第1話 はじまりの一音
魔王を倒した勇者の初ライブに、客が一人しか来なかった。
「……いや、待て。これはさすがにおかしいだろ」
カイは舞台の上で腕を組み、客席を見渡した。
かつて魔王が各地の将軍を集めていた大広間には、三百脚もの椅子が並んでいる。その大半は空っぽで、最前列から少し離れた席に、銀髪の女性が一人座っていた。
それだけだった。
「世界を救った英雄の凱旋ライブだぞ?」
もちろん、十年も前の話だ。
それにしたって、もう少し何とかならなかったのか。
カイは椅子の列を数え直した。見間違いであってほしかったが、二度見ても三度見ても観客は増えない。
女性と目が合うと、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「何か問題でも?」
「問題しかないんだけど」
「そう。私は困っていないわ」
「そりゃ君はな!」
思わず声を上げると、高い天井に反響して、ずいぶん情けない声になった。
女性は口元に手を当てた。
笑っている。
「……今、笑っただろ」
「少しだけ」
「少しならいいと思うなよ」
「ごめんなさい。でも、三百人分の席を用意して、一人しか来なかったのがそんなにおかしい?」
「おかしいに決まってるだろ!」
また声が響いた。
今度は彼女も隠さず笑った。
カイは頭をかきながら、舞台の脇に置いたギターを手に取った。
黒い木目の胴体に、銀色の細い線が走っている。弦は六本。普通のギターと違うのは、胴体の内側に小さな魔石が埋め込まれていることだった。
この世界にはもともとギターという楽器がない。
似たような弦楽器はいくつかあったが、カイが欲しかった音を出せるものは見つからなかった。だから楽器職人に頼み込み、何度も作り直してもらったのだ。
魔石へ指先から少しだけ魔力を流す。
ギューン、と弦が鳴った。
その音が壁際まで伸び、石造りの大広間に柔らかく広がっていく。
うん。悪くない。
今日は客が少ないが、音響だけは最高だった。
「あなた、本当に演奏するつもり?」
女性が尋ねた。
「当たり前だろ。そのために来たんだから」
「お客は私しかいないのに?」
「一人いるなら十分だ」
カイはギターの肩紐を直し、にやりと笑った。
「せっかく来てくれたんだ。特等席で聴いていけよ」
女性は少し驚いたようだった。
それから、椅子の背にもたれて足を組む。
「ええ。楽しみにしているわ」
「よし。じゃあ、まずは景気よく一曲!」
勢いよく弦をかき鳴らした。
鋭い音が広間を駆け抜ける。
カイは続けて低い弦を弾き、身体を揺らした。右手でリズムを刻み、左手の指を弦の上で走らせる。魔石を通した音は、懐かしい歪みをまとっていた。
思わず笑みがこぼれた。
これだ。
この音が聴きたかった。
十年前、魔王との戦いが終わってからずっと考えていた。
剣を握る時間が減り、勇者として呼び出されることも少なくなった。平和になった世界で何をするかと尋ねられるたび、決まって同じことを答えていた。
音楽をやりたい。
仲間を集めてバンドを組みたい。
言った相手にはたいてい笑われた。
勇者が楽器を弾いてどうする、と。
世界を救った男なら、もっと立派なことをしろ、と。
余計なお世話だった。
剣で敵を倒すより、ギターで誰かを笑顔にできる方がよほど平和じゃないか。
もっともその記念すべき第一歩で観客が一人しかいないのは、予想外だったが。
カイは曲の途中で軽く跳ねた。
靴底が舞台を叩く。
そのまま弾き続けようとして、足元の古い床板がぎしりと鳴った。
「おっと」
危うく体勢を崩しかける。
客席から小さな笑い声が聞こえた。
「今のは演出だからな!」
「ええ、分かっているわ」
「絶対分かってないだろ!」
