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8.永遠の契り

 日も沈んだ時刻、梓娟は眞佳に手を引かれて長く続く廊下を歩いていた。


「眞佳様?こんな時刻に一体どちらへ?」


 梓娟は何度もそう尋ねたが、答えは返ってくる事は一度もない。ただ無言のまま突き進んでいく眞佳の様子に違和感を覚えた。

 そして恐る恐る見上げて見た顔は、いつものように微笑んでいるが、梓娟からは顔が翳って見える所為でどこか少し恐ろしく思えた。


 ──本当にどこへ向かってるの?だって此処、蒼家直系たちが住む屋敷でしょ?


 今いる場所は降龍館でも、下っ端の祓氏たちの小館でもない。その少し山を上った所、龍東万雷に勤める眞佳や蒼晏たち直系たちが住む御殿だ。

 普通の祓氏ならば足を踏み入れる事も出来ない場所で、勿論梓娟が連れて来られたのもこれが初めてだ。

 おまけに堂々と手を繋いでいるものだから、周りの使用人たちが驚きの表情でこちらを見ている。

 何より見知らぬ女を連れ込んでいるのがあの蒼眞佳なのだから驚きもより一層強そうだ。


「眞佳様、どうか手を離して下さい。周りに変な目で見られてしまいます」

「気にすることは無い」

 

 ──気にするわよ!


 眞佳は自分の立場を理解していないのか、許嫁のいる身で他の女を寝所のある御殿に連れて来るという事は……。

 梓娟はこの先にある場所を察し、みるみる内に顔から血の気が引いていく。


 ──ちょっと、この先は不味いでしょ!


 そう思った時には角を曲がっていた。すると廻廊の向こうにある部屋が視界に飛び込んだ。


 ──う、嘘でしょ!?


 広く立派な部屋と言えば、それが誰の部屋かは簡単に察しがつく。

 慌てて足を止めようにも、手を引く眞佳の力があまりにも強すぎて止める事は出来ない。

 そうして辿り着いてしまった部屋の前で、眞佳はようやくその足を止めた。

 やけにゆっくりと開いていく扉に、けたたましく胸が高鳴っている。ごくりとつばを飲み込む梓娟は、嫌な予感で変な汗をかいていた。

 想像通りの綺麗に整理された慎ましい部屋だ。その中で何故か見覚えのある荷物が隅に置かれている。


「あ、あ、あの、眞佳様?何故小館にある筈の私の荷物が此処に?」

「ここは私の部屋だが、今から君の部屋でもある」

「はい!?な、何を、そんな笑えない冗談を……っ」


 背後から扉が閉まる音が響いて梓娟はびくりと肩を震わせた。

 真っ暗になった部屋で、ふっと燭台の火が灯る。

 外からの風もないのにゆらゆらと揺れる灯りに照らされる眞佳はいつも通り微笑んでいた。


「私が永遠(とわ)に共にいたいと思えるのは君だけ」

「きゃっ……」


 突然抱え上げられた梓娟は部屋の奥、寝室へと連れて行かれ、そして大きな寝台の上に優しく下ろされる。


「ま、まって、少し話し合い──んんっ」


 例の如く強引に口を塞がれ、両方の手には骨張った指を絡められて強く握りしめられる。もう振り払うことは出来ない。

 眞佳は二人の手を固く繋ぎ合わせたまま、味わうように唇を啄んでくる。顔を上げてくれた頃にはもう梓娟の唇は赤く塗れ、瞳はとろりと落ちていた。

 霞む視界には菩薩の顔が映っている。だがそれはいつもとはどこか違って見えた。

 形の良い薄い唇が微かに動いたが、その声を聞き取る事は出来なかった。


「──、永遠の契りを結ぼう」


 そうして再び近づいてくる顔に、梓娟はゆっくりと瞼を閉じた。


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