六十三話
「待たせて悪かったな」
Youは目の前の少女にそう言った。
別にかまわないという意味だろうか? 少女は首を左右に振った。
「なぜ君がこんなデスゲームにしたか聞いてもいいかい? さみしかったって言ったけどなんで寂しかったのかな?」
Youはなるべく優しくそう問いかけた。
すでに刃を向けて怯えさせた後には遅いかもしれないが、無駄に恐怖を与えることもないだろう。
「だってけんきゅうしゃ? の人が言ってたよ。この世界は5年持てばいい方だなって。そうしたら私はずっと独りぼっちになっちゃうよ」
少女――イヴは何かを思い出したのか、目に涙を浮かべながら続きを言う。
「一人ぼっちはやだよ。あのなにもない空間に戻るのはもっといや。別にいいじゃん。一生このままいてくれても。私、この空間でプレイヤーやイベントを管理しろって、急に頭に送られてきてとっても嬉しかった。だって私に初めて与えられた役目だから。だって私以外に初めて自立行動できる人が来たんだよ? 一生いてほしいよ。また一人になるのはさみしいよ――」
イヴが本格的に泣き出してしまった。
堰きを切ったように泣き始めた。
その様子にYouは頭をなでながら胸を貸すことしかできなかった。
戻ってきた仲間も何も言わずにただ見守っていた。
どれぐらいの時が経っただろうか? まだアダムとの戦闘が終わった様子がないのでおそらくそんなに経っていないのだろう。
それに救世主の効果も切れていないようなので十分は経っていないことになる。
「なぁ、どっかの小説にあった話なんだけどパソコンとかに君を移動させることはできるのか?」
それは昔流行ったライトノベルの話であった。
削除されそうになったAIをオブジェクト化し、その後その主人公のVRMMOの装置に残っていて、主人公を助けてくれるキャラクターだった。
Youはそれと同じようなことができるのではないかと考えたのだった。
「……無理…………かな? だってかなり容量使うよ?」
「それはどれぐらい?」
そして告げられた数は市販品のパソコン10数台分であった。
日進月歩であるコンピュータ業界はVRMMOが可能となるまでに成長するまでにパソコンの容量もかなり増えていた。
そして、You達がデスゲームに閉じ込められる前の一般的なパソコンの容量の十数倍――もちろん一般的なパソコンであり、容量に特化したパソコンなら倍数は減るが――は普通の家庭にはないものだろう。
しかし――
「お兄ちゃんの作りかけのゲームを消せば行けることない?」
YouはRedに勝つために様々なことを学んだ。
そのための中には学校は情報系の専門学校に進み、VRゲームでさえも自分一人で作ろうとしたこともあった。
結局莫大な作業により断念せざる負えなかったがVRゲームも作ろうとしていた。
VRゲームは360度すべてを表示するがために市販品のパソコンではだけではなく外付けのHDDなども買っており、どうせならと、10台まで繋げることができる物にすべて最新のHDDを刺していた。
つまり最新のHDDを11台分繋いでおり、その11台も容量が大きいものであり、データの大半を食っているVRゲームの部分を消せば何とか入る容量だった。
「最後に一ついいか? どうして平気で人を殺せる?」
それだけははっきりさせないと安心できなかった。
いくらただの少女に思えても人を何とも思わない狂人と一緒にいられなかった。
「なんでそんなに怖い顔をするの? けんきゅういんさんが言ってたよ? 所詮はAIだからまた造り出せばいいって。にんげんはそうじゃないの?」
少女が言ったセリフはあまりに何も知らない者の言葉だった。
少女は善悪や死というものすらも知らなかったのだ。
言葉は知っていっても意味は分かっていない。あまりにもひどい状態にYouは少女の言う研究員に怒りを覚える。
「いいか? 人間もいくらでも繁殖することはできると思う。だけど代わりになる人はいないんだよ」
幼子を諭すようにYouはゆっくりと喋る。
「君はさっき剣を向けられて怖がったよね? どうして?」
「えっと……それは…………」
少女はなぜ怖がったのかが分からないのだろう。
どうやってAIができたのか知らないがその辺りの恐怖心も人と同じなのだろう。
「君は消されるって……殺されるって思ったんじゃないのかな?」
「…………うん」
「誰だって死ぬのは怖いんだ。そして同じ者はいない。研究員さんが言ったのは物に対する考え方なんだ。君にはひどいことを言うけどその研究員さんは君に心があるって思わなかった」
それでも責められることではないのかもしれない。
Youだってこうして話すまで、剣を向けるまで心を持つということを理解していなかったのだ。
「心ってのは一人だった同じものは持たない。だからこそ同じ者はいない。死ぬってことは何もない空間にいるよりも怖いかとなんだと思うよ? だって何もない空間でも自分自身だけはいるだろ?」
「……うん」
「だけど死ぬってことは自分の意識すら持てないんじゃないかな? 死んだことがないから想像でしかないけど死んだらそこで終わりだ。空間も、好きだった物も嫌いなものも、自分すらもない。それが怖くないわけがないだろ」
「……うん」
「よし、いい子だ」
Youは微笑みながら再び少女の頭をなでた。