返事をしながら、カイはさらに音を重ねていった。
一曲目が終わるころには、息が少し上がっていた。
気分は悪くない。
最後の音を長く伸ばし、指先で弦を止める。
静寂が戻った。
その中にぱちぱちと拍手が響いた。
たった一人分の拍手だった。
それでもカイは思わず顔をほころばせた。
「ありがとな!」
「思っていたより、ずっと上手だったわ」
「お、褒めてくれるのか?」
「もっと下手だと思っていたもの」
「前言撤回。褒めてないな」
「そんなことないわ。ちゃんと驚いたのよ」
女性は楽しそうに笑っている。
銀色の髪が肩の上で揺れた。
よく見ると、ずいぶん整った顔立ちをしていた。
年齢は二十代半ばくらいだろうか。黒を基調とした服には派手な飾りがほとんどない。けれど背筋の伸びた座り方や、何気ない仕草に育ちのよさがにじんでいる。
こんな女性がどうして一人で魔王城まで来たのだろう。
気にはなったが、今はそれより聞きたいことがあった。
「なあ、君」
「何?」
「音楽は好きか?」
女性は少しだけ考えた。
「嫌いではないわ」
「歌は?」
「……どうして?」
「いや、なんとなく。さっきからずっと、俺の指を見てるだろ」
女性の表情が変わった。
「よく気づいたわね」
「演奏してると、客がどこを見てるかって結構分かるんだよ」
「そういうものなの?」
「ああ。今日は特にな」
カイは空っぽの客席を見渡した。
女性がまた笑う。
「あなた、案外しつこいのね」
「そりゃ客が一人なんだから、覚えてもらわないとな」
カイはギターを構え直した。
「さて。次は何にするかな」
本当は、この日のために何曲も用意していた。
だが、何となく気が変わった。
さっき女性が指先を見ていたことも、少し気になっていた。
「次の曲はまだ完成してないんだ」
「未完成?」
「ああ。ずっと続きを考えてるんだけど、どうにも決まらなくてな」
「それを人前で弾くの?」
「いいだろ。どうせ今日は君しかいないし」
「ずいぶんな言い方ね」
「いや、悪い意味じゃなくてさ」
カイは笑った。
「知らない人が大勢いるより、ちゃんと聴いてくれる一人の方が、弾きやすいときもあるんだよ」
女性は組んでいた足を下ろした。
カイは一度、目を閉じた。
弦に指を置く。
最初の音は低く。
次の音は少しだけ高く。
ゆっくりと旋律をたどっていく。
『夜明けの向こうへ』。
その曲を作り始めたのは、まだ日本にいたころだった。
あのころは安いギターを抱えて、狭い練習室へ通っていた。仲間がいて、たいした理由もなく笑い合って、いつか大きな舞台に立とうと話していた。
結局、その約束は果たせなかった。
曲も完成しないまま、カイはこの世界に来た。
初めて剣を握った日。
魔物と戦った日。
誰かを救えなかった日。
何もかも嫌になって、逃げ出したくなった夜。
そんなときでも、この旋律だけは忘れなかった。
やがて魔王との戦いが始まり、カイは幾度となく死にかけた。
それでも曲を忘れなかった。こちらの世界でようやく手に入れたギターを抱えれば、日本にいたころの自分とまだつながっていられる気がした。
十年前には、避難所に集まった子どもたちへ弾いて聴かせたこともある。
泣いていた子が笑ってくれた。
一緒に手拍子をしてくれた子もいた。
あの夜は音楽を続けていてよかったと心から思った。
カイはゆっくり息を吐き、次の音を鳴らす。
魔石を通したギターが、広間を穏やかな音で満たしていった。
さっきの曲とは違う。
速くもないし、派手な技巧もない。
けれど、ずっと弾いてきた曲だった。
自分の中にあるものを少しずつ確かめるように弾く。
やがて、客席から小さな声が聞こえた。
最初は気のせいだと思った。
カイの弾く旋律を女性が口ずさんでいる。
