終章 新たなる伝説
魔王城での最終決戦が終わった。
勇者様に抱きついて正妻決定戦を繰り広げているうちに、なんだかみんなで仲良くすればいいじゃないという話になったのだ。
なぜそんな結論に達したのかわからないが、勇者様を見ていると、それしかないように思えたのだ。
「うーん、何かのスキルが発動した気がするのよねー」
魔術師が首をひねるも、なぜか結論に至らない。
「良いではないか、それより勇者様のことだ」
女騎士はもう考えるのをやめている。
なんだかんだで勇者様とは一番付き合いが長いのだ。
なんだかもう慣れている。
「ええ、汚れてしまいましたものね」
そういってぽいっと、搾りかすを捨てる。
それ魔王。あなたの父親。
でも勇者様第一なので、全然気にしない。
「じゃあアタシが、いいもの召喚してあげる」
そう言って呪文を唱えると、魔王城の広い謁見の間を埋め尽くすような魔法陣が展開される。
「うにゃーっ、みがわりっ」
とっさに身代わり人形を残して、布団猫が飛び退る。
「ちっ」
ライバルを消し損なった魔術師が舌打ちする。
「油断も隙もないにゃー」
身代わり人形が効力を発揮し、代わりの生贄が召喚される。
「え? え? え???」
ウサ耳をはやした深海魚っぽい魔物が目を白黒させる。
が、何もできないままぼしゅんとエネルギーに変換。
「あら? あれは確か…」
「知っているのか?」
僧侶が首を傾げ、女騎士が尋ねる。
こう見えても魔王の娘だ。魔界の生物には詳しいはず。
「たしか魔界四天王で見たような…」
「そうにゃ。四天王にゃ。身代わりにはそれなりに釣り合いが取れないといけないにゃ」
「元同僚と臣下だろ…。さすが魔界、容赦無いな…」
ま、いいかと流す女騎士。
なんだかんだで慣れちゃってますよ。
そして魔術師が、生贄召喚を完成させる。
「いでよ、勇者様のために」
瞬間、魔法陣が輝く。
そして異世界から召喚されたものが姿を現す。
それは、全自動洗濯乾燥機!
「すばらしい!」
「勇者様が綺麗になりますわねー」
「にゃっ、程よく狭そうにゃ。楽しそうにゃ。潜り込みたいにゃ」
「猫禁止。さ、勇者様を綺麗にするわよ」
魔法で雷を呼び出し、電力確保。
ういーん、ごごごご。
全自動洗濯乾燥機が動き出しました。
「(勇者様が綺麗になったら、今度も私が一番に…)」
「(あっ、せっかくのマーキングまで消えてしまいますわー。いえ、綺麗になった勇者様を、また私の体液で染め直せますわー)」
「(ほかほかの予感にゃ。潜り込んでスリスリするにゃん)」
「(くくく、油断したな。完了と同時に、この機械に仕掛けた転移の魔法で…)」
ところでみなさん、洗濯機にしろ乾燥機にしろ、ドラムの回転はすごい振動だと思いません?
で、魔王城。なにか忘れてませんか?
「ん、天井から破片が…」
「あらー? 安普請ではなかったはずですわー」
「にゃー(視線逸らし)」
「そういや猫よ。仕事をサボっていたとよく言っていたな…」
窓の外を見れば、先程まで魔王城の壁をカリカリしていたネズミたちが、一目散に逃げているではありませんか。
そう、魔王城は穴だらけになっていたのですから…。
「「「「逃げろー!」」」」
魔王城は魔王の死とともに崩れ去る。
その伝統の影には、決して知られない真実があるものです。
「ふー、ひどい目に遭った」
「まったくですわー」
「ごろごろごろ(布団に潜り込んでいる)」
「アタシのせいじゃないからな」
命からがら脱出した勇者様一行。
王都に凱旋することになりました。
「騎士の名誉だ」
「王都の教会なら、結婚式にふさわしいですわー」
「ごろごろごろ」
「到着するまでに、決着を…あれ? つけるんだっけ?」
相変わらずの勇者様一行ですが、ふと女騎士が立ち止まり、
「なにか忘れているような…。まあ思い出せないならいいか」
気にしないことにしました。
その頃、当の王都では…。
ここは剣と魔法の世界。
力あるものが全てを所有し、力なきものは従属して搾り取られる世界。
そうには思えないような展開だが、一応そういう世界である。
そんな世界で、人族と魔族は長い間不干渉を貫いていた。
しかし魔王が魔界を再統一した時、1000年ぶりの大戦が幕を開けた。
人界は相争う国々を各個撃破され続け、魔界が世界統一を成し遂げるのも時間の問題となっていた。
人族最後の国は、もう一度賭けに出ることにした。
そう、前回の召喚からようやく1ヶ月が経ち、再び異世界より勇者を召喚できるようになったのだ。
異世界より勇者を召喚する儀式は、古の儀式に習い謁見の間で行われていた。
国王と重臣らが見守る中、大きく描かれた魔法陣の外周にそって宮廷魔術師らが儀式を行う。
低く呟くような呪文が、重奏を奏でるように乱すように、部屋中にと響きわたっていく。
