爽やか笑顔は、敵か味方か(3)
タニアは突然の青年の変化に驚きつつも素直に質問に答える。
「えっ? だって、大きな荷物を抱えていたし、冒険者が使いそうな短剣が腰にあるのを見たから。何よりあなたの靴。随分と歩いたんだろうなってわかるくらい、ボロボロだもの。きっと遠いところから来たのでしょ?」
確かに青年が身につけているものは、靴どころか着ている服さえもお世辞にも清潔とは言えなかった。ズボンの裾は土に汚れていて黒ずんでいるし、シャツもヨレヨレ。どう見ても、身綺麗なお貴族様という感じではない。
当然と言う顔でそう指摘するタニアを、青年は心底驚いたように見つめ、やがてイタズラな笑みを浮かべた。
「ふ~ん。意外に洞察力があるんだね。なるほどねぇ。俺、君のこと、気に入ったよ」
そう言ってまた一口ハーブティーに口をつける青年を、タニアは無言で見つめている。その頬は、まるで熟れた果実のように赤くなっていた。
青年はそんなタニアを揶揄うように、意味ありげな笑みを口元に浮かべる。
「俺はセリオ。ねぇ、君の名前を教えてよ」
タニアは目を瞬かせた。セリオの表情は、また人好きのする笑顔に戻っていた。先ほど見せたあの笑みは、何かの見間違いだったのかと思ってしまうほど爽やかな笑顔だった。
「タニア、だけど」
タニアがおずおずと答えると、セリオは嬉しそうに手を叩いた。
「タニアか! そうか。いい名前だね」
「そ、そうかな?」
爽やかな笑顔でそんなことを言われ、タニアも思わず照れ笑いを浮かべる。ニコニコ顔のセリオはうんうんとうなずきながら、またハーブティーを口に運んだ。
穏やかな時間がしばらく流れる。戸外で木々が風にそよぐ音が微かに聞こえる。
タニアは開店作業が途中になっていることも忘れて、この不思議な青年の横顔をこっそり盗み見ていた。見れば見るほど整った顔立ちをしている。埃にまみれた服を着替え、髪をしっかりと梳かしさえすれば、街の女性達が放ってはおかないだろう。
そんなことをぼーっと考えていると、不意にセリオがタニアに視線を向けた。思わずタニアの心臓が飛び跳ねる。セリオは無邪気な笑顔を浮かべて、首を傾げる。
「ところで、以前はこんな街外れに休み処はなかったと思うのだけど?」
セリオにそう問われ、タニアはハッと我に返る。そして慌てて口を開いた。
「ええ。最近始めたばかりなの」
「へぇ。そうなのか。長旅をしてきた者には、街に行くまでに少し休める場所があるのは正直ありがたいよ」