驚きはしたが、演奏は止めなかった。
十年前、魔王城の避難所でこの曲を弾いたことがある。あの場にいた誰かが覚えていても不思議ではない。
それよりも、嬉しかった。
自分がずっと大切にしてきた曲を、こんなところで覚えてくれている人がいる。
それだけで今日ここへ来た甲斐があった。
女性の声が少しずつ大きくなる。
透き通った声だった。
高い音でも無理がない。
息の使い方がうまく、言葉の終わりまで音がきれいに伸びている。
カイは思わず目を開けた。
女性は椅子に座ったまま、こちらを見ていた。
カイは彼女の声に合わせてギターを弾いた。
音が重なった。
さっきまで一人で弾いていた旋律に別の音が加わる。
何とも言えない心地よさがあった。
ああ、いいな。
やっぱり、誰かと演奏するのは楽しい。
カイは自然と笑っていた。
サビが終わりに近づく。
ここから先はまだ作れていない。
何度も考え、何度も書き直して、結局どれもしっくりこなかった場所だ。
カイはいつものように最後のコードを鳴らし、弦の振動を指先で止めた。
ところが。
女性の歌は、終わらなかった。
「……え?」
カイの指が止まる。
聞いたことのない旋律だった。
なのに妙に馴染む。
何年も探していたその先へ、当たり前のように音が続いていく。
思わずギターを構え直した。
最初の二小節。
次の二小節。
女性は迷いなく歌っていた。
カイの知らない旋律なのに、さっきまで自分が弾いていた音とぴたりとつながっている。
いや。
つながっているというより、最初からその先があると分かっていたような旋律だった。
五小節目で、歌い方が変わった。
短い音を二つ置き、少し間を空ける。
何かを待つような、妙な間だった。
そして、そこへ答えるように別の音が続く。
カイは息を忘れた。
最後の音が消えても、女性はしばらく目を閉じていた。
静かな広間で、魔石のかすかな震えだけが残っている。
「……おい」
カイはようやく声を出した。
女性が目を開ける。
「何?」
「今の、もう一回歌ってくれ」
「どうして?」
「頼む!」
女性は目を丸くした。
カイは舞台から飛び降りた。
椅子まで駆け寄り、ギターを抱えたまま身を乗り出す。
「今の曲だよ! 最後のところ! 誰が作ったんだ?」
「誰って……」
「俺、そこがずっと作れなかったんだ。何度やっても駄目でさ。それなのに今のは、すごく自然だった」
言いながら、カイはギターを鳴らした。
さっき聞いた旋律を思い出し、指を動かす。
二小節目で失敗した。
「くそっ、違うな」
「そこは、もう少し音を短くした方がいいわ」
「こうか?」
もう一度。
今度は少し近づいた。
女性が小さく首を振る。
「その次。上がるんじゃなくて、下がるの」
「下がる?」
「ええ。ほら、こう」
女性が旋律を口ずさむ。
カイはその声を追いかけた。
二人で同じ音を繰り返すうち、ようやく最初の四小節がつながった。
「……おお」
思わず声が漏れた。
「いいな、これ」
「そう?」
「すごくいい。俺が何年も考えてたの、何だったんだってくらい」
女性はカイを見つめた。
「あなた、自分の曲なのに知らなかったのね」
「ああ。十年前にここで弾いたときも、途中までだったからな」
「覚えているの?」
「もちろん。避難所で弾いたんだ。あの夜のことは忘れないよ」
女性の笑顔がわずかに薄れた。
カイは気づかず続けた。
「あのとき聴いてた人が覚えてくれたのかな。君もあそこにいたのか?」
「……ええ」
「そっか。じゃあ、あの夜の誰かが続きを作ってくれたのかもしれないな」
「そうかもしれないわね」
「誰だろうなあ。会ってみたいな」
カイは嬉しくなって、もう一度ギターを鳴らした。
途中から誰かが引き継いでくれた。