しかし誰もが魔法陣の中心にのみ視線を集中させる。
なぜなら魔術師たちは、はぁはぁと荒い吐息にピンクな桃色を混じらせながら儀式を執り行っていたからだ。
ハイライトを失ったかのような眼差しは瞳孔がぐるぐる渦を巻いている。
腰はくねくねと動き、太ももをもじもじと擦り合わす。おしりは尻文字でハートマークを描き、爪先がガリガリと地面をえぐっていく。
そんな不自然な運動をしているために胸はドキドキと高鳴り、腕は魔法の杖を完全ロックホールド。頑丈にできていなければ間違い無く折れている圧力が加わり、垂れる涎が杖とローブに落ちないシミを作っていく。
「ほんとうにこれが、勇者を称える儀式なのか?」
「一応そういうふうに教会に伝わっている以上、執り行うより他にありませぬ」
ぼそぼそと会話する国王と重臣。
今度は失敗できない以上、ケチは付けられない。が、愚痴は出る。
やがて魔法陣が輝き、魔術の才のないものにまで感じ取れるほど魔力が満ちていく。
そして輝きは唐突に失われる。
それと入れ替わるかのように、魔法陣の中心に異物が現れていた。
「おおっ」
「まさか」
「なんと」
重臣たちから、声にならない驚愕が漏れる。
魔術師たちは急激に襲ってきた疲労のためか、次々と勇者に向かって崩れ落ちる。
まああんなダンスを踊れば、致し方のないことではある。
顔を押し付け、あるいは力尽きるかのように勇者に体を預ける者もいる中、一番歳を取り、体力的寿命的に危ういとしか見えぬ宮廷魔術師長のみがしっかりと立っていた。
それは一番の魔力を誇る故か、はたまた忠義故にその素振りを見せないのか。
もしかしたら、普段からあんなダンスを踊っているからなのかもしれないが。
じっと魔法陣の中央を見つめる国王に対し、儀式の終了を告げる。
「勇者召喚、成功してございまする」
「…そうか」
国王はただ一声告げると、再び視線に力を込める。
前回と同じく、ねぎらいの言葉も報奨も批難もない。
ただ“勇者”を見つめ、これからの扱い方を、魔王の倒し方をどのように導くか、それのみに注力しているかのようだった。
それを感じ取り、宮廷魔術師長もまた、視線を魔法陣の中央に戻す。
そして内心でため息をつく。今回もまた、難しかろうと。
勇者は召喚できた。前回以上の手応えを感じており、魔術的には大々成功だ。
しかし当の“勇者”を己自身の目で目の当たりにすれば、やはり不安を感じずにはいられないのだ。
こっそりと秘術を発動させる。
対象の能力を数値化し、閲覧するという、ある意味禁術。よく使われているけどね。
そこに映し出された数値と能力を見て、眉間の皺を更に深くするのだった。
《ステータス》
レベル:1
職業:勇者
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
知力:0
魔力:0
運:???
装備:新鮮な土付き
スキル:剣術レベル0・魔術レベル0・甘みレベル3
特性:主人公補正・ニコポナデポ・秘められた覚醒
ふーっと大きく息を吐き、国王が問いかける。魔術師長に。
「このモノ、根菜類に見えるのだが」
「は、砂糖の原料にございます」
「そうか…。見たままじゃな」
「それ以外に答えようもありませぬもので」
「成功したのじゃな」
「はい、成功でございます」
「成功してしまったのじゃな」
「はい、この結果が成功なのでございます」
ふーっともう一度大きく息を吐き、国王は告げる。
「帰っていいか?」
「ダメでございます」
「しかし、前回といい今回といい、魔王を倒せる勇者ではないであろう」
「それは…そうでありますが…」
そこに兵士が駆け込んでくる。
「たいへんでございますー!」
宮廷作法とか身分とかその他もろもろ、すっとばしている。
ここは最低でも騎士爵位を持たねば入れぬ場所。
ましてや今は、勇者召喚の儀式の最中である。
喚ばれたモノを、迂闊に人目にさらして良いはずがない。
叱ろうとするも、続く報告に言葉を失う。
「魔王城、崩壊。魔術師や神官たちが、魔王の魔力消失を確認いたしました!」
思わず顔を見合わせる重臣たち。
国王が魔術師長を見つめる。
「!! 確かに魔王の魔力が感じられませぬ!」
「「「おおお…」」」
半信半疑だった者たちも、魔術師長の言葉に歓声を上げる。
「見事なり、勇者よ。大儀であった!」
国王が興奮もあらわに、召喚されたばかりの勇者をねぎらう。
見た目とは裏腹に、見事やってのけたのだ。
「称えよ、勇者を。祝えよ、英雄を。魔術師長よ、祭りじゃパレードじゃ」
こうして王都は偉大なる勇者に感謝し、子々孫々に至るまで語り継ぐのだった。
そう、異世界より召喚された、テンサイ勇者の伝説が、このとき誕生したのだった。
(おしまい!)




