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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第4章
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19 これからの時間

「もういいんじゃねえか?」


 赤眼鏡が咲先輩に向かって言う。

 夜中の住宅街は、さっきまであれほど激しい戦闘が繰り広げられていたとは思えないほど静まりかえっていた。


 赤眼鏡と悟郎さんの傷は、既に小原さんの青薔薇の能力によって治癒されている。


 この青薔薇の能力はかなりすごくて、どんな原理なのかはわからないけれど、骨折も切り傷もきれいに治す。

 さすがは不可能の代名詞とまでいわれていた花の能力だ。


「そうね」


 弓を持ったままの咲先輩が頷いた。

 続いて微かに空気が揺れたような気がして、周囲を見渡す。


 何も変化はないけれど、今のはなんだったんだ?


「あいつの能力は防御に特化されてるって言っただろ。自分達はもちろん、一般の人たちを巻き込まないように、空間を切り取ることができるんだ。さっきまでこの場所は白木蓮によって閉じられていたってわけ。だから、苦情もなかったし通報もされなかった」


 いつの間に現れたのか、孝太が立っていた。

 着流し姿から一転して、クラスメイトとして見慣れた姿をしている。


 確かに、あれだけ暴れていたんだ。

 夜とはいえ、まだ電車も走っている時間だったし、誰も通らないというのはおかしい。


 そういうことだったのか。


 どこから現れたのか、お庭衆と一目でわかる連中がぱらぱらと咲先輩に駆け寄ってくる。

 そのうち数人は、藤が明け渡した肉体をどこかに運んでゆく。


 体は生きてはいるけれど、意識は戻ってきていないようだった。

 咲先輩が二言三言何かを伝えると、そのまま一礼してすぐに去って行った。


「病院に運ぶように指示を出したわ」

「なんとかなるといいけどな」


 そうね、と咲先輩が呟く。

 それから綾子さんのほうを向くと、さっきまでの神妙な顔がまるで嘘だったかのような極上の笑みを浮かべた。


「初めまして、綾子さん。いつも悟郎ちゃんのお世話をしています」  

「咲先輩、語弊がありますよ。むしろいつも咲先輩のおやつのお世話をしてあげているのは僕のほうです」 

「おほほほほ。そうそう、いつもお世話になっています」

「……こちらこそ、悟郎くんがお世話になっています。ところでどうしてわたしがここにいるのかわかる? 悟郎くん」


 綾子さんがおっとりと首を傾げる。

 果者の蘭とは、随分と雰囲気が違う。


 そうか、この人が悟郎さんの彼女なのか。

 ふんわりとして優しそうな人だ。


 物静かな悟郎さんとは似合いのカップルだと思う。


「もちろんわかるよ。だから安心して。でも、綾子さんはこれまでずっと行方不明だったんだ。みんな心配している。だから、僕と一緒に帰ろう」


「行方不明? わたしが?」

「そうだよ」

「あら大変。でも、悟郎くんが見つけてくれたのね。ありがとう、悟郎くん」


 綾子さんはたおやかに微笑む。

 その笑顔に、オレまでどきどきしてしまう。

 咲先輩は迫力美人という感じだけれど、綾子さんの美しさはどこか儚さを感じさせる美しさだ。


「当たり前じゃないか」


 悟郎さんの答えを聞いて、綾子さんがふふ、と笑う。


 ああ、よかったな、悟郎さん。


 オレは心からそう思う。

 悟郎さんは、この人を取り戻すためにずっと頑張ってきたんだ。


「咲先輩、僕、綾子を家まで送ってきます」

「わかったわ。明日、朝一で藤の開けた穴を塞ぐから、六時に校門で」

「了解です」


 そして悟郎さんは、オレに目を向けた。

 ゆっくりとこちらに向かって歩いてくると、無言でぽん、とオレの肩に手を置いた。


「よかったですね」


 祝福の言葉を伝えると、悟郎さんは微かに頷いた。


「でも君は……」

「オレのことは気にしなくていいって」

「悪い」


 オレは首を横に振った。


 オレのことなんか、心配してくれなくてもいいのに。

 せっかく恋人を取り戻せたんだから。


 悟郎さんは目を伏せると、綾子さんを連れて夜道を歩いてゆく。

 去り際、綾子さんはオレたちに向かって軽く頭を下げた。


 礼儀正しい人だ。


 あのふたりの時間が、この先もう二度と、奪われることのないように。

 ふたりを見送りながら、オレは祈った。

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