビルは奴隷の方が良いの?だって、研究所では酷い事をいっぱいされたんでしょ?」
「はい。でも、あのお屋敷で、たくさんの子と友達になりました。でも、わたしだけ、こんな・・・・・・」
「ニビルは優しいんだね・・・・・・なら、旅をしてる最中で、その答えを探せばいいよっ。それより、私はニビルの返事を聞きたいなぁ~」
「そ、それはまた明日・・・・・・です」
ニビルはそういうと、布団の中にもぐった。それを追い駆けるようにステラも布団の中に入った。
「ニビルは私がお姉さんじゃ嫌?」
「わたしは、ずっと、ひとりだったので・・・・・・」
「私もそうだよっ。でも、ニビルは良い子だから、仲良くやっていけると思うよ?」
「わたしは、ステラさんが考えてるほど良い子じゃないです・・・・・・」
ステラがそう言って、ニコッと笑うと、ニビルは布団から顔を出して言った。
「ステラさん・・・・・・わたしは人殺しなんです。もう、人に愛されるしかくはないんですよ・・・・・・」
「ならニビルは、これからどうやって生きていくの?」
「それは・・・・・・」
「そんなに深く考える事無いんじゃないかな?今、ニビルが良いと思う方を選べばいいと私は思うなぁ~。確かに、色々やってきたのかも知れないよ。でも、それは仕方なかったし、もうどうしようもない事でしょ?なら、いつまでも、過去に縛られていたら駄目だと私は思うの・・・・・・だからニビルには・・・・・・」
ステラが話の途中でニビルを見ると、ニビルはステラの横でスヤスヤと寝息を立てている。
「今日は色々あったから、多分疲れちゃったのね、おやすみなさい。ニビル」
ステラも、ニビルと顔を向かい合わせて眠りに付いた。
次の日の朝、2人はもう一度バルクの部屋に行き、ニビルを養子にする話をまとめてから、荷物をまとめ、ルドルと約束した広場の噴水の前へと向った。