自分が置いてきた曲が知らないところで続いていた。
そのことがたまらなく嬉しかった。
女性はそんなカイをじっと見つめていた。
「……あなた、変わっているのね」
「何が?」
「自分の曲を誰かが勝手に変えたのよ。嫌じゃないの?」
カイは少し考えた。
昔の自分なら、嫌だったかもしれない。
日本にいたころ、曲のことで仲間と喧嘩したことがあった。
自分が作ったものを勝手に変えられたくなかった。
あのときは、それが当たり前だと思っていた。
今でも納得できない変更なら文句を言うだろう。
けれど。
「いい曲になってるなら、嬉しいだろ」
そう答えると、女性は黙った。
「それに、俺が知らなかった続きがあるんだぜ? 気になるに決まってる」
「……そう」
女性は椅子から立ち上がった。
近くで見ると、カイの肩より少し低いくらいの背丈だった。
彼女は舞台を見上げ、空っぽの客席へ目を向けた。
「ところで、あなた」
「ん?」
「今日はどうして、一人で演奏していたの?」
「一緒に弾いてくれる仲間がいないからだよ」
「それは見れば分かるわ」
「ぐっ……」
容赦のない言葉だった。
「違う。そうじゃなくて、どうして今さら音楽を始めたのかって聞いているの」
「ああ、そっちか」
カイはギターを肩から外し、床へ置いた。
答えは決まっていた。
「バンドを組みたいんだ」
「バンド?」
「こういう楽器を持った連中が集まって、一緒に曲を作って、演奏するんだよ。歌うやつもいてさ」
カイは両手を広げた。
「一人じゃ出せない音があるんだ。さっきの君の歌みたいにな」
女性が何か言いかける。
カイは構わず続けた。
「できれば、いろんな街を回ってライブをしたい。酒場でも広場でもいい。うまくいったら、でっかい会場でもやってみたいな」
「……ずいぶん楽しそうに話すのね」
「楽しいに決まってるだろ」
カイは笑った。
「勇者なんて仕事、もう一度やれって言われたら断るけどな。バンドなら何度でもやりたい」
女性はしばらく黙っていた。
そして、ふっと息を漏らすように笑った。
「世界を救った人の夢が、それなの?」
「悪いか?」
「いいえ」
彼女は首を振った。
「少し、意外だっただけ」
その声はさっきまでより柔らかかった。
カイはふと思いついた。
「なあ」
「何?」
「君、俺と一緒にやらないか?」
女性の表情が止まった。
「……何を?」
「バンドだよ、バンド!」
「私が?」
「ああ! 歌、めちゃくちゃうまかったし。何より、あの曲の続きを知ってるだろ?」
「それと、私があなたと一緒に歌うことに何の関係があるの?」
「そりゃ、大ありだろ」
カイはギターを持ち直した。
「さっき、すごく楽しかったんだよ。一人で弾いてるときも楽しかったけど、君の歌が入ったらもっとよくなった」
女性は何も答えなかった。
「だから、もう一回やりたい。できれば次は、最初から最後まで」
カイは手を差し出した。
「どうだ?」
女性はその手を見つめた。
しばらく動かなかった。
割れた窓から風が吹き込み、古い旗が揺れた。
やがて彼女は静かに尋ねた。
「……あなた、私が誰だか知っているの?」
「あ?」
「名前も知らないでしょう」
「ああ、そういえば」
カイは笑った。
「悪い。先に聞くべきだったな」
女性は呆れたように目を細めた。
「本当に、変な人」
「よく言われる」
「でしょうね」
彼女は差し出された手には触れず、少しだけ後ろへ下がった。
そして、まっすぐカイを見た。
「オルヴィア」
「……ん?」
「私の名前よ」
カイはその響きを一度口の中で繰り返した。
「オルヴィア、か。いい名前だな」
「ありがとう」
「で、オルヴィア。改めて聞くけど――」
「待って」
彼女が遮った。
さっきまでの柔らかな声とは違っていた。
