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ヴィクトールは名前呼びを許す

 それから、侯爵様の訪問は私の日常の一部になった。


 隔週に一度、必ず同じ時間にやってくる。封印の確認は私があちらを訪ねる時にしてしまうので、本当にヴィクトール様やロゼリア様と楽しいひとときを過ごすだけだった。


 そんなある日のこと、私がシュタイナー家のお屋敷に行った際、ヴィクトール様から真剣な面持ちで「相談したいことがある」と語られた。ロゼリア様がいない部屋に場所を移した私は、ヴィクトール様から何を言われるのか身構えてしまう。


「そろそろロゼリアを街に連れて行こうと考えている」


 そして、この一言である。


 一体どれぐらい私が安心したか。「お前の魅了の異能は手遅れなほどに悪化している。処刑する」なんて言われるかと思ってしまったじゃないか。罰として甘くて美味しいものを奢ってもらいたいぐらいだ。


 連れていけばいいじゃないですか、と言うのは簡単だ。けれど、ヴィクトール様は私の意見を聞きたいから問うているんだろう。本当にこの方は妹思いなんだなぁ、と思うし、それにしてはどうして私だけに相談したのかが分からない。


 改めて今のロゼリア様を思い返してみる。庭園の散歩ぐらいなら休憩無しで行えるようになった。エルフリード邸との往復も特に疲れた様子は無いそうだ。これなら、快調であれば半日程度外を出歩いても問題無いように思える。


「どなたかが付き添えば大丈夫じゃないかと。あと、一日中連れ回さないとか、王都内を周る、とか、ロゼリア様の体力に気を使えば」

「どうやらリリアナは私と同じ見立てのようだ」


 それは良かった。


「じゃあ今からいつ、どこに連れて行くか計画を立てなきゃいけませんね。きっとロゼリア様も喜びます」

「そうだな。今までずっと狭い屋敷でしか過ごしていなかったからな。妹にはもっと色々なものを見せてやりたい」


 そう仰ると、ヴィクトール様ははにかんだ。前回厳格な面持ちを崩さない異端審問官としての側面しか見ていなかった私にとっては、ずれが凄くて混乱してしまう。けれど、これもまた本当の彼が持つ一面なんだろう。


「どうか楽しいひと時をお過ごしください」

「ん? 何を他人事のように言っている? リリアナも一緒に来るに決まっているだろう」

「え?」


 私も一緒に来る?

 ロゼリア様やヴィクトール様と一緒に?


「え?ではない。ロゼリアをがっかりさせるな」


 ヴィクトール様のご提案は意外すぎた。

 しばし考え込んで……私には断る理由が無い、って結論に至る。

 むしろ誘われて嬉しいと思ってしまった自分がいた。


「光栄です、侯爵様」

「ヴィクトールだ」

「え?」


 お辞儀をした私は最初、ヴィクトール様が仰ったお言葉があまり分からなかった。


「ヴィクトール、でいい。ロゼリアが名前呼びを許しているのに、いつまでもそう堅苦しく敬わなくてもいい」


 私が理解する前にヴィクトール様は語りかけてくる。


 爵位持ちの貴族を名前で呼べるのは、よほど親しい間柄の友人や家族に限られる。少なくとも私なんかが馴れ馴れしく口にしていいわけがない。


 それをヴィクトール様の方から許していただいた。

 これは、ヴィクトール様が私をそれほど身近な存在だと認めたからに他ならない。

 よほど、私がロゼリア様の体調改善に寄与したことに恩義を感じているのだろう。


「ありがとうございます。では遠慮なく、そのように呼ばせていただきます。ヴィクトール様」

「ああ、それでいい」


 と、自分を納得させた私だったのだけれど、この時にヴィクトール様は私の想像とは別の感情も抱き始めていた、と分かったのはだいぶ後の頃だった。

今回は短いです。前後での分割する際の文字数配分が出来なかったので。

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