一回戦後
「強いな、上角君…。また、今度、相手してよ。」
蓬田は、痛みを堪えながら笑うと、セコンドに連れられてケージを後にした。
***
「お疲れ。」
ケージから出てきた空斗に声をかける。
「おぅ。」
返ってきた声には、まだ荒い呼吸が混じっている。
だが、足取りは軽い。
ダメージは深くなさそうだ。
相手の蓬田は、回し蹴りなど一撃は重いが、しのぎ切ったというところか。
空斗のスタイルは喧嘩で培った、オールレンジの打撃スタイルだ。
蹴り、突き、膝、肘、スタンドでの組み合い。
どの距離でも打撃を出せる。
小さい頃、親戚の道場で古武術を習っていたらしい。
それが、喧嘩の末、ムエタイのようなスタイルになっている。
「土門の出番は、ないんじゃねぇか。」
空斗は少し笑い、その視線がケージに戻った。
「次の試合次第だけどよ。」
次の試合の二人。
宇郷と藪木がケージに入っていった。
***
暴走族レイヴンの総長、宇郷。
その名前は聞いたことがあった。
暴力沙汰の噂が数知れない武闘派。
オールバックの厳つい男。
190近い巨漢。
リベットが目立つ黒いレザーの革ジャン、革パン。
首を左右に傾け、指を畳む。
節々を鳴らして解すような、ルーティンじみた動きをしていた。
骨折させた相手を海に放り込んだ、とか。
バイクではねられた後、二台目にラリアートかまして一回転させた、とか。
ヤバい”伝説”をいくつか耳にしている。
対するはVIPSの藪木。
陰気な印象を受ける男だった。
薄手のシャツだけの上半身は
引き締まり、絞り切った筋肉に包まれている。
ここ数日。
こいつの情報だけは雁屋に頼んで集めてもらった。
戦型はボクシング。
例の――ドーピングの噂の男。
パッとしなかった戦績が、ここ数戦は連勝している。
パワーとスピードが、一瞬、目を見張るレベルで違っていた…らしい。
微動だにしないまま、睨むような視線を宇郷に送っている。
その眼が妙にギラついて見えた。
レフリーのコールが終わり、試合が始まる。