「名前だけじゃ、足りないわ」
カイは首を傾げる。
オルヴィアは銀色の髪を耳にかけた。
その下から、小さな黒い角が現れた。
カイは思わず息を止めた。
見覚えがあった。
いや、忘れられるはずがない。
十年前、魔王城の奥深くで目にしたものと、よく似た形をしている。
「私はオルヴィア」
彼女はもう一度、自分の名を告げた。
「この城の、前の主の娘よ」
風が吹いた。
壁に残る古い旗が大きく揺れ、魔王の紋章が姿を現す。
オルヴィアは一度だけ古い旗を振り返った。
「あなたたちが魔王と呼んでいた人の、ね」
カイは目の前の女性を見つめた。
十年前の戦争。炎に包まれた城。逃げ遅れた人々の声。
思い出したくない光景まで浮かび、差し出していた手をゆっくり下ろした。
「……魔王の、娘か」
「ええ」
「そりゃ、驚くな」
オルヴィアは笑わなかった。カイもすぐには次の言葉が出てこなかった。
彼女にとって、あの戦争は父親を失った出来事でもある。自分が勇者だと名乗ったとき、彼女が何を思っていたのか。そう考えると、さっきまでのように軽口を叩いていいのか、迷った。
けれど、客席に一人で座っていた彼女があの曲を一緒に歌ってくれたことも確かだった。
「……でも、歌は本当にうまかった」
「……は?」
「いや、そこは変わらないだろ。さっき、一緒に弾いて楽しかったし」
「……は?」
オルヴィアが目を丸くした。
カイはもう一度、ギターを構えた。
「よし。じゃあ決まりだな!」
「何が決まったのよ!」
「バンドだよ!」
「だから、どうしてそうなるの!」
「だって、勇者と魔王の娘が一緒にバンドやったら、絶対面白いだろ?」
オルヴィアは絶句した。
そして、ようやく何かを言おうとして――
「……ふふっ」
笑った。
最初は小さく。
けれど、すぐにこらえきれなくなったように、声を上げて笑い始めた。
カイはその姿をぽかんと眺めていた。
やがてオルヴィアは笑いを収め、目尻に浮かんだ涙を指で拭った。
「本当に……あなたって人は」
「何だよ」
「いいえ。何でもないわ」
彼女は舞台の方へ歩き出した。
二、三歩進んだところで足を止める。
「ねえ、カイ」
「ん?」
「さっきの曲、もう一回弾いてくれる?」
「もちろん!」
「今度は、私も最初から歌うわ」
カイは笑った。
「いいねえ。そうこなくっちゃ!」
ギターを構え、最初の音を探す。
オルヴィアは舞台へ上がると、隣に立った。
たった二人。
相変わらず、客席には誰もいない。
それなのに、広間の景色がさっきまでとは違って見えた。
弦を弾く。
オルヴィアが息を吸う。
その歌声が重なった瞬間、カイは思った。
――ああ、やっぱり。
俺はこういう音楽がやりたかったんだ。
ギターだけでは届かなかった場所へ、彼女の声が伸びていく。
カイは笑いながら、その声を追いかけた。
曲が終わりに近づくにつれ、カイは少しだけ弾く力を緩めた。
オルヴィアの声が伸びる。そこへギターの音が寄り添い、二人はほとんど同時に演奏を終えた。
さっきよりも、ずっと気持ちよかった。
「なあ、オルヴィア。もう一曲――」
「カイ」
彼女に名前を呼ばれ、カイは顔を上げた。
「バンドの話は、まだ返事をしていないわ」
「えっ、今の流れで?」
「歌うのと、仲間になるのは別でしょう」
「……それは、まあ」
オルヴィアは口元にかすかな笑みを残したまま、ギターを見つめていた。
「でも、一つ聞いておきたいことがあるの」
「何だ?」
「十年前、避難所であの曲を弾いたあと――あなたは、どこへ行ったの?」
カイの指が弦の上で止まった。
お読みいただきありがとうございます。
物語を楽しんでいただけたら、ブックマークや評価で応援していただけるとうれしいです!




