20 リア充の悩み
俺、翔太は大学の講義中、机に肘をつきながら、教授の話を右から左へ華麗にスルーしていた。
いや、ちゃんと聞こうとはしてるんやで? でも……。
「……この数式を用いて、次に導き出せるのは——」
ホワイトボードに書かれる数式の行列。
最初はAとかBとか、可愛らしい文字やったのに、いつの間にかΣ(シグマ)とかΩ(オメガ)とか、最終進化系が現れとるやん!
「……なんやねん、Ωって……?」
俺はノートに「Ω=ラスボス」とだけ書いて、そっとペンを置いた。
学問という名のダンジョンに挑んでも、俺のMP(やる気)はもうゼロや。
こういうときは、無理せず“エスケープ”コマンドやな。
目の前の女子たちは、真面目そうに「うんうん」と頷いてメモを取っている。
けど、あれ絶対「理解してるふり」やろ?
「なるほど〜」とか言うてるけど、きっと心の中では「Ωってどこの部族や?」って思ってるに違いない。
俺もやってみよかな?
「うんうん、なるほど〜……」
……あかん、顔がニヤけてまう。
「……しゃーない、後で山田にノート見せてもらうか」
山田はクラスの中でも“真面目の極み”や。
ノートの文字が綺麗なだけやなく、ページの端にはカワイイ動物のイラストまで描いてある。
「キリンの横に、解の公式……あれは“癒し”やったな……」
そして、その山田の隣にいるのが、拓海や。
案の定、山田のノートを借りて、せっせと写している。
「……やっぱりお前もやんけ」
思わず苦笑いしてしまった。
拓海は“陰キャ”とか“普通”とか言うとるけど、意外と世渡り上手やねん。
「困ったら山田」って、ちゃんと安全地帯を確保しとる。
「でも、ワイとは違うよな〜」
俺はと言えば、クラスの中心で「翔太王国」を築き、男女問わずに盛り上げる自信がある。
自称・リア充。実際、友達も多いし、飲み会ではいつも主役や。
けどな、リア充にはリア充なりの悩みがあるんや。
それは……「行きつけの店」がないこと!
例えば、マッチングアプリで知り合った女の子とのデート。
「ここ、よく来るんだ〜」とか、さりげなく言えたらポイント高いらしい。
「……せやけど、ワイの行きつけって、学食ぐらいやん」
女子を学食に連れて行くのは、いくらなんでもアカン。
「翔太くんって、普段ここでパスタ食べてるの?」って聞かれても、実際のメニューは「カレーうどん」やし。
「お洒落なカフェとか、ないんかな……」
俺は頭を抱えた。
ワイ、ここまでリア充やってきたのに、肝心な「行きつけの店」スキルがゼロやん!
——そのとき、また視界に入ってきたのは、山田のノートを写す拓海やった。
「……そうや!」
閃いた。
拓海、確かカフェでバイトしとる言うてたやん?
しかも、あんまり知られてない感じの穴場っぽいとこ。
「これは使えるで……!」
俺は机に手をついて立ち上がり、後ろを振り返った。
「おーい、拓海〜!」
「ん、翔太? どうしたんだよ?」
「ちょっとええか? 相談があんねん」
「え、なに? 宿題? レポート?」
「ちゃうちゃう、もっと大事なことや」
講義が終わると同時に、俺は拓海を引っ張り出した。
「お前、バイト先ってカフェやんな?」
「うん、まあ……そうだけど?」
「ワイ、行きつけの店が欲しいねん! そのカフェ、行ってええか?」
「え、あ、うん、別にいいけど……」
「おお、サンキュー! ほな、今日のバイト終わりに行くわ!」
「え、待て待て、今日!? 今日、商店街のイベントあるんだよ?」
「イベント? なんやそれ!」
「“商店街No.1カフェ決定戦”だって……うちの店も出るんだ」
「うわ、それめっちゃ面白そうやん!」
「いや、でもうちの店、普通のカフェって感じじゃないから……」
「おもろいやんけ! そういうのが行きつけの店になるんや!」
「いや、そういうことじゃ……」
俺はニヤリと笑って、拓海の肩をポンポンと叩いた。
「ええやん、ワイもそのイベント行くわ! んで、お前が“普通じゃない”カフェで働く姿、しっかり見とくで!」
「……大丈夫かなぁ」
「大丈夫大丈夫! ワイに任せとき!」
行きつけのカフェか〜、女の子とのデートも完璧やな!
ワクワクする気持ちを抑えきれず、思わず小さくガッツポーズをした。
ああ、もう楽しみすぎる!
商店街のカフェイベント、最高に“映え”る一日になるで〜!
——そして、あの「カフェ・オブ・レスト」で、俺がどんな非日常に巻き込まれるかなんて、このときの俺は、まだ全く想像もしてなかったんやけどな……。